- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041050651
作品紹介・あらすじ
盲目の祖父は、家中を歩いて考えつく限りの点と点を結び、その間の距離を測っては僕に記録させた。足音と歩数のつぶやきが一つに溶け合い、音楽のようになって耳に届いてくる。それはどこか果てしもない遠くから響いてくるかのようなひたむきな響きがあった――グレン・グールドにインスパイアされた短篇をはじめ、パトリシア・ハイスミス、エリザベス・テイラー、ローベルト・ヴァルザー等、かつて確かにこの世にあった人や事に端を発し、その記憶、手触り、痕跡を珠玉の物語に結晶化させた全十篇。硬質でフェティッシュな筆致で現実と虚構のあわいを描き、静かな人生に突然訪れる破調の予感を見事にとらえた、物語の名手のかなでる10の変奏曲。
感想・レビュー・書評
-
短編集でちょっと空いた隙間時間を埋めるのにちょうどいい長さだった。
小説の内容は、読み終わるとともに忘れていくような印象の薄い感じ。
それでもキレイな文章は読んでいて気持ちいいもので、素敵な扉絵が爽やかな印象を後押しする。
タイトルからも小説の内容は透けて見えてこない。
そんな不思議なタイトルは以下になります。
・第一話 誘拐の女王
・第二話 散歩同盟会長への手紙
・第三話 カタツムリの結婚式
・第四話 臨時実験補助員
・第五話 測量
・第六話 手違い
・第七話 肉詰めピーマンとマットレス
・第八話 若草クラブ
・第九話 さぁ、いいこだ、おいで
・第十話 13人兄弟詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
実在した人や出来事を種にして、著者が育てた10の物語。
どの物語にも、世界の片隅でいびつさを抱えながらひっそりと暮らす人々が描かれています。
小川洋子さんが物語の種にした人々の人生にも、多くの物語があったようです。
それらの物語を鋭いアンテナでキャッチして、じっと見つめ、そこから新たな物語を紡ぎ出す。
題名のとおり、この世界に来るはずではなかったのに来てしまった流星たちを、そおっと救い上げる著者の姿を想像しながら読了。
特に「臨時実験補助員」につきまとうひやりとした感覚があとに残っています。
それからヴィヴィアン·マイヤーという人物が気になりました。 -
ちょっと不気味で気持ち悪いような気がするんだけど、美しくて気になってしまう短編が多かったです。
若くて元気な人よりも、老人や子どもなどの描写が特に好きです。第五話「測量」が読んでて1番切ない。 -
実在する作品や人物、出来事などをモチーフとした短編集。『十三人きょうだい』が心にしみた。小川さんの他の作品に出てきたハモニカ兎の名前が出てきたのが嬉しかった。
-
実在した人々がモチーフの短編集。
心の底から楽しむためには、ただ文字の連なりの美しさに身を任せるだけではいけない。そのため様々な関係図や景色をしっかり頭と心の中で想像し、世界を作り上げて自分なりに解釈しなくてはいけなかったです。
初心者の人よりも本に慣れ親しんでる人にオススメです。 -
ひとつひとつのお話に印象的な扉絵とタイトルが付された短編集。お話の最後には、小川さんの執筆のきっかけというか礎石になった、実在の人物やエピソードについての記述がついていました。自分だけの世界や自分と大好きな相手との親密で秘密の世界の様子にうっとりとなりながらも、ちょっと視線をずらすと薄ら寒いような良く考えると気味が悪くて怖いような、何とも言えない独特の雰囲気のお話ばかり、お話だけでも不思議世界を堪能できるのに、付記を読むと二度美味しい、というような、贅沢な本でした。
-
ヘンリー・ダーガー、グレン・グールド、放置手紙調査法、ヴィヴィアン・マイヤー、世界最長のホットドッグ…
何の繋がりもない、そしてとても有名なわけではない人やものたち。世界の隅でそっと異彩を放つそれらをモチーフに描かれた、十篇の物語。
ふわふわした手触りはまさしく小川洋子ワールド。
説明がないまま物語が始まり、終わった次のページでモチーフが明かされる。中には予想だにしなかったモチーフもあって、その鮮やかな種明かしに驚く。
「えっそれがモチーフだったの?」というくらい、本当にひっそりと現れているのに、種明かしされた瞬間それが主役に思えてくるから不思議だ。
ある場所や想いに囚われ、そこから逃れられない人たち。その渦の中にいると、どうして自分はそこから逃れられないのだろう、と考えたりはしないのかも知れない。無意識の執着に突き動かされる登場人物たちを見ていると、どことなく甘く、そして息苦しい気分になる。
何かに囚われそこから逃れられないと自己暗示をかけることは、どんな人生を歩む人にも少なからずあるのかもしれない。だからこそ読んでいて息苦しくなる。
ひっそりと静かに、何かに執着しながら生きる人たち。抜け出したいけどどこにも行けない彼らは儚く美しく、タイトル通り、どこか見知らぬ土地に不時着した
流星たちを思わせる。
時々表れる残酷さがまた、深く刺さるように印象に残る。
余談としては、1つ物語を読み終えた後、ついついその人物などを検索してしまった。ひっそりと一部に有名な人たちのことを知れて面白かった。 -
小川洋子さんの本を読みたい!と決意して図書館で手に取ったこの作品。使われている言葉が妙に生々しくて、それでいて美しい。なのに狂気を感じる歪さ、そこに同居する静謐。とにかくすごい。本当に生々しくて眉をひそめてしまったシーンも多いけど。
「不時着する流星たち」とはいいタイトル。きっとここに来るはずじゃなかった流星たちを覗き見たのだと思う。
モデル小説だけあって、インスピレーションを受けた事柄や人物が各短編の末尾に記載されていて面白い。着眼点もさることながら、想像力も素晴らしい。 -
人には必ず、生きて行くのに相応しい場所があるとするなら
この物語の主人公たちは皆、
何かの不手際によって本来到達すべき場所と違うところに不時着してしまったのだろう。
それでもひっそりと、生真面目につつましく生きる様は
時にグロテスクで無常な結末が描かれていたとしても
日々は温かく、幸福感さえ漂うのだ。
それはきっと、不器用にささやかに生きる人に対する小川さんの柔らかい眼差しと、敬意を込めた文章の魅力によるものなのだと思う。
一つのお話が終わるたびに現れる、物語の種が
答え合わせのようで楽しかったです。