一八八八 切り裂きジャック (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (784ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041036198

作品紹介・あらすじ

19世紀末、霧の帝都ロンドンを恐怖に陥れた連続娼婦殺人事件。殺人鬼「切り裂きジャック」の謎を日本人留学生の美青年探偵・鷹原と医学生・柏木が解き明かしていく。絢爛たる舞台と狂気に酔わされる名作ミステリ!

感想・レビュー・書評

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  • 彷徨い燃え尽きた…。

    一八八八年、この時代の英国を舞台に、実在した人物を絡めながら描く切り裂きジャック事件物語。
    あぁ、長い船旅を終えた気分。渡英しまた帰国した、それぐらいの時間だった。

    一体誰が犯人なのか…英国の霧に包まれた夜を彷徨わされながら、心はしばし幻想さを漂わせる夜の雰囲気にのみこまれる。

    遠い昔の異国の地での凄惨でありながらも未解決の事件に興味惹かれ、改めて小説の魅力を感じた時間でもあった。

    鷹原と柏木の二人も魅力的。

    巧く日本の歴史を絡ませた事件への解決糸口、東京の歴史を絡ませたラストは息をのむほど。
    まさに全てが燃え尽きた、自分の心も燃え尽きた…面白かった。

  • 『この闇と光』に続き、服部まゆみの絶版文庫が復刻!こちら2002年に文庫化、元の単行本は1996年の出版なのでおよそ20年近く前の作品になりますが、舞台になっているのはタイトル通り1888年のイギリス、切り裂きジャック事件の謎解きものということで、まったく古さは感じません。760頁越えの分厚さには一瞬腰が引けますが(苦笑)皆川博子で免疫があるのでなんとかクリア。膨大なパズルのピースが組み合わされた巨大な迷路のようで、消耗したけど満足度も高かったです。

    切り裂きジャックものの映画や小説はいくつか観た(読んだ)けれど、同時代、同地域に存在したエレファントマンとここまで絡めてあったのは初めてかも。(私が吸血鬼もの好きなせいもあるけど、今まで読んだ小説では切り裂きジャック吸血鬼説とか多かった・笑)

    スッシーニのヴィーナス(蝋人形)なども含め、見世物小屋で晒し者にされていたエレファント・マン(それを是とする文化)、連続殺人鬼に震撼しつつも被害者が皆娼婦であることからどこか他人事として無責任な観客化していた人々、フリーメイソン、犯人説もあった英国王子など、ヴィクトリア朝ロンドンの闇の濃厚さが、個人的にはこの作品世界最大の魅力と感じました。結局、切り裂きジャック事件そのものが、陰惨で目を背けたいと思いながらも「怖いもの見たさ」の好奇心をくすぐられずにいられない人間を今も引きつけてやまないわけで。

    実際の事件をモチーフにしているだけあって、事件とは直接関係ない有名人なども含めて実在の人物が沢山出てくるのも、遊び心&時代の空気が感じられて重層的な構造に一役買っているかも。日本人ではプロローグでの谷崎潤一郎、留学生の森鴎外や北里柴三郎、英国では当時わずか6歳のヴァージニア・ウルフ、アラビアンナイトの紹介者バートンや、ラファエル前派の画家シメオン・ソロモンなどとにかく同時代人を網羅。バーナード・ショーだの、田中稲城と図書館のエピソードまで入れるのは盛りすぎかなと思ったけれど、表面的には切り裂きジャックのミステリーを装いながら、実は裏テーマ的に主人公が作家を目指そうと思うまでの成長、文学との関わり方というのがあったのだと思うので、この、盛りすぎとも思える小ネタ感もやっぱ大事なのかな。名前だけならもっと大勢の文学者や主人公が愛読する本の名前が出てくるし。

    で、肝心の謎解きをする主人公とその相棒のみが架空の人物。伯爵家の長男でイケメン才気煥発社交的で隙なしの通称「光の君」鷹原惟光をあえて脇役に、主人公も名前からして源氏物語パロディな柏木薫、けれどこちらは素朴で可愛い系。おそらく特定のモデルではなく漱石や荷風など複数の作家の要素を継ぎ接ぎした感じ。ただこの薫くん、主人公ゆえ仕方ないのかもしれないけれど、いささか優柔不断で思い込みが激しく、感情の揺れが激しいのでちょっと面倒くさい。かといって鷹原のほうを主人公にするとそれはそれでソツがなさすぎて盛り上がらないのだろうけど。しかしさすがに終盤、勘違いで大暴走、切り裂きジャックどころかホモの痴話喧嘩の原因作って引っ掻き回しただけだったのは残念でした(苦笑)

    まあ最終的に、真犯人が誰かということはもしかしてそんなに重要じゃなかったのかもという気もしますが、ひとつの仮説としてとても面白かったです。

  • 素晴らしい。わたしも鷹原と柏木くんと共に19世紀ロンドンに存在していた。

    切り裂きジャックとエレファントマンは同じ時代だったんだ。

    ここではジャックの正体より、この時代の退廃したロンドンとそこに生きる人たちを中心に描いている。

    同性愛者であることを隠して生きていかなければならなかったスティーヴンとドルウェット、娼婦として生きて行くしかなかったメアリ、抑圧や鬱屈を排出できず爆発させてしまったトリーヴス医師、見せ物として晒され壮絶な人生を歩んできたにも関わらず感謝と敬意しか示さないエレファントマン。

    そして語り手である柏木くんも絶賛モラトリアムである。
    容姿端麗で頭脳明晰な完璧超人な鷹原ですら、実の母が娼婦であった過去を持つ。

    非常に鬱々としながらも青春小説のような爽やかさもある。

    そして何より、はじめと最後に老人になった柏木を置き回顧という形をとるのがエモすぎる。時代を超えたヴァージニアからの手紙。何十年越しに届くスティーヴン氏の手紙。そしてエレファントマンとトリーヴス医師の真実。

    とても切なく、大きな存在感を残す作品である。

  •  今年中にもう1冊読む予定だったのに、長すぎて本書が2022年最後の読書に。電子書籍は読み始めるまで分厚さに気づかないので臆さず読めるのは長所かもしれない。文庫本だったら読んでなかったかも。
     序盤はなかなか事件も起こらず優雅な留学生活ぶりに鼻白らんでいたが、細部まで丁寧な描写と美しく残酷な当時のロンドンの様子、終盤にかけての加速など、ページを捲る度にグイグイ惹き込まれていく。この時代はまだ指紋が1人1人違うことが常識ではなかったのか。長いがその分読み応えもバッチリ。もう1冊積んでる著者の別作品も楽しみ。

  • 霧のロンドン、貴族と貧民が混在する、耽美と退廃に彩られた血生臭い街。
    主人公は、日本人医学留学生・柏木薫。最初はベルリンで解剖学を学ぶのだけど、友人の「光の君」こと鷹原惟光の紹介で、先天性奇形症候群であるエレファントマンに興味を持ち、ロンドンへ。そこで切り裂きジャック事件に出くわし、巻き込まれていく。

    切り裂きジャックについては、なんとなくしか知らなかったので、無知の状態だったこともあって、事件の凄惨さに興味を持ちながら読みました。
    読後にあらためて調べると、実際の事件とほぼ同じ流れで小説も展開されていました。その上で、あの人が犯人かもという方向に持っていったんだなぁとわかり、なかなか面白かったです。

    ただ、この作品の魅力は、事件そのもののトリックよりも、主人公が人生について悩みながら作家という存在に興味を持っていくという青春物語であったり、また大きな魅力としては鷹原のキャラです。彼は、高い知性、稀な美貌、社交術を持ち合わせながら、シニカルな見方をして時に薫と衝突しつつ、なんだかんだいいつつ薫を心配したりと、二人のやりとりに引き込まれます。

    それから、エレファントマンの描き方も、最後まで読むと感心させられました。薫に影響を与えた人物として出てくるわりには、けっこう重要なポジションにいるよな…と思いながら読んでいたのですが、そうくるとは。最後の最後、あの塔の模型に隠された秘密。しびれます。

    前半は登場人物が多く、恥ずかしながら世界史に疎くカタカナの人名にも弱い私は、何度もぺージを戻しては、これ誰やっけ??となりながら苦労して読み進める始末でしたが、物語が進むにつれ主要人物の関係性は自然とわかってきました。
    ヴィーナスのくだりも、そういうものがあるとは知らなかったので勉強になりました。あの当時ってグロテスクな美が当たり前に許容されていたんですね。

    19世紀末ロンドンにタイムスリップしたかのような気分に浸れる一冊でした。長かったけど、そのぶん読みごたえがありました!

    あと、森鴎外や北里柴三郎が出てきた他、薫と鷹原が源氏物語になぞらえてあるという遊び心。柏木薫て…(笑)でもそれが35年後のラストにつながるのだからおもしろいですね。

  • 服部まゆみさんらしい長編
    読むものを捉えて離さず
    一気にラストへ
    ロンドンの切り裂きジャック事件に日本から留学している貴族の子息たち
    圧倒的な美貌と知性の鷹原
    生真面目で世慣れない柏木
    森鷗外、北里柴三郎、田中稲城
    ヴィクトリア女王をはじめイギリスの王侯貴族たち
    実在の人物100人に架空の登場人物は7人とは著者あとがきから
    皆川博子の作品が好きなら当然服部まゆみも読まなくては。

  • 実は再読だけど、ほとんど内容を覚えていなかったのでほとんど初読み気分で読めた。
    前半物語の雰囲気に慣れるまでは読むのにひたすら時間がかかったけど、後半事件の解決まで気になって一気に読めた。おかげで寝不足。
    ほんとにシリーズ化して欲しいくらいメイン2人のキャラクターが好き。

  • 『レオナルドのユダ』の後に服部さんの作品を読んでみたいと手にとった本。

    切り裂きジャックを題材に、主人公・柏木の一人称で進む物語が、最後には柏木の小説内であることがわかる。

    かーなーり冗長な印象。
    権威ある様々な人物が脇を固めているが、爵位がどうの殿下がどうの、というのが多くて誰が誰かわからなくなる。
    柏木も悩める青年、という感じで、微細なできごとから急に前向きになったり後ろ向きになったり、丁寧な描写と言えば聞こえはいいが情緒不安定ともとれる。
    半面、友人の鷹原は行動派で頭の回転がとても速く、魅力的に描かれている。
    柏木の対比として存在しているのかな?

    分厚く1ページあたりの文字数が多い本なので、途中気が遠くなりかけたが、最後の方はたたみかけるように急におもしろくなるのでなかなか評価が難しいかなw

    最後に老人の柏木が出てくるのが、間が長くて忘れていたがそういや冒頭はここから始まったんだなと。
    柏木はイギリスに、切り裂きジャックに、エレファント・マンにただただ翻弄された青年という印象だったが、小説に鷹原の生死について触れ、それが嘘だとわかった時は『一番くえないヤツかも』と思ってしまった^^

    おお、とてもおもしろいかと言われたら難しいのだけど、レビューが長くなったのが意外w

  • 長っ!
    翻訳物のように私には読みづらく時間がかかった。
    前半のよくわからない交友録は必要だったのだろうか。
    当時のイギリスがらよくわかり、そーゆー面では面白かったけど、柏木が悩む姿が多く後半どうでもよくなってしまった。
    斜め読みしてもとにかく疲れた。

  • 正直、読書歴が少ない私には読みずらかった…けど慣れるもんです。
    しかしながら歴史と上手くコラボした作品で読書後は唸る!!
    と思います。私は、仕事が忙しく&まじめに読んで、久しぶりの1ヶ月半かかりました…
    これは、時代背景と出版された時代に、本が好きだった方には最高に面白い本!!だと思います。再読すれば、かなり面白い本かも!(かなりの読書通の母親は3日で読破(-。-;面白いそうです!?)

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著者プロフィール

1948年生まれ。版画家。日仏現代美術展でビブリオティック・デ・ザール賞受賞。『時のアラベスク』で横溝正史賞を受賞しデビュー。著書に『この闇と光』、『一八八八 切り裂きジャック』(角川文庫)など。

「2019年 『最後の楽園 服部まゆみ全短編集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

服部まゆみの作品

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