結婚 (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041038086

作品紹介・あらすじ

結婚願望を捨てきれない女、現状に満足しない女に巧みに入り込む結婚詐欺師・古海。だが、彼の心にも埋められない闇があった……父・井上光晴の同名小説にオマージュを捧げる長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 最近、選んでいる作品の流れからして明らかに「結婚とは幸せなのか」ということに苛まれている。そしてこの作品は結婚詐欺の話であって、このタイミングで手に取ったということは「結婚てさ、みんな幸せだと思っているけどこういう危ない目にも遭ったりするんだぜ!」と、世界の既婚者に訴えかけて、自分が未婚であることを正当化したいだけなのかもしれない。自分の根深さというか闇深さというか、それにほとほとうんざりする。

    井上荒野さんが、作家であった父・井上光晴さんの同名小説にむけたオマージュ作品だという。光晴さんの「結婚」は未読。井上荒野さんの作品は、直木賞を受賞した「切羽へ」以来。mixiレビューをふり返って当時の感想を読んでみた。今は申し訳ないことに、「切羽へ」の内容は全く覚えていなくて、ただ、好きだった箇所についてはしっかりと覚えている。それは「その日帰るときまで帽子に触れることはなかったが、帽子がそこにあることは、ずっと心の中にあった」という部分だ。当時のわたしはそれを「しぐさと存在によって、夫とは別の男性をしずかに愛する気持ちを表現している」と感じたらしい。
    そして山田詠美さんの解説を読んだ際、「切羽へ」という作品に対して「書かないことの大切さ」を感じ取ったらしい。「書くことでうさん臭くなりがちな感情の描写がより繊細で美しく感じたのは初めてのことでした」と書いてある。

    ほおお、なるほど。
    この作品でも「書かないことによる切実さ」が感じられて、それはそこここにちりばめられている。

    女性の名前/職業/場所
    のタイトルで、10の目線(重複あり)で描かれる一人の男、古海健児。結婚詐欺師。
    なので全部騙された女性側の目線ですすんでいくのかなと、少し気持ちがだれてきた頃、古海本人や彼の相棒、さらには妻の目線からも描かれたりする。物語が進むにつれ、どんどん彼に近づいていく。だからだろうか。だんだんと熱っぽくなる感覚がある。微熱のまま物語がすすんで、終結する感じ。一つ前の章で終わっていれば、あるいは最後の章が妻ではなかったら、物語はおそらく高熱となりえただろう。しかし、最後に妻の章が置かれたことにより、物語は微熱のまま終わるのだ。そして、最後に明らかに発生したと思われる事件については、具体的に描かれることはない。

    たぶん、今のわたしは。言葉にしたいのだ。言葉にしてほしいのだ。言葉にしないことで美しくなることもあるけれど、言葉にしたからこそうさん臭くなってしまうこともあるけれど、それでもやはり、言葉にしたいのだ。だからこそ、各章の短さに物足りなさを感じてもっと続きを語ってほしいと思ったし、全体的に分かったような分からんような感覚が、鈍く残ってしまっている。

    解説は西加奈子さん。西さんは結婚詐欺にひっかかる女を最初他人事としてとらえ「結婚詐欺師」「結婚詐欺にだまされる人」とカギカッコでくくっていたらしい。けれど、「古海の人間らしさに触れた時、そんなカギカッコから大きくはみ出す瞬間がある」と書かれている。
    わたしは最後まで、ここに出てくる女性たちに感情移入できなかった。古海に対しても不信感丸出しで、最後まで彼は詐欺師だった。わたしが彼に恋をする瞬間は一度もなかった。それはただ、古海が詐欺師であるという偏見が抜けなかっただけなのか、心と金をむしり取られるほど熱烈に誰かを愛するという気持ちに白けてしまっているだけなのか。自分でもどちらなのか分からない。

  • 題材は結婚詐欺だけれど、井上さんらしい苦さのある作品です。騙している方があぶく銭を稼いで楽しくやっていて、騙された被害者だけが悲しいとかそういう単純な話ではないです。
    登場人物全員が決して幸せには見えない、つまりは生きるとはこういう事だと感じる。
    結婚詐欺師である古海の章や相棒の千石るり子の章で作品に深みがわく。
    本当はどうしたいのかわからないままに流されてしまうのが人間なのかもしれない。

  • とても面白くて、多忙な中ちょこちょこと読めた。
    映画化もされたようで興味があるのだが、あまり配信されていないようなので、観られる日が来るだろうか。

    先日読んだ『あの映画みた?』で井上荒野さんを知り、考え方や、対談の中の一言一言に、「頭の良い方なんだろうなあ」と感じて興味を持ったのが本書を手に取ったきっかけ。サクッと要点をまとめていて、鋭さを感じた。

    本書は父である井上光晴さんの『結婚』のオマージュだと知り、オマージュ元を読むことはないと思うが、読んでいたら本書を何倍も楽しめるのではないかと過ぎる。

    以下、感想(多少のネタバレ有)

    結婚詐欺師・古海に対しては妻を下に見ている点にイラッとする。苦笑
    妻は美味しいものを知らず作れなかったから、良いお店に連れ回し舌を肥えさせ料理の腕を上げさせた、というような描写があった気がしたが、自身は祖父がきんつばを作ってくれたことが大切な思い出であり、好物であり、初音に作らせようとしたとき、すぐに出来上がらないことを分かっていないのは…?疲れているシーンだからか、錯乱を描いていたのか…?本を読むのに日があいてしまったため、こちらの理解が及んでいなかったり、勘違いかもしれない。

    共謀する千石るりに対しては「女」感がダダ漏れで、被害者女性や元夫に電話番号や住所を特定されたり、虚栄を見破られていても本人は知らずに見栄を張り続けていたりと詰めも甘く、感情的な言動が多くて愚かな感じがとてもよく描かれている。
    身近にこういう女が居たら迷惑だし関わりたくないし大嫌いだが、自分が恋愛において全く愚かな言動がないかと言われれば、私にだって多少なりとも千石るりの要素があり、少しは彼女に良い親近感も持ちたくなるのだが、それは、毎朝、新聞の投書欄を読むこととその内容への独特な解釈をする点(ユニークでオリジナリティがある)かもしれない。
    しかしその解釈も自分の都合の良い方へと考えているだけかもしれないし、相手を小馬鹿にしている様子も否めない。人のことを素直に「羨ましい」だとか「憧れる」とか思えず、常に僻んでいるような女だ。殊更、元夫や古海に対してはあざとくもなんともない滑稽な駆け引きをして、ことごとく見透かされているのだから、読んでいるこちらが恥ずかしくなる!

    しかし、本当に一番怖い登場人物は妻の初音だと感じた。結婚詐欺師の妻の座を得ただけあって、最も強かな女であるし、妊娠したと平気で嘯くし(その嘘を成り立たせるための嘘も平気でついて辻褄を合わせる訳だが、よく考えると普通の感覚を持ち合わせていないのだろうか)、夫相手には愛らしく振る舞い、夫との関係を匂わせてくる電話の女には、心の中で「豚」と名付けて、徹底的に無視をする(一度だけ反応してしまったことを本人も悔やんでいたが)。電話が掛かってくることも夫に相談しない。生い立ちも苦労したようだし、逞しい。

    西加奈子さんの解説も良かった。

    今回はテーマや構成が面白かったのか、次が気になって気になってスピード感を持って読めたので、割と好きな作家なのかもしれない。(解説者がサスペンスと言っていたが、普段サスペンスは読まないからこそのスピード感か?)
    直木賞受賞作家なので、その作品も読んでみたい。

    しかし、面白い本というのは夢中になれるので良いものだ。
    平行して読んでいる本が全く面白くなくて(苦笑)雑念ばかり浮かび、何度も同じ行を読み直したりして、集中できていない自分がいるので、尚のこと面白く感じた。

    好きな描写等の引用は後日編集作業を行いたい。

  • 結婚詐欺している男全員には言えないけれど、
    この男はこの男で消耗しているのかな、と感じた。
    あとは、若さを失った女の人たちの孤独。
    現状を今以上のものに変えたいと思っていて、なんなら誰かに変えて欲しいと思っていて、その脆さ。

  •  タイトルはシンプルに「結婚」。結婚詐欺師の男、騙される女たち、その近辺にいる男女たちが順に語り手となって話が進む。
     私も昔はこんな男に騙されるわけがないと思っていた。でも今は、いいや気づかぬうちに騙されてしまうことがある、と分かるようになってしまった。スマートで母性本能をくすぐるのが上手で何せ女を喜ばせるのが上手い男の、ちょっとした人間臭さや至らなさ。そうしたところが彼の計算外のタイミングでふと漏れる瞬間。その瞬間に、それまでいくらかあった半信半疑な気持ちに目を瞑ってしまうようになるんだよなぁ。あと、自分が騙されたという事実を認めること、それを他人に知られることで自尊心が傷つけられるのが怖い気持ちが、もはや必死に彼へとのめり込ませるのだと思う。
     説明しすぎない描写により想像力を掻き立てられるがゆえにそっと背筋が寒くなるところもあり、余韻の残る作品だった。

  • 詐欺師をめぐる人間模様。
    最後まで詐欺師に騙された女性が出てくるのかと思ってたら、そんなことはなく、途中で詐欺師のパートナーが出てきたりして、少し話の流れが変わっていきます。
    ただ、それほどドラマチックになるわけでもなく、粘着性が高いわけでもなく、普通な感じで普通に終わりました。もう少し何か引き込まれるものが欲しいかも。

  • 結婚詐欺師の話。

  • 説明しすぎない描写や感情に沿って、スルスルと読んでいくと、「あれ?」ってところに持っていかれる井上荒野さんのいつもの感じ。登場人物が少し多めながら、次第に絡み合って、最後には「そうだったのか・・・。」という展開。井上荒野さんの作品に中毒性を感じる。一人の登場人物を描くにしても、相手や状況が変わると、弱さが出たり、強さが出たり。理性のコントロールが利かなくなったり、妙に自制が効きすぎたり。そんな面白さが丁寧に描かれている。

  • 詐欺師の話だけど、すごく寂しい詐欺師だと思うんだ。

  • ディーンフジオカ主演で映画公開中。観るかどうか迷って先に原作を。

    目次に並ぶ10名の女性の名前と職業と地名に、すべて結婚詐欺に遭った女性視点で描かれているのかと思えば、視点はさまざま。詐欺師本人やその片棒を担ぐ女性、詐欺師の妻まで登場します。

    被害者は揃いも揃って騙されたことを認めたくない。逃げられたと思えずに執拗に探したり、そうでない人はなかったことにしようとしたり。

    「男と不動産は似ている」。直感で最善の物件を選んだつもりでも、失敗するときには失敗する。いや、これって男に限らないでしょう(笑)。悪いのは女か男か。

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著者プロフィール

井上荒野
一九六一年東京生まれ。成蹊大学文学部卒。八九年「わたしのヌレエフ」で第一回フェミナ賞受賞。二〇〇四年『潤一』で第一一回島清恋愛文学賞、〇八年『切羽へ』で第一三九回直木賞、一一年『そこへ行くな』で第六回中央公論文芸賞、一六年『赤へ』で第二九回柴田錬三郎賞を受賞。その他の著書に『もう切るわ』『誰よりも美しい妻』『キャベツ炒めに捧ぐ』『結婚』『それを愛とまちがえるから』『悪い恋人』『ママがやった』『あちらにいる鬼』『よその島』など多数。

「2023年 『よその島』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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