料理番 旅立ちの季節 新・包丁人侍事件帖(4) (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041051955

作品紹介・あらすじ

将軍家斉の御膳を料理する江戸城の台所人、鮎川惣介は、優れた嗅覚の持ち主。ある日、家斉から召し出しを受けた惣介は、大奥で見た異形の女と、家斉から出された二種類の昆布の宿題に頭を悩ますが……。

感想・レビュー・書評

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  • <新包丁人侍事件帖>シリーズ完結編。思いがけず早く回ってきたため、再読が全く追いつかないまま読む。
    このシリーズは<包丁人侍事件帖>シリーズが七作、<新包丁人侍事件帖>シリーズが四作ある。時間的には四年ほどの話だが、シリーズ初期の作品を読んだ後にこの完結編を読むと色々感慨深いものがある。

    まずは主人公の台所人・鮎川惣介の子どもたち。
    初期作品ではだらしないほど身なりに構わない鈴菜が落ち着き、医師の道を目指すべく曲亭馬琴の息子・宗伯に弟子入りし勉強している。口の方は相変わらずだが大鷹源吾との出会いで娘らしさが出てきたようだ。
    そしてもう一人、惣介以上の口達者の小一郎。初期作品では父・惣介の台所人の仕事に興味がないだけでなく何をしたいのか分からない、屁理屈ばかり捏ねる小生意気な少年だった。この完結編でも料理には全く興味がない様子だが、武芸に勤しんでいて家族のことを思いやる様子も見せている。
    妻・志織に対しても、彼女が料理の才が無いと分かってからは文句を言うことを止め非番の日は自ら食事を作るなど、夫婦喧嘩の種を潰すべく努力しているようだ。

    一方の大奥添番・片桐隼人は三歳になった双子たちに相変わらずメロメロのようだが、勝ち気な奥様と更に勝ち気な母親との嫁・姑戦争にはいまだ成すすべなしという感じ。

    そして鈴菜のお相手・大鷹源吾。初期作品では朗らかな見た目と裏腹に容赦のない面も見せる、水野忠邦の懐刀らしいキャラクターだったが、この完結編では鈴菜という『かけがえのない』存在を持ったがための『惑い』が出ている。嬉しいような心配なような。
    第一話は源吾に辛い命令を下した水野が憎たらしく、どうなるかとハラハラした。

    第一話で一旦退場した雪之丞も再び現れ、憎まれ口を叩きつつもいい感じが続いているようだ。途中から出てきたイギリス人・主水も志織同様料理下手なのに何故か上から目線なのも相変わらず。将軍家斉も惣介の料理を直に食べられるのを楽しみにしてくれているし、上司の長尾の嫉妬深さに変わり身の速さも相変わらず。

    事件の方は幕府による薩摩藩締め付けを背景にした第一話が印象的だった。
    国が富むことは良いことの筈だが、一部の藩が富むことはイコール力を持つことになり許されない。借金にあえぐ薩摩藩の起死回生の策を潰そうと画策する幕府や幕閣入りを目指す水野忠邦の影で、弱き者たちは更に追い詰められる。

    貧困のためにやせ細った藩士を前に、せめて黍や粟を美味しく簡単に食べられる料理方法を伝授しようと考える惣介の気持ちが嬉しい。将軍・家斉に直に話を出来る機会があることを鼻にかけず、むしろ家斉の問に答えることの波紋…そのことにで誰かが罰せられたり職を失ったりするのではないかという、その言葉の意味の大きさの方に気持ちを寄せる惣介に好感を持てる。

    なのに惣介の立場に嫉妬したりすり寄ったりする輩がいるのも人の世か。初期のころなら煩わしいと感じ怒りが湧いていた惣介だが、それを受け入れるようになったのも一つの変化だろう。

    最終話はそれぞれの旅立ち。
    大鷹源吾と鈴菜は思いもよらず遠い地へ行くことになり、惣介が倒れてしまうほど。喧々囂々言い合う父娘だったがいざとなればやはり寂しいのだと微笑ましい。
    しかしそのことで小一郎から意外な一言が聞ける。不安もあるが楽しみでもある。
    雪之丞の用心棒・睦月も江戸を去る。寂しくはなるが雪之丞は残ってくれるようなのでホッとする。
    何より隼人はこれからもそばにいてくれる。

    大団円で良かった。

  • あとがきによれば、シリーズ最終巻だそう。
    文政八年(1825年)初春で終わるけれど、ペリー来航まではまだ28年あるとは言え、日の本の海周りはしきりと異国船が取り囲み、たびたび無断上陸を図るなど、すでに鎖国の危機、激動の時代を迎えている。
    この巻の中でも異国船の件は取り上げられ、また、藩政の破綻など、悩んで痩せるだけで何もできない将軍様ってどうよ、と思う。
    前々巻くらいまでは、賢明なお人柄、と自分も褒めていたと思うが、それは江戸城内で始末がつくことに関してであって、日の本全体を見る目や、先々の外交を見通す目には限界があるように感じる。

    第一話の、薩摩藩と富山藩の件も、第二話の切支丹絵草紙の件も、実際のところどう決着がついたのか、ちょっと曖昧さが残る。
    そして、気になってならないまま、最後は語られずに置いて行かれたが、主水なのですが・・・
    故国に帰れたのか、はたまた日本に骨を埋める覚悟をしたのか。
    ぜひとも、続きのシリーズを書いていただきたいと思うのです。

    鈴菜と大鷹源吾の旅立ちは、新しい時代の夫婦像を感じさせる。
    小一郎の決断は逆に、これまでのしきたりを優先するようにも感じられるけれど、料理ができればどんな時代でも生きていけるからOKかな。
    そして、惣介と志織の夫婦も新しい局面。相変わらずしっかり描いてくれる。
    隼人との友情も、もちろん健在なのであった。
    清々しい終わり方。
    でも、続きが読みたいと思うのでした。

  • 将軍の料理番シリーズ全7巻に続く、包丁人侍事件帖シリーズ第4巻(完結)
    この本は完結版トイいうことで、お腹がでっぱった料理が何より大好きで食べることが大好きな鮎川惣介が主人公のこのお話は私のお気に入りの一つで、噛み締めるように読み終えた。
    一番長く将軍を務めた徳川家斉の料理番でもあり、数いる料理番の中でも家斉の代大期待のお気に入りで、表立っては禁じられているお休み前の、軽食を請われれば用意する係でもある。その時に世間話をしてみたり、食のよもやま話で楽しんだり、日頃毒味が入り、決して美味しく食事をできない将軍だが、鮎川惣介の作る温かな気持ちのこもった逸品を何より楽しみにしている。

    そんな将軍からの問いで始まったこの回。
    お天馬で理屈屋の娘鈴菜の結婚や、息子小一郎の将来の進路などが盛り込まれてもちろんいつものように事件がらみも。

    今回も今まで通り、走るのが苦手な狸のような大きな腹を抱え、決してカッコ良くはない惣介だが、人間味の温かさや気配りでいつの間にか多くの人が救われる。

    とっても良いお話で終わった。
    後書きも、ぜひ読んでいただきたい。

  • 帯であおるから、昆布ではもっととんでもないことになるのかと思って心配したー。
    惣介も、周囲も、あいかわらずで安心する。
    鈴菜の件はどうなるかとどきどき。
    ああなって本当によかった。
    惣介や隼人の誠実さが物事をいい方向に進めているのだろうな。
    ずっとあのままでいてほしい。
    最後なのは寂しいけど、いい旅立ち。
    みんな、ずっと元気でいてね。

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著者プロフィール

三重県伊勢市生まれ。愛知教育大学教育学部教職科心理学教室卒業。高校時代より古典と日本史が好きで、特に江戸に興味を持つ。日本推理作家協会会員。三重県文化賞文化新人賞受賞。主な著作に「包丁人侍事件帖」シリーズほか、「大江戸いきもの草紙」シリーズや『芝の天吉捕物帳』『冷飯喰い 小熊十兵衛 開運指南』がある。

「2019年 『料理番 旅立ちの季節 新・包丁人侍事件帖(4)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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