花精の舞

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 57
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041046340

作品紹介・あらすじ

能楽家の娘として生まれた綾は、女ながら能楽師になりたいと志す。東京からロンドン、そしてパリへ──。美を追い求め、舞を追い求めて、明治・大正・昭和の時代を生き抜いた女性の、華麗なる大河小説!

感想・レビュー・書評

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  • 時は明治時代、能楽の家に生まれた綾、そして、二人の優秀な男性。三人で過ごす青春。綾はその一人と結婚しヨーロッパに行き、パリにて出会う公爵夫人と美の世界に浸る。美を求めた綾のお話。その時代の美しさは素敵さを感じ、そしてお金を持つ人の感覚にも驚いた。美への追求、姿勢、他人不寛容は美しく良かったけれど、全体的には薄さを感じたかな。女性が書くとまた違ったかなと。

  • 2019 2

  • 今年の春先に表紙に一目惚れして購入し積んでいたもの。
    ふととてもきになり、一気に読んだ。

    美について。
    不寛容について。
    昨今、とても生きにくいなと思う。
    スマホを手にしてからは余計にそう思う。
    たくさんの情報が押し寄せてくる。ように思うが、見るサイトは限られており、ニュースサイトであっても声高な記事ばかりが目に入り、嫌な疲労ばかりが残る。
    あるべき姿、正しいあり方ーーいろんな意見が混沌と出されているようで、実は一点が突出し正義とされていくことに息苦しささえ覚える。
    まさに不寛容の世の中だ。
    最近、そんな社会で生きていくのがとても怖く感じる。

    しかし、本編を読んでいるときの私は、綾の行動に苛立ちを覚え続けていた。
    我々の代弁者であり、美の世界を理解しうると見込まれた、いわば橋渡し的役割を担う編集者が、疑問を素直に比丘尼にぶつけていってくれる。
    それでも、やはり違和感は拭えない。
    特にパリでの生活の自由さときたら!!

    嫉妬もあるのだと思う。
    なぜこうも自由に己のやりたいことにまっすぐに突進できるのか。
    そのわがままを、なぜよしと己に許せるのか。
    その根底に、幼い頃から追い求め、能で実現しようとして挫折した美への憧れ、追究心があることはわかっている。
    しかし、普通なら、常ならば、しかもこの時代の女性であるならば、このようなふるまいが許されるものではないはずなのだ。
    と、あれほど現代社会の閉塞感に窒息しそうになっているくせに、どうしてもそう思ってしまうのだ。
    まさにそれが作者の意図するところなのだろう。
    まんまと陷穽にはまった気分だ。が、乗ってやろうと思えてしまう。
    それがこの物語を楽しむ方法だ。

    さらに、侯爵夫人の浪子ときたら、更に自由だ。
    そもそも、侯爵家の財力はもとより、綾の夫の財力も、高見の財力も、普通じゃない。
    私からすれば羽衣の天人の世界だ。
    その財力と地位あってこその、自由だ。
    そして舞台はパリ。
    夫人でさえも愛人を持ち、夫はそれを寛容する。
    マリーアントワネットの時にも読んだが、それがパリの社交界というものだ。
    そこに日本人が当てはまっていく異様さ。
    そう、異様と感じてしまうのだ。
    モード雑誌の表紙の話がなければ、さらにパリ上流階級と日本上流階級が雲の上過ぎてついていけなくなったことだろう。
    しかし、ここまで読んでしまうと、もはや先が気になって仕方ない。

    そもそも、質素倹約のイメージの寺の比丘尼の昔語りなのに、三角関係に衆道、話の合間に戻る昭和の寺での食事も質素に見えて贅が尽くされている。
    両極端が混在している状態から発展しての、欧州編なのだ。

    しかし、その違和感や許せなさ、嫉妬も、日本に戻ることになって綾が自分の道を見つけ邁進しはじめたところから、下地として必要な経験と時間だったのだと認めざるを得なくなってくる。

    本当に心憎い。

    彼女は自分がしっかりあって、自分の追い求めるものを早くに見つけ、手段を体得していた。
    だから、周りになど惑わされずに進むことができた。
    他人の評価に惑わされるタイプではないからこそ、あれだけ強く、それこそ帯にあるように凛と生きることができたのだ。
    一度はパリに来た直後に夫に謝りたいと言っているが、そこも浪子に諭されて、その後は感謝だけを伝えるようになっている。
    彼女は完全にぶれなくなったのだ。

    もし本当に実在していれば、周囲の嫉妬や足の引っ張り合いなど、もっとどろどろとした展開にもなりそうなものだが、当時なら競合する女性もいなさそうだし、商才豊かな夫の守りもあったのだろう。
    何より、美の貿易を行うための彼女の努力と才能は何人をも黙らせてしまったことだろう。

    青春から壮年期の青き輝きは、やがて戦争の暗雲に覆われてしまう。
    夫ももう一人の大切な友も失い、妹も失い、それでも彼女はたくましく人生の舵を切っていく。

    夫伊織の父が亡くなった直後に得た悟りが、彼女の中にも生きているのではないかと思わさってくる。

    あの世とこの世を往き来する幽玄を表す能。
    最後に年を経て女を越えた境地となった綾が舞う能は、すべての深みが詰まっていた。

    最後になるが、この本で一番心に刺さるフレーズはごくごくはじめに出てきた。

    p16-17
    「『心は自由よ』(中略)どんな人間も状況は選べない。選べない状況を心が勝手に幸福としたり不幸としたりするだけ」
    「どんな人間と状況は選べないけれど態度を選ぶことはできる。どんな悲惨な状況でも清々しい態度を撮ることは選べる。(中略)状況に縛られている心も態度で変わる。態度に心は必ずついてくる」
    これ、なかなかできないんだ。難しいんだ。
    自分の心がぐじゃぐじゃしてる時、整理をつけて顔を上げ背筋を伸ばすのは難しいんだ。

    「次に、どんな大変な状況に陥っても『面白くなってきた!』と思えと。自由な心をつまらぬ状況に支配させてはいけない」
    スキーで絶壁のこぶ斜面降りる心持ちですね。
    逃げたくなる恐怖心で及び腰になると転んで滑り落ちて大ケガをする。
    恐怖心を押さえ込んで、前のめりに立ち向かうことで事なきを得ることができる。
    わかっていても難しいんだ……。

    「心は自由だと分かれば死ぬまで機嫌よく暮らすことができる」
    田辺聖子の「老いてこそ上機嫌」を思い出しました。
    自分の機嫌を自分でとるのって難しい。

    さて、美しい装丁に心惹かれて手にとりましたが、想像以上に濃い作品でした。

    ちなみに、いかにも女性作家が書いたような表紙でしたが、著者はどうやら男性で、過去の作品も経済系の骨太そうなものばかり。

    まさに能の世界だなと思いました。
    女が女の人生書いたら、こんなにきれいにはまとまらない。
    なんとも無駄のないきれいな作品でした。

  • 能楽家の娘として生まれ女ながら能楽師になりたいと志した比丘尼こと綾の語る、東京、ロンドン、パリで明治や大正を過ごした若き日々の回想。三姉妹の次女として才媛へと成長し、親友同士である学生の片方と結婚するもドロドロはせず、全体が水で綺麗に薄めたみたいに内容は薄くないのにさらさらして心地好かった。

  • 上品で優雅な昼メロにありそうなストーリーでした。信念を貫くのも心の強さだとも思いますが、お金に不自由しない人たちだから、こういう生き方ができたのだと思います。この作者さんは初めて読みますが、経歴が異色ですね。一流大卒後、ファンドマネージャーとして活躍し、金融系の小説がドラマ化されてるって。

  • 美しく、謎めいた比丘尼が語った、その生涯とは。
    明治、大正、昭和の時代を、富裕層の目から、美しく描いく。
    まっすぐな主人公には、清らかな美しさがあった。
    美しいものを愛し、美しいもののために生きる女性たち。そしてそんな女性たちを愛する男たちが、まわりを取り巻いていく。
    美化され過ぎるきらいはあるものの、優雅で、華やかで、美しい世界。

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著者プロフィール

一九五九年、大阪府生まれ。一橋大学法学部卒業後、農林中央金庫、野村投資顧問、クレディ・スイス投資顧問、日興アセットマネジメントなど国内外の金融機関でファンド・マネージャーとして活躍する。著書に「銭の戦争」シリーズ、『ダブルエージェント 明智光秀』『ディープフィクサー 千利休』『能楽師の娘』『黄金の稲とヘッジファンド』などがある。

「2021年 『メガバンク全面降伏 常務・二瓶正平』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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