- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041037218
作品紹介・あらすじ
日本の自然主義の先駆けと称された表題作をはじめ、初期の名作を収録した独歩の第一短編集。人気アニメ「文豪ストレイドッグス」とコラボレーションした特別カバーの新装版。(解説:中島京子氏)
感想・レビュー・書評
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たまたま国木田独歩の短編を二つくらい読んだら素晴らしかったので図書館へ行ってみたら、この表紙のが置いてありました(^o^; 真面目な書生ってイメージなのかな。
旧仮名遣いで読みづらいところもありましたが、自然そのままを捉えて、人間って、生きるって哀しみを背負ってるなと思うものも。
切ないなかにも優しさのある『鹿狩り』『初恋』『忘れえぬ人々』はとてもとても良かった。
【武蔵野】
「武蔵野の面影は今わずかに入間郡に残れり」と江戸時代の書物に書いてある。昔の武蔵野も良かったけど、今の武蔵野も良いんだよ。
独歩は明治29年の初秋から初春にかけて渋谷村の小さな小屋で暮らしていた。そこで、そのときの日記をもとに武蔵野を語り直してみよう。
この武蔵野というのがかなり広いと言うか、東京の立川、雑司が谷、小手指、埼玉の入間、川崎の丸子とか。
独歩センセイの散策する武蔵野は、林と野原が入り乱れ、小高い丘に水田や畑があり、小道はどこに続いているのか歩いてみて、人々は自然とともに生きているんだよ。
そんな武蔵野の風景を、外国の小説に出てくる自然描写とか、絵画とかを混ぜて語ります。
【郊外】
小学校教員の時田先生が赴任した東京郊外の村の日常。下宿の娘梅ちゃんはかつての教え子だったけれど学校を中退して家のことをやっている。この頃学校の卒業は絶対ではなかったみたい。近くの水車小屋の青年幸吉はかつての教え子。
他にも、時田の友達の画家江藤、八百屋のご主人と娘のお菊、老人の磯さんたちがいる。
鉄道が通っている、夜は真っ暗な郊外の村。
郊外の人々のことを特にとりとめもなく書かれている感じ。
【わかれ】
田宮峰二郎には恋人の治子がいたが、結婚に反対されて二人は別れることに。最後の逢引をして峰二郎は遠く旅立つことを決めていた。
恋を思い、人の世を思い、砂漠を思い、オアシスを思い、深い悲しみを思い。
【置土産】
餅屋には看板娘のお絹とお菊がいた。常連の中に吉次という若者がいた。吉次は思い切って遠方に出立すると決めていたのだが、餅屋にだけは挨拶するつもりだった。
だが他の客たちから「吉さん、嫁をもらえよ。お絹さんかお菊さんはどうだい」なんてからかわれて言い出せなかった。二人へ贈るはずだった簪を懐に入れたまま。吉次は神社に置いてゆく。二人が朝きてこの置き土産に気がつけば良いと思いながら。
【源叔父】
渡守の源叔父は、妻を喪い、息子を喪い、性も根も尽き果てたような日々を過ごしている。村には紀州と呼ばれる浮浪児が住み着いていた。源叔父は宿無しの紀州を連れて帰り、親子として新たに生きようとする。だが紀州は浮浪児暮らしが骨に染みつき人を信じない。
自分が失ったものは決して戻せないと思い知った源叔父は…。
…切ない(;_;)
【星】
田舎に詩人がいた。空には年若き男星女星があった。二つの星は愛し合い遠い距離も隔てられなかった。詩人の庭の焚き火に二つの星が降りてくる。ある夜二つの星は詩人の家に入る。朝になり詩人は昨日の夢を思い出す。
【たき火】
浜辺で戯れにたき火をする子供たち。去ったあとに通りかかった老旅人はありがたくその残り火に手を出してつかの間の温かさを噛みしめる。
【おとずれ】
宮本二郎は恋人千葉富子に負(そむ)かれて、南洋航行に出ることにした。
そんな傷心の宮本二郎の友人が、千葉富子に宮本二郎のことを送った手紙。
印象的なエピソードとして、出発直前のある夜倶楽部で集まっていた時の割と大きな地震。他の人達は逃げたが、宮本二郎と、妻に裏切られ片目を失った十蔵という男は屋内に残っていた。地震が治まり崩れる屋内に人々が入って行と、十蔵と宮本二郎は生きていたがその時の目つきの凄まじさ。
【詩想】
雲、雪道の旅人、山の草木を見て想った気持ちを詠んだ散文詩のようなもの。
【忘れえぬ人々】
ただ見かけただけ、言葉を交わしてもいないのにどうしても忘れられない、何十年経っても何度も思い出す人がいる。そんな人々の姿は、どれほど自分の生きる糧になったことだろう。
…これはよいなあ。自分には直接関係のない人や光景を心に留めて、生きるために大事なものになっている。
【まぼろし】
『絶望』
文造は梅子から別れの手紙を読む。梅子は家の都合により東京に泣く泣く東京に旅立ったのだ。文造も泣いた。
『かれ』
このくらいで酔っ払うかい!という酔っ払いを東京の夜道で見かけた語り手。あ、覚えのある相手だ。彼は以前自分の村にいた。明治維新のために働いた。しかし時代に取り残された。東京に出ていたようだが彼のような人間に居場所はないのだった。
【鹿狩り】
少年の時分、今井の叔父に大人たちの鹿狩りに連れて行ってもらった。初めて山や湖を渡り、鉄砲を撃ち、吊られた鹿を見る。そして僕をかわいがってくれた叔父さんの哀しい思いも知ってしまう。
僕はその後今井の叔父さんの養子になりました。そんな優しく豪胆な今井の叔父さんが亡くなってずいぶん立つので思い出して語ります。
…少年とおじさんの年を超えた交流、少年が少し大人になった経験。少年の語る叔父さんは声が大きくて愉快。しかし哀しみを秘めていた。それを分かる友人たちは僕。
良い話。
【河霧】
豊吉は前途洋々都会に出ていった。村のじいさんは「すぐに帰ってきて、やがて死ぬわい」なんて予言をした。
豊吉が故郷に帰ったのは20年後。懐かしい村、変わったこと変わらないこと。ここが故郷で死ぬ場所なんだ。兄の世話で寺子屋を開くことになった。さあ、その時はもう墓に入っていたじいさんの予言は。
【小春】
詩人ヲーズヲルス(ワーズワースのこと)の詩集が出てきた。懐かしいなあ。これに親しんだのは7年前。
そんなことを考えていたら若い画家の小山が訪ねてきた。同じ風景を見て、画家の捉え方と、詩人の捉え方は違うのかなあ。
「人の一生を四季に例えたら、小春はどのくらいの年齢でしょう?」「君は春で、僕が小春だろう」いやいや、僕たち二人こそが「画題」なんじゃないのかな。
【遺言】
海軍中尉が戦争の思い出を語る。
水兵たちに手紙が届いた。余興として、他の人宛の手紙を読み合うことにした。その中の一通、水野は自分宛ての母からの手紙を隠すが、見つかってしまい読み上げることになる。
それは水野の母からの手紙だった。「父は士族反乱という間違った道を進んでしまったので、その名誉回復としてあなたは立派に命を捧げなさい。これが母の遺言です」
水兵たちは涙を流して「万歳」を叫び合うのだった。
…母は本心で子供の戦死を願ったりしていないだろう。しかしそのように書くしかなかった。明治維新、戦争と、社会として不名誉と決められてそれを払拭するには死ぬ選択しかないことがある。…と私は思った。
【初孫】
おじいさんによる「孫のお祝いありがとう。自分の妻と息子とその嫁はね…」という御礼状。
【初恋】
悪ガキだった自分の村には大沢という老人がいた。頑固な大沢に漢文や論語での論議をふっかけてみたら、なんだか老人には気に入らたみたいだし、自分も老人の気風の良さが気に入った。その後は大沢老人の家に通って漢文をみせてもらった。大沢老人には孫の愛子ちゃんがいて、二人で夕日を見たりしたもんだ。
…なんとも良い終わり方!
(実は「お婿さんになったの!?」と一瞬思ってしまいました…^_^;)
【糸くず】
モーパッサンの短編を翻訳したもの。
けちん坊のアウシュコルンは道に落ちた糸くずさえ「なにかの役に立つかも」と拾っておいた。しかしその姿は泥棒を疑われてしまった。弁明したって「この糸くずを拾った」では笑われる。
うーん、けちん坊も程々に(^o^;詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
文豪の名前の由来はなかなか面白ものだけど、国木田独歩って名前の内容でした。
自然を愛し、書見も愛し、何よりも独歩の日記を垣間見る感じで、日記を手書きで書いている私としてはとても繊細な文章をお書きになられるなあと思いました。
読みづらい文章もありましたが、
源叔父
忘れへぬ人々
武蔵野
が好きです。 -
【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
https://opc.kinjo-u.ac.jp/ -
自分は武蔵野の美と言った、美といわんよりむしろ詩趣といいたい、そのほうが適切と思われる。
堅い文章が国木田独歩らしい