祈りの証明 3.11の奇跡 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041052075

作品紹介・あらすじ

戦場カメラマンの長井は、東日本大震災で被災した妻の行方を捜すうち、被災地に蔓延する新興宗教「まほろば教」の暗部に肉薄してゆく。妻の失踪に隠された衝撃の真実とは―!?

感想・レビュー・書評

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  • 第1章「同化する戦場」の途中までは、素晴らしい作品に出会えたという予感を共にしながら読み進められ、かなりポジティブな気持ちで本作と相対できていました。一番目を引いたのは記されている言葉の美しさで、語彙の豊富さとそれらの響きの美しさは、今までに読んだ小説の中でも群を抜いている印象がありました。内容としても1作品として高いクオリティを期待できる要素が散りばめられており、後の展開が楽しみでなりませんでした。

    しかしその序盤以降は、本作中の全ての設定は作者のイデオロギー主張のためのもののような気がしてしまい、興ざめの極み以外の何物でもない駄作に成り下がってしまいました。

    ほぼ万人にとっての憎まれ役であり、胡散臭さ満載であるカルトを原発関係者に結びつけ、それをベースにした話展開。その時点で作者側のご都合主義感があってきな臭い感があったのですが、極めつけは主人公がカルトの教祖を弓で狙撃しようとするところ。

    自分の主義主張のためなら暴力も辞さない。それを悪びれることもなく本作は描いています。

    その様は全く過激派のそれで、テロリストの主張そのもの。こんなもののが日本を代表する作家の作品と言われたら、日本という国が非常に低俗でくだらない国のように思えてくるほど、残念な気持ちになります。

    輪をかけて許しがたいのは、東日本大震災を主人公の同情を誘うための道具として利用されてる(としか思えなかった)点。

    はっきり言ってしまうと、本作は東日本大震災がなくても話としては成立します。けれどそれを絡めているのは、被災者に寄り添う主人公を描くことで、悪の原発関係者との対比としての主人公側の正しさを際立たせようという作為があるのではと思ってしまうのです。

    主人公が子供達の意向を聞くことなく遍路に連れ回そうとするエピローグを読むと、いかにも自己主張のために自分勝手に周りを巻き込んで迷惑をかけまくる活動家然とした主義を感じてしまいます。私から見ればそのようにしか受け取れられない自分勝手な主義主張が全面ににじみ出ていることが、本作を受け入れられなかった要因なのではと考えています。

    多数の名のある作品を記している作家さんですが、今後二度とそれを手に取ることはないと思います。

  • 『……の証明』が積まれていたことは知っていて、どんな話なのかなーと手に取った一冊。
    ドラマ化された『人間の証明』を読んでいないから何とも言えないけれど、集大成って名付けるにはどうかなと首を捻る。

    主人公のジャーナリズムと俳句の組み合わせが一番良くて、阪神淡路や3.11に直面した人間の、精神的な厳しさと、それが言葉によって共感されるというすごさが描かれる。

    肝心の想い人、妻の失踪と、まほろば教と原発のミステリーパートについては、そんな上手いこと符号していくか⁉︎と感じてしまった。

    人に注視しながら、偶然任せという展開が、この一冊の中ではチグハグに思えた。
    なかなか厳しいレビューですが、まぁ、致し方なし。

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著者プロフィール

森村誠一
1933年1月2日、埼玉県熊谷市生まれ。ホテルのフロントマンを勤めるかたわら執筆を始め、ビジネススクールの講師に転職後もビジネス書や小説を出版。1970年に初めての本格ミステリー『高層の死角』で第15回江戸川乱歩賞を受賞、翌年『新幹線殺人事件』がベストセラーになる。1973年『腐触の構造』で第26回日本推理作家協会賞受賞。小説と映画のメディアミックスとして注目された『人間の証明』では、初めて棟居刑事が登場する。2004年に第7回日本ミステリー文学大賞受賞、2011年吉川英治文学賞受賞など、文字通り日本のミステリー界の第一人者であるだけでなく、1981年には旧日本軍第731部隊の実態を明らかにした『悪魔の飽食』を刊行するなど、社会的発言も疎かにしていない。

「2021年 『棟居刑事と七つの事件簿』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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