一八八八 切り裂きジャック (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
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本棚登録 : 460
レビュー : 30
  • Amazon.co.jp ・本 (781ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041036198

作品紹介・あらすじ

19世紀末、霧の帝都ロンドンを恐怖に陥れた連続娼婦殺人事件。殺人鬼「切り裂きジャック」の謎を日本人留学生の美青年探偵・鷹原と医学生・柏木が解き明かしていく。絢爛たる舞台と狂気に酔わされる名作ミステリ!

感想・レビュー・書評

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  • 彷徨い燃え尽きた…。

    一八八八年、この時代の英国を舞台に、実在した人物を絡めながら描く切り裂きジャック事件物語。
    あぁ、長い船旅を終えた気分。渡英しまた帰国した、それぐらいの時間だった。

    一体誰が犯人なのか…英国の霧に包まれた夜を彷徨わされながら、心はしばし幻想さを漂わせる夜の雰囲気にのみこまれる。

    遠い昔の異国の地での凄惨でありながらも未解決の事件に興味惹かれ、改めて小説の魅力を感じた時間でもあった。

    鷹原と柏木の二人も魅力的。

    巧く日本の歴史を絡ませた事件への解決糸口、東京の歴史を絡ませたラストは息をのむほど。
    まさに全てが燃え尽きた、自分の心も燃え尽きた…面白かった。

  • 『この闇と光』に続き、服部まゆみの絶版文庫が復刻!こちら2002年に文庫化、元の単行本は1996年の出版なのでおよそ20年近く前の作品になりますが、舞台になっているのはタイトル通り1888年のイギリス、切り裂きジャック事件の謎解きものということで、まったく古さは感じません。760頁越えの分厚さには一瞬腰が引けますが(苦笑)皆川博子で免疫があるのでなんとかクリア。膨大なパズルのピースが組み合わされた巨大な迷路のようで、消耗したけど満足度も高かったです。

    切り裂きジャックものの映画や小説はいくつか観た(読んだ)けれど、同時代、同地域に存在したエレファントマンとここまで絡めてあったのは初めてかも。(私が吸血鬼もの好きなせいもあるけど、今まで読んだ小説では切り裂きジャック吸血鬼説とか多かった・笑)

    スッシーニのヴィーナス(蝋人形)なども含め、見世物小屋で晒し者にされていたエレファント・マン(それを是とする文化)、連続殺人鬼に震撼しつつも被害者が皆娼婦であることからどこか他人事として無責任な観客化していた人々、フリーメイソン、犯人説もあった英国王子など、ヴィクトリア朝ロンドンの闇の濃厚さが、個人的にはこの作品世界最大の魅力と感じました。結局、切り裂きジャック事件そのものが、陰惨で目を背けたいと思いながらも「怖いもの見たさ」の好奇心をくすぐられずにいられない人間を今も引きつけてやまないわけで。

    実際の事件をモチーフにしているだけあって、事件とは直接関係ない有名人なども含めて実在の人物が沢山出てくるのも、遊び心&時代の空気が感じられて重層的な構造に一役買っているかも。日本人ではプロローグでの谷崎潤一郎、留学生の森鴎外や北里柴三郎、英国では当時わずか6歳のヴァージニア・ウルフ、アラビアンナイトの紹介者バートンや、ラファエル前派の画家シメオン・ソロモンなどとにかく同時代人を網羅。バーナード・ショーだの、田中稲城と図書館のエピソードまで入れるのは盛りすぎかなと思ったけれど、表面的には切り裂きジャックのミステリーを装いながら、実は裏テーマ的に主人公が作家を目指そうと思うまでの成長、文学との関わり方というのがあったのだと思うので、この、盛りすぎとも思える小ネタ感もやっぱ大事なのかな。名前だけならもっと大勢の文学者や主人公が愛読する本の名前が出てくるし。

    で、肝心の謎解きをする主人公とその相棒のみが架空の人物。伯爵家の長男でイケメン才気煥発社交的で隙なしの通称「光の君」鷹原惟光をあえて脇役に、主人公も名前からして源氏物語パロディな柏木薫、けれどこちらは素朴で可愛い系。おそらく特定のモデルではなく漱石や荷風など複数の作家の要素を継ぎ接ぎした感じ。ただこの薫くん、主人公ゆえ仕方ないのかもしれないけれど、いささか優柔不断で思い込みが激しく、感情の揺れが激しいのでちょっと面倒くさい。かといって鷹原のほうを主人公にするとそれはそれでソツがなさすぎて盛り上がらないのだろうけど。しかしさすがに終盤、勘違いで大暴走、切り裂きジャックどころかホモの痴話喧嘩の原因作って引っ掻き回しただけだったのは残念でした(苦笑)

    まあ最終的に、真犯人が誰かということはもしかしてそんなに重要じゃなかったのかもという気もしますが、ひとつの仮説としてとても面白かったです。

  • 『レオナルドのユダ』の後に服部さんの作品を読んでみたいと手にとった本。

    切り裂きジャックを題材に、主人公・柏木の一人称で進む物語が、最後には柏木の小説内であることがわかる。

    かーなーり冗長な印象。
    権威ある様々な人物が脇を固めているが、爵位がどうの殿下がどうの、というのが多くて誰が誰かわからなくなる。
    柏木も悩める青年、という感じで、微細なできごとから急に前向きになったり後ろ向きになったり、丁寧な描写と言えば聞こえはいいが情緒不安定ともとれる。
    半面、友人の鷹原は行動派で頭の回転がとても速く、魅力的に描かれている。
    柏木の対比として存在しているのかな?

    分厚く1ページあたりの文字数が多い本なので、途中気が遠くなりかけたが、最後の方はたたみかけるように急におもしろくなるのでなかなか評価が難しいかなw

    最後に老人の柏木が出てくるのが、間が長くて忘れていたがそういや冒頭はここから始まったんだなと。
    柏木はイギリスに、切り裂きジャックに、エレファント・マンにただただ翻弄された青年という印象だったが、小説に鷹原の生死について触れ、それが嘘だとわかった時は『一番くえないヤツかも』と思ってしまった^^

    おお、とてもおもしろいかと言われたら難しいのだけど、レビューが長くなったのが意外w

  • 素晴らしい。わたしも鷹原と柏木くんと共に19世紀ロンドンに存在していた。

    切り裂きジャックとエレファントマンは同じ時代だったんだ。

    ここではジャックの正体より、この時代の退廃したロンドンとそこに生きる人たちを中心に描いている。

    同性愛者であることを隠して生きていかなければならなかったスティーヴンとドルウェット、娼婦として生きて行くしかなかったメアリ、抑圧や鬱屈を排出できず爆発させてしまったトリーヴス医師、見せ物として晒され壮絶な人生を歩んできたにも関わらず感謝と敬意しか示さないエレファントマン。

    そして語り手である柏木くんも絶賛モラトリアムである。
    容姿端麗で頭脳明晰な完璧超人な鷹原ですら、実の母が娼婦であった過去を持つ。

    非常に鬱々としながらも青春小説のような爽やかさもある。

    そして何より、はじめと最後に老人になった柏木を置き回顧という形をとるのがエモすぎる。時代を超えたヴァージニアからの手紙。何十年越しに届くスティーヴン氏の手紙。そしてエレファントマンとトリーヴス医師の真実。

    とても切なく、大きな存在感を残すさくあである。

  • 長っ!
    翻訳物のように私には読みづらく時間がかかった。
    前半のよくわからない交友録は必要だったのだろうか。
    当時のイギリスがらよくわかり、そーゆー面では面白かったけど、柏木が悩む姿が多く後半どうでもよくなってしまった。
    斜め読みしてもとにかく疲れた。

  • 6/25 読了。
    興奮しているため、いきなりネタバレの話をします。



    この話、表面上の決着としてはある医師が犯人として示される。そこはそれなりに物語内での妥当性はある。けれど、とってつけたようなフロイト心理学的な動機の説明に違和感をおぼえ、鷹原の謎解きの性急っぷりも気になった。端的に言うと、納得しきれないものを感じた。
    とはいえ、私は本格やパズラーを突き詰めて解くタイプの読者ではないため、「まぁこんなもんか。ヴィクトリア朝の空気をたっぷり味わえたし、切り裂きジャックはそもそも未解決事件なんだから、それなりに妥当な犯人像を創り上げただけでも立派だよな」と胃の腑に落とそうとしたのだが。
    エピローグの最後の最後、柏木が書いた手記、そしてそれの伴うオチを読んで、あ〜〜〜〜〜こいつ信頼ならない語り手か?!?!?!と、やっと気付いたのだ。つまりこの鈍くてボヤッとした、柏木の語り口自体が何かを隠蔽しているのではないか?
    そう考えると、自然と疑わしくなってくるのはドルイット氏である。そもそもドルイットとスティーヴンをめぐるエピソードは全編通してミスリードのためのミスリード然としすぎだし、正直後半は彼らを追い続ける柏木にイラッとしてくる。
    けれど、ドルイット=ヴィットリアと柏木はそもそも娼家街をうろついていて出逢ったのだし、メアリの恋人だから家の中まで案内されたのだと思えば自然だし、メアリを鶏姦で犯したのもスティーヴンとの同性愛関係から逃れたいと思いながら逃れきれないという引き裂かれた感情ゆえと思えるし、暖炉で燃やされていた女性物の服もドルイットが女装して会いに行ったのだと思えばすっきり説明がつく。それだけでなく、鷹原が医師の心理として語った母親へのコンプレックスも、発狂した母を持つドルイットに敷衍することができるのだ。しかも、柏木がドルイットを容疑者から外す理由は、チャプマン殺しの犯行推定時刻から数時間後にクリケットの試合に出ているということだけしかない。(全然まだちゃんと伏線集めきれてないんだけど、メスに彫られた犯人のイニシャル飾り文字を見て「ジョンの事務所に置き忘れた銀の煙草ケースと同じものだった」と思い出すことや、メリック氏の母の写真を見てヴィットリアに似ていると思うことなど鑑みて、病院とドルイットをつなぐ糸も隠されているのではないかと思う)(鷹原との初対面の反応見るとエレファント・マンも同性愛者っぽいよね)
    メリック氏がジョセフと名乗っているのにもかかわらずドルイット氏のと同じ「ジョン」と間違えられ続けることや、ヴィットリアが時代を象徴するヴィクトリアに通じる名前なのも、ドルイットが本書の核となる人物であることを指すサインなのではないかと勘ぐってしまう…。

    と、ここまで考えた時点では、ドルイット氏は作者が用意したオリジナルキャラクターだと思い込んでいたのだが、今日(6/27)、物語理解を深めるため手にとったスティーブ・ジョーンズ「恐怖の都・ロンドン」で、初めて切り裂きジャックに関する当時の容疑者候補リストを見、驚いた。
    最有力容疑者にモンタギュー・J・ドルイットがいるのだ。
    経歴は死に至るまで完璧に一緒。切り裂きジャックフリークはきっと名前が明かされた時点でピンとくるのだろう。いやー、びっくり。
    あと、もうひとつ謎があった。柏木はロンドンの本屋で新刊をごっそり買うという描写があるのに、切り裂きジャック事件の前年に刊行されたシャーロック・ホームズ・シリーズ第1作「緋色の研究」に対する言及がない。鷹原も流行に敏感な男という設定なのに。まぁ完全にホームズワトソン型のヴィクトリア朝バディものでホームズの話を出すのも野暮か、などと勝手に忖度していたが、これも前掲書の情報で、ドイルはジャックを女装男性だと推理していたことがわかった。
    つまり、事件後に発狂を恐れて自殺した最有力容疑者ドルイットと、ホームズの作者による女装男性説を組み合わせたのが本書の真犯人なのではないか?そう考えれば、スティーヴンとドルイットの同性愛関係も、またそれに反発しながら惹かれていく柏木の姿も、そして無駄にスーパー美形と人間的魅力を強調される性を超越した存在としての鷹原というキャラクターも、ただの<そういう趣味の人間>への目配せなどではない、特に捻れた犯行動機を解くための物語上の必然性を帯びてくる。いや、もう絶対そう!「レオナルドのユダ」先に読んだけど、そういう仕掛けしてくる人だもんなこの人!(20年前に発表されたミステリーに新参者が僕真犯人わかりましたヅラで騒いですみません)(自分で謎解けた道筋と興奮を残しておきたいんだ…!)

    いやーすごい。まんまとやられました。しかもこのねじくれ方がそのまんまヴィクトリア朝という時代を表現しているし。本書全体が時代の空気を閉じ込めた真空パックのようで、読後もしばらく戻ってこられなくなる。今や古典となった当時の娯楽小説のブックガイドにもなっているし、この小説のインターテクスチュアリティというか、ハイパーリンクでド・クインシーでもウルフでもディケンズでもバーナード・ショーでも飛んでいける構造の豊かさも褒め称えたい。思わず読み終わったあとに今まで読んだ19世紀ロンドンが舞台の小説で、年表つくっちゃったもんね。あと参考文献欄に載ってないけど、高山宏の「切り裂きテクスト 殺人鬼切り裂きジャックの世紀末」(「世紀末異貌」一九九〇)に拠るところ多いのでは?と、つい先日それを読み返したので思ったりしました。
    解説は皆川博子先生。今思えば「開かせていただき光栄です」ってこの作品へのオマージュ要素たぶんにありそう。六章で鷹原と柏木が訪ねていくハンテリアン博物館をつくったジョン・ハンターは「開かせていただき〜」のダニエル先生の直接的なモデルだし。読み返そうかなぁ。

  • 旧版を積読で持っていたことを忘れて購入する。「あるある」である。データ管理は大切、データ管理は大切。この作者の他作も多数持っているようなのだが、実は今回初めて読んだ。何故だろう、物凄いストライクゾーンだと思うのに…おそらく「皆川博子の亜流」疑惑からかもしれない。そうやって死蔵しているうちに作者が他界しておられるとは、まだお若い(皆川氏と比べて)のになんとも残念なことだ。合掌。今更ながらだが、これからはたんと読ませていただくつもりだ。それくらい面白かった。源氏絡みのネーミングや、ビクトリア朝のゴシック倫敦、時代の著名人達の登場、そして美形だの男色だのと、もう「我々の組合」を狙い澄ましたようなあざとさではあるが、それらを差し引いても余りあるエンタテインメントだ。すらすらと読みやすい作品なので(その分浅いとも言えるが)、どうぞ分厚さにめげず手にとって頂きたい。

  • 19世紀イギリスの雰囲気が味わえる一冊。
    切り裂きジャックに怯えるロンドンを二人の性格の違う日本人が股にかける!
    一人がね、どうにもはっきりしない奴で、忸怩たるものがある。しかし、明治の政府から期待されて留学をしているが、焦燥ばかり先走ってしまうのか。

  • 切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー https://ja.m.wikipedia.org/wiki/切り裂きジャック )といえば、ヴィクトリア朝ロンドンに実在したシリアルキラーというよりも、最近では映画・小説・漫画・ゲームに広く使われているキャラクター的な側面を思い浮かべる人も多いかもしれない。
    私も「彼(彼女)」について始めて知ったのは名探偵コナンの映画「ベイカー街の亡霊( https://ja.m.wikipedia.org/wiki/名探偵コナン_ベイカー街の亡霊 )」であり、その残忍さよりも先に、キャラクターとしての個性の強さや特殊性ゆえの魅力を感じた。もちろん、実際のジャックは何の罪もない女性たちの喉を切り裂き臓器を切り取るという、おぞましいことこの上ない殺人を起こしたまぎれもない犯罪者である。しかしそのあまりの突出した残忍性や、世間に犯行予告とも取れる文書を公表した(とされる)こと、そして未だ犯人が特定されていないことから、後130年に渡り創作の題材にされ続ける魅力があることも確かだろう。

    そう、2019年現在、切り裂きジャックとあだ名された連続殺人鬼の正体は分かっていない。幾度かDNA鑑定の結果を発表されたりもしたが、決定的な証拠は未だない( https://rocketnews24.com/2019/03/19/1186967/ )。当時よりも格段に進歩した科学技術をもってしても、特定には至っていないのだ。

    これに関しては、知りたいような知りたくないような、複雑な心境を持つひとも多いのではないか。これほど多くの人々の心を掴むのは、正体不明だからという理由も大きいだろう。犯人がわからないからこそ、人々は勝手に想像し、恐怖をかき立て、その人間離れした虚像を楽しんできた。不謹慎だが、決定的な証拠が出てきてしまったら、ただの狂った人間になってしまう。
    そしてこの「一八八八 切り裂きジャック」のように、彼をテーマにしながら全く新しい物語として昇華された作品も、生み出されにくくなってしまうのではないか。それを思うととても残念に思えてしまうのだ。(もちろん犯人を特定して分析できれば、社会的観点からいえばものすごく価値のあることだと思う)

    前置きが長くなったが、この作品は日本からの留学生である柏木薫の視点で、切り裂きジャックの事件に翻弄されるロンドンの街を描いた小説だ。
    一連の事件をテーマにした作品は数あれど、その中でもこの小説の魅力といえば、登場人物たちのユニークさが挙げられる。彼の友人で類稀なる麗人である鷹原惟光や、病によって極度の畸形となった実在の人物−−エレファント・マンことジョーゼフ・ケアリー・メリック( https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ジョゼフ・メリック )、「僕」が恋をした謎の女性ヴィットリア、ジョーゼフを庇護し時の人となったトリーブス医師など、非常に魅力的な人物が多い。反して主人公は(国の留学生として選ばれるだけの才覚はあるにせよ)比較的凡庸でかつうじうじと悩むので、若干の苛立ちは感じるものの、共感できる点もある。後半、腹が決まってからの主人公は個人的に好ましく感じた。その点、ただのミステリではなく、主人公の成長物語でもある。

    主人公を始め登場人物の一部が日本人であるというのも大きい。正直言って、私は外国人の名前を覚えるのが苦手だ。(何故だろう? 人によるとは思うが、文章として見たときに、漢字だと字形として覚えられるから? 単に親しみがないから?)とにかく、人物一覧がないので、途中何度も戻って確認した。(人物一覧がないのはこの小説の唯一の不満点と言っていいかもしれない)その中で、主人公とその親しい友人が日本人であり、名前をすんなり覚えられることはありがたかった。

    そして、日本人視点であるがゆえに、当時の日本とヨーロッパの文化の違いや、華やかなだけじゃないヴィクトリア朝の闇の部分を近い目線で知ることができる。ただ面白いだけじゃなく教養にもなる作品だと思う。とりわけ、「見世物小屋」や「救貧院」といったジョーゼフが通ってきた壮絶な過去は、実話を下敷きにしているだけに非常にリアリティがあり、胸が苦しくなる。フィクションでしばしば舞台にされる中世(近世)ヨーロッパが、美しいものだけではないことをよくよく感じることができ、ためになった。

    あとこれは一部の人には受け付けないかもしれないが−−若干の耽美な薫りのする場面もある。その辺りも、日本とヨーロッパ(キリスト圏)の価値観の違いがあり面白く読めた。

    全体的にいえば、ジャックの手口を詳細に描いているだけにグロテスクな箇所も多く、人を選ぶかもしれない。もっとも、これはゴシックサスペンスを得意とする作者の色でもあるので、単純に好みの問題だと思う。血や臓器といった描写が平気なら、是非とも読んでみてほしい。
    残虐極まりない殺人を繰り返す切り裂きジャックの犯人は誰なのか? 一向に再会できない「ヴィットリア」は何者だ? 踊り子と駆け落ちした森ってもしかして...。大きな謎から細かい謎まで(最後の一つは謎ではないが、気付いた時はにやりとしてしまった)、ミステリ好きにも納得できる作品になっていると思う。

    最後に言うとこではないが、非常に長い物語なので、覚悟して読んでほしい。手が疲れること必至だ。

    ちなみに、ゴシックサスペンス好きな人には、同作者の「この闇と光」もおすすめ。
    私はこの2つを読んで服部ワールドにどっぷりハマってしまったので、他3作品をまとめ買いしてしまった。そのうち感想を書くと思う。

    ベイカー街の亡霊も、また見たいな……。

  • 長い〜とにかく長い〜
    でも実在の人物や事件も登場して面白かった
    作品に漂う暗くてどんよりした感じ、好きだー
    皆川博子氏の作品の雰囲気に似ているので、そちらが好きな人はこの作品も好きかも

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著者プロフィール

1948年生まれ。版画家。日仏現代美術展でビブリオティック・デ・ザール賞受賞。『時のアラベスク』で横溝正史賞を受賞しデビュー。著書に『この闇と光』、『一八八八 切り裂きジャック』(角川文庫)など。

「2019年 『最後の楽園 服部まゆみ全短編集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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