ビッグデータ・ベースボール 20年連続負け越し球団ピッツバーグ・パイレーツを甦らせた数学の魔法
- KADOKAWA (2016年3月15日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041041024
作品紹介・あらすじ
“常識”という難敵に“数学”という武器で挑んだ男たちの物語。
「ほかのチームから見向きもされなかったベテラン選手、多額の契約金で入団したドラフト指名選手、古い教えを受けたコーチ、数学の天才から成る寄せ集めのチームが、個々の能力を合計したよりも大きな力を発揮して、ここまで到達したのだ。彼らは新しい意見、新しい考え方、共同作業を受け入れなければならなかった。それが2013年の彼らの物語であり、彼らの成果だった。」(本文より)
感想・レビュー・書評
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とても面白いノンフィクション作品だった。
扱っている題材は野球。日本のプロ野球や高校野球ではなく、アメリカのメジャーリーグ。プロのスポーツチームとしてはアメリカ史上最も長い20年間の負け越しを続けていた、ピッツバーグ・パイレーツの2013年のシーズンを中心とした物語だ。
この年、パイレーツは21年ぶりの勝ち越しを決めただけではなく、ペナントレースで上位につけ、ポストシーズンの戦いに進出することが出来た。パイレーツは、予算規模の小さな球団であり、フリーエージェントでのお金のかかる補強は難しい。2013年シーズンのパイレーツの躍進は、したがって、大物選手の補強によるものではない。それは書名にもなっている、ビッグデータの活用によるもの、最近のバズワードで言えば、DXによるものであった。
選手の補強に大きなお金を使えないパイレーツは、専任のデータ分析官を雇い、ビッグデータを用いて、勝つための戦略を練り上げる。それは、守備を重視した戦略であり、守備シフト、ピッチフレーミング、ゴロを打たせるためのツーシーム・ファーストボールの多用という3つの戦術だ(それぞれについては、ここでは詳しくは説明しない)。そして、それらの戦術を実行できるような特徴を持っているが、移籍市場で大きな価値を認められていない選手を獲得すること、の4つで構成されていた。最後のひとつはスカウティングに関することであり、最初の3つの戦術を実行するための手段でもある。2013年のシーズン、これがうまく当たったのだ。
2013年のシーズンの話なので、今から8年も前の話である。その時点で、上記に書いた3つの戦術によって、失点を何点少なく出来る可能性があるか、そして、何勝上積みできる可能性があるかをデータ化し、戦術に落とし込むことが出来ていることに驚いた。このようなこと、すなわち、パイレーツがDXにより成績を大きく改善したことは、周知の事実となっているわけであり、今では、MLBの各チームはデータ分析に、もっと力を注いでいるはずであり、その結果として、もっと進化しているのだろう。翻って、日本のプロ野球はどうなっているのかを知りたいなと思った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「マネーボールの進化形」と言っても良いぐらい「マネーボール」的な作品。ただ大きく違うのは「マネーボール」が「新しい人達が古い人達をバッサリと切っている」のに対し、今回は「古い代表」である監督「クリント・ハードル」をメインキャラの1人にしている。単に「最新の統計とソフトを使って1位になった」という事よりも「様々なスキルを持ったチームをいかに運営するか?」という本になっていると思う。
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野球のデータ、面白いですね。
でも、本の中でも繰り返し書かれているように、
実際は人間がやるもの。
そこをどう落とし込むか?
その物語、という感じでした。
私は「打順」なんですよね…、気になるのは。
守備位置なんかより、
もっと簡単に数字で決められると思うのですが。
いつまで、
「1番は足が速い」「4番はチームの顔」とか、
昭和かよ。ワケワカメやな、と思います! -
まさにスポーツ界に起こったイノベーションです。
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20年連続負け越しのパイレーツにデータ野球が導入された。当初は極端な守備シフトに抵抗があったが、徐々に浸透し本領を発揮し始める。革新的な戦略は受け入れ難いだろうが、日本野球にも是非積極的に活用して欲しい(既に導入されていたり、、)映画『マネーボール』も関連した内容なのでおすすめ。
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革新的な技術や考え方を立場の異なる人に理解させ実践させる。自分の現状にあてはめると相当難しいことを成し遂げていたことに感銘を受ける。池井戸作品のようにMLB制覇とならないところが、現実的で良い。
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MLBに限らず野球をより深く楽しみたい人にも、それ以外のスポーツにデータ分析を活用したいと考えている人、あるいはビジネスの現場で集められたデータが信頼されず、なかなか価値あるものに変えられないと感じている人に広く読まれるべき一冊。
複雑なデータや数字をロッカールームにいる選手たちの間に浸透させ、グラウンドで新しい戦術を試してもらうのは、思った以上の難題である。
無理強いすれば、反発やチーム内の不和を生むばかりで、結果につながらない。
データ分析官と選手や監督との間に良好な関係を築くため、パイレーツは裏方である彼らを試合前のミーティングに参加させ、クラブハウスにも自由に出入りさせた。
選手へのアドバイスも具体的で、データを視覚化した分かりやすい説明を心がけさせた。
複雑な数学的概念を簡単なたとえを用いて伝えるというのは才能の部類に属するが、こうした異なる才能の間に敬意と理解が生まれなければ、チームに優位を与えることはなかった。
データによる客観的な考えと直観に基づく主観的な意見をいかに融合させるか。
ビッグデータとは、可能な限りあらゆる断片的なデータを集め、複雑な数学的な公式から、有用な独自の指標を得ることだが、パイレーツはこの強固なコミュニケーションのおかげで、選手やコーチがグランド上での観察をデータや指標の洗練化に役立てることができた。
もちろんどれだけ革新的な戦術でも、野球の世界はまねあいの歴史なので、すぐに陳腐化してしまうが、このコミュニケーションがあれば普段に戦術の見直しを行ない、迅速に実践できるはずだ。
著者は『マネー・ボール』で紹介された出塁率に着目した指標などは、野球カードの裏からも集められるデータでもう古いと言う。
いまは、新たな投球追跡技術(PITCHf/x)や、グランド上のあらゆる選手の動きを記録する技術(スタットキャスト)など、これまで隠されていたデータを徹底的に利用し尽すステージに入っている。
極端な守備シフト、ゴロを打たせる投球、ボールをストライクに変える捕球術など、その後どのチームでも採用されたパイレーツの新戦術は、もとを質せばFAで有望な選手を獲得できるだけの資金がなかったために、生まれた。
しかし、成功に対して大金を注ぎ込むより、これからの伸びシロに対して金を払う方が、よほど賢明な投資ではないだろうか? -
2013年のピッツバーグパイレーツを舞台にしたノンフィクション。
「マネーボール」を彷彿とさせるテーマではあるが、20年前の「マネーボール」はもはや遺物らしく、本書は数学とビッグデータを駆使した、野球界の新たな潮流をチームの波乱とともに描写する。
データをどのようにチームに取り入れるのか。人間臭い話と思わす引き込まれる組織論が相まった、素晴らしい一冊だった。 -
ゴロになった打球がヒットになるかどうかは投手には責任がない、だから守備シフトと守備力が重要。捕手のミットワークでストライクになる率が違い年間勝ち星で二桁の差が出ているなど、マネーゲームからなお進化し続けるデータ野球の進化。
そして脳味噌まで筋肉の野球選手にデータ分析結果を理解してもらうための、データ分析担当者のコミュニケーション能力の重要性。
データ分析の入門書として最適。 -
「マネーボール」の真打ちであり、現在進行形の物語。
日本は何周遅れ?