新怖い絵

  • KADOKAWA
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感想 : 70
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  • 本 ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041046425

作品紹介・あらすじ

「怖い絵」シリーズの大ヒットで知られる中野京子が、満を持して刊行する新刊。モネ、ミレー、シャガール……誰もが知るきれいな名画に、まさかこんな怖い物語が潜んでいたとは……。

感想・レビュー・書評

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  • 漫然と絵を見ていただけでは分からないことを、この本をたくさん教えてくれる。絵に描かれた情景の意味、背後に隠された意味、作者の思い・事情、モデルの運命までも語ってくれる。絵に隠されたことをこれだけ知ってしまうと、確かに怖い怖い。この怖さは、人間の情念・欲望・運命の怖さなのだろう。生きることはなんと辛いことよと嘆息してしまう。そんなことを思わせるのが名画たるゆえんかもしれない。中野京子さん、上手い、上手すぎる。そして博識だ。
     フリーダ・カーロ「折れた背骨」
     ミレー「落穂拾い」
     フラゴナール「ぶらんこ」
     バルデス・レアル「世の栄光の終わり」
     ジロテ「眠るエンデュミオン」
     ドローネー「ローマのペスト」
     ティツィアーノ「パウルス三世と孫たち」
     ミレイ「オフィーリア」
     モネ「死の床のカミーユ」
     ブラウン「あなたの息子を受け取ってください、旦那さ  ま」他
    モネとブラウンの絵が特に怖い、恐ろしい。



  • 中野京子さんの本はハズレがなく安心して読める

    見るからに「怖い絵」はもちろん、何故これが「怖い絵」なのか全く分からない作品もある
    全20作品

    意外だったり、備忘録しておきたい作品のみをピックアップ

    ■ミレー「落穂拾い」
    日本人に人気で有名な作品だ
    落穂拾いというのは貧しいか農婦たちが、刈り取られた畑に勝手に入り、おこぼれに預かっている姿を描いている
    遠くの方で馬に乗って見張っているかのような役人らしき姿もある
    旧約聖書において、畑から穀物を刈り取るときは刈り尽してはならい…貧しいものに残しておきなさい…とあるそう
    ここまでは理解していたが…
    ところがこの作品を「怖い」と思う人達がいたのだ
    1849年刊行されたマルクスの「共産党宣言」
    この時代に次第に広く影響を与え出した共産主義である
    これにより、上流階級は、下層労働者の下克上を恐れた
    持てる者達の不安、不満がミレーの作品が変革の主張だと誤解して恐れられたのである
    飛んだ災難だが、そんな勘違いを理由に後世愛され続ける作品が潰されなく済んだのは幸いである



    ■フラゴナール「ぶらんこ」
    見たことはあるが詳細を全く知らず…
    いかにもフランス貴族風の若い女性がぶらんこに乗っている
    履いているミュールの片方が宙へ舞い、スカートが揺らめく
    同じくフランス人らしき若い男が下から手を差し出しながら女性を見つめる
    中野氏の解釈によると、恐らく下着をつけていないスカートの中を見ながら興奮しているとのこと!
    なかなかメルヘンチックな色彩感だが、実はエロティックな作品であった
    そして何が怖いか…
    この作品にもう一人の人物が…
    その人物は初老で存在感が薄く女性の後方におり、ぶらんこを揺すっている
    よく見ると微笑んでおり、まるで二人の関係を祝福しているかのようだ
    そのため、てっきり女性のお付きの人かと思いきや…なんとなんとこの女性の夫なのである!
    この時代は1760年代末
    当然結婚は政略結婚である
    正妻の産んだ子のみが跡継ぎだ
    夫婦は跡継ぎを産む契約を交わしたに過ぎない
    そしてここからがフランス特有である
    男の浮気はもちろん、なんと女性の浮気も見て見ぬ振りをされたそう!
    そのため、嫉妬など野暮なことはもってのほか!
    ああ恐ろしい…
    そんな時代背景から面白がって誕生したこの作品
    中野氏の「主題が下品でも優雅に見せるのがフラゴナールの腕」という意見に納得の作品だ



    ■シャガール「ヴァイオリン弾き」
    シャガールの絵が全く好みでなかったため、シャガールに対する知識がゼロ
    もちろん初見の作品
    色使いや絵のバランス感覚が見事だ
    寒そうな季節を感じるものの、暖かみを感じる不思議な作品だ
    とても気に入ったのだが…

    ここで初めてシャガールがユダヤ人であることを知る
    ベラルーシのユダヤ人強制居住区に生まれる
    家は極貧で血族に社会的成功者はいない
    激動の時代に翻弄された画家であった

    この作品は中野氏の解説がなかったら理解できない
    ロシア革命に至る時期、ユダヤ人に対する集団的脱略や虐殺が繰り返される
    恐ろしいことに各地で頻発するにつれ、政治性を帯びて組織化される
    このヴァイオリン弾きは圧政に負けぬ不屈の魂の象徴なのか…?
    そしてこの不思議なつ魅力的な作品の恐ろしさは、雪の上の足跡だ
    ユダヤ人の家を目指す足跡、そして出てきた足跡…その出てきた足跡の一つは鮮血を踏んだごとく真っ赤なのだ
    奥深い作品だ
    シャガールの作品に今後注目していきたい
    中野氏に感謝



    他にも、興味深く素敵な作品や、意外な内容の作品がたくさんある

    毎度のことながら中野さんの本は、解釈が奥深く、絵画の世界を広げて下さり、興味が尽きないものだ

  • 人気シリーズ「怖い絵」の新作。絵そのものより、描かれている内容の社会情勢、災害や疫病、画家の極端なエゴイズムなど、恐ろしい歴史や人間性を読み解く。本作では画家自身の解説が多い。

    気に入ったのは、「世の栄光の終わり」、「ジュデッカ」、「鰯の埋葬」。

  • 私にとって中野京子さんの本21冊目となります。

    中野京子さんはすでに『怖い絵シリーズ』4冊出版されました。

    怖い絵
    怖い絵2
    怖い絵3
    怖い絵で人間を読む

    これで終了の予定だったのですが、
    「もっと読みたい」とファンからの声がたくさん届き
    今回この本の出版となったそうです。

    しかも来年、神戸と上野で〈怖い絵展〉が開催されることが決まったんですって!

    私は中野京子さんの本を読んだことで初めてのヨーロッパ旅行を決心
    行く直前に関連個所を再読しました。

    ヨーロッパの美術館めぐりがとても楽しめたことは言うまでもありません。

    来年どんな作品が来日してくださるか、
    とてもとても楽しみです。

    もちろん、今回の『新怖い絵』も、すべてとても面白かったです。

    さて、気になってもやもやしているのは

    1 いつもどおり「タケへ」

    2 そして作品16『死の床のカミーユ』で
    「カミーユとアリス。ふたりのうちどちらを、モネはより深く愛していたのか。愚問だ。」

    http://nagisa20080402.blog27.fc2.com/blog-entry-373.html

  • ミレー『落穂拾い』、フラゴナール『ぶらんこ』、ミレイ『オフィーリア』は見たことある作品。モネ『死の床のカミーユ』、カラバッジョ『洗礼者ヨハネの斬首』は、作者は知ってるが、作品は知らなかった。どの作品にもドラマや背景がある。しかも濃く。連続殺人犯ゲイシーの自画像は、文章を読んで見返すとゾゾっとしたし、ブラウン『あなたの息子を受け取ってください』は、絵を見ると気味が悪かったけど、画家と妻のあらましを知るとちょっとほっとした。

  • いやー、面白かったです。ここに収録されているのではない、「泣く女」編の表紙である、レディ・ジェーン・グレイの処刑の話を読みたくて借りてきたのですが、まさか怖い絵シリーズが全部で四冊もあるとは思わず。自分の無知が恥ずかしい。
    早めに全作取り寄せたいですね。
    ちょっと前の笙野頼子さんの作品でも書きましたが、今はもう辞めてしまった職場に就職した頃から本が読めなくなりまして。簡単な本、イラストが多い本なんかは読めたのですが、まだまだ集中ができない。長いことうんうん唸っていたのですが、そろそろ泣き言も言ってられないと手にとってみて正解だった。
    まだ多少集中は途切れるし昔より速く読めないけれど、これで充分。
    絵画を読み解くとはその絵画の背景や衣服の細かいつくり、歴史や当時の宗教背景などもきちんと知らないと書けないのだな、と作者さんの教養の広さにため息が出た。なのに、文章は読みやすく、哀切に満ちて、そしてどことなく美しい。
    最初に紹介されていたのが「折れた背骨」だったのがより私を引き込んだ。あちこちに釘が刺され身体の中央を引き裂かれ背骨は折れた。目には涙。つながった眉。口ひげまで描かれている。ヨーロッパの絵を思い浮かべていたのでこれは?と一気に疑問が沸く。
    そして描かれるフリーダの悲しい人生。なのにそれでも負の感情を自画像にぶつけ続けた、なんと呼んでいいのかわからない複雑な感情に圧倒された。この章だけ全文引用したいくらいには。
    今度この怖い絵シリーズの展覧会が行われるらしくてとても楽しみですが職なしの身ではどこまで行けるやら。

  • 女性の立場の辛さを描いたものも
    数多く 紹介されていて
    「あなたの息子を受け取ってください、旦那さま」
    なんて もうめっちゃ怖い絵ですね
    絵画に意味を求めて
    裏の裏を知る見方は
    芸術としては邪道かもしれませんが
    とても面白いと思いますし
    描いた方も それを見越して
    描いていた時代だったと思います

  • 一枚の絵が
    中野京子さんのお話し(文章)の前と後では
    見方ががらっと変わって見える
    これが「怖い絵」シリーズの醍醐味ですね

    よく見知った「絵」も
    あまり知らない「絵」も
    よくわかった気にさせてもらえる
    これも「怖い絵」シリーズの読み方です

    何回もついつい読み込んでしまう
    それが「怖い絵」シリーズの楽しみです

  • 一枚の絵画の背景にある文化、歴史、画家自身の人生、依頼主の人生を解説しながらその絵を鑑賞する手引きとなる一冊。「新」とあるとおり、同様の本を数冊すでに著者は出版している。
    今まで私は「絵画」そのものを何となく印象に残る作品である、また心に深く突き刺さるといった感覚で鑑賞してきた。このシリーズを始めて読んだが、これを読むと1枚の作品にもそれにまつわる時代背景や画家の人生等いろいろな要素が複雑に絡み合い出来上がっているとわかる。私の知らない画家やあまり一般には知られていない画家の作品も含め、このように解説をされるとただ「絵」そのものを観るのとは違う感動を覚える。また著者の文章はまるでドラマや小説を読むようでそのストーリーに引き込まれていく。
    「絵」そのものだけで鑑賞する方法、その絵の背景を知り鑑賞する方法、鑑賞方法にはいろいろあり、それぞれに違った面白さがあることを発見した。

  • 新 怖い絵
    中野京子

    ∞----------------------∞

    表紙はミレイ『オフィーリア』

    ただ絵を見ているだけでは分からない、この絵が書かれた時代背景や作者のことを知ることで、また違うものが見えてくる。自分だけで鑑賞するとなるとそうはいかないが...

    初っ端のフリーダ・カーロは人生が波乱すぎてビックリだったし、自分の壊れた身体の表現力もすごいと思った。
    「ぶらんこ」はアナと雪の女王の1シーンに使われていたらしい。
    アーサー・C・クラーク「幼児期の終わり」は読んでみたい。
    1つ画家じゃない人の作品としてジョン・ウェイン・ゲイシーのピエロ。彼は連続殺人鬼だった。スティーブン・キングの「IT」に出てくるピエロは彼がモデル。
    「パウルス三世と孫たち」は以前「パウルス三世と甥たち」と訳されていた。聖職者になる前のことは咎められず、結婚さえしなければ…、であったり大っぴらにしなければ子供は作れた様子。ヌードではなくヴィーナス。本音と建前とはこれのこと。
    「オフィーリア」はシェイクスピア「ハムレット」のオフィーリア最期の様子。とても綺麗な絵画だが、この後に亡くなるというシーン。美と死の合体。このモデルの女性にも不幸があった。
    「テルモピュライのレオニダス」は裸の男のみで、同性愛がしっかりと描かれている。

    フリーダ・カーロ『折れた背骨』
    ミレー『落穂拾い』
    フラゴナール 『ぶらんこ』
    バルデス=レアル 『世の栄光の終わり』
    ジロデ『眠るエンデュミオン』
    シャガール『ヴァイオリン弾き』
    ブグロー『ダンテとウェルギリウス』
    ドレ『ジュデッカ/ルシファー (『神曲』地獄篇〈第34歌〉)』
    フリードリヒ 『ブナの森の修道院』
    ドローネー『ローマのペスト』
    ゲイシー『自画像』
    ティツィアーノ 『パウルス三世と孫たち」
    ミレイ『オフィーリア』
    ダヴィッド『テルモピュライのレオニダス』
    レーピン『思いがけなく』
    モネ 『死の床のカミーユ』
    マルティノー 『懐かしい我が家での最後の日』
    カラヴァッジョ 『洗礼者ヨハネの斬首』
    ブラウン 『あなたの息子を受け取ってください、旦那さま』
    ゴヤ 『鰯の埋葬』

    2025/03/04 読了(図書館)

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著者プロフィール

早稲田大学、明治大学、洗足学園大学で非常勤講師。専攻は19世紀ドイツ文学、オペラ、バロック美術。日本ペンクラブ会員。著書に『情熱の女流「昆虫画家」——メーリアン』(講談社)、『恋に死す』(清流出版社)、『かくも罪深きオペラ』『紙幣は語る』(洋泉社)、『オペラで楽しむ名作文学』(さえら書房)など。訳書に『巨匠のデッサンシリーズ——ゴヤ』(岩崎美術社)、『訴えてやる!——ドイツ隣人間訴訟戦争』(未来社)など。

「2003年 『オペラの18世紀』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中野京子の作品

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