- Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041036341
作品紹介・あらすじ
諦めず、迷わず、信じた道を一筋に――
謎の刃傷事件を起こした浅野内匠頭。
彼が密かに残した”最期の言葉”とは。
言葉を聞いた勘解由の、秘めたる想いの行方は。
直木賞作家が描く、かつてない「忠臣蔵」!
元禄十四年(1701)十一月。
若くして扇野藩の馬廻り役・中川三郎兵衛の後家となった紗英【さえ】は、江戸からやってくる永井勘解由【ながいかげゆ】という人物の接待役兼監視役を命じられた。
勘解由は旗本であり、幕府の目付役だったが、将軍・徳川綱吉の怒りにふれて扇野藩にお預けの身になったという。
この年、江戸城内で、播州赤穂の大名・浅野内匠頭が、高家筆頭、吉良上野介を斬りつける刃傷事件が起きていた。浅野内匠頭は理由を問われぬまま即日切腹。だが勘解由は、老中に切腹の見合わせを進言し、また切腹の直前、襖越しにひそかに浅野内匠頭の"最後の言葉"を聞いたという。この行いが将軍、徳川綱吉の知るところとなり、機嫌を損じたのだった。
雪が舞い散る中、屋敷に到着した勘解由を迎え入れた紗英は、役目を全うしようとするが――。
身分を隠し、勘解由の元を訪れる赤穂浪士。
勘解由のやさしさに惹かれてゆく紗英。
扇野藩に、静かに嵐が忍び寄る。
これまでにない視点から「忠臣蔵」の世界を描き、新たな感動を呼び起こす歴史時代長編!
≪熱き信念が胸を打つ、扇野藩シリーズ≫
感想・レビュー・書評
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扇野藩シリーズ第3
江戸城松の廊下で赤穂藩主 浅野内匠頭が、高家筆頭 吉良上野介へ刃傷に及んだ。
側用人 柳沢吉保は、経緯を明らかにしないまま、内匠頭 即日切腹の断を下したが、
幕府の目付だった永井勘解由は、監視の目を掻い潜り、切腹直前の長矩と、襖越しに言葉を交わす。
しかし、その行動は、将軍綱吉の勘気を被り、扇野藩に配流となる。
扇野藩としては、勘解由は、幕閣の中枢に返り咲く可能性があるので、粗略に扱えない。
とは言え、綱吉の勘気が続いたとしたら、罪人をもてなしたとして、幕府の心証が悪くなる。
勘解由の対処に、難儀していた。
配流先での接待役となった紗英は、武家に生まれた女として、藩の命令に従うしかなかったが、
清らかな強さを持って生き抜こうとしている勘解由に、だんだん、惹かれて行く。
赤穂浪士が、討ち入りを果たすと、勘解由が、浪士に協力したとなり、扇野藩が処罰される。それを、回避する為に、勘解由の命を狙う者。
扇野藩 筆頭家老、馬場民部と次席家老、才津作左衛門の対立。
大石内蔵助と勘解由の交流。
赤穂浪士の動きを描きつつ、接待役となった紗英と勘解由の、心の通い合いを綴る。
はだれ雪とは
まだらに降り積もっている雪。はらはらと降る雪。の事。
《はだれ雪あだにもあらで消えぬめり
世にふるごとやもの憂かるらん》
夫木和歌抄
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葉室麟さんの小説はこれが4冊目。今までのも良かったけれど、これは一番。
忠臣蔵を題材にしていて、大石内蔵助も登場する。
浅野内匠頭の「最期の言葉」を聴いた旗本永井勘解由は、それだけの理由で咎められ、扇野藩に流罪となる。そこで彼の接待役にとの命を受けた紗英。二人はやがて互いに想いを寄せ合うようになり、夫婦となる。でも、浅野家旧臣と通じていると思われ、勘解由に反感を抱く者達に苦境に立たされる。命を狙われていると察した勘解由は無断で扇野藩から江戸に行く。流罪人が無断でその地を離れることは咎められることを知っての覚悟の行動。それを支える紗英、浅野家旧臣や吉良家家臣の有り様がまた凜としていて美しい。中でも、常に勘解由達を守ろうとする佐治弥九郎の言動は心暖まる。
ラスト近くに登場する公弁法親王が吉保に語る場面もぐっときた。「法で裁けるのはひとの行いだけや。ひとの正しさも悪も法によって裁くことはできぬ。・・・政事をする者は思い上がらず、ひとの正しさ、悪に沿うて、導くことや。」
そんな人の想いが展開して美しいラストへと続く。お薦めの一冊。 -
赤穂浪士の討ち入りを題材にしての創作もの。
浅野内匠頭の切腹の折、密かに内匠頭と言葉を交わしたとして、流罪とされた永井勘解由が主人公。
天下の法が大切だとする柳沢吉保に対し、公弁法親王は政事をするものは思い上がらず、ひとの正しさ、悪に沿って導くことだと説く。法で裁くだけなら、政事はいらないとする。確かに、いまの政治家に聞かせたい。 -
主人公たる男女の生死についてはとても気になるのに、四十七士のみなさんは亡くなってしまうのが当たり前と思って読んでしまう、そこに至ることは分かっているので、それがどう物語に関わってくるかに気を配って読むことになる。
改めて考えると、同じ命なのにねと思ったりする。 -
おもしろかった。「青嵐の坂」につづき、主人公の男性が私好み。赤穂浪士の討入りにからめた話だったけれど、実在の人物なのかしら。それとも史実にからめた全くの創作なのかしら…。扇野藩シリーズ、他にもあるようなので読もう。
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葉室流『忠臣蔵』である。
しかも、主人公は女性で、メインとなるのは清冽な大人のラブストーリー。その背景に、おなじみの『忠臣蔵』の物語がからんでゆく。
吉良上野介に斬りつけた浅野内匠頭に、事件直後に近づき、襖越しにその「最期の言葉」を聞いたとされる旗本・永井勘解由(かげゆ)。役目を超えたその勝手な行いは将軍綱吉の怒りを買い、勘解由は流人として扇野藩(架空の藩)の屋敷に幽閉の身となる。
勘解由が誰にも明かさなかったという内匠頭の「最後の言葉」とは、どのようなものだったのか? なぜ、勘解由は危険を冒して内匠頭と言葉を交わそうとしたのか? そのミステリーがストーリーを牽引していく。
勘解由の接待役兼監視役を藩から命じられ、共に暮らすことになるのが、若く美しい後家・紗英(さえ)。身の回りの世話をし、その高潔な人格に触れるうち、しだいに勘解由に心惹かれていく。
だが、浅野家旧臣たちの間では少しずつ主君の仇討ちへの機運が高まり、内匠頭の「最期の言葉」を知ろうと勘解由に接近する者も出てくる。大石内蔵助、堀部安兵衛といったおなじみの面々も登場し、読者に強烈な印象を残す。
仇討ちがなされたなら、勘解由もそれを使嗾したとして、身に災いがふりかかることもあり得る。果たして、勘解由と紗英の恋の行く末は――?
……と、いうような話。「ううむ、その手があったか!」と唸らされる、斬新な切り口の『忠臣蔵』アナザーストーリーである。面白くて一気読み。とくに紗英のヒロイン像がすこぶる魅力的だ。 -
元禄14年3月、江戸城内松の廊下で赤穂藩主浅野内匠頭が高家筆頭吉良上野介へ刃傷に及んだ。
「赤穂事件」。この事件を記録した史料は多いにもかかわらず、その原因は未だに謎のままである。
そんな永遠の謎と普遍の義が、300年にわたってこの物語を生かし続けてきたのではないだろうか。
本書は史実としての赤穂事件と実在の人物たちのはざまに、創作上の人物と架空の国を織り交ぜて夫婦愛の観点から描く異色の「忠臣蔵」。
舞台となる架空の国、扇野藩は著者の既刊『さわらびの譜』『散り椿』などの舞台ともなっている。
元禄14年11月、雪が舞い、水も氷る季節に扇野に流れつく主人公・永井勘解由と、彼を幽閉先の牢番として迎え入れる紗英。
凍える季節に始まるふたりの冷えびえとした縁が、和歌や筝曲を通して次第に温かく心通うものに変化していく描写が素晴らしい。
彼らの関係に大きく影を落とす赤穂事件と、旧赤穂藩士たちによる、吉良襲撃計画の存在。
大石内蔵助たちがその宿願を果たしたとき、勘解由たちにはどのような運命が待っているのだろうか。
それにしても人びとの生きざまはまるで雪のよう。潔く消えてゆくか、泥にまみれて春を待つか。
勘解由も堀部安兵衛も、そして浅野内匠頭ももちろんイイ男だ。なかでも内蔵助には惚れてしまう。しかしイイ男とは去っていくものなのだ。溜息。
KADOKAWAさんの文芸情報サイト『カドブン(https://kadobun.jp/)』にて、書評を書かせていただきました。
https://kadobun.jp/reviews/439/6d98b982