さいごの毛布 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 862
感想 : 76
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041046074

作品紹介・あらすじ

年老いた犬を飼い主の代わりに看取る老犬ホームに勤めることになった智美。なにやら事情がありそうなオーナーと同僚、ホームの存続を脅かす事件の数々――。愛犬の終の棲家の平穏を守ることはできるのか?

感想・レビュー・書評

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  • 老犬ホームに勤めることになった智美の心温まる成長物語です。同時に周囲の人物をめぐるミステリー要素もあります。近藤さんはミステリー作家だけあって、人間についての洞察が鋭く、心に刺さる言葉に幾度も出会いました。
    智美は成績優秀だが、融通がきかず、人の心の機微がわからない特性を持っています。それ故生き辛さを抱えています。就活に失敗し弁当工場を辞め、住み込みで老犬ホームの仕事を始めます。
    私は幼い頃から今に至るまでずっと犬と暮らしていますので、老犬ホームの犬たちの可愛さといったらありません。でも犬が好きだと逆にすごくキツイ仕事でもありますよね。
    それだけに、智美がオーナーの麻耶子、同僚の碧や犬たちとの関わりの中で人として成長していく姿に共感しながら読み進めました。
    うまく生きられない自分を責め、自分は「砂漠にいる」と揶揄していた智美が「米粒のような幸せを啄みながら生きていくことならできる」「チワワとドーベルマンが仲良くすることはできる」「手に入らなかったもの全てを取り返すことができなくても拾えそうなものに手を伸ばしてみてもいい」と前を向きます。人と犬たちとの関わりから、自分のアイデンティティを取り戻していく姿に、あぁそうだよなぁと智美ならずとも頷いている自分がいました。
    犬は小さな頃から当たり前のように身近にいました。犬といるからこそ与えてもらったものがたくさんあるんだなぁと本作品から気づきました。
    わが子たちもきっと同様でしょう。
    我が家の犬がますます可愛くなりました。

    • みんみんさん
      ちゃたさん♪おはようございます(^.^)
      わたしも子供の頃からずっとワンコと共にです。

      ウチの娘達もワンコ共に育ち、別れを経験しました…
      ...
      ちゃたさん♪おはようございます(^.^)
      わたしも子供の頃からずっとワンコと共にです。

      ウチの娘達もワンコ共に育ち、別れを経験しました…
      現在二代目ワンコとの毎日です( ´ ▽ ` )
      ワンコ生活は幸せですね!
      2022/07/24
    • ちゃたさん
      みんみんさん、おはようございます。

      主人公の成長とワンコの関わりがよく描かれています。ワンコが来て娘も息子もとっても情操が豊かになったと気...
      みんみんさん、おはようございます。

      主人公の成長とワンコの関わりがよく描かれています。ワンコが来て娘も息子もとっても情操が豊かになったと気づかされた作品でもあります。
      息子が大量に飼っているカブトムシにつきましては何の役に立っているかは定かでありません(笑)
      2022/07/24
  • 表紙が可愛くて即購入。
    最近近藤史恵さんにハマりかけてます。今まで読んだのは数冊だけど、どれもどこかで暗い部分がありました。ほっこり系もです。
    表紙が可愛くてもどうせ暗いんでしょ、と思いながら読んでみました。

    主人公の智美は人と関わるのが苦手。そのせいで人生が上手くいってなかった。そんな時に友人の紹介で、犬の最期を看取る老犬ホーム、ブランケットで住み込みで働くことになります。そこにいる犬たちのお世話、犬たちに元気をもらったり、犬の最期を看取ったりして、智美はどんどん強く成長していきます。

    ブランケットに預けられる犬には、様々な事情があります。その事情というのが、人間の身勝手さも含まれます。そこに腹が立ちました。でもイライラしてても、犬たちの可愛い仕草に私は癒されました。読んでて犬たちが智美を慰めている光景が頭に浮かびます。犬も気持ちがあります。人間が困ってる時、寄り添ってくれます。そういうのにキュンときます。

    物事は一方向から見てはいけない。色んな角度から見ないと、真実は見えてこない、ということを学びました。


  • ☆4

    犬の最期を看取る「老犬ホーム ブランケット」が舞台の物語。
    ブランケットに犬を預ける人達の理由は様々で、中には許し難い身勝手な理由もありましたが、それでも健気に飼い主のお迎えを待ち続けている犬達の姿に胸が締め付けられる場面もありました。
    辛くなる場面もあったのですが…ブランケットのオーナーである麻耶子さんの言葉は心に響くものがたくさんあり、主人公である智美の成長も感じられて、とても心温まる物語でした。
    他にも近藤史恵さんの作品で、犬が出てくる作品があるとのことなので、そちらも読んでみたいと思います。

  • 目に見える事実が全てじゃない。

    老犬ホームを舞台にしたこの『さいごの毛布』という小説は、そのことを改めて気づかされた小説でした。

    老犬ホームとは様々な事情から飼えなくなった高齢の犬を、飼い主に代わり世話をし最期を看取る施設。人付き合いが苦手な智美は友人の勧めもあって、そこで働くことになります。

    施設運営の様子は現実的かつビター。自分で飼い犬を保健所に送るのはイヤだからと、施設の前に犬を置いていく飼い主や、子どもに犬の死ぬ姿を見せたくないと施設を利用する飼い主に智美は憤り、犬に同情や感傷を寄せます。
    一方で施設のオーナーは料金をもらっている以上、従業員が飼い主に憤ることは許されないと、智美を叱り、ただで犬を置いていこうとする飼い主にも毅然と対応し、犬への同情を抑えようとします。

    理想だけではどうにもならない、犬たちと老犬ホームの運営状況。暗い話ではありますが、脳天気に理想論だけで話を進めるのでなく、地に足をつけて身勝手な飼い主や、その犬の状況を描くのは、ある意味真摯に犬と向き合っているからだろうと思います。
    近藤史恵さんって定期的に犬の出てくる小説を書かれてるイメージなのですが、たぶん思うところは色々あるのだろうなあ。

    ホームの犬たちの描写は、どこか微笑ましくも感じられます。とにかく人懐っこい犬もいれば、元気すぎたり、臆病だったり、なかなか心を開いてくれなかったり、そうした犬たちの個性をかき分けているのがすごい。
    読んでいて、老犬ホームや出てくる犬たちは単なる舞台装置やギミックでなく、登場人物たちと同じように、生きていて日々変化していく存在なんだ、と感じさせられるのです。

    一方で飼い主たちにもそれぞれの事情があることも描かれていき、老犬ホームに預けること=愛がない、責任を取っていない、と言い切れないことにも、智美は気づいていきます。犬は最期まで飼い主といた方がいいと思いつつも、最期が近い犬を預かる老犬ホームで働くことで生活している、自分という矛盾。そして訪れる別れ。

    こうした微妙な感情や倫理の揺れ、犬たちの悲哀や悲しい出来事も真っ直ぐに描かれていてとても丁寧。そして犬たちと飼い主たちのそれぞれの在り方が、智美をはじめとした従業員たちの物語に反映されていくのも、本当に良く出来てる。

    家族と疎遠になり、住み込みで老犬ホームに勤めることに抵抗のない智美。同僚の碧の男性関係の描き方。そして施設のオーナーである摩耶子の過去。
    それぞれに愛や絆で揺れる人間関係の葛藤があり、それが老犬ホームの犬たちの事情と呼応するのです。人であっても犬であっても、愛や絆に飢えて孤独を抱えるのは、一緒なんだなと感じます。そう思うと、犬を飼ったことのない自分も、出てくる犬たちが愛おしく見えてくるのです。

    犬たちの描写が丁寧なのは先にも書きましたが、中でも智美が引き取ることになったララという小型犬が、智美に徐々に心を開いていく過程の描き方が本当に丁寧。
    著者の近藤史恵さんが智美とララ、傷を抱えたそれぞれに優しい視線を注いでいるのが感じられます。そして智美とララの関係性が少しずつ変わっていくのが、暗い話の多い物語の中で、希望として自分を引っ張っていってくれたように思います。

    施設の周りをうろつく不審な男、そうしたサスペンス要素も含みつつのラストへの展開は、緊張感があって良かった。そして全てが明らかになり、登場人物たちがそれぞれに新しい一歩を踏み出す様子は爽やか!

    重たい内容をはらんではいますが、文章は読みやすくて読後感はどこか温かく、そして優しい。登場人物たちと犬たちのその後についても自然と考えてしまう、良作だったと思います。

  • 愛犬を老犬ホームに入れるのは、さまざまな事情を抱えた人たち。
    一片だけを見れば人間の身勝手さに怒りを覚えるが、それはあくまで一側面でしかなく、世界はもっと複雑で、幸運な人の裏には必ずと言っていいほど不幸な人がいる。

    でも犬たちは、将来どうなるかなんて考えずに「昨日も一緒に居てくれたから、明日も一緒にいたい」という一心で飼い主を思う。

    寿命が違うから、考えるスケールが違うのも当たり前で、すれ違いを生むことはあるだろう。
    それでも不器用にお互いを思い合う飼い主と犬たちの姿に涙を流さずにはいられませんでした。
    人と人も同じ。1番思っている相手に、中々その思いはまっすぐ伝わらないんだなぁと思いました。

    犬の様子を描くのが本当に上手で、犬好きなのかな、と思いました。犬の様子が書かれている部分は「犬かっっっわいいい」と思いながら読みました。

    犬好きの友人にはお薦めできないですね。(笑)

  • 問題や気になる事の答えを焦らせて先延ばしにする書き方に、イライラさせられた。ミステリーじゃないのだからって。老犬ホームの経営者の人の考え方も、共感できなかったなあ。

  • 老犬ホームに就職した、引っ込み思案で頑固な女の子の話です。
    大事件は起きずに淡々と進んで行きますが、犬のいじらしい姿が目に浮かんで、読んでいてとても優しい気持ちになります。
    人間のギスギスした部分と、犬のひたすら飼い主を追い求める姿が対比されます。
    犬の姿が可愛らしくて、作者の近藤さんの犬への優しい目線が感じられます。これはわざわざ言うまでも無い事ですけど、飼い主の心理状態にとても敏感なんですよね。それがとてもよく描かれています。
    成長物語なのですがほぼ犬を愛でる小説と言っても過言ではありません。続編読みたいなあ。

  • こういう仕事があるんだね。犬みたいに感情を素直に出せると楽だろうなあ

  • とても面白いお話でした。
    人づきあいが苦手で超ネガティブな主人公の智美が、犬たちや老犬ホーム「ブランケット」の麻耶子と碧とのかかわりの中でだんだん頼もしくなっていく様子が、大げさでなくちょうどいい傾斜の坂道を上るような感じで描かれていてよかったです。碧の謎めいた行動や、ブランケットに出入りする便利屋の灰谷とブランケットの周りに出没する怪しい男など、サスペンス要素もちりばめられていて、先が気になってあっという間に読んでしまいました。
    老犬ホームが舞台の物語だけに、身勝手な人間たちに怒り、犬たちとの哀しい別れに涙…という話かと思いきや、しっかり人間ドラマでした。人にはそれぞれ事情があり、なんでも白と黒で決めつけることはできないということを、若い智美が学んでいくストーリー展開が優しい。いつも素直な犬たちの姿も愛らしく、読みながら、そして読んだ後もブランケットの犬たち同様老境に入った愛犬をやたらと構いたくなってしまいました。

  • スーツケース一つを持って、老犬ホームに住み込みで働く事にした智美は人との付き合いが苦手だったが犬達にはそんな事は全く関係ない。
    犬の一途さが物凄く尊い。

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著者プロフィール

1969年大阪府生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。1993年『凍える島』で「鮎川哲也賞」を受賞し、デビュー。2008年『サクリファイス』で、「大藪春彦賞」を受賞。「ビストロ・パ・マル」シリーズをはじめ、『おはようおかえり』『たまごの旅人』『夜の向こうの蛹たち』『ときどき旅に出るカフェ』『スーツケースの半分は』『岩窟姫』『三つの名を持つ犬』『ホテル・カイザリン』等、多数発表する。

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