一八八八 切り裂きジャック (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 37
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  • Amazon.co.jp ・本 (784ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041036198

作品紹介・あらすじ

19世紀末、霧の帝都ロンドンを恐怖に陥れた連続娼婦殺人事件。殺人鬼「切り裂きジャック」の謎を日本人留学生の美青年探偵・鷹原と医学生・柏木が解き明かしていく。絢爛たる舞台と狂気に酔わされる名作ミステリ!

感想・レビュー・書評

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  • 20240201

  • 服部まゆみさんらしい長編
    読むものを捉えて離さず
    一気にラストへ
    ロンドンの切り裂きジャック事件に日本から留学している貴族の子息たち
    圧倒的な美貌と知性の鷹原
    生真面目で世慣れない柏木
    森鷗外、北里柴三郎、田中稲城
    ヴィクトリア女王をはじめイギリスの王侯貴族たち
    実在の人物100人に架空の登場人物は7人とは著者あとがきから
    皆川博子の作品が好きなら当然服部まゆみも読まなくては。

  • 耽美な世界と狂気の世界

    〜あらすじ〜
    19世紀末、医学留学生の柏木は、友人でロンドン警視庁に所属する美青年・鷹原とともに、大英帝国の首都ロンドンにいた。「切り裂きジャック」による連続殺人事件が街中を恐怖に陥れている頃、柏木は自分はいったい何がしたいのだろうかと悩んでいた。解剖学に興味をなくし、ロンドンでの研究にも熱が入らず、ただ、愛しい謎の貴婦人ヴィットリアを探していた…

    ヴィクトリア朝時代のロンドンを旅する読書でした。色んな場所の写真を見ながら毎晩タイムスリップ。

    巨大ドームの大英博物館図書館には(空想で)何度も訪れた。美しさと本の多さにくらくらする。本の宇宙、まさにソレだ。

    上流階級の華やかなドレス、豪華なご馳走の匂いに憧れるけど、下層階級が住む腐った豆のスープの臭いのする貧民街を思うと複雑な気持ちになる。中流階級のボーモント夫人を描くことで、この時代の階級社会、暮らしぶりがよくわかる。

    売春婦がひとり、ふたり、三人、四人……、切り刻まれた無残な死体、前代未聞の警察への挑戦状、新聞や雑誌の影響もありロンドン中が集団ヒステリー状態に。表と裏の顔を使い分ける切り裂きジャックに捜査は難航する。

    切り裂きジャックの犯行を鷹原はこの時代ではまだ珍しいある方法を用いて封じ込める!辛かっただろうにお見事です。 それに比べて柏木のやった事は絶対許されない。想像しただけで気が狂いそう。

    社交界の花形鷹原くん素敵。でも「念入りに蠟で固めた髭」?
    思い出すのは2017年版の名探偵ポワロのあの髭…それはちょっと…

    この本には実在の人物がたくさん登場していて、帝国図書館初代館長、田中稲城さんもそのひとり。図書館をありがとう。図書館と本屋は癒しの場所。
    「日本全国に公共の図書館が出来たなら、身分も低く、金もない者でも、勉学の志さえあれば道が開けます。アメリカの教育家の調査では、もっとも児童の心身に感化を及ぼすものは、父でもなく、母でもなく、また学校でもない。読書だとありました。」

    ヴィットリアの正体と森さんに驚いた

  •  今年中にもう1冊読む予定だったのに、長すぎて本書が2022年最後の読書に。電子書籍は読み始めるまで分厚さに気づかないので臆さず読めるのは長所かもしれない。文庫本だったら読んでなかったかも。
     序盤はなかなか事件も起こらず優雅な留学生活ぶりに鼻白らんでいたが、細部まで丁寧な描写と美しく残酷な当時のロンドンの様子、終盤にかけての加速など、ページを捲る度にグイグイ惹き込まれていく。この時代はまだ指紋が1人1人違うことが常識ではなかったのか。長いがその分読み応えもバッチリ。もう1冊積んでる著者の別作品も楽しみ。

  • 【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
    https://opc.kinjo-u.ac.jp/

  • 霧のロンドン、貴族と貧民が混在する、耽美と退廃に彩られた血生臭い街。
    主人公は、日本人医学留学生・柏木薫。最初はベルリンで解剖学を学ぶのだけど、友人の「光の君」こと鷹原惟光の紹介で、先天性奇形症候群であるエレファントマンに興味を持ち、ロンドンへ。そこで切り裂きジャック事件に出くわし、巻き込まれていく。

    切り裂きジャックについては、なんとなくしか知らなかったので、無知の状態だったこともあって、事件の凄惨さに興味を持ちながら読みました。
    読後にあらためて調べると、実際の事件とほぼ同じ流れで小説も展開されていました。その上で、あの人が犯人かもという方向に持っていったんだなぁとわかり、なかなか面白かったです。

    ただ、この作品の魅力は、事件そのもののトリックよりも、主人公が人生について悩みながら作家という存在に興味を持っていくという青春物語であったり、また大きな魅力としては鷹原のキャラです。彼は、高い知性、稀な美貌、社交術を持ち合わせながら、シニカルな見方をして時に薫と衝突しつつ、なんだかんだいいつつ薫を心配したりと、二人のやりとりに引き込まれます。

    それから、エレファントマンの描き方も、最後まで読むと感心させられました。薫に影響を与えた人物として出てくるわりには、けっこう重要なポジションにいるよな…と思いながら読んでいたのですが、そうくるとは。最後の最後、あの塔の模型に隠された秘密。しびれます。

    前半は登場人物が多く、恥ずかしながら世界史に疎くカタカナの人名にも弱い私は、何度もぺージを戻しては、これ誰やっけ??となりながら苦労して読み進める始末でしたが、物語が進むにつれ主要人物の関係性は自然とわかってきました。
    ヴィーナスのくだりも、そういうものがあるとは知らなかったので勉強になりました。あの当時ってグロテスクな美が当たり前に許容されていたんですね。

    19世紀末ロンドンにタイムスリップしたかのような気分に浸れる一冊でした。長かったけど、そのぶん読みごたえがありました!

    あと、森鴎外や北里柴三郎が出てきた他、薫と鷹原が源氏物語になぞらえてあるという遊び心。柏木薫て…(笑)でもそれが35年後のラストにつながるのだからおもしろいですね。

  • 実は再読だけど、ほとんど内容を覚えていなかったのでほとんど初読み気分で読めた。
    前半物語の雰囲気に慣れるまでは読むのにひたすら時間がかかったけど、後半事件の解決まで気になって一気に読めた。おかげで寝不足。
    ほんとにシリーズ化して欲しいくらいメイン2人のキャラクターが好き。

  • 素晴らしい。わたしも鷹原と柏木くんと共に19世紀ロンドンに存在していた。

    切り裂きジャックとエレファントマンは同じ時代だったんだ。

    ここではジャックの正体より、この時代の退廃したロンドンとそこに生きる人たちを中心に描いている。

    同性愛者であることを隠して生きていかなければならなかったスティーヴンとドルウェット、娼婦として生きて行くしかなかったメアリ、抑圧や鬱屈を排出できず爆発させてしまったトリーヴス医師、見せ物として晒され壮絶な人生を歩んできたにも関わらず感謝と敬意しか示さないエレファントマン。

    そして語り手である柏木くんも絶賛モラトリアムである。
    容姿端麗で頭脳明晰な完璧超人な鷹原ですら、実の母が娼婦であった過去を持つ。

    非常に鬱々としながらも青春小説のような爽やかさもある。

    そして何より、はじめと最後に老人になった柏木を置き回顧という形をとるのがエモすぎる。時代を超えたヴァージニアからの手紙。何十年越しに届くスティーヴン氏の手紙。そしてエレファントマンとトリーヴス医師の真実。

    とても切なく、大きな存在感を残す作品である。

  • 『レオナルドのユダ』の後に服部さんの作品を読んでみたいと手にとった本。

    切り裂きジャックを題材に、主人公・柏木の一人称で進む物語が、最後には柏木の小説内であることがわかる。

    かーなーり冗長な印象。
    権威ある様々な人物が脇を固めているが、爵位がどうの殿下がどうの、というのが多くて誰が誰かわからなくなる。
    柏木も悩める青年、という感じで、微細なできごとから急に前向きになったり後ろ向きになったり、丁寧な描写と言えば聞こえはいいが情緒不安定ともとれる。
    半面、友人の鷹原は行動派で頭の回転がとても速く、魅力的に描かれている。
    柏木の対比として存在しているのかな?

    分厚く1ページあたりの文字数が多い本なので、途中気が遠くなりかけたが、最後の方はたたみかけるように急におもしろくなるのでなかなか評価が難しいかなw

    最後に老人の柏木が出てくるのが、間が長くて忘れていたがそういや冒頭はここから始まったんだなと。
    柏木はイギリスに、切り裂きジャックに、エレファント・マンにただただ翻弄された青年という印象だったが、小説に鷹原の生死について触れ、それが嘘だとわかった時は『一番くえないヤツかも』と思ってしまった^^

    おお、とてもおもしろいかと言われたら難しいのだけど、レビューが長くなったのが意外w

  • 彷徨い燃え尽きた…。

    一八八八年、この時代の英国を舞台に、実在した人物を絡めながら描く切り裂きジャック事件物語。
    あぁ、長い船旅を終えた気分。渡英しまた帰国した、それぐらいの時間だった。

    一体誰が犯人なのか…英国の霧に包まれた夜を彷徨わされながら、心はしばし幻想さを漂わせる夜の雰囲気にのみこまれる。

    遠い昔の異国の地での凄惨でありながらも未解決の事件に興味惹かれ、改めて小説の魅力を感じた時間でもあった。

    鷹原と柏木の二人も魅力的。

    巧く日本の歴史を絡ませた事件への解決糸口、東京の歴史を絡ませたラストは息をのむほど。
    まさに全てが燃え尽きた、自分の心も燃え尽きた…面白かった。

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著者プロフィール

1948年生まれ。版画家。日仏現代美術展でビブリオティック・デ・ザール賞受賞。『時のアラベスク』で横溝正史賞を受賞しデビュー。著書に『この闇と光』、『一八八八 切り裂きジャック』(角川文庫)など。

「2019年 『最後の楽園 服部まゆみ全短編集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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