不在

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 381
レビュー : 59
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041049105

作品紹介・あらすじ

長らく疎遠だった父が、死んだ。「明日香を除く親族は屋敷に立ち入らないこと」。不可解な遺言に、娘の明日香は戸惑いを覚えたが、医師であった父が最期まで守っていた洋館を、兄に代わり受け継ぐことを決めた。25年ぶりに足を踏み入れた錦野医院には、自分の知らない父の痕跡が鏤められていた。恋人の冬馬と共に家財道具の処分を始めた明日香だったが、整理が進むに連れ、漫画家の仕事がぎくしゃくし始め、さらに俳優である冬馬との間にもすれ違いが生じるようになる。次々現れる奇妙な遺物に翻弄される明日香の目の前に、父と自分の娘と暮らしていたという女・妃美子が現れて――。愛情のなくなった家族や恋人、その次に訪れる関係性とは。気鋭の著者が、愛による呪縛と、愛に囚われない生き方とを探る。喪失と再生、野心的長篇小説!

感想・レビュー・書評

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  • 読み始めたら止まらなくなり、一気読みしてしまった。決して読みやすい内容ではないのに、むしろ読み進めるのが苦しいほどなのに。作品の力強さに絡め取られた…と言うべきか。
    今回のテーマは「父と娘」。父の遺言でかつて住んでいた古い洋館を託され、年下の恋人の冬馬と遺品整理に通う、少女マンガ家の明日香。様々な謎が散らばり、一体どういう伏線なのか気になりながら読み進めるほどに、明日香の抱える闇が露わになっていく。
    明日香の全てに共感できるわけではないけど、後半、こちらが心配になるほどガチガチに凝り固まった彼女の心が、少しずつ少しずつ柔らかくなっていく過程がよかった。心情の描写だけだと結構息苦しい展開ではあるけど、今回はディティールの細かさにもそそられた。洋館のアンティークな雰囲気、明日香が描くマンガ作品など(設定がしっかりしていて、これはこれでとても面白そうと思った)。緩急の付け方が絶妙だったから、途中で止めることができず一気に読了できたのかなと。
    毎度彩瀬さんの長篇は心にグサグサ刺さりまくって、自分も無傷ではいられないのだが、それでも読まずにはいられない。たくさん傷ができても、いつかは必ず癒える。それが信じられる誠実さをいつも感じるからだ。

  • 今はもうこの世に存在しない父からの呪縛。
    亡き父の遺言で実家の屋敷の整理をしながら、幼い頃の記憶に苛まれる明日香。
    あの屋敷の中で自分の存在を認められたくて仕方がなかった、途方もなくささやかな願い。

    彩瀬さんの描く明日香の「愛」はなんてハードなのだろう。
    炎のように身体中に激しく燃え広がり愛しい人を縛り付ける。
    そして一度広がった愛の炎は止めることが出来ず相手も自分自身も苦しめる。

    苦しみもがき迷った末に、自分を見失っていた明日香がようやく自分を取り戻した先にある「きれいな景色」は、夕焼け色に染まった空。
    幼い頃からの呪縛を解いて造り上げた居場所は、明日香なりの慈愛に満ちた「愛」ある場所だと思った。
    苦しい、難しい。また間違えるかもしれない。だけどずっと、続けていく。

  • 疎遠になった父親が亡くなり、漫画家の主人公が相続することになった、かつて少女時代を過ごしていた洋館。かつて病院でもあったその屋敷の片づけを進めるうちに、彼女は父親の過去の姿を見つけていき、そして恋人と仕事の現在とその先へまで影響を与えていくことへなっていく。

    とうの昔に不在に近い存在が、ほんとうにいなくなったことで、かえってその影かたちを顕してくる。遺されたものたちが訴えかけてくるものは声はなくとも、記憶を刺激して、自分さえも忘れていた感情をも呼び覚ます。それが現在を揺らしてしまうのは怖いことでもあるけれど、流されるままに生きていては気づけない、大事なことに気づくこともあるかもしれない。そのときは哀しくつらくとも、振り返れば自分になくてはならない転換点であったと、未来に気づけるかもしれない。

    立ち止まり、気づかせてくれるものはけして愛を近くで囁くものではない。呼びかけても応えてくれるものでもないかもしれない。それはちょっと切なくはあるけれど、人生はもしかしたら、そういう厭らしさがあってこそのものかも、となど感じたのでした。

  • 例えば、誰かの存在が自分に影響を与えるとして、その人がいるから自分の考え方なり生き方なり人生そのものが変わる、もしくは変わったということがある。それは二人の間の関係、が基になる。
    けれど、そこにいない人によって、あるいはいないことによって影響を受け続ける、ということもある。
    主人公の明日香の人生が大きく揺らいでいくのは、二十四年も会わずにいた父親の死によってである。
    幼い時に離婚によって離れてしまった父親や、「家」からの影響など全然ない、と思っていた彼女が徐々に自分の中にあった「父親たち」を自覚していく過程に心がざわつく。このざわつきは何だろう、と自分の中にある何かを探す。自分が育った家の、育ててくれた両親の、そして祖父母たちと自分の関係をたどる。
    楽しかった、幸せだった、笑顔の思い出の日々。その思い出の間にはさまる黒いもの。あえて見つけなければそのまま気づかずに通り過ぎていくような、小さな黒いもの。それを取り出すのはいつだろう。いや、もう取り出さなくてもいいんじゃないか。このまま、見ないふりで生きていこうか。そんなことを考えながら本を閉じる。
    「家族」と聞いて一番最初に「笑顔」という言葉を思い浮かべられる人は読まなくてもいいかもしれない。
    気づかないでいたい黒い小さなものを知っている人には、きっと刺さる物語。そして、多分、救いになる物語。

  • 思っていたよりもスルスルと読めたけれど
    考えれば考えるほど難解な気がしてくる。

    「いたのに不在」なのか「いるのに不在」と思っているのか
    「あったのに不在」なのか「あるのに不在」か
    不在なのは人なのか、眼には見えないものなのか
    考えると沼にはまっていくよう。

    年下の俳優志望の青年を養う明日香が
    ことばの端々に嫌な奴感がでてきて
    最後は嫌な奴やん!となるのが凄く上手いと思った。

  • 家族という縛りの重苦しさを感じながらも、一気に読んで面白かった。
    家族とは、好きときらいが絡まって苦しい、でよく言い表されていると思った。
    古い屋敷を片付けながら家族を考え、家族の縛りから解き離れていく感じがよかった。

  • 重苦しい家の,家族の呪縛.愛に飢え愛を求め愛に苦しむ.ではその「愛」とは何だろう?ということを,父の遺産を相続し古い館を整理していく中で,クッキリと浮かび上がらせていく手法は見事.幽霊を探す男の子の存在もとても自然だった.そしてその心の変化が,漫画作品に結晶するところ,ゾクゾクした.

  • 祖父が名医、父も家業を継いだ邸宅を相続したことから、明日香の心境に変化が訪れる。タイトル「不在」の意味を考えた時に「伽藍堂」という言葉が脳裏何度も浮かんだ。映像化を念頭に入れて作品を創作したのかは不明だが、脳内劇場が始まっていた。売れっ子の漫画家の明日香が、役者志望の冬馬を若いツバメのように養っているが、パートナーというよりペットのような扱い。そんな傲慢な主人公に嫌悪感を抱かないのが、彩瀬まるの技量なのかもしれない。作家と同棲する男性の物語に既視感があって、読み終わってからから角田光代『私のなかの彼女』だと思い出した。そういえば税理士が出てこなかったのが不思議。

  • 「不在」だからこその存在感。
    ざわつきと葛藤に気持ち悪くなる。
    そして明日香の愛。
    とても良くわかる。
    ただ理解して寄り添ってほしいだけなのにね。
    ラスト。
    風が吹き抜けていった。

  • 不在(もうこの世にいない)の人が与える影響というのは、生きている人よりも強いんじゃないかとたまに思う。生きていれば何度でもその人の印象というのは変わる、変わることができる。けれど面と向かっていなければ、自分の記憶の中のその人物しか頼れるものがない。ひどく不安定で、心もとない気がする。
    明日香も父の遺品整理を進めるうちに、屋敷の物や父と関わりのあった人とつながることで父の輪郭がぼんやりと浮かび上がってくる。しかし、それが明日香を余計に苦しめることにもなる。家族のあるべき形、普通な家族。自分と自分の家族は果たしてその枠にはまっていたのだろうか?
    この物語の中でたびたび登場する「味方」という言葉が心にこびりついている。味方とはなんだろう。明日香にとっての味方は、必ずしも自分をいい方向に導いてくれる味方ではない気がした。そういう意味では、緑原は本当に彼女の味方だったのではないだろうか。一言一句を肯定する。都合のいい味方ではなく、いいと悪いを明示してくれる相手が本当の味方だと思った。
    主人公の明日香は、正直あまり好きなタイプの人間ではない。正しい愛情(と表現していいのかわからないが)を受け取らず、成長しても恋人の冬馬に対する愛情が歪んでしまう。自分の庇護下に置き、「愛」とはこういうものだと押し付けてしまう。第三者として読んでいるとひどく間違っている気がするけれど、きっと誰もがこんな風に考えたことがあるのではないかとも思う。心の中にある不在を埋めるための避難所のようなスペース。彼女も自分のことを愛せていたら、きっと違う形になっていたのかもしれないなぁ。
    彩瀬さんの長編は久しぶりな気がする。相変わらずうっとりするような言葉選びと流れるような文章がたまらない。個人的には明日香が冬馬を観察しているときの描写がとても好き。

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著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で第9回女による女のためのR‐18文学賞読者賞を受賞し、デビュー。16年『やがて海へと届く』(講談社)で、第38回野間文芸新人賞候補。17年『くちなし』(文藝春秋)で第158回直木賞候補、18年同作で第5回高校生直木賞受賞。

「2020年 『まだ温かい鍋を抱いておやすみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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