和僑 農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人 (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041041253

作品紹介・あらすじ

なぜ日本人の2ちゃんねらーは、日本より雲南省の山奥の農村に住むことを選んだのか?
なぜ日本共産党から日中友好協会と、友好に身を捧げた女性はネット保守へ転向したのか?
なぜ日本のやくざに、日系企業が「組の設立」を依頼し、日系暴力団が誕生したのか?
なぜマカオに、日本人風俗嬢はわざわざ出稼ぎに行くのか?

中国で喰い、中国を喰らう日本人。
「和僑」の姿が明らかになる。


和僑とは?
「和僑」とは、今世紀になってから日本人の間で作られた造語である。もともとは、中国人の奥さんを貰ったミュージシャンのファンキー末吉が、在外華人を意味する「華僑」をもじって発明した言葉らしい。現在、「和僑」をネットで検索すると、和僑会や「和僑ネットワーク」などのビジネス系のサイトが上位に並ぶが、漢字の字義を考えるなら、海外移住をした人から出稼ぎや旅行・留学などを目的に短期滞在をする人まで、「和僑」とは海の向こうに渡る様々な日本人たちすべてを含む概念なのである。

本書に登場する和僑たち
・雲南省の山村に住む農民の青年。重度の2ちゃんねらー
・マカオで「カジノを買い取りたい」と豪語する富豪
・海外で出稼ぎをし、『ニッポン定食』として働いていた風俗嬢
・海外赴任をしても日本人村に引きこもる、上場企業の駐在員たち
・金嬉老と同じ刑務所にいたという、在上海、日系暴力団組長
・日中友好協会に入り、友好に身を捧げたのち、反中となり、ネット保守になった活動家

―――――――――――――――――――――――――――――
マカオの欲望の海を漂う弓長さんやヒカルさん、上海に二十一世紀の日本人町を作り上げている駐在員とその関係者たち、魔都の夜に君臨する義龍老人、北京で日中友好の幻想に翻弄された心正しき人たち、そして、雲南省の農村に住むヒロアキさん――。
海を渡って中国に住んだ和僑たちから感じられる母国の影は、本国の社会が必死で払拭しようと努力していたはずの、非常にウェットで泥臭くて洗練されていない「日本」の姿ばかりなのだった。
もはや現実の日本国内にも存在していないほど、過剰に日本らしい日本なのである。
 それは、中国という外国が、良くも悪くも日本人の自己認識を刺激する国だからなのだろう。(本文より)

感想・レビュー・書評

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  • 少し古い本だが現在の中国と対比できるという点では面白い。取材過程も含め著者の主張が詳細に述べられている。現地で中国語を駆使し体当たり取材するスタイルが迫力がある。

  • 「中国の田舎に住んでるけど質問ある?」というスレを立てたVipperを、雲南省石林イ族自治区まで探しに行く第一章は実に素晴らしい。なのに以降は尻すぼみ。とくに上海の駐在員社会を揶揄する第四章で、すべてが台無しに。この手のもので「自分が一生理解したくないもの」を主題にし、やっかみや嫉妬を表明したら負け。各テーマに実感のない者に実感を与える効能は素晴らしい一方、既に実感を持つ者に「それは違う」と断定されるほどの致命傷は他にないのです。惜しい。

  • 内容は面白いけどところどころ独りよがりというか「え?ノンフィクション作家って自称してるのにそこ掘り下げないの?」みたいな部分があって微妙な読後感。

  • 中国で立ち働く様々な日本人のルポ。中国で実際に揉まれて暮らしてきた人達の話には実感が伴う。きっと中国で暮らす日本人には一人一人ストーリーがあって、そのどれもが面白いはず。その中でも農民、風俗嬢、暴力団員、日中友好活動家など濃い面々のインタビューとなればそりゃ面白い。著者が自分の足で稼いだ聞き込みネタであり、その行動力にも敬意。
    「中国はコネなしでは暮らせない、しかしコネがあればまず快適に暮らせる」「金銭や健康問題など直接的な利害に関わる事柄に対しては情報収集を怠らない反面、人権や言論の自由のような抽象的な問題に対しては、驚くほど冷淡で無関心だ」「中国は一党独裁じゃなきゃムリだろうな」
    といった言葉が心に残る。

  • 和僑の語源ででていた時期は、サンクチュアリ(史村翔、池上遼一)の最後に出てきていた(?)のと同じ頃かな。

    その土地を統治する団体はどこの国でも他国から見ていかに不合理に見えても内部からは合理的な意味があって、それは中国でも日本でもそうだし、ジャスミン革命の国でもそうだったのであろう。

  • ニュース等の報道ではわからない一人ひとりの話。視点がユニークであるし表面的ではない記述に興味を引く。上海での日系社会、よくわかる。納得。「日中友好」も二方の対比が面白い。和僑…もっともっといるはず。紹介してほしい。

  • 日本から売春でマカオに行く女性や上海でヤクザ組織を作った男性など、アンダーグラウンドを中心とした、日本から中国大陸に渡った者たちを描く。こんな人たちもいるのかと興味深い。

  • 群雄割拠、魑魅魍魎のアングラ世界から沸き立つ蜃気楼のような熱気について。

  • 様々な理由と目的で中国に生活の場を求めた日本人に迫る軽めのルポルタージュ。

    雲南省の山村で農業を営む青年、マカオでカジノを買い取ろうとする富豪、中国をはじめとする様々な国で稼ぐ風俗嬢、中国に日系暴力団を組織やくざ。中国は闇の国なのか、極楽なのか。

    頭の中に『住めば都』という言葉が過ぎる。

  • ここで扱われている「和僑」とは、21世紀になってから日本人の間で作られた造語です。ここでは中国で行き、中国を喰らい、したたかに生きる人々を気鋭の筆者が追い続けた貴重な記録です。混沌がここにあります。




    僕が中国に関心を本格的に持ったのは予備校時代に漢文講師の宮下典男先生の授業を受けたのがきっかけで、それから時は流れて幾星霜。日本と中国との関係が変化していく中で手にとって読んでみた本です。

    ここでは『和僑』といわれる日本人たちが、中国で生き、中国で喰らい、中国を喰らうしたたかな生き方を気鋭の筆者が書きとめたルポルタージュであります。

    出てくる人間もまぁ多士済々で、雲南の山村に住む2ちゃんねらー。欲望の海・マカオで「ニッポン定食」として働いていた風俗嬢。上海で日系企業の依頼で組を作ったやくざ…と規格外の人間ばかりで、読み終えたときにはあまりのディープな世界でため息すら出たのですが、彼等の『濃厚』な生き様と、それを追い続けた筆者の『執念』に感動すら覚えてしまいました。

    「2ちゃんねる」に書かれた情報を元に中国の農村へと単身飛び込んでいく無茶を最初に持っていき、その雲をつかむような様子に始まり、マカオではそこに蠢いている人間から『金を儲ける』ということはいったいどういうことであるかを語り合い、マカオの歓楽街で『ニッポン定食』と呼ばれる「おねいちゃん」をやっていた『世界をまたに駆ける』風俗嬢と歌舞伎町というこれまたディープな世界でワールドワイドな『性』事情を赤裸々に語りつくす。本当にディープな世界です。

    しかし、上海では『かつての日本』を形作るような福利厚生の厚い会社に勤める人間と現地の人間と積極的に交わっていく『起業家』たちとの『差異』についての考察も非常に面白かったです。

    さらには日本の広域暴力団の幹部だった男が上海で現地の人間の上に巨大な組織を作り上げ、なおかつそれが『お上公認』であることに衝撃をうけ、かつて日中友好に身を捧げた女性が『ネット右翼』のような『さらば日中友好』に変じていった軌跡を追い、圧巻のラストは最初で会うことの出来なかった中国で暮らす日本人の青年との直接対決のエピソードでありました。

    彼が
    「日本よりも中国のほうが自由で暮らしやすいんですよ」
    と語るその生活は、これまた規格外のもので、
    「こういう人間がまだいたのか!」
    という驚きと共に、『人に定めなし』という黒岩重吾先生のお言葉をいまさらながらに感じざるを得ませんでした。混沌を極める現代の中国。そこでしたたかに生きる日本人の存在とその息吹を、少しでも感じ取っていただければ、幸いに思います。

    ※追記2016年4月23日、KADOKAWA/角川書店より『和僑 農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人 (角川文庫)』として文庫化されました。

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著者プロフィール

ルポライター

「2023年 『2ちゃん化する世界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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