海に向かう足あと

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041041956

作品紹介・あらすじ

村雲達6人のクルーメンバーは、そう裕福でない日々の中で捻出した費用で、念願の新艇を手に入れる。早速、三日月島をスタートに開催される外洋ヨットレースへの参加を揚々と決める。小笠原諸島近くのその島には申し分ないサービスを提供するホテルがあり、ヨット乗りには夢のような島だった。盛り上がる「大きな少年」たちを、時に辛辣な言葉をかけながらも温かく見守る家族や恋人たち。唯一の懸念は、きな臭い世情不安だけだった。メンバーの一人である諸橋は物理学を専門とし、政府のあるプロジェクトに加わっていたのだ。独身を通してきた村雲は、お礼セーリングに美しい女性輝喜を互いの愛犬二匹とともに連れてきた。若くてフリーターの洋平はシングルマザーとの交際を真剣に考え、ベテランの相原は自分の体力と人生の限界を感じていて、メンバーそれぞれがそれぞれの思いとともにレースに向かおうとしていた。準備のために三日月島に先入りしていたメンバー、しかし合流するはずの諸橋や家族たちが当日になっても到着しない。本人たちの携帯も通じない。やがて一切の通信も凍ってしまい……。世界で何が起きているのか? ――切ない、心に迫る、ディストピア小説。

感想・レビュー・書評

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  • ミサイル攻撃がなくても、地震国に暮らしている以上、常に危機にはさらされているはずなのだけれど、どこか他人事のように感じている(そうでなければ生きていけないとも思うけれど)。

    「我々がやってきたことの報いだな…歴史にも学ばず、警告にも耳を貸さず、現実に起きていることに目を閉ざしてきた、その結末ということか」

    "この世にはまだ―よりよいことを選択しながら生きて行く可能性が残されている"

    「―結局、我々は『よりよいこと』を選択せずに、ここまで来てしまったのだ。」


    地震のような不可避のことはともかく、戦争のような人的なことで世界が滅ぶことのないように、と改めて思いました。

  • 読まなきゃ良かった、と思うほど現実的な恐さのある話だった。
    もし同じような状況に陥ったとしたら、きっと首を振った老人のように家から動かずここで終わりたいと思うだろうな。

    それから人々がどうなったのか、わからないままページが終わるけど、少しも良い未来は想像できなかった。これから嫌でも関連のニュースや話題が目につくんだろうなぁ

  • 念願の新艇ハープ号を手に入れたクルーたちは
    レースにむけてトレーニングを積む

    レース前日
    スタート地点の小笠原の小島に合流するはずだった
    残りのクルーや応援の人たちが姿を見せない

    いっさいの通信が途絶え連絡がつかない

    本土で、世界で
    なにが起きているのか
    どうなってしまったのか

    メンバーからたったひとつ届いたメールには
    「トウキョウ・・・・」

    『かはたれ』『八月の光』の朽木祥が世に問うディストピア小説

      「まだ時間があるって思ってたんだよね。まだまだ時間があるって」

    きなくさい国際情勢の“いま”だからこそ読むべき一書

    タイトルの意味の深さに読後あらためて気づかされる

  • 作中にも出てくる「渚にて」とまったく同様の印象を受けた。だらだらと続くたいして面白くもない日常の風景描写と、終末を受け入れた際の静かな絶望とが、何の希望もなく描かれる。それでもヨット好きにはもしかして面白いのだろうか?絵空事としか思えない三日月島のリゾートホテルの描写や、クルーの中に政府の研究機関で働く人がいたりする設定も受け入れ難く、途中ではさまってくるメール文章もわざとらしくて萎えてしまった。
    「草原の実験」という映画があった。美しい日常と純粋な少女の心を唐突な核爆弾がすべて吹き飛ばしてしまうという衝撃的な映画であった。そこでは破滅の要素は匂わせ程度で、ほぼ全編が美しい映像で彩られていた。だからこその衝撃だった。
    この小説はあまりに饒舌に危機を語りすぎている。なのに彼等は最後までヨットに対する興味しか持たず、危機に対する行動は何一つ起こしていない。それは単純に僕たち一般人の姿なのだろうけれど、無力を振りかざして諦念の感傷に浸るだけの小説に、世界を変える力はやはり無い。

  • 今の世に警鐘を鳴らしたかったのかなあ。
    これはこれでよかったけれど、何も起こらず、ただ単純にヨットレースをする彼らの物語を読んでみたかったかも。

  • 問題意識が大きすぎて・・・
    楽しいヨットの話かと思ったら・・・
    途中、ひっかかるところがいくつもあって「あれっ」って感じではあったのだけれど、
    最後が厳しすぎて・・・
    後は自分で考えろってことか・・・
    小説としてはもう少し違った終わり方はなかったんだろうか。

  • タイトルに魅かれ手にし
    表紙で決めた
    ヨットオタクかと思っていたら
    まさかの・・・
    悪い人が一人もいない

  • 船と海に魅了された男たちと、世界情勢。

    ヨットレース出場に向けてそれぞれが日程を調整しながら、日々準備を進めていく6人。

    自営業の村雲、最年長の相原、公務員の三好、研究者の諸橋、IT企業の研人、ヨットニートの洋平。

    それぞれの家族と共に、思い出深いヨットレースになるはずだった離島で知ったのは、
    突然おきた核兵器による攻撃で壊滅的被害を受けた日本、
    混乱する世界と途切れる情報。

    大好きな船と海と、希望を抱えて本土に向かう決意。

    まさか核攻撃受けちゃうとは、平凡なヨットレースの話だと思ってたら、あらまあ。
    危機感の薄い平和ボケしている身としては、
    最後があまりにも唐突に感じたけど、未来は誰にもなんとも、ね。

  • 前半と後半のテンションが180度変わる。
    布石が不自然なので、何となく先が読めてしまう。
    安穏と生活せずに、日常の大切さを痛感

  • 事が起こるまでが長いというか、事が起きてからが短いというか、事が起きそうな部分からがもう少し膨らんでいると、もっとリアリティがあるような気がしました。それでも怖さは伝わりました。

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著者プロフィール

広島出身。被爆2世。
デビュー作『かはたれ』(福音館書店)で児童文芸新人賞、日本児童文学者協会新人賞、産経児童出版文化賞受賞。その後『彼岸花はきつねのかんざし』(学習研究社)で日本児童文芸家協会賞受賞。『風の靴』(講談社)で産経児童出版文化賞大賞受賞。『光のうつしえ』(講談社)で小学館児童出版文化賞、福田清人賞受賞。『あひるの手紙』(佼成出版社)で日本児童文学者協会賞受賞。ほかの著書に『引き出しの中の家』(ポプラ社)、『月白青船山』(岩波書店)、『八月の光 失われた声に耳をすませて』(小学館)などがある。
近年では、『光のうつしえ』が英訳刊行され、アメリカでベストブックス2021に選定されるなど、海外での評価も高まっている。

「2023年 『かげふみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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