一八八八 切り裂きジャック (角川文庫)

  • KADOKAWA (2015年9月24日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (784ページ) / ISBN・EAN: 9784041036198

作品紹介・あらすじ

19世紀末、霧の帝都ロンドンを恐怖に陥れた連続娼婦殺人事件。殺人鬼「切り裂きジャック」の謎を日本人留学生の美青年探偵・鷹原と医学生・柏木が解き明かしていく。絢爛たる舞台と狂気に酔わされる名作ミステリ!

みんなの感想まとめ

19世紀末のロンドンを舞台に、実際の切り裂きジャック事件を背景にした物語は、魅力的なキャラクターたちと共に深い謎を描いています。日本人留学生の柏木と美青年探偵の鷹原が織りなす友情や葛藤は、物語にさらな...

感想・レビュー・書評

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  • 彷徨い燃え尽きた…。

    一八八八年、この時代の英国を舞台に、実在した人物を絡めながら描く切り裂きジャック事件物語。
    あぁ、長い船旅を終えた気分。渡英しまた帰国した、それぐらいの時間だった。

    一体誰が犯人なのか…英国の霧に包まれた夜を彷徨わされながら、心はしばし幻想さを漂わせる夜の雰囲気にのみこまれる。

    遠い昔の異国の地での凄惨でありながらも未解決の事件に興味惹かれ、改めて小説の魅力を感じた時間でもあった。

    鷹原と柏木の二人も魅力的。

    巧く日本の歴史を絡ませた事件への解決糸口、東京の歴史を絡ませたラストは息をのむほど。
    まさに全てが燃え尽きた、自分の心も燃え尽きた…面白かった。

  • 『この闇と光』に続き、服部まゆみの絶版文庫が復刻!こちら2002年に文庫化、元の単行本は1996年の出版なのでおよそ20年近く前の作品になりますが、舞台になっているのはタイトル通り1888年のイギリス、切り裂きジャック事件の謎解きものということで、まったく古さは感じません。760頁越えの分厚さには一瞬腰が引けますが(苦笑)皆川博子で免疫があるのでなんとかクリア。膨大なパズルのピースが組み合わされた巨大な迷路のようで、消耗したけど満足度も高かったです。

    切り裂きジャックものの映画や小説はいくつか観た(読んだ)けれど、同時代、同地域に存在したエレファントマンとここまで絡めてあったのは初めてかも。(私が吸血鬼もの好きなせいもあるけど、今まで読んだ小説では切り裂きジャック吸血鬼説とか多かった・笑)

    スッシーニのヴィーナス(蝋人形)なども含め、見世物小屋で晒し者にされていたエレファント・マン(それを是とする文化)、連続殺人鬼に震撼しつつも被害者が皆娼婦であることからどこか他人事として無責任な観客化していた人々、フリーメイソン、犯人説もあった英国王子など、ヴィクトリア朝ロンドンの闇の濃厚さが、個人的にはこの作品世界最大の魅力と感じました。結局、切り裂きジャック事件そのものが、陰惨で目を背けたいと思いながらも「怖いもの見たさ」の好奇心をくすぐられずにいられない人間を今も引きつけてやまないわけで。

    実際の事件をモチーフにしているだけあって、事件とは直接関係ない有名人なども含めて実在の人物が沢山出てくるのも、遊び心&時代の空気が感じられて重層的な構造に一役買っているかも。日本人ではプロローグでの谷崎潤一郎、留学生の森鴎外や北里柴三郎、英国では当時わずか6歳のヴァージニア・ウルフ、アラビアンナイトの紹介者バートンや、ラファエル前派の画家シメオン・ソロモンなどとにかく同時代人を網羅。バーナード・ショーだの、田中稲城と図書館のエピソードまで入れるのは盛りすぎかなと思ったけれど、表面的には切り裂きジャックのミステリーを装いながら、実は裏テーマ的に主人公が作家を目指そうと思うまでの成長、文学との関わり方というのがあったのだと思うので、この、盛りすぎとも思える小ネタ感もやっぱ大事なのかな。名前だけならもっと大勢の文学者や主人公が愛読する本の名前が出てくるし。

    で、肝心の謎解きをする主人公とその相棒のみが架空の人物。伯爵家の長男でイケメン才気煥発社交的で隙なしの通称「光の君」鷹原惟光をあえて脇役に、主人公も名前からして源氏物語パロディな柏木薫、けれどこちらは素朴で可愛い系。おそらく特定のモデルではなく漱石や荷風など複数の作家の要素を継ぎ接ぎした感じ。ただこの薫くん、主人公ゆえ仕方ないのかもしれないけれど、いささか優柔不断で思い込みが激しく、感情の揺れが激しいのでちょっと面倒くさい。かといって鷹原のほうを主人公にするとそれはそれでソツがなさすぎて盛り上がらないのだろうけど。しかしさすがに終盤、勘違いで大暴走、切り裂きジャックどころかホモの痴話喧嘩の原因作って引っ掻き回しただけだったのは残念でした(苦笑)

    まあ最終的に、真犯人が誰かということはもしかしてそんなに重要じゃなかったのかもという気もしますが、ひとつの仮説としてとても面白かったです。

  • 素晴らしい。わたしも鷹原と柏木くんと共に19世紀ロンドンに存在していた。

    切り裂きジャックとエレファントマンは同じ時代だったんだ。

    ここではジャックの正体より、この時代の退廃したロンドンとそこに生きる人たちを中心に描いている。

    同性愛者であることを隠して生きていかなければならなかったスティーヴンとドルウェット、娼婦として生きて行くしかなかったメアリ、抑圧や鬱屈を排出できず爆発させてしまったトリーヴス医師、見せ物として晒され壮絶な人生を歩んできたにも関わらず感謝と敬意しか示さないエレファントマン。

    そして語り手である柏木くんも絶賛モラトリアムである。
    容姿端麗で頭脳明晰な完璧超人な鷹原ですら、実の母が娼婦であった過去を持つ。

    非常に鬱々としながらも青春小説のような爽やかさもある。

    そして何より、はじめと最後に老人になった柏木を置き回顧という形をとるのがエモすぎる。時代を超えたヴァージニアからの手紙。何十年越しに届くスティーヴン氏の手紙。そしてエレファントマンとトリーヴス医師の真実。

    とても切なく、大きな存在感を残す作品である。

  •  今年中にもう1冊読む予定だったのに、長すぎて本書が2022年最後の読書に。電子書籍は読み始めるまで分厚さに気づかないので臆さず読めるのは長所かもしれない。文庫本だったら読んでなかったかも。
     序盤はなかなか事件も起こらず優雅な留学生活ぶりに鼻白らんでいたが、細部まで丁寧な描写と美しく残酷な当時のロンドンの様子、終盤にかけての加速など、ページを捲る度にグイグイ惹き込まれていく。この時代はまだ指紋が1人1人違うことが常識ではなかったのか。長いがその分読み応えもバッチリ。もう1冊積んでる著者の別作品も楽しみ。

  • 霧のロンドン、貴族と貧民が混在する、耽美と退廃に彩られた血生臭い街。
    主人公は、日本人医学留学生・柏木薫。最初はベルリンで解剖学を学ぶのだけど、友人の「光の君」こと鷹原惟光の紹介で、先天性奇形症候群であるエレファントマンに興味を持ち、ロンドンへ。そこで切り裂きジャック事件に出くわし、巻き込まれていく。

    切り裂きジャックについては、なんとなくしか知らなかったので、無知の状態だったこともあって、事件の凄惨さに興味を持ちながら読みました。
    読後にあらためて調べると、実際の事件とほぼ同じ流れで小説も展開されていました。その上で、あの人が犯人かもという方向に持っていったんだなぁとわかり、なかなか面白かったです。

    ただ、この作品の魅力は、事件そのもののトリックよりも、主人公が人生について悩みながら作家という存在に興味を持っていくという青春物語であったり、また大きな魅力としては鷹原のキャラです。彼は、高い知性、稀な美貌、社交術を持ち合わせながら、シニカルな見方をして時に薫と衝突しつつ、なんだかんだいいつつ薫を心配したりと、二人のやりとりに引き込まれます。

    それから、エレファントマンの描き方も、最後まで読むと感心させられました。薫に影響を与えた人物として出てくるわりには、けっこう重要なポジションにいるよな…と思いながら読んでいたのですが、そうくるとは。最後の最後、あの塔の模型に隠された秘密。しびれます。

    前半は登場人物が多く、恥ずかしながら世界史に疎くカタカナの人名にも弱い私は、何度もぺージを戻しては、これ誰やっけ??となりながら苦労して読み進める始末でしたが、物語が進むにつれ主要人物の関係性は自然とわかってきました。
    ヴィーナスのくだりも、そういうものがあるとは知らなかったので勉強になりました。あの当時ってグロテスクな美が当たり前に許容されていたんですね。

    19世紀末ロンドンにタイムスリップしたかのような気分に浸れる一冊でした。長かったけど、そのぶん読みごたえがありました!

    あと、森鴎外や北里柴三郎が出てきた他、薫と鷹原が源氏物語になぞらえてあるという遊び心。柏木薫て…(笑)でもそれが35年後のラストにつながるのだからおもしろいですね。

  • 服部まゆみさんらしい長編
    読むものを捉えて離さず
    一気にラストへ
    ロンドンの切り裂きジャック事件に日本から留学している貴族の子息たち
    圧倒的な美貌と知性の鷹原
    生真面目で世慣れない柏木
    森鷗外、北里柴三郎、田中稲城
    ヴィクトリア女王をはじめイギリスの王侯貴族たち
    実在の人物100人に架空の登場人物は7人とは著者あとがきから
    皆川博子の作品が好きなら当然服部まゆみも読まなくては。

  • 実は再読だけど、ほとんど内容を覚えていなかったのでほとんど初読み気分で読めた。
    前半物語の雰囲気に慣れるまでは読むのにひたすら時間がかかったけど、後半事件の解決まで気になって一気に読めた。おかげで寝不足。
    ほんとにシリーズ化して欲しいくらいメイン2人のキャラクターが好き。

  • 『レオナルドのユダ』の後に服部さんの作品を読んでみたいと手にとった本。

    切り裂きジャックを題材に、主人公・柏木の一人称で進む物語が、最後には柏木の小説内であることがわかる。

    かーなーり冗長な印象。
    権威ある様々な人物が脇を固めているが、爵位がどうの殿下がどうの、というのが多くて誰が誰かわからなくなる。
    柏木も悩める青年、という感じで、微細なできごとから急に前向きになったり後ろ向きになったり、丁寧な描写と言えば聞こえはいいが情緒不安定ともとれる。
    半面、友人の鷹原は行動派で頭の回転がとても速く、魅力的に描かれている。
    柏木の対比として存在しているのかな?

    分厚く1ページあたりの文字数が多い本なので、途中気が遠くなりかけたが、最後の方はたたみかけるように急におもしろくなるのでなかなか評価が難しいかなw

    最後に老人の柏木が出てくるのが、間が長くて忘れていたがそういや冒頭はここから始まったんだなと。
    柏木はイギリスに、切り裂きジャックに、エレファント・マンにただただ翻弄された青年という印象だったが、小説に鷹原の生死について触れ、それが嘘だとわかった時は『一番くえないヤツかも』と思ってしまった^^

    おお、とてもおもしろいかと言われたら難しいのだけど、レビューが長くなったのが意外w

  • 長っ!
    翻訳物のように私には読みづらく時間がかかった。
    前半のよくわからない交友録は必要だったのだろうか。
    当時のイギリスがらよくわかり、そーゆー面では面白かったけど、柏木が悩む姿が多く後半どうでもよくなってしまった。
    斜め読みしてもとにかく疲れた。

  • 正直、読書歴が少ない私には読みずらかった…けど慣れるもんです。
    しかしながら歴史と上手くコラボした作品で読書後は唸る!!
    と思います。私は、仕事が忙しく&まじめに読んで、久しぶりの1ヶ月半かかりました…
    これは、時代背景と出版された時代に、本が好きだった方には最高に面白い本!!だと思います。再読すれば、かなり面白い本かも!(かなりの読書通の母親は3日で読破(-。-;面白いそうです!?)

  • その時代のロンドンが味わえる濃厚な話。
    他の方が言及していたが、柏木が信頼出来る語り手なのかが最後の最後で怪しい。
    鷹原の説明で何となく納得は出来る犯人が語られているが、鵜呑みにして良いものか。

  • 6/25 読了。
    興奮しているため、いきなりネタバレの話をします。



    この話、表面上の決着としてはある医師が犯人として示される。そこはそれなりに物語内での妥当性はある。けれど、とってつけたようなフロイト心理学的な動機の説明に違和感をおぼえ、鷹原の謎解きの性急っぷりも気になった。端的に言うと、納得しきれないものを感じた。
    とはいえ、私は本格やパズラーを突き詰めて解くタイプの読者ではないため、「まぁこんなもんか。ヴィクトリア朝の空気をたっぷり味わえたし、切り裂きジャックはそもそも未解決事件なんだから、それなりに妥当な犯人像を創り上げただけでも立派だよな」と胃の腑に落とそうとしたのだが。
    エピローグの最後の最後、柏木が書いた手記、そしてそれの伴うオチを読んで、あ〜〜〜〜〜こいつ信頼ならない語り手か?!?!?!と、やっと気付いたのだ。つまりこの鈍くてボヤッとした、柏木の語り口自体が何かを隠蔽しているのではないか?
    そう考えると、自然と疑わしくなってくるのはドルイット氏である。そもそもドルイットとスティーヴンをめぐるエピソードは全編通してミスリードのためのミスリード然としすぎだし、正直後半は彼らを追い続ける柏木にイラッとしてくる。
    けれど、ドルイット=ヴィットリアと柏木はそもそも娼家街をうろついていて出逢ったのだし、メアリの恋人だから家の中まで案内されたのだと思えば自然だし、メアリを鶏姦で犯したのもスティーヴンとの同性愛関係から逃れたいと思いながら逃れきれないという引き裂かれた感情ゆえと思えるし、暖炉で燃やされていた女性物の服もドルイットが女装して会いに行ったのだと思えばすっきり説明がつく。それだけでなく、鷹原が医師の心理として語った母親へのコンプレックスも、発狂した母を持つドルイットに敷衍することができるのだ。しかも、柏木がドルイットを容疑者から外す理由は、チャプマン殺しの犯行推定時刻から数時間後にクリケットの試合に出ているということだけしかない。(全然まだちゃんと伏線集めきれてないんだけど、メスに彫られた犯人のイニシャル飾り文字を見て「ジョンの事務所に置き忘れた銀の煙草ケースと同じものだった」と思い出すことや、メリック氏の母の写真を見てヴィットリアに似ていると思うことなど鑑みて、病院とドルイットをつなぐ糸も隠されているのではないかと思う)(鷹原との初対面の反応見るとエレファント・マンも同性愛者っぽいよね)
    メリック氏がジョセフと名乗っているのにもかかわらずドルイット氏のと同じ「ジョン」と間違えられ続けることや、ヴィットリアが時代を象徴するヴィクトリアに通じる名前なのも、ドルイットが本書の核となる人物であることを指すサインなのではないかと勘ぐってしまう…。

    と、ここまで考えた時点では、ドルイット氏は作者が用意したオリジナルキャラクターだと思い込んでいたのだが、今日(6/27)、物語理解を深めるため手にとったスティーブ・ジョーンズ「恐怖の都・ロンドン」で、初めて切り裂きジャックに関する当時の容疑者候補リストを見、驚いた。
    最有力容疑者にモンタギュー・J・ドルイットがいるのだ。
    経歴は死に至るまで完璧に一緒。切り裂きジャックフリークはきっと名前が明かされた時点でピンとくるのだろう。いやー、びっくり。
    あと、もうひとつ謎があった。柏木はロンドンの本屋で新刊をごっそり買うという描写があるのに、切り裂きジャック事件の前年に刊行されたシャーロック・ホームズ・シリーズ第1作「緋色の研究」に対する言及がない。鷹原も流行に敏感な男という設定なのに。まぁ完全にホームズワトソン型のヴィクトリア朝バディものでホームズの話を出すのも野暮か、などと勝手に忖度していたが、これも前掲書の情報で、ドイルはジャックを女装男性だと推理していたことがわかった。
    つまり、事件後に発狂を恐れて自殺した最有力容疑者ドルイットと、ホームズの作者による女装男性説を組み合わせたのが本書の真犯人なのではないか?そう考えれば、スティーヴンとドルイットの同性愛関係も、またそれに反発しながら惹かれていく柏木の姿も、そして無駄にスーパー美形と人間的魅力を強調される性を超越した存在としての鷹原というキャラクターも、ただの<そういう趣味の人間>への目配せなどではない、特に捻れた犯行動機を解くための物語上の必然性を帯びてくる。いや、もう絶対そう!「レオナルドのユダ」先に読んだけど、そういう仕掛けしてくる人だもんなこの人!(20年前に発表されたミステリーに新参者が僕真犯人わかりましたヅラで騒いですみません)(自分で謎解けた道筋と興奮を残しておきたいんだ…!)

    いやーすごい。まんまとやられました。しかもこのねじくれ方がそのまんまヴィクトリア朝という時代を表現しているし。本書全体が時代の空気を閉じ込めた真空パックのようで、読後もしばらく戻ってこられなくなる。今や古典となった当時の娯楽小説のブックガイドにもなっているし、この小説のインターテクスチュアリティというか、ハイパーリンクでド・クインシーでもウルフでもディケンズでもバーナード・ショーでも飛んでいける構造の豊かさも褒め称えたい。思わず読み終わったあとに今まで読んだ19世紀ロンドンが舞台の小説で、年表つくっちゃったもんね。あと参考文献欄に載ってないけど、高山宏の「切り裂きテクスト 殺人鬼切り裂きジャックの世紀末」(「世紀末異貌」一九九〇)に拠るところ多いのでは?と、つい先日それを読み返したので思ったりしました。
    解説は皆川博子先生。今思えば「開かせていただき光栄です」ってこの作品へのオマージュ要素たぶんにありそう。六章で鷹原と柏木が訪ねていくハンテリアン博物館をつくったジョン・ハンターは「開かせていただき〜」のダニエル先生の直接的なモデルだし。読み返そうかなぁ。

  • 旧版を積読で持っていたことを忘れて購入する。「あるある」である。データ管理は大切、データ管理は大切。この作者の他作も多数持っているようなのだが、実は今回初めて読んだ。何故だろう、物凄いストライクゾーンだと思うのに…おそらく「皆川博子の亜流」疑惑からかもしれない。そうやって死蔵しているうちに作者が他界しておられるとは、まだお若い(皆川氏と比べて)のになんとも残念なことだ。合掌。今更ながらだが、これからはたんと読ませていただくつもりだ。それくらい面白かった。源氏絡みのネーミングや、ビクトリア朝のゴシック倫敦、時代の著名人達の登場、そして美形だの男色だのと、もう「我々の組合」を狙い澄ましたようなあざとさではあるが、それらを差し引いても余りあるエンタテインメントだ。すらすらと読みやすい作品なので(その分浅いとも言えるが)、どうぞ分厚さにめげず手にとって頂きたい。

  • 「この闇と光」が面白かったので、こちらも購入。

    前半、とにかく読み進めるのが大変でした。
    柏木の述懐や懊悩がとにかく長い。「いや事件も推理も始まらないな!?」となりながらも、それでも信じて読むことに。
    ですが第二、第三の事件が続くごとに加速度的に面白くなり、とある地点で今までのあらゆることに納得。
    そして最後の一文を読んだ瞬間、思いました。
    信じて最後まで読んで良かった!

  • な、長い。長かった。9月の中旬くらいから読み始め、10月はずっとこの作品を読んでいました。あまりの奇形で有名になったエレファントマンの研究から、次々と起こる娼婦殺人事件。最初は鷹原のおまけで捜査に関わっていた柏木が、積極的に事件に介入していくさまがおもしろかったです。積極的になるきっかけは服部さんお得意のお耽美。今作ではそういった要素はないのだろうと思っていただけに、一目ぼれの相手の真実には驚きました。鷹原と柏木、最後に別々の人物を犯人と指すところも変わってる。長いけれど楽しかった。良い作品でした。

  • 再読。前回読んだときは歴史もほぼ知らず、登場人物の多さに圧倒されていたが、今回はある程度切り裂きジャック事件やこの時代について知ったうえで読み直した。
    事件はもちろんのこと、主人公の薫が自分の内面と向き合う姿が印象に残っている。薫が変わっていくにしたがい、ロンドンの人々や鷹原の見え方が変わっていくのは小説ならではだと感じた。
    ディケンズを読もうと思った。

  • 8

  • 20240201

  • 耽美な世界と狂気の世界

    〜あらすじ〜
    19世紀末、医学留学生の柏木は、友人でロンドン警視庁に所属する美青年・鷹原とともに、大英帝国の首都ロンドンにいた。「切り裂きジャック」による連続殺人事件が街中を恐怖に陥れている頃、柏木は自分はいったい何がしたいのだろうかと悩んでいた。解剖学に興味をなくし、ロンドンでの研究にも熱が入らず、ただ、愛しい謎の貴婦人ヴィットリアを探していた…

    ヴィクトリア朝時代のロンドンを旅する読書でした。色んな場所の写真を見ながら毎晩タイムスリップ。

    巨大ドームの大英博物館図書館には(空想で)何度も訪れた。美しさと本の多さにくらくらする。本の宇宙、まさにソレだ。

    上流階級の華やかなドレス、豪華なご馳走の匂いに憧れるけど、下層階級が住む腐った豆のスープの臭いのする貧民街を思うと複雑な気持ちになる。中流階級のボーモント夫人を描くことで、この時代の階級社会、暮らしぶりがよくわかる。

    売春婦がひとり、ふたり、三人、四人……、切り刻まれた無残な死体、前代未聞の警察への挑戦状、新聞や雑誌の影響もありロンドン中が集団ヒステリー状態に。表と裏の顔を使い分ける切り裂きジャックに捜査は難航する。

    切り裂きジャックの犯行を鷹原はこの時代ではまだ珍しいある方法を用いて封じ込める!辛かっただろうにお見事です。 それに比べて柏木のやった事は絶対許されない。想像しただけで気が狂いそう。

    社交界の花形鷹原くん素敵。でも「念入りに蠟で固めた髭」?
    思い出すのは2017年版の名探偵ポワロのあの髭…それはちょっと…

    この本には実在の人物がたくさん登場していて、帝国図書館初代館長、田中稲城さんもそのひとり。図書館をありがとう。図書館と本屋は癒しの場所。
    「日本全国に公共の図書館が出来たなら、身分も低く、金もない者でも、勉学の志さえあれば道が開けます。アメリカの教育家の調査では、もっとも児童の心身に感化を及ぼすものは、父でもなく、母でもなく、また学校でもない。読書だとありました。」

    ヴィットリアの正体と森さんに驚いた

  • 【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
    https://opc.kinjo-u.ac.jp/

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著者プロフィール

1948年生まれ。版画家。日仏現代美術展でビブリオティック・デ・ザール賞受賞。『時のアラベスク』で横溝正史賞を受賞しデビュー。著書に『この闇と光』、『一八八八 切り裂きジャック』(角川文庫)など。

「2019年 『最後の楽園 服部まゆみ全短編集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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