- Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041050804
作品紹介・あらすじ
剣聖と呼ばれた男の真の姿とは──。
島原沖畷の戦いで“童殺し”の悪名を背負い、家中を追放された鹿島新当流の有馬喜兵衛の前に、宮本無二斎と、弁助(武蔵)と呼ばれる十二、三歳の子供が現れた。弁助は、「生死無用」の真剣で果し合いをするというのだが……。(「有馬喜兵衛の童討ち」より)少女を救うため、避けられぬ戦いに命を賭す「クサリ鎌のシシド」、武蔵の絵に惹きつけられるも、一対一の勝負に臨む「吉岡憲法の色」、武蔵の弟子たちが見た剣の極地「皆伝の太刀」、武蔵と戦う宿命を背負った小次郎「巌流の剣」、そして次には……。敵たちの目に映った宮本武蔵。その真の姿とは──。著者渾身の歴史小説。
感想・レビュー・書評
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宮本武蔵と闘った者たちからの視点で描かれた宮本武蔵の物語だけど、仕組みが凝っていて、一人につき一つの短編かと思ったら、どんどん話が繋がっていき、そうきたかーって展開の面白さがある。詳しく言うとつまらないから言わないけど、その展開の発想はさすが面白いんだけど、細かい設定に無理があり、ちょっと話がうますぎるところが感じられてしまった。巻末に、短編を組み合わせて、大幅に加筆訂正したとあったので、一冊の本にまとめるにあたっての、仕方のないことだったのかもしれない。ほぼ★4つに近い★3つです(by.マチャアキ)
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面白い上に読みやすい文章で一気でした。木下昌輝氏の持ち味は宮本無二のような非情で下劣なキャラの造型ですね。彼が出てくるシーンで物語は面白くなります。ただ、今回は彼の前日譚を書いて本性を明かします。物語の完成度を優先したのでしょうが、あのキャラを損ねるのは惜しい気持ちです。
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宮本武蔵関連本を多く読んだがこの本が一番面白かった。武蔵の父親無二の弟子本位田外記が師匠の無二以上の腕を上げ一流派で巌流を起きす。無二が妹と外記そしてその子が無二の主新免家から追っ手として外記と妹を殺害して残った子(武蔵)を自分の子として育てる。武蔵は剣豪として育ち吉岡憲法を破り、道場で落ち着いた日々を送る中、無二の策略で絵仲間を殺害され仇を津田小次郎と思い込まされる。方や津田小次郎は武者修行中の剣豪仲間の遠山と外記を無二に殺害されその仇を武蔵と思い込まされる。小次郎は無二を越す武芸者となり外記の巌流を注ぎ2人の仇として武蔵との戦いに挑む。この宿命の元武蔵と小次郎が舟島で戦い武芸者で凌駕する小次郎の一振を放つ、その時武蔵の足の痣で外記の子と悟り武者として追い続けた「飛刀の間を制し」剣の軌道を変え武蔵に敗れる。全てが無二の策略と知り武蔵は無二と勝負をし武蔵も「飛刀の間」を
得とくし殺さず無二の剣の道を絶つ、最後は武蔵に敗れ染物屋として一流を極めた吉岡憲法が20年の時を重ね武蔵に会いに行き会わず落ちた無二の姿を見て且つ、無二の弟子で武蔵の修行に付き添った青木から武蔵の生き様を語られ腑に落ちて帰する、武蔵の剣豪修行を中心に周りの因縁で関係した其々の人達の生き様を描きとても面白かった。 -
面白かった!
凄惨な戦いのシーンもあったが、読後には深い黒に少し茶がかかったような、正に憲法黒のような哀しみの色が胸に広がるよつな話。
宮本武蔵の絵をぜひ見てみたい。 -
それぞれの視点を切り口にしたストーリー展開が面白かった。身も蓋もなくてせつない小説でした。
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宮本武蔵と言えば、佐々木小次郎との巌流島の戦いで知られる剣豪。「小次郎、敗れたり」のひと言はあまりに有名だろう。
子供の頃、武蔵のテレビドラマ(役所広司主演のもの)を見て、吉川英治の原作も読んだ。
その武蔵を、武蔵に討たれたものたちの目から描く物語。これは何だかおもしろそうではないか。
・・・と思ったのだが、あれれ、何だか勝手が違う。
沢庵和尚やお通、お杉婆や城太郎、吉川武蔵に出てきたお馴染の人物は出てこない。
父の無二や巌流小次郎、吉岡一門は出てくるけど、何だかちょっと違う。
・・・ふぅん?
戸惑いながら読み進めるうち、敵たちの目から武蔵が語られる7編の連作短篇を通じて、剣豪・武蔵の人物像が徐々に立ち上がってくる。
有馬喜兵衛、宍戸、吉岡源左衛門、辻風、大瀬戸、津田小次郎、宮本無二。
次々に倒される彼らの名が斜めに記された表紙が経文のようにも見えてくる。
武蔵に倒されるものたちはそれぞれの軛を負い、それぞれ戦う理由があった。
そして最も数奇な運命を背負うのは、武蔵自身だった。
短篇それぞれをつなぐ、大きな糸が見えたとき、そういうことか、と感嘆の吐息が漏れる。
宮本武蔵はそもそも生涯に謎の多い、伝説に彩られた人物である。
前出の吉川「武蔵」は、大衆小説として「おもしろく」脚色された部分が多い。だが吉岡一門との決闘にしろ、巌流島の一騎打ちにしろ、異説は実は多い。そこをうまく突いて、別の「武蔵」を作り上げた意欲的な1作といってよいのだろう。
宮本武蔵についてまったく知らない読者であっても堪能できそうな作りである。
この武蔵の生い立ち設定にまったく違和感がないとは言えないが、それなりになかなか楽しく読んだのだった。
*吉岡一門ゆかりの染織家の本を前に読んでいて、そのときのレビューでそういえば武蔵のことに触れていました(『日本の色辞典』)。本作でも「憲法黒」が出てきます。 -
読了。ごく久しぶりの時代物。宮本武蔵という、ある意味手垢のついた題材を視点を変えることで大胆にアレンジしてみせた。外連味がありながらすっと読める文体で、先が気になりどんどん読んでしまう。血湧き肉躍る立ち合いの描写あり、そこがそう繋がるのかという綿密な謎解きありで、鳥肌の立つ感動があった。時代物にちょっとでも興味があるすべての人にオススメしたい一冊。
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語彙が乏しくて恐縮だが,面白かった.剣豪というより,人として武蔵の凄さを実感した.
実はずっと前に読み終えていて,しかも私としては珍しく2度も読んだ.2度読むと,何気ない伏線があちらこちらに張ってあるのに気付き,既読でも楽しかった.
人を理解するには,本人すら自分を正しく理解しているか疑問である「人」を理解するには,その唯一の手がかりは表に出てくる行動である.武蔵を理解するために,武蔵の行動を第三者の視点で描くということは,案外と王道なのかもしれない. -
サクサク読める文章力はさすが。
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著者の作品を読むのは「宇喜多の捨て嫁」に続き2冊目だが、連作という形をとってとある人物やその周辺に多角度から光を当て浮き彫りにする、というパッケージングはほぼ同じと言っていい。
確か5作ほどしかない出版点数の中、表現手法の幅が狭いんじゃ? と読者に危惧を抱かせることについてはいかがなものかと思うが、実は気になるのはその点ぐらいしかない、というほどに完成度は高く、面白い。
展開はいかにもベタだなあと感じさせる部分もあるが、とにかく筆力が高くて上手いので、素直に没入できる。