- Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041038093
作品紹介・あらすじ
悪意は拡散する――。衝撃の結末が待ち受ける、『告白』以来の学校ミステリ!
この作品を書けたことで、小説家として次のステージに一歩進むことができました。
――湊かなえ
県下有数の公立進学校・橘第一高校の入試前日。新任教師・春山杏子は教室の黒板に「入試をぶっつぶす!」と書かれた貼り紙を見つける。迎えた入試当日。試験内容がネット掲示板に次々と実況中継されていく。遅れる学校側の対応、保護者からの糾弾、受験生たちの疑心。杏子たち教員が事件解明のため奔走するが……。誰が嘘をついているのか? 入試にかかわる全員が容疑者? 人間の本性をえぐり出した、湊ミステリの真骨頂!
感想・レビュー・書評
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県下有数の公立進学校・橘第一高校の入試前日。
試験会場となる五つの教室全ての黒板に
「入試をぶっつぶす!」と墨汁で殴り書きされた紙が貼られてあった。
初め、人物が多すぎて「これ誰?」とページを人物相関図まで戻ることしばしば。
騒動を起こした動機は、少し弱い感じがするが、先生達が、右往左往する様子は、面白かった。
「聖職」と言う言葉を思い出した。 -
『では、これから問題用紙と解答用紙を配ります。こちらが始めと言うまで、絶対に触らないように。印刷ミス等、質問のある人は黙って挙手をしてください』
『教室の時計の針が九時ちょうどを指してチャイムが鳴った』
『「始め!」水野先生の号令と同時に、受験生たちは一斉に問題用紙をめくり、鉛筆を手に取った』
このレビューを読んでくださっている方の中で入学試験を経験したことがないという方はいないと思います。長く辛かった受験勉強の成果が試されるその場。周囲にいる人間全員がライバルというその場。そして、その後の数十分が自身の人生を大きく変えるかもしれないその場。そんな受験生にとっての大舞台。入学試験。仕事にミスが許されないのはどんな仕事でも同じこと。でも、ミスは起こる。間違いは起こるという現実がある。それは入学試験という受験生にとっての大舞台でも同じこと。なぜなら、それを仕切るのは結局のところ人間だからというそもそも論。では、そんな舞台で万が一が起こったなら、想定しない事態が起こったなら。これは、そんな「高校入試」の舞台裏を湊かなえさんが描く物語です。
『県立橘第一高等学校、通称・一高は、地域の人から、県下有数の進学校と呼ばれている』という一高に勤める春山杏子。『小西先生がやってきて、初任研のレポートを渡された。教員採用試験に合格した初年度は、初任者研修を一年間受けなければならない』という杏子は何もかもが初めての教師一年目の忙しい日々を過ごします。『成績処理をもうやってんの?ホント、仕事が速いよね』とパソコンを覗き込むのは指導教官の小西先生。そんな時、職員会議招集のアナウンスが流れます。『入試本部は校長、教頭、入試部長の三名で構成される。今年の入試部長は荻野先生だ。今日はこれから入試会議がある』と改めて認識する杏子。『いよいよ入試の始まりだ』と緊張感が走ります。『会議室入り口で、荻野先生から「平成二五年度県立橘第一高等学校入学試験要項」と書かれた』マル秘のスタンプが押された冊子を受け取った杏子は、『最後列の端の席に座るみどり先生に手招きされ』隣に座ります。早速冊子を開き担当を確認する二人。『みどり先生は保護者待機室、私は試験会場2の担当だ。荷の重そうな役どころだ』という杏子は『試験監督なんて大丈夫かな。カンニングがあるかも』と心配しますが『ないない、見つかった瞬間、失格になるのに。人生一度の勝負にそんなヤバイことしないって』と軽く受け流すみどり先生。『それに、試験監督は各会場、三人一組だし、杏子先生はサブでしょ』と付け加えます。そんな中、教頭の話が始まりました。『本年度、わが校の東大合格者は一〇名。例年の二倍です。昨今の経済情勢により、有名私立高に流れる優秀な生徒が、公立高校に戻ってきている結果といえます…』という現状分析、そして『四年前、県下一斉、過去五年にわたる答案用紙の開示により、本校でも採点ミスが発覚し、ここにおられる先生方も数名、処分を受けるという事態が生じました』と入試の汚点とも言える採点ミスが本校でもあったことを淡々と説明する教頭に、『坂本先生、水野先生、宮下先生の背中がピクリと反応』しました。その後をバトンタッチで受けた校長は『本年度もまた、例年以上に外部の目が厳しく光っている』ので『各々の役割に責任を持って取り組んでいくよう』伝えます。『処分って?』と聞く杏子に『減給。月千円とか。軽い、軽い』と返すみどり先生。入試部長の荻野先生の話も終わり『何か質問は』との問いに、小西先生が手を挙げます。『どうして、松島先生が職員室待機なんて、事実上、何もナシみたいな役割になっているんですか?』、それに対して『息子さんが本校を受験するからです』と答える荻野先生。『松島先生が申し訳なさそうに、周囲に頭を下げ』ました。その後『他にないようでしたら、本日の会議は終了します』と終了したその会議を『案件が入試というだけで、いつもの職員会議と変わらない。緊張していた自分がバカみたいだ』と感じる杏子。しかし、それから一週間後に行われる入試では、そんな杏子も巻き込んだ大騒動が巻き起こります。
TVドラマの脚本をもとに小説として書き直されたという経緯を辿るこの作品。『ドラマを観ていた人も観ていなかった人も、また“別もの”として楽しめるものが作りたかった』という湊さんが描いたこの物語は23名もの人物が登場するてんやわんやの群像劇でした。私はこれを読んで、恩田陸さんの「ドミノ」を思い出しました。あちらは27名+1匹が織りなす痛快娯楽劇といった感じでしたが、湊さんのこの作品も23名の登場人物が、主として『いよいよ明日だね』という入試前日から当日夜中までの短い時間の中であれやこれやの大騒ぎをするというエンタメ的展開を見せます。そんな短い時間の中で23名もの人物の性格をはっきりさせて、読者に混乱が生じないように描き分けていくことは大変な技量が要求されると思います。さらに「ドミノ」と違って、この作品はどこまでいっても普通の高校が舞台、かつ取り上げているのが入試ですから「ドミノ」のようには奇想天外な人物を突如登場させるというわけにもいかず、その大半を高校教師とせざるを得ません。読む前に見た皆さんのレビューの中には、この描き分けが十分ではないという見方もあることを踏まえた上で読んだ私が抱いた感想は、勢いをつけて読む分にはそれぞれの人物の違いは十分よく描き分けられていた、というものでした。23名がいてもその重要性が等分されるわけではないので、一部、その他大勢的な人たちが出てしまうのはやむを得ませんし、実際そう感じる人物もいます。そういった人物の印象は確かに薄く、モヤモヤが残らないではありません。しかし、それはストーリーの理解自体には大した意味はありません。主要と思われる人物の性格分けはしっかりなされているので、途中で名前が混乱するようなこともありませんでした。しかも万が一困った場合には、冒頭に掲載されている関係図を見れば一目瞭然という考えられた作りもされています。いずれにしても、23名もの人物が全編に渡って活き活きと動き回るよく練られたストーリーだと思いました。
また、この作品では、入試当日の混乱ぶりがネット上の掲示板で生中継されるという衝撃的な展開を辿ります。『入試なんて、なくなっちゃえ!』『いや、合格するよ。親が議員だからな』『合否ってそんなことで決めていいの?』『人生かけて試験を受けても、採点するヤツらは、他人の人生かかってるなんてみじんも思っちゃいない。なんて、考えたことあるか?』とその場にいなければ分からない情報の書き込みや、入試に対しての問題提起とも取れる書き込みが次々となされていきます。これが、右往左往する教師たちを嘲笑うかのように全編に渡って物語本文に散りばめられています。リアルな現場だとしたらとんでもないことですが、これがあるのとないのでは作品から受ける印象も大きく違ってきたはずで、ひとつのエンタメ小説としてみた場合にはとても上手い仕掛けだと思いました。
そんなエンタメ的性格が前面に押し出されるこの作品は、後半になって急にあらゆることが現実世界を向く種明かしの時間に突入します。この切り替えの落差にも驚きました。エンタメ的な演出により、掲示板に入力されたある五文字によって全てが現実世界を真面目に見据える深刻な場へと一気に転換します。この辺りはテレビを意識した演出の名残だと思いますが、こういった部分含めとてもエンタメを分かった作りがなされていると思いました。そして、結末へと向かう作品はそんな今までのエンタメを前面に押し出した印象を吹き飛ばす位に登場人物たちの心の内をシリアスに描いていきます。この結末を読んだ後の読後感は読書途中のドタバタ劇の印象からは全く予想できなかった展開であり、とても驚くとともに、後述しますが、議論を生むであろう読後感を読者それぞれに与えることになると思います。
一般論として、”通過点に過ぎない”という『高校入試』は、一方で『採点するのは人間なんだからさ、どんなに注意を払っても、複数の目を通しても、完璧ってことはないんだよ。それなのに、わずかなミスが他人の人生を左右してしまうことがある』という極めてデリケートなものでもあります。『彼らにとって高校入試とは何だったんだろう。人生に影響を与えるようなものなんだろうか』と試験を運営する側が思うこの感覚に対する答えは、かつてそれを受け、今このレビューを読んでくださっているあなたへの問いかけなのかもしれません。
文庫本で400ページを超えるページ数のこの作品。そのエンタメ的性格と、湊さんの読みやすさ重視の文体もあって、23名もの登場人物がいるにも関わらず、ぐんぐん読み進めることができました。しかし、そのあまりにも軽量、軽薄な入試の舞台裏の描写に、入試を運営する側にいらっしゃるみなさんには言いたいことが二言三言では済まないのではないかと思います。そしてまた、受験生の側にもこれが入試の実態だとしたら…という不安もしくは不満から、やはり二言三言と言いたいことが溢れるかもしれません。でも、それこそが「高校入試」というこの作品が持つ力。そして、これこそが、湊かなえさんの一番の狙いなのだと思います。そう、エンタメ・ミステリーで『入試』というもの自体を問題提起するのがこの作品の使命。
誰も死なず、イヤミスでもない、入試をお仕事として取り上げた物語。湊さんの新たな魅力を感じた、そんな作品でした。 -
文章が登場人物の視点で次々と入れ替わるためか中々人物が把握しづらかった。それでも最後は一気読みできた。受験生の親があんなだと子供も大変だろうな。
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高校入試当日に巻き起こる事件によって、入試制度のあり方について考えさせられる作品。
違う。著者は全く悪くない。
登場人物7名以上でキャパオーバーを迎えてしまう私の記憶力が悪いのだ。有り難く描かれた相関図と本文を延べ80回ほど往復し読了。
自身の高校入試を思い出す。
中3春の三者面談で、親に『akodamくん、専門学校はいかがですか?』と先生に薦められ親が目の前で泣き崩れたこと。
それから胃潰瘍になるほど毎日勉強しまくって、志望校に合格できたこと。
そして、今の人生があること。
自身の経験を通して読むと、物語の受け止め方が変わってくる作品だと感じた。 -
湊かなえ氏の作品は『リバース』『告白』以来に読む三作品目。
県下有数の進学校・橘第一高校(通称・一校)の入試で起きる事件を描いた物語。
役割を分担する教師たちそれぞれに、ひとつひとつを見れば事件と呼べないほど些細な出来事が次々に発生。各事件は伏線を回収するかのように、絡み合い膨張していき、犯人の手のひらで踊らされていることを理解した教師たちは、事件の収束を目指し行動を開始する。
登場する教師12名は、それぞれが隠している秘密や過去があり、それを緻密に描いているのはさすが湊かなえ氏といったところ。その反面、序盤から登場する人物が多く、冒頭の相関図を定期的に見ないといけないほどにややこしい。
しかし、教師含む多数の登場人物を覚え出した中盤以降は、急展開を迎える物語も相まってすんなりとストレスなく読むことができた。また、湊氏の代名詞であるイヤミスとは異なり、読後感はかなり晴々としたものだったように思う。
私は、作中でパッとした活躍をしない一校の校長先生・的場が覚悟を決めるシーンが大好きだ。その覚悟が分かる以下の台詞は、この作品を読んで良かったと思える理由のひとつ。
『気が付けば、闘った時期よりも、勝ち得たものを守り続けた時期の方が長かった。』
『守り続けてきたものが何だったのかのかも思い出せないようなら、潔く捨てればいい。』
保守的な行動を取りがちな現代の社会人において、自分にとって何が大切なのか、それに執着することは本当に自分のためになるのか、自分自身の原点に立ち返らせてくれるいい台詞だとしみじみ感じた。
高校入試という人の子の人生を変えてしまう一大行事。
私たちの生きる現実にも、高校、そしてその場所で教鞭を執る教師たちによって、人生を歪められたと感じる学生も少なくないのだろう。
責任を背負うことの意味、仕事に対するマインドを勉強できた一冊だった。 -
高校入試というビッグイベントのなかで起きていく様々な事件。
教員たちが事件解決のために奔走するが、ハラハラドキドキ感はあまり感じられなかった。
登場人物が多すぎて、頭の中が迷走してしまった。
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県下有数の公立進学校・橘第一高校の入試前日。新任教師・春山杏子は教室の黒板に「入試をぶっつぶす!」と書かれた貼り紙を見つける。迎えた入試当日。試験内容がネット掲示板に次々と実況中継されていく。遅れる学校側の対応、保護者からの糾弾、受験生たちの疑心。杏子たち教員が事件解明のため奔走するが……。誰が嘘をついているのか? 入試にかかわる全員が容疑者?
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この作者は、学校ものを描くと結構おもしろい。
なかなかスリル満点で、読み応えがあったと思う。 -
暫く読み進めるまでは人物相関図と行ったり来たり...
一気に読まなかったので、余計に把握するのに手間取ってしまいました(・_・;
モンスターペアレンツと、二股教師がクソ野郎と本筋ではない事が印象に残りました。
入試って色んな人が色々大変なのね。
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湊かなえさんならではの何人もの登場人物の思惑が交差するストーリーでまた楽しませてもらった。
犯人がわかったうえで再読するとまたおもしろいんだろうな。
僕は今入院中だけど、新しいスタートが切れるように頑張ろうかなと思えるような作品だった。
がんばろう。
著者プロフィール
湊かなえの作品






処暑も過ぎたと言うのに、この暑さ。
どうぞ、お体、ご自愛ください。
処暑も過ぎたと言うのに、この暑さ。
どうぞ、お体、ご自愛ください。
湊さんが、教鞭を取られていた事があるとは知りませんでした
ドラマの方なんですが、なんと脚本は湊かな...
湊さんが、教鞭を取られていた事があるとは知りませんでした
ドラマの方なんですが、なんと脚本は湊かなえさんでした〜
長澤まさみさんが演じた春山杏子役は真面目なキャラだったのですが、他は割と軽いノリだったと思います
そして名前やキャラはやはりですが、画面上の方がすんなり入って来ましたね
それではまた、レビューを楽しみに待っています
お返事ありがとうございます。
長澤まさみさんですか。
真面目そうで、想像がつきますね。
こちらこそ、レビュ...
お返事ありがとうございます。
長澤まさみさんですか。
真面目そうで、想像がつきますね。
こちらこそ、レビュー、楽しみにしています。