光炎の人 (下)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
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感想 : 38
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041041949

作品紹介・あらすじ

大阪の工場ですべてを技術開発に捧げた音三郎は、製品化という大きなチャンスを手にする。だが、それは無惨にも打ち砕かれてしまう。これだけ努力しているのに、自分はまだ何も為し遂げていない。自分に学があれば違ったのか。日に日に強くなる音三郎の焦り。新たな可能性を求めて東京へ移った彼は、無線機開発の分野でめきめきと頭角をあらわしていく。そんなある日、かつてのライバルの成功を耳にしてしまい――!?

感想・レビュー・書評

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  • 木内さんの才能は稀有まれなものだと思っています。
    全部読んだわけじゃないけど、全部傑作です。
    絶対的な信頼感を持っています。

    この本も間違いなく傑作です。
    木内さんの渾身の作です。力入ってます。
    だって初の上下巻ですよ(多分)。

    でもね、残念ながらここまで主人公に魅力がないのも珍しい。
    全く共感できない。共感どころかむしろ嫌悪。
    読むのが辛くて辛くて。
    物語は激動の時代を描いてそれなりに読ませるんだけど、読めば読むほどうんざりするの、主人公に。

    読者も辛いけれど、作家も辛いと思うの。
    ここまでいやな男にずーっと付き合うの大変よね。
    いや、まったくの勝手な意見ですけど・・・。

    映画化されて松坂桃李あたりが主人公演じたら、違うかな。
    そしたら全然違う話になっちゃいそうな気もするけど(笑)

  • 生まれ育った田舎にいた頃の音三郎は、大人しく純朴で、自分の好きなことをこっそり追及している若者だった。
    田舎から大阪、東京と場所を移り、小さな町工場の職工から官営の軍需工場の研究員に。
    小学校もまともに卒業していないのに東京帝国大学卒のインテリ達と共に仕事をしても全く引けをとらない…正に出世街道まっしぐらで夢も叶ったかに思えたのに、肝心の音三郎は現実の壁に立ち塞がれる。

    上巻とは違い下巻は読み進める内に胸苦しくなってくる。
    「必ず成功してやる」
    彼の強気の野心が虚しい。
    これが現実なんだろうか。
    木内さんから人生や仕事に対する「甘さ」を指摘された気がする。

    ラストの幼馴染みとの対峙は遣りきれない。
    自分の技術にプライドを持った男の夢は、現代に生きる技師達に受け継がれていると信じたい。

  • 木内昇さんの長編小説。明治~昭和初期の技師の話。
    主人公の人としてのクズっぷり。技師としては才能があるのだろうけれど、技術だけしか頭になく、人としての情のなさにどんどん気持ちが暗くなっていく。

  • 一つの道を究めようとしている音三郎、男なら上昇志向は当たり前だし人として、世間に認めて貰いたい、この持ってる技術を知らしめたいと望むことはもちろん理解できる。
    ただ、音三郎は余りにも不器用で世渡りも上手ではなかった。

    出生の秘密を知ることが、本の帯にある「衝撃のラスト」なのかとおもったら、なんという結末…。

    世界史の中での大戦前夜、満州事変など知識でしか知らなかったけれど軍人でも政治家でもないひとりの男がすべての社会から人から排除されてしまうなんて…
    ただ自分の腕を信じていただけなのに。

    満州事変、関東軍など、改めてウキペでよんでみた。歴史に名を残せなかった数多の人間が死んでいった。

  • 次第に舞台は戦争に向けて加速していき、トザや彼を取り巻く人々らの生活も急激に変化してゆく。
    トザの開発する無線も新たな活躍の場を見つけながら、更なる技術の高みを追い求める足も止まることはない。

    この作品の登場人物は、皆が皆途方もなく孤独である。
    ある者は、自分の知能を世に知らしめるべく、家族や愛情を捨て、ある者は御国の為に、或いは自身の信じる志の為に友人を捨てる。
    共通しているのは、「自分はここにいるのだ」という世間に認めて欲しい気持ちで、行動を通して叫べば叫ぶほどに、虚しさと悲しさを撒き散らしていくのである。
    大正から昭和にかけて生きた男達の物語だが、現代の世にも通じる内容だと感じた。
    人が生きる上での幸福に関して、改めて考えさせられる作品。

  • なんとも、そうなるかあという結末。音三郎、最後の最後まで不器用だった。彼は悪い人ではないんだ。純粋で、自分の仕事が大好きでそれを世間に認めてもらいたいと切に願っている。だから日夜、なんというか人間として大切な心すら置き去りにして研究して実験してを繰り返し年を重ねてきた。人を疑うことを知らないあまりに、自ら不幸な結果を招いてしまう。でも彼はそれに気づきもしない。研究者、技術者の悲哀を見事に書ききったなあ、木内さん。素晴らしいです。音三郎、がんばったよ。本当に。時代に翻弄されてしまった無線馬鹿の物語。お見事。

  • ただの真面目な農家の三男が時代に翻弄、歪められていく過程が辛いけど読みごたえたっぷりの小説。今も効率や安さが安全や質に優先されかねない時代。登場人物の一人の「技師には次があっても、不良品を使うたがために命を落とした庶民には次はないさけな」という一言は今にもつきささるメッセージ

  • 立志伝の話かと思ったが、技術者のエゴを表したもの。
    最後はまさかの張作霖爆殺事件に関連してくるとは、予想外の展開でした。
    でも世相とか技術をキチンと表現をしていて、興味深いものだった。

  • 読み進めて行くうちにどんどん主人公を、応援できなくなって行くけど、最後ははやり悲しかった。
    電気、無線のことは難しくてわからなかっが、技術とその活用、応用について考えさせられる。読んで良かった。

  • これが、技師の業か性か。
    どこまでも自分の技術だけを信じてただひたすら夢だけを追い求めて…と言えば聞こえはいいけど、なんなんだ、まったく。どこまで自分だけ大事なんだよ、トザ!
    上へ上へ。いまよりもっと自分の技術を生かせる場所へ。自分の夢のためなら親兄弟も切り捨てる。そんな自分勝手なトザを最後まで見守り続けた友との最期の瞬間が頭から離れない。
    明治から大正、そして昭和。激動の時代に電気と無線に取りつかれた一人の男の、傲慢で壮絶で、そして哀しい物語。

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著者プロフィール

1967年生まれ。出版社勤務を経て、2004年『新選組 幕末の青嵐』で小説家デビュー。08年『茗荷谷の猫』が話題となり、09年回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞、11年『漂砂のうたう』で直木賞、14年『櫛挽道守』で中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞を受賞。他の小説作品に『浮世女房洒落日記』『笑い三年、泣き三月。』『ある男』『よこまち余話』、エッセイに『みちくさ道中』などがある。

「2019年 『光炎の人 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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