侵蝕 壊される家族の記録 (角川ホラー文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 565
感想 : 54
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041043363

作品紹介・あらすじ

ねえ。
このうちって、とてもいいおうちよね。
――わたしの、理想のおうちだわ。

皆川美海は平凡な高校生だった。あの女が、現れるまでは……。
幼い弟の事故死以来、沈んだ空気に満ちていた皆川家の玄関に、
弟と同じ名前の少年が訪れた。
行き場のない彼を、美海の母は家に入れてしまう。
後日、白ずくめの衣裳に厚塗りの化粧をした異様な女が現れる。
彼女は少年の母だと言い、皆川家に“寄生”し始め……。

洗脳され壊れてゆく家族の姿におののく美海。
恐怖の果てに彼女を待つ驚きの結末とは……。

恐ろしくて、やがて切ない、
大人気シリーズ『ホーンテッド・キャンパス』著者による傑作ミステリ!

(単行本『寄居虫女』改題)

感想・レビュー・書評

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  • 記録

  • 初めて「角川ホラー文庫」を買って読んだ。

     きっかけは「死刑にいたる病」の巻末に載っていた。特別な経緯はありません。ホラー小説と言うだけで、作品を前にしてブルブルと震えながら読み始め、何故か途中で止めようとは思わなかった。

     物語:皆川家は現在、女四人で暮らしている。留美子は、付き合っていた男性の紹介で小姑たちに、「ふしだらな女」呼ばわりされていた。お腹には既に小さな命が宿っていたからだ。「わたし、絶対に彼と結婚しますから」それから留美子は順調に三人の娘を生んだ。三人目を産んだ九年後、四度目の妊娠で検診の結果、男児だった。

     あの日の事故を境に、生活のすべてが一変した。以来、留美子は心を塞ぎ「よき母、よき妻」であることをやめた。―智未(長男)のいない我が家なんて、もう見たくない。

     玄関先でうつむいたまま、留美子はため息をついた。小さな爪先が視界に入った。顔をあげる。途端、留美子は目を見開いた。目の前に、四、五歳見当の男の子が立っていた。男の子は「トイレ…貸して、下さい」と言い、留美子は場所を教えたが、男の子は間に合わなくて漏らしてしまった。
     両方の拳を握り、その場に立ったまま、粗相をした自分を恥じて声もなく泣いていた。
     その姿に、思わず留美子は胸を衝かれた。

     ちいさい子に、こんな泣き方をさせてはいけない。子供が他人の前でこんな風に声を押し殺して屈辱の涙を流すだなんて、あってはならないことだ

     ひどすぎる。この子の親は、どこでどうしているんだろう。靴も履かずに子供一人で徘徊させているだけでも異常なのに、こんなに痩せさせて、お風呂にも入れず、トイレにも行かせないなんて。
     その後交番に届けたが、留美子は、亡き長男のこともあり、親が見つかるまでの間だけ預かることにした。

     子供に名前を聞くと「朋巳。山口朋巳」という。

     勿論、家族の反対があったことはいうまでもない。事故で亡くなった智未は、留美子に溺愛されていた。朋巳が皆川家に来てから三週間、荒んでいた皆川家は、なんとなく落ち着いてきた。ある雨の日の午後、長女琴美が自宅の軒先に立っている女を目にとめた。何とも言えぬ風貌に、琴美は思わず身を引いた。

     皆川家の人たちは、女がⅮVを受けていたと勘づいた。
     「あのう、もしどこへも行く当てがないのでしたら、よかったらー」と声をかけてしまったのが悲劇の始まりだった。
     朋巳の母、山口葉月が住み着いた。巻末に、この小説は単行本『寄居虫女』を加筆、修正の上、改題し文庫化したものです。と書いていた。

     冗談キツイぜ‼
     あらま、読書は楽しい!

  • 最後の参考文献のページを見て、やっぱりあの事件が元になってたのかとさらに心が沈みました。
    幕間と皆川家の時間が重なり合う第四章からエピローグ、私は泣かずにはいられなかったです。ホラーで泣いたのは始めてかも。
    山口葉月がなぜ長きに渡って色んな家庭に寄生することになったのかまでストーリー掘り下げられてたらもっと良かった。
    情状酌量の余地なんかないくらいあの女は酷いことしてきたけど、そう至る背景を見てみたかった。
    そもそも理由も無く、なんとなく家庭を壊し続けていたのなら、余計山口葉月という女に恐怖を覚えたことと思う。
    読み終わったあと、少しの間だけホラー、イヤミス小説読むの辞めようと思った。
    それだけ辛すぎる展開が続く本でした。

    家族への愛を失いそうになったら、過去に自分をたくさん愛してくれたことをたくさん濃く思い出して、憎悪をかき消せるくらい強い心を持ちたいと思えました。
    実際、皆川家と同じ状況に自分が陥ったらそれは無理かもしれないけど…。
    にしても美海ちゃん、最後まで本当によく頑張った。
    始めてハグしたい衝動に駆られるほどの登場人物に出会えました。
    小説の中の人物とはいえ、この先どうかみんなに幸あってくれと願わずにはいられないです。

  • 純粋に怖い。あり得ないと思いつつも、今までに起きた事件とか見る限り、あっという間に中に入ってきて普通の家庭が侵蝕されて凄惨な事件に発展してしまってるのかと…
    やっぱりマインドコントロールされて、その上睡眠取れないと正常な判断できなくなるんだろうな。

  • 面白かったです。知らない人には子どもでも話しかけないようにします。

    (2018.12.12読了)

  • 無味乾燥な改題になっちゃった。でも内容は葉月の化粧同様に濃く、正常な思考を奪われて大切な家族を大切に思えなくなっていく様が恐ろしい。この手の事件は現実起きているし、愚かと笑えない不気味さがある。子どもを亡くした喪失感につけ込まれたら、留美子みたいにならないって保証はないなぁ。
    美海の最後の切り札かと予想していた菜の花畑の思い出に隠された真実に唖然。父親最低。まさかのどんでん返しにもびっくりだった。
    「加害者でもあり被害者」という言葉がこの上なく重く、人生を狂わされてしまった多くの人を思うとやりきれない思いが胸に沈殿していく。なかなかハードな一冊だった。

  • 「みの多い皆川さん」こと皆川美海。その家族が洗脳され壊されていく。
    由衣は、美海の異変にいち早く気づいたのだろう。しかし、その時の由衣と美海の間はぎくしゃくした関係だった。美海は、何かを話しかけようとした由衣を無視した。事件後の美海と由衣との親友関係が修復する描写がほしいところでした。
    怖いホラー・サスペンスでした。

  • 怖かった…ヒトコワがやっぱり最恐だな。
    北九州の事件が思い出されるくらい、徐々に洗脳されて掌握されていく、まさに侵蝕でした。
    ただ、終わり方は意外でした。
    てっきり最悪な終わり方をするのかな〜と思ってたましたが、意外な形で終わりを迎えて、ほ〜んて感じです笑
    やっぱり櫛木理央作品はどれを読んでも面白いです。

  • 本来なら安心できるはずの自宅に赤の他人が棲み着いたら――
    オバケも怪物でもなくて、人間が一番怖い…

  • ずっと重苦しい。
    光は見えない。
    家の中、密室。

    人間誰もが、もっている「孤独感」「弱さ」に、そっと寄り添う、手をさしのべる女。
    少しずつ、確実に心を身体を蝕んでゆく。
    優しく、強く、縛りあげる。

    人の心を簡単に壊せる方法を知っている女にかかれば、皆、彼女にすがりつく。従順になる。

    人間が壊れてゆく描写がとてもリアルで、読んでいてとてもハラハラした。

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著者プロフィール

1972年新潟県生まれ。2012年『ホーンテッド・キャンパス』で第19回日本ホラー小説大賞・読者賞を受賞。同年、「赤と白」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、二冠を達成。著作には「ホーンテッド・キャンパス」シリーズ、『侵蝕 壊される家族の記録』、『瑕死物件 209号室のアオイ』(角川ホラー文庫)、『虎を追う』(光文社文庫)、『死刑にいたる病』(ハヤカワ文庫JA)、『鵜頭川村事件』(文春文庫)、『虜囚の犬』(KADOKAWA)、『灰いろの鴉 捜査一課強行犯係・鳥越恭一郎』(ハルキ文庫)など多数。

「2023年 『ホーンテッド・キャンパス 黒い影が揺れる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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