エムブリヲ奇譚 (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041037164

作品紹介・あらすじ

旅本作家・和泉蝋庵の荷物持ちである耳彦は、ある日不思議な”青白いもの”を拾う。それは人間の胎児であるエムブリヲと呼ばれるもので…。迷った道の先、辿りつくのは極楽の温泉かはたまたこの世の地獄かー

感想・レビュー・書評

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  • ああ、いいなぁ、これ。

    まるで期待せずに読んだ。
    この人の作品はハマるときはハマる。
    中には「はぁ?」と首をひねりたくなる著書もあるのだが、今作はすべて良い。
    短編集というものは、気に入ったものが1つか2つあればいいかとおもっていたが、9作品のすべてが好きだ。
    これは自分的には結構珍しい。
     
    時代はいつ頃だろう?
    ざっくりと、江戸と明治のあいだくらいかな。
    今で言うところの、旅行ガイドブックを書くのを生業としている和泉螂庵と荷物持ちの耳彦が各地をまわり、奇妙な体験をする物語。

    まるであの「乙一さん」のような余韻の良さ。
    奇妙で、悲しくて、怖くて、せつない。
     
    ちなみに表題にあるエムブリヲとは、人間の胎児の、まだ赤ん坊の姿に成長する前の状態らしい。
     
    続編も出ているそうなので、ぜひ手に入れようと思う。

    • megmilk999さん
      土瓶さんの5星を見つけました!
      読んでみます。期待大です!
      土瓶さんの5星を見つけました!
      読んでみます。期待大です!
      2024/02/04
    • 土瓶さん
      なんか……、責任重大。
      あんまりハードル上げないで、さらっと読んでください。
      なんか……、責任重大。
      あんまりハードル上げないで、さらっと読んでください。
      2024/02/04
  • フォローしている方々が次々に読んでいて、じわじわ読みたくなってきていた乙一さん(山白朝子という筆名もあるんですね!)をついに読む。
    結果、とっても好みだった!奇妙さと切なさが絶妙なバランス。

    『湯煙事変』『顔無し峠』『「さあ、行こう」と少年が言った』の少し温かみのある切なさが、特に好きだった。
    グロ多めの『〆』『地獄』も、怖いもの見たさで読み返したくなる。

    • ロッキーさん
      aoiさん

      コメントありがとうございます!!
      乙一さん、遠ーーい昔に『ZOO』読んで以来で、すっごく久しぶりでした。
      山白朝子さん名義、と...
      aoiさん

      コメントありがとうございます!!
      乙一さん、遠ーーい昔に『ZOO』読んで以来で、すっごく久しぶりでした。
      山白朝子さん名義、とても良きですね!

      「切なさの漂う心地よいホラー」まさにでした!
      次何読もうかなーという感じですが、『私のサイクロプス』はぜひ読みたいです\( ˆoˆ )/
      aoiさんが読まれた、装丁ステキバージョンの本書も気になります!
      2023/04/15
    • ロッキーさん
      1Q84O1さん
      コメントありがとうございますー!

      もちろん1Q84O1さんの感想も読ませていただき、面白そうすぎてこの本を手に取りました...
      1Q84O1さん
      コメントありがとうございますー!

      もちろん1Q84O1さんの感想も読ませていただき、面白そうすぎてこの本を手に取りました!
      『〆』『地獄』グロいんですけど、めちゃくちゃ心に残りました…小豆ちゃん…!!

      続編もぜひ読んでみたいです!
      輪ちゃんがまた出てくるということで楽しみです。
      2023/04/15
    • 1Q84O1さん
      ロッキーさん
      私の推し小豆ちゃんがぁ~(TдT)
      耳彦!
      許さないぞ!ですw
      続編は輪ちゃんがメインキャラに昇格ですよ!
      楽しみに読んでみて...
      ロッキーさん
      私の推し小豆ちゃんがぁ~(TдT)
      耳彦!
      許さないぞ!ですw
      続編は輪ちゃんがメインキャラに昇格ですよ!
      楽しみに読んでみてくださいね(≧∇≦)
      2023/04/15
  • 耳彦の話が多かったですね。
    やはり上手い、怪談はかくあるべしというお手本のような作品です。褒めてますからね。最近のホラーは当たりが悪くて(T ^ T)

  • 舞台は江戸時代、ちょっとほっこりするファンタジーホラー

  • 迷い癖のある旅本作家・和泉蠟庵と、荷物持ちとして彼の迷子に付き合わされる耳彦の奇譚集。
    面白かったです。好きな世界観でした。
    蠟庵先生は迷った先で名所や温泉に出くわすので道がわからず旅本に書けないし、耳彦は博打好きで借金をこさえがち。懲りないな。。
    だいたい耳彦が命の危機寸前までいくけど、間一髪で蠟庵先生がきたりする。最終話もそうだけれど、見える範囲にいるのに迷子になる先生がこういうときはちゃんと辿り着くのでなんかあるのかなぁ。

    お話はとくに、表題作と「あるはずのない橋」「「さあ、行こう」と少年が言った」が好きでした。
    エムブリヲの健気さがかわいい。
    「〆」は凄かった……小豆との顛末も、村で出てくる食べものに全て人の顔みたいなのが付いてるというのも強烈でした。

    山白朝子さんが一番好みだと再認識しました。単行本で読んだのですが、山本タカトさんの装画も素敵です。
    温泉に行きたくなる。異界はそこかしこに口を開けてて、迷い込む人を待ってるんだろうな…とか、思ってしまいます。

  • 奇譚集。予想通り変な話ばかりだが、読み進めていくと、味わい深い。

  • 主人公の和泉蠟庵の設定が、方向音痴、わりと空気読(ま)めない、体力は鬼、しかしながら小柄、最終的に禿を気にし始めた時点でもう脳内配役が確定いたしました(……。)
    そして長髪などという全くありがたい設定です。
    大変けしからん。

    耳彦は山田孝之さんが似合いそう。
    濱田岳も合いそうだけれど蠟庵とバランス取れなさそう。

    とはいっても実写じゃなくアニメ向きの話ではある。
    ライトといえばライトか。

    「ラピスラズリ幻想」の構成が好き。
    しかし、繰り返すことはどちらかというと呪いに近いものも感じる。
    それが故の結末なのだろうと思う。
    何かを満たせば何かが満たされない。苦しい。

    「〆」はなんとも言えず後味が悪い。
    弱肉強食というか、諸行無常というか。
    このあとの櫛〜じゃないけど羅生門的な切なさがある。
    その世界で普通(と思われる)ことと、自分の中での普通とがブレたときに人はどう行動するのか。

    「地獄」は全く違った意味で無力。
    人も鬼もあまり変わらないのかもしれない。
    「〆」の中でかたくなに守り何かを喪ったというのに、その信念は「地獄」の中ではいとも簡単に崩れさる。
    しかし描写がなかなかである。
    怖いというよりは気持ち悪いの方が近い。

    「櫛を拾ってはならぬ」が一番いい感じにゾワゾワした。
    怪談とはこういう物だ!というワクワク感もあり。
    長い髪の毛はなんでかわからないけど怖いものの一つ。
    髪の毛は抜けた途端に唯の髪の毛になってしまって、怖く感じる。

    「「さぁ、行こう」と少年が言った」
    これも設定がいい。「ラピスラズリ幻想」に通じる何か。
    希望と切なさが交じる。
    和泉蠟庵のまだわからない部分がわかる話の一つでもある。蠟庵少年がいい。

    他にも何編かあるけれど、特にこれらが好きだった。
    続編も読みたいけど文庫化はまだ先の様なので気長に待ちたい。

  • シリーズ第2作『私のサイクロプス』を先に読んでしまったので、本作(第1作)に遡って読んだ。基本的には耳彦と和泉蠟庵の道中記で、第2作のメインメンバーである輪が一話のみ登場する。

    人情味、ユーモア、ホラーのバランスが素晴らしい。
    弱者に対して、ほのかな、あたたかい情愛が積み重なっていく過程を描くのがうまいと思う。
    耳彦と和泉蠟庵の掛け合いも息がぴったりで、クスッと笑える。
    人の交わりの温もりを描く一方で、肉親を犠牲にしてでも生き伸びようとする人の本能も炙り出す。美しさと醜さが同居して、双方を引き立てている。
    「正しい文章」というのとは少し異なり、時々ねじれを感じるが、繊細な感情を汲み取って、はっとするような表現を生み出している。

    <好きな話>
    輪が主役の「ラピスラズリ幻想」が白眉で、あまりに切ない彼女の決心に号泣してしまった。
    「「さあ、行こう」と少年が言った」では、少年時代の和泉蠟庵が登場する。家族に虐待される女を救う蠟庵少年は、まさに天使か救世主のよう。黄金に輝くススキの野の風景が、いつまでも頭から離れない。第2作ではいまいち影が薄い彼だが、この一篇を読んで大好きになってしまった。

    <苦手な話>
    「地獄」は、縦穴の閉塞感や腐臭があまりにもリアルで、夢に出そうで怖かった。結末がまさにタイトルどおりで、再読はしたくない。
    「〆」は好きな話だが、家も食材もあらゆるものが人間の顔に見える地獄は、想像しただけで気が狂いそうだ。

    本作が素晴らしかった分、第2作があれ程つまらなく感じたのが不思議だ。かと言って、もう一度第2作を読もうとも思わない。第3作の刊行に期待したい。

  • 再読。某作家さんの別名義での短編集。

    旅本作家の和泉蠟庵(※漢字変換が手間なので平仮名表記)と、荷物持ちとして旅に同行する耳彦。蠟庵の神がかり的な方向音痴が原因で、2人は奇妙な村や出来事に遭遇する…。津原泰水先生の幽明志怪シリーズが好きな人には特におすすめ。

    「エムブリヲ奇譚」
    いつもの如く奇妙な村へとたどり着いた蠟庵と耳彦。耳彦は村近くの川沿いで、搔爬された「エムブリヲ」を拾う。母親の腹から離れてなお生き延びるエムブリヲの世話をして愛情が湧いたかに見えたが…。エムブリヲの愛らしさと同時に、耳彦のどうしようもなさが目立つ。愛情を抱かせ零落させる存在かとも思ったが、作中の様子とラストの展開・後々明かされる過去故に耳彦がダメ男である

    「ラピスラズリ幻想」
    蠟庵と耳彦の旅に同行する事になった少女・輪。輪は旅の道中で立ち寄った村で、重い病に倒れた子供を救う為に父の形見の秘薬を人助けに使い命を助ける。子供の曾祖母から謝礼としてラピスラズリを貰う。月日は経ち輪は結婚・母となるも火事で命を落とした…筈が何故か死に別れた母の胎内に居た。所謂ループもの。最初の人生で経験した父の死を回避すると、前回の人生は歩めず、そして産まれた直後に死に別れた母も助からない。人生を何度も繰り返し知識を増やした輪が下した決断は切ない

    「湯煙事変」
    温泉が有名な村へと来た2人。夜の間に温泉に入ると戻って来れなくなる、と宿の主人から忠告されるも蠟庵に命令され夜の温泉に浸かる耳彦。温泉の湯煙の向こうには懐かしい人影が…。湯煙の見せる幻から昇りたつ耳彦の幼少の記憶。行方不明になった幼馴染の真相を知った耳彦は故郷へ戻り、小さいままの「彼女」と再会する…

    「〆」
    山の中を歩き、登り続けていた筈が何故か海辺の町に辿り着いた蠟庵と耳彦。村の人々は親切だが、そこで採れる魚はじめ食べ物はどれも人の顔に見えて耳彦は食べる事が出来ない。風邪を引いて熱を出しても食事を受け付けず弱っていく耳彦の傍には、旅の道中で出会い名付けて愛着すらあった鶏の小豆が居た…。
    とある昔の番組で、某草原の国にホームステイした芸能人が捌かれる羊を見て涙するのを不思議がった現地の人々が、日本に呼ばれて捌かれる魚を見て「なんと残酷な!」と言った(らしい)話を思い出す。しかし、実際人の顔に見える食膳が続いたとなると耳彦を軽蔑出来ないのだよな…耳彦自身も悔いているし

    「あるはずのない橋」
    夜にしか現れない巨大な幽霊橋を目撃した2人。耳彦はとある老婆から、かつて存在したが崩落した橋の事故に巻き込まれて死んだ息子に会いたいという依頼を受けおぶって行く事に。謝礼に目が眩み…いや、母子の感動の再会を見届けようとした耳彦。そして母子は再会を果たすが…。
    生命のかかる瞬間、人間とは浅ましくなる物である

    「顔無し峠」
    あいも変わらす道に迷う2人。山中で見かけた男に助けを求めるも、近寄ってきた男は耳彦を見て別人の名を呼び腰を抜かす。どうやら耳彦と瓜二つの男が居たが事故で亡くなったらしく…。
    容姿も性格も記憶もほぼ同じ男の存在を知る耳彦。唯一違う、耳彦(≒喪吉)の家族と共に過ごすうちにそのまま残るか心は揺れ…。耳彦のダメさが際立つが、それ以上に切ない。やゑと鼻太郎の未来にに幸多からんことを

    「地獄」
    旅の途中で山賊一家に襲われた2人。耳彦は殴られ気を失って後、目覚めるとそこは足場もなく登れない深い穴の中だった…。人骨が溢れ蛆の湧く地獄のような穴の中、同じく山賊に捕らえられた若夫婦と脱出計画を図る耳彦だったが…。
    こちらも人間の浅ましさが全面に出た作品。初読の時、ラストに居たのは娘だったような気がしていてたが別の作品と混同していたらしい。あの娘だったならば地獄は更に深く濃いものだったろう

    「櫛を拾ってはならぬ」
    旅本作家の「友人」から聞いた話、という形で物語は進む。おお、雇い主ではなく友人となったか…と感慨深い心持ちに。
    その友人はいつもの荷物持ちが休んでいるので、別の助手を募集し旅へ出る事に。怪談が好きだという新たな助手は道中で百物語をする事を提案。最初は良好だった2人の関係だが、ある時を境に助手は旅本作家の長髪を指し「あんたの抜け毛がどこにいても絡みついてくる」と激怒。しかしその髪は旅本作家のものでは無く、偶然拾った櫛に絡みついたものだった…?と、思いきやまさかの事実が判明。人の執念はてにおそろしきものである

    「「さあ、行こう」と少年が言った」
    地主である夫に見染められ結婚するも、夫からも義家族からも元は小作人の娘である事を理由に虐待されている「私」。義家族の世話に追われる中、蔵の中で「私」は不思議な少年と出会い読み書きを教わる事に。迷い癖が酷く、普通は入れないはずの場所から現れては消える少年との交流と読み書きを学ぶ時間を楽しんでいたが、ある時義家族に知られてしまい…。
    蠟庵の過去、迷い癖のルーツを知る事が出来るラスト。文字を書き伝える事、文章を読み知る事。現代では当たり前だけれど、そのなんと素晴らしい事か。前半は義家族があんまりに酷くてムカムカするが、ラストの余韻の残る終わり方がとても良い

    幻想・ホラーではあるが全体的に人間の感情に重きが置かれている辺り、やはり黒〇〇先生の作品、そして切なさの強く響く部分は白〇〇先生だな…と感じる

  • 絶妙な非日常感。
    奇妙で不気味な話ばかりだけど、合間に入る耳彦と和泉蠟庵の歯切れのよい会話でクスッと笑えて好きでした。

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著者プロフィール

怪談専門誌『幽』で鮮烈デビュー。著著に『死者のための音楽』『エムブリヲ奇譚』がある。趣味はたき火。

「2023年 『小説家と夜の境界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

山白朝子の作品

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