かわうそ堀怪談見習い

  • KADOKAWA
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感想 : 40
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041048313

作品紹介・あらすじ

わたしは「恋愛小説家」と肩書きにあるのを見て、今のような小説をかくのをやめようと思った。恋愛というものにそんなに興味がなかったことに気づいたのだ。これからなにを書こうか。環境を変えるため、三年住んだ東京を離れ、中学時代に住んでいた区の隣り、かわうそ堀に引っ越した。そして、考えた末に怪談を書くことにした。そう決めたものの、わたしは幽霊は見えないし、怪奇現象に遭遇したこともない。取材が必要だ、と思い立ち、たまみに連絡をとった。中学時代の同級生・たまみは、人魂を見たことがあるらしいし、怖い体験をよく話していた。たまみに再会してから、わたしの日常が少しずつ、歪みはじめる。行方不明になった読みかけの本、暗闇から見つめる蜘蛛、こっちに向かってきているはずなのにいっこうに近くならない真っ黒な人影、留守番電話に残された声……。そして、たまみの紹介の商会で幽霊が出るとの噂がある、戦前から続く茶舗を訪れる。年季の入った店内で、熊に似た四代目店主に話を聞くと、絶対に開けてはいけないという茶筒、手形や顔が浮かぶ古い地図があるという。そして、わたしはある記憶を徐々に思い出し……。わたしの日常は、いつからこんなふうになっていたのだろう。別の世界の隙間に入り込んでしまったような。柴崎友香が、「誰かが不在の場所」を見つめつつ、怖いものを詰め込んだ怪談作品。

感想・レビュー・書評

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  • つま先がひんやりの一冊。

    これはなかなか好みの世界観。
    怪談小説家へと転身中の恋愛小説家が、周りや自分自身の日常の不思議体験を集めて綴っていくというストーリー。

    全身じゃなくて、つま先ちょんと水に浸したようなひんやり感がいい感じ。 

    ごく普通の日常に紛れ込んだ違和感はまるで不思議と怪異の合いの子みたい。

    はっきりと怪異と断言できないどっちつかずの取り残され感の連続を楽しめた。 

    電話に残されたメッセージといい、家の中での日常にまつわるゾワリは一番効くかな。

    あくまでも見習い中という、怖さのゆるさを感じるこのタイトルも好き。

  • 柴崎友香、いいね。これもよかった。内田百閒みたいな、と言ったら褒めすぎか。
    恋愛小説家と言われるのがしっくりこなくて、怪談小説家になろう、というのもかわいらしい。
    そう、かわいらしいのよ。文体が。
    日常の裂け目からにじむ怪がおかしみの中から浮き出してきて怖い。あとからじわじわ怖い。

  • 恋愛小説を書くのをやめ、怪談を書くことにした小説家。
    その取材の時に聞いたり、自分が体験した何だか不思議な話の数々。
    幽霊が現れてギャーというより、ジワジワ忍び寄ってくる怖さ。
    そして不思議なまま終わった。

  • 大阪を舞台にした怪談(よね)
    ゾワゾワーとする怖さ
    エッセイのような文体 淡々と
    でも着地点がはっきりしないので………
    読み終わって困ってしまいます
    自分の中でストンと落ちなくって
    そこが習いなのでしょうが
    せめて鈴木さんだけでも教えて下さい

    ≪ どこにでも つながる道が 異界へと ≫

  • こういう不思議なお話大好き♪
    自分自身をモデルにしているようなしていないような、そういう曖昧さが一層本当の話らしくみせていると思う。
    お茶屋さん、行ってみたいわ。
    近所の人たちとのお花見も。人と接するって面白いことをいくつも発見することなんだろうね。

  • 柴崎友香が書く怪談、という余計な先入観を持たないように読むと、そこにあるのはいつもの優れた動体視力。周囲をさっと掴み撮る作家の視線。この人はどこまでも他人に興味があるのだな。どんな行きがかりでそこにいるのか、どうしてそんなことを言うのか。すっかり判ることなんて決してできないけれど、何故の先にはほんの少し見えるものもある。その行ったり来たりが読んでいて楽しい。これが怪談であるかどうかは気にならない。そもそも、以前から柴崎友香は場所に附随する重層的な時間の重なりに強く惹かれていると公言していたし。今までだって場所にまつわる話を書いていた訳で。考えてみればそんな作家が怪談めいたものを書いたとしても少しも不思議ではない。

    そして、この本はもちろん小説なのだけれど、主人公に語らせる価値観が作家の価値観と重なり合い、少し変わったスタイルのエッセイのように読めるところもある。主人公が小説家であるのでその印象はより強くなるのだが、例えば小説の中で波瀾万丈色々起こることをよしとしない、と作家が主人公に語らせる時、どうしたって柴崎友香のこれまでの作品のことを思い浮かべてしまうように、物語の流れとは直接関係の無さそうなことに思わず聞き入ってしまう。もちろん、そういう価値観も含めてこの作家を気に入っているのではあるけれど。

    全ての意味は文脈の中にしか存在しない。何処かで聴き覚えたアフォリズム的な言明を自分は意外と真実だと考えている。だから柴崎友香が執拗に辺りの景色を描写したり、さっきと今とこれからの違いに拘って書くことに強く共感する。結局のところ、人もまた文脈の中でしか生きていけないのだから。他人に対する興味は翻って自分自身の意味を探すことへの執着を意味するものなのかも知れない。

  • あまり好みではなかった。その割に怖いし。

  • 自分の肩書きが「恋愛小説家」となっているのを見て、考えた末に怪談を書くことにした小説家の話。『文藝 2021年秋季号 特集 怨』の作品ガイドから興味を持ち、図書館で借りた。
    前半はちょっと不思議、なんか不思議、ぐらいの話なんだけど、後半では結構不穏な話もある。でも具体的に事象や怪異が現れるわけではない。

    恐い話系の本の紹介を見て興味を持ったけど、著者の柴崎友香さんは『寝ても覚めても』を書いた人なのか。と知ってからは著者自身を主人公に重ねながら読むことになった。

    藤野可織さんのエッセイ集『私は幽霊を見ない』と続けて読んだのも、なんかよかった。幽霊を見たことがなく、怪奇現象に遭遇したこともない小説家、という部分が共通。

  • じっくりと堪えて種をまく前半部が効いています。

  • ミニコメント
    「恋愛小説家」から「怪談作家」へ転身すると決めた主人公。わたしが見ているものとは何か。私たちがいる世界とは何か。

    桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/book/603162

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著者プロフィール

柴崎 友香(しばさき・ともか):1973年大阪生まれ。2000年に第一作『きょうのできごと』を上梓(2004年に映画化)。2007年に『その街の今は』で藝術選奨文部科学大臣新人賞、織田作之助賞大賞、咲くやこの花賞、2010年に『寝ても覚めても』で野間文芸新人賞(2018年に映画化)、2014年『春の庭』で芥川賞を受賞。他の小説作品に『続きと始まり』『待ち遠しい』『千の扉』『パノララ』『わたしがいなかった街で』『ビリジアン』『虹色と幸運』、エッセイに『大阪』(岸政彦との共著)『よう知らんけど日記』など著書多数。

「2024年 『百年と一日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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