- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041039892
作品紹介・あらすじ
故郷を飛び出し静かに暮らす同窓生夫婦。夫は毎日妻の弁当を食べ、出社せず釣り三昧。行動を共にする後輩は、勤め先がブラック企業だと気づいていた。家事だけが取り柄の妻は、妹に誘われカフェを始めるが。
感想・レビュー・書評
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大好きな作者、山本文緒さんの作品に読む前からワクワクしました。
家族の中でおこる一つ一つの出来事に、時には思いやる気持ち、憎む気持ち、支配しようとする気持ち、余裕のなさから相手に切り込んでしまう言葉の数々に作者さんらしい作品だなと。
家族以外の登場人物もどう説明して良いのか、本人にも何故そうしてまうのか分からない所に人ってそうだよねと思ってみたり。
結局最後には相手を思う気持ちがあればそれが正解になるのかな。
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のっけから、爽やかでライトな表紙からは想像できないような、どこにも逃げ出せない日々の描写が細かいディテールで続き、息が詰まる(リアルという点ではいい意味で)。
結構随所にきついセリフがあり、よくある優しい小説とは一線を画す。
妹にカフェをやりたいと持ちかけられた姉が、「なに浮ついたこと言ってんの」「働きたいのならコンビニのアルバイトでも新聞配達でも、体使って真面目にやれば?」と返答するのとか、しんどい!
3歩進んで2歩さがるペースで、ゆっくりと登場人物たちが殻を破り、能動的に人生に立ち向かえるようになるまでを、のめり込んで読んだ。
冬乃の「何にもできない、働く自信がないってただ嘆いて、できないんだからしょうがないってどこかで開き直ってたところもあったと思います。自己評価が低すぎるのって、高すぎるのと同じくらい鼻持ちならないのかもって最近気が付いたんです」というセリフが心に刺さった。 -
山本文緒さん(1962年神奈川県横浜市生まれ)の作品を読むのは、初めて。
今回は、『なぎさ』を手にしたが、山本文緒さんという人物に興味があったため。
それは何かというと、山本文緒さんは、2003年(40歳の時)にうつ病を発症しており、治療のため執筆活動を中断し、約6年の闘病後に復帰されたとのこと。
作品にはあまり興味がなかったので、81ページまで読んで、終了。
●2021年10月18日、追記。
先頃、58歳にて永眠されたとのこと。
私(60歳)よりも若いのに、残念なことです。
昨年、私は、うつ状態になりました。
その時、山本文緒さんが同病で6年間苦しんでいたことを知り、私などはまだまだ軽症だなと、救われる思いをしたのを思い出します。
●2022年10月15日、追記。
NHKテレビの、「あの人に会いたい」に出ていました。
今まで、画像で拝見していた姿は、メガネをかけた太ったおばさんという感じでした。
50代後半の画像でしょうね。
今回は、テレビで、若い頃の画像を拝見しましたが、知的できれいな方だったのですねえ。
●2023年9月23日、追記。
本作の内容は、次のとおり。
---引用開始
故郷を飛び出し、静かに暮らす同窓生夫婦。夫は毎日妻の弁当を食べ、出社せず釣り三昧。行動を共にする後輩は、勤め先がブラック企業だと気づいていた。家事だけが取り柄の妻は、妹に誘われカフェを始めるが。
---引用終了 -
それぞれの感情のゆれと交錯が深い。じっくりと、冬乃だけ、夫婦だけの視点でも読んでみたくなった。
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読み進めて行くうちにこのタイトルがついた理由がわかった。センスあるな〜。
しかし、内容的には個人的にもどかしく、結末は皆の想像にお任せします的な終わり方で今一つという感じだった。 -
妹に憧れる姉。
姉と 一見温厚そうな夫。
夫と 何事も続かない部下。
疎遠になった両親。
絡み合った人間関係が
それぞれの視点で語られているので
非常に立体的というか。
さっきまで
心の中を覗き込んでいた
登場人物も
他人の目を通すと
こう見えているのだーという驚き。
夫婦の静かな生活に
妻の妹が、妹の不穏な友人が、
夫の部下が、次々と闖入し、
かき乱していく。
日常の小さな躓きや逡巡を
繰り返しながらも
少しずつ逞しくなっていく
女性の姿に共感できます。
山本文緒作品には
非常に人当たりが良く
チャーミングなのだけど
恐ろしいくらい
無責任で身勝手な人間が
度々 登場するのですが
妙にリアリティーが
あるんですよね。 -
故郷を出てから連絡をとっていなかった妹が家に転がり込み、そのことから『なぎさ』というカフェをオープンさせることになった主人公、冬乃。
彼女と妹、菫や夫の佐々井、その職場の後輩である川崎など様々な生き方や考え方を交えながら成長を描いた作品。
大好きな山本文緒作品なのに。
そろそろ私も卒業の時期が来たのか?
そんな気持ちにさせてくれた一冊。
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良い作品だった。
人は誰でも、どんな立場でも、それぞれ何かしら悩み、何かと闘い、その度自分を奮い立たせて乗り越えて、なんでもない日常を送っているものだと思わせる。
田舎を出て夫と久里浜でふたり暮らしの冬乃。
芸人を諦め、サラリーマンをしている川崎。
派手さもなく、一見ただの一般人と思われる2人に焦点をあてつつも、全てではなくても彼らと共通する人生の瞬間を読者は感じると思う。
そういうことあったあった、と。
主人公も不器用ながらも思い悩み、時には人に頼りつつも、なんとか乗り切る。
淡々と、だけどとても緻密に、引き込まれるように人の心理を描けるのは作者ならではだと思う。
ハッピーエンドというわけでもないし、全てが解決したわけでもない最後なのに妙に清々しく感じられた。
どうでもよいが、川崎は示談金払えたのかが気になった。 -
「自分らしく生きるとは」ということについて、たまに考える。とくに今の自分の状況が、先が定まっていない、ある意味でとても自由な状態だから。
自分らしく生きたいけれど、それは言葉で言うほど簡単ではないことを、既に分かってしまっている。
もしかしたらそれはものすごく簡単なことなのかもしれないけれど、そこに踏み出す勇気を持つのが若い頃のようにはいかなくなっているという意味で、簡単ではないと感じてしまっているのかもしれない。
…などとぶつくさ考えながらのレビュースタートなのだけど、山本文緒さんの小説やっぱり好きだなとシンプルに思った。
先日亡くなられてしまったので未読のものを読んでいこうと思っているのだけど、苦しい中に光が見えたり、辛いけれど希望があったりするところが、まさに人生に似ていると感じる小説だった。
主人公はごく平凡な主婦の冬乃。夫の佐々井くんとともに、故郷を出て暮らしている。ある日しばらく没交渉だった妹の菫が転がり込んできたことで人生は動き出す。
もう1人の主人公は、芸人になることに挫折して会社員となった川崎。勤め先はブラック企業で、そこで世話になっている上司は冬乃の夫の佐々井。川崎は会社がブラック企業であることに気づきながらも、なかなかやめることもままならず、恋人の百花との関係も悪くなっていく。
この2人の目線の章が交互に続くかたちの物語。冬乃の目線から見た夫の佐々井や妹の菫、そして佐々井の部下であった川崎の姿。そして川崎の目線から見た佐々井や冬乃、彼らをとりまく人々の姿。
菫の行動に巻き込まれるかたちでカフェを始めた冬乃なのだけど、それが辛いかたちを迎えつつも、ひとつの大きな転機になる。そしてそれが、なあなあのまま暮らしてきた夫や、いわゆる毒親である両親との関係を考え直すきっかけとなる。
実際の人生もそういうことがある、と思う。思いがけない風に人生が動いていって、その先にあった出来事が自分の価値観をがらりと変えてしまうことが時々ある。一見悪いことに見えることが、後々自分を変えてくれた大きな出来事だったと気づくことがある。
ドラマティックではない自然な流れでそういうことが描かれていて、読んでいて辛い気持ちになったりしつつも、最後には勇気を与えられたような心持ちになった。
良い人間と悪い人間、努力する時間と怠ける時間、良い部分とダメな部分、両方がきちんと表現されているからリアルなのだと感じた。
重めなのにとても清々しい物語だった。
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山本文緒さんは大好きだけれど、割と切実なお話で、なんだか怖かった。かすかな希望が本当にかすかで切ない。だからこそ背中を押してくれるとも捉えられるのかもしれないが、世の中が絶望的にも思えてしまった。ラストが突然終わってしまった感もあった。
山本文緒さんの文章が好きで、かなりたくさん読んできたけど、エッセイか短編が私は好みだと思った。長編はちょっと重くてつらい感じがする。