東京の子

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 187
レビュー : 31
  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041052679

作品紹介・あらすじ

東京オリンピックの熱狂は終わった。 これからみんな、搾取されて生きていくのかもしれない。 モラルも理想もすっからかんになったこの国だけど、 僕たちは自分の足で、毎日を駆け抜けていくんだ。

感想・レビュー・書評

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  • 2023年の東京が舞台、近未来小説である。背景には、移民問題、特区における労基法問題等々、現代の様々な問題が出てきているが、その1番のテーマは奨学金問題かもしれない。ヒロインは言う。『借金をたてにして働かせるのは人身売買よ』。これらの設定に興味を持って紐解いた。

    オリンピック有明会場跡地の巨大なポリテクセンターで、偽戸籍の子仮部は、行方不明になったベトナム女性を探し始める。

    最後まで読んで、作中でいろいろ匂わせている「ホントらしさ」は、信頼出来ないものになった。決定的なのは、政府が三橋社長に示したある「約束」とその後の三橋の対応である。あの約束が実現するような社会ならば、デモがあんなに大きくなるような事はなかっただろう。三橋の言うことは、小説の中だけのファンタジーである。作者は承知でウソを書いたのか、それともそう言うファンタジーを信じているのか。どうも後者のような気がする。作者自身が東京の「子供」のように感じる。どこかの経営者に丸め込まれたような理屈が、最後まで大手を振るっているのだ。始末に負えない。

    その他、オリンピックからたった2-3年で此処までの異世界が出来上がるとか矛盾もたくさんある。また、「首都青年ユニオン」という胡散臭い団体が出てくるが、現存していて地道に頑張ってきて「派遣切り」「ブラック企業」という言葉を社会的認知まで持ってきた立役者である「首都圏青年ユニオン」を揶揄する命名は許せない。

  • 舞台は2023年のオリンピック後の東京。パルクール・パフォーマーを引退した舟津怜は、「仮部諫牟(かりべいさむ)」の戸籍を買い、新たな人生を歩んでいた。仕事は失踪した外国人労働者を捜索するというもの。「東京デュアル」内にあるベトナム料理店のスタッフのファム・チ=リンが失踪し、仮部は彼女の捜索を依頼される。ところが見つけたファムに、仮部は「デュアル」
    に通う恋人を救って欲しいと頼まれた。
    「東京デュアル」とは、国家戦略特区となった東京オリンピック跡地に人材開発を目的として設立された大学校高みたいなもの。ファムは、デュアルは表向きは理想の大学というが、実は学生を人身売買しているのだという

    描かれた世界は4年後でとても身近に感じられた。
    ファムが人身売買と怖れる東京デュアルの奨学金制度。雇用確保や労働条件維持など学生にとってもメリットが有るように見える。しかし、卒業後に奨学金をもらった企業で働くという条件は、将来を縛られてしまうのではないだろうかと危惧するのだ。
    読んでいて、45年前に似た様な制度があったのを思い出した。昔、勤務していた高等看護学院に”ひも付き”と呼ばれている奨学金制度があったのだ。看護婦(当時は看護師とは呼ばれていなかった)の人手不足を解消するために、都市部の大病院が奨学金を学生に無料で貸し出し、その替わりに、就職はその病院で働かなければならないというものだった。地方の貧しい家庭にとって、有難い制度だっただろう。しかし、賢い学生の何人かは『ひも付き』と自身を揶揄していた。私がその制度にアンビバレントな思いを抱いたのは、管理する教務側の立場だっただからか。
    即、色よい返事をするデュアルの学長・三橋の物わかり良さは不気味。両親にネグレクトされた仮部を取り巻く大人たちの、大熊大悟やダン・ホイの人物造形も面白い。利害関係のみで繋がっているようにも見えない。
    仮部が、もう一度自分の名前・船津怜を名乗って生きていこうとするラストが明るい。まるでパルクールの跳躍を観たようだった。

  • 2023年 移民法が変わって 大量に外国人労働者が増え 彼らの斡旋やトラブル処理に関わる 仮部。
    パルクールの達人である仮部が 無断欠勤のベトナム人女性を探すよう依頼される。
    場所は 特区を利用し労働法の枠をぶち破った巨大学産共同体 東京デュアル。
    東京湾岸エリアの五輪跡地に作られた 学校と職場が一体になったエリアだ。

    この作品をどういうキッカケで知ったのか?忘れちゃったけれど、雇用と法律が 大きなモチーフになっている。

    終身雇用を前提とした日本型にもう限界が来ている。
    転勤は?長期休暇は?有給消化は?整理解雇は?
    今までのままじゃやっていけないが、セイフティネットが整わないままに企業の勝手が通れば、社会は荒れる。
    ちょうど、それを象徴するような #カネカ 事件が起きたばかり。
    作品中では、シンガポール方式なのか? 東京デュアルの雇用の利点や問題点が 随所に使われている。
    何が正しくて何が間違っている、というのではないだろう。バランスの良い落としどころはどこか?と考えさせられてしまう。

    キャラクターの内面はさほど深くは描かれていない。
    かな〜り ぐぃっと来るのは ヨーコくらいか .....
    学長の三橋もようわからんし。

    その代わり (?) に、都内を俊敏に移動する 仮部の姿や モニターやら ドローンやら スマホやら 時と場所と用途に応じて 人を繋ぐツールの描写が 軽快なテンポと 映像的なひろがりを作っている。
    クライマックスのシーンでは その 仮部の移動が さまざまな『届ける』お話のオマージュにも感じられて、一気に盛り上がる。
    身体性は あなどれない。

  • 2020年の東京オリンピック終了から3年後を描いた近未来社会派エンターテイメントということで読んでみたが、結論として全く面白くなかった。

    各キャラクターの行動理論も理解不能だし、まったく感情移入できない。特にヒロインの美人ベトナム人の博士・・・この娘がヒロインなのか?ということすらかなりの疑問なのだが、この娘が日本人の学生に恋して彼の将来を助けたいとかいう行動も意味不明。

    そして圧倒的・壊滅的にストーリーテリングなってない。通常の小説が『起承転結』だとしたら、この本は『起承承承』で終わってしまう。

    この作家、文章は上手いのにどうしてこんなストーリーしか考えられないんだという絶望感すら抱いてしまう。
    たぶん、「過去を捨てた主人公が数々の経験を経て、真の自分に再度向き合う勇気を持った」ということがこの小説の主題なんだろうけど、おい、もっと良い書き方あるだろ・・・。

    強いて良かった点を挙げるとすれば、東京オリンピックから3年後という超近未来のリアルな描写と主人公のパルクールの描写の上手さ・・・くらいか。

  • 東京オリンピックの熱狂が終わり、外国人労働者があふれかえり、働き方も大きく変わった2023年の日本を描いた近未来社会派小説です。

    戸籍を買い、別人の名義でアンダーグラウンドな暮らし方をしている主人公がの舟津。彼が派遣先の料理屋から失踪したベトナム人女性を捜す依頼をうけることから、物語は始まります。舞台となるのは東京2020の跡地に生まれた産学連携の大学校、東京デュアル。職住近接で、スタッフと学生、連携企業の社員を含めると10万人規模の「街」を形成している新しい「社会」をみて、またそこで暮らす学生たちと触れ合うことを通して、他者とのかかわりを最低限に保ってきた舟津もまた変わり始めます。

    前半部分の、何となくつかみどころのない社会の様子といい、どことなく取り繕われたような「東京デュアル」の雰囲気といい、リアルであるがゆえに、少し読みにくく感じる部分はありますが、物語が後半へと進むに従って、ストーリー展開のスピード感が増してゆきます。
    平たく言ってしまえば、サークルクラッシャーにふりまわされる学生組合のごたごた、といえなくもないですが、その背景にある労働環境の設定であったり、学生一人ひとりの思考とその背景にある生い立ちなどの描かれ方が精密で、しっかりと読ませてくれる作品でした。
    特に、主人公の舟津がパルクールの技を披露するシーンは読んでいてもわくわくしましたし、可能ならばぜひ映像化されたこの「近未来の世界」を見てみたいとも感じました。

    これから、社会に出てゆく中高生にとっては、現実に現れうる可能性のある社会の「型」のひとつとして、「理想的」に見える東京デュアルの取り組みのどこに「欠陥」があるのかを考えてみることで、社会に対する関心を高めることができるでしょうし、自分だったらどのような社会で暮らしたいか、ということを考えるきっかけにもなるかもしれません。
    2019年の2月という、東京オリンピックにむけて(一部では)盛り上がってきているタイミングに、この本が出版されたという「意味」について考えながら読んでみるのも、また面白いかもしれません。

  • 東京オリンピック後の2023の東京と言っているが
    イメージとしては架空の町のアジア感みたいで

    時代設定や東京である必要性を感じない。
    むしろ今やこれからの日本に起こりうる
    移民、戸籍、労働(非正規、正規)をごちゃまぜにして
    間に合わせた感がぬぐえない

    元々やっていたパルクールが主になると思いきや
    労働ストライキが主で鈍重
    ストライキが面白くないわけではないが
    話の核に据えるか?と
    負けがわかったうえでの勝負の話だから

    だからこそ仮部ではなく船津を選ぶというのも唐突

  • 近未来の労働争議?
    現在の企業の人手不足、少子化による大学の定員割れ対策や奨学金返済の負担の問題を考えると、こういった人身売買的な施策は充分あり得る話だと思う。
    でもストーリーとしては私にとってはあまり面白くなかった。

  •  確か、日経新聞の夕刊書評で見かけたもの(恐らく)。著者の作品は初めて。2012年、ソフトウェア会社に勤務する傍ら執筆・・・日本SF大賞を受賞、日本SF作家クラブの会長。SF畑の人? 確かにITやネット社会のネタに通じてそうで、それなりに近未来のお話ではあるけど、現代と地続きの未来というか、今起こりつつある問題の、その先に思いを馳せさせてくれる内容。
     そもそも面白そうと思ったのは、次のオリンピックの直後の日本が舞台で、外国人労働者問題が絡んでいそうという点だった。最近の個人的懸念と絶妙にリンクしていたので。
     文章は特に巧いとも、人物造形が巧みとも思えなかったが、IT的な近未来への知見はお持ちのように拝察したので(しかも荒唐無稽な遠い未来の話としてではなく、割と今の社会との関わりあるサイエンスというかテクノロジー寄りな世界)、そちら方面への興味喚起にはなる。

     舞台は2023年の東京。戸籍を買い、過去を隠して新たな人生を歩んでいるかつてのユーチューバー、パルクールパフォーマー船津怜が主人公。食堂で働きつつ、失踪しそうな外国人留学生、労働者を現場に連れ戻す仕事をしている。
     そんな彼に東京オリンピック後の豊洲の跡地に生まれた東京デュアルという外国人受け入れと労働問題の解決を標榜する「理想の大学」で働くベトナム人失踪の捜索の依頼が入り、潜入することに。
     この東京デュアルでは学生たちは奨学金を受けスキルを学ぶ授業を受け、午後は生活費稼ぎと奨学金返済のため提携する企業(すべて大学の敷地内にある)で働くという画期的な形態を持つ。だが、理想は理想として、そこには奨学金で卒業生を縛り、職業選択の自由を奪う、一種の人身売買のリスクも孕むという問題提起をしていく。

     折しも2019年4月、改正出入国管理及び難民認定法、いわゆる移民法が導入され、今後日本はますます外国労働者に頼る社会体制にシフトしていくことになる。これは止む無い話で、来年オリンピックイヤーである2020年には「女性の過半数が50歳以上」となり新たな労働力を旺盛に生み出す力はこの国には残されていない。さらに数年で団塊ジュニア世代が50代に突入、介護離職が増え始め労働力不足の懸念がさらに強まるらしい(『未来の年表』(河合雅司著))。頼るは外国からの労働者たちだ。
     そんな素人でも漠然と描く、数年後の移民に支えられた日本社会、あるいは東京の様子などが、非常に真実味を持って描かれているのが、本書の面白いところだ。

     お話としては、その東京デュアルという組織の巨悪を叩き、失踪したベトナム人(才媛で美女)を救出するヒーロー譚あたりの落ち着きを見せるのかと思えば、さにあらず。もう少し大きな労働問題を内包しつつ、一人の青年の再生の物語として着地させる。

     何かが解決し、明るい未来が開ける類の話ではないが、働き方改革、少子化、外国人労働者問題、そしてアフター五輪という現実を取り入れ、その先になにが起こるか、想像力を働かせておかなければという危機感を抱かせる。
     だが、けっして悲観的な近未来ではない。知恵と才覚で乗り越えていくべきもの。まさに東京デュアルが試みようとしているプラスとマイナスの両面ある実験のように。

     それらの障害物は、主人公の得意技パルクールでひょいひょいと乗り越えていけるものではないが、最後は体力さえあれば、なんとかなる???(←このあたりの発想がもう次世代には通用しない話なのかもしれない)

     未来を見据える、よい思考鍛錬になりました。

  • 近未来小説。東京オリンピック後の東京で、親の虐待から逃げ、名前を変えた仮部は、仕事に来なくなった外国人を探して戻るよう説得するような仕事をしている。2019年の移民法の改正によって外国人労働者は急増した。「東京デュアル」は働きながら学べる学校なのだが、ここには問題があり・・・

    うーむ。ハイテク近未来小説かと思っていたら、労働問題小説だった。

    同一労働同一賃金などの様々な問題がクリアーできている「東京デュアル」がどんな問題を引き起こしているのか、すぐそこにあ理想なリアリティを感じる。

    ただ、あまりストーリに耽溺するというほどではなかった。技巧に走り過ぎてる感あり。

    小説というより、労働について考えたい人のための本という感じだった。面白い小説を読んで、その結果ある社会的な問題について学べるのはとても良いことだけれど、社会的な問題について学んでいるおまけに小説がついている感じなものは、あまり自分の求めている娯楽ではないような気がする。

  • ”「2020」を生きる我々の、希望になる。”ってなオビの煽り文句には納得いかないなぁ

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著者プロフィール

藤井太洋(ふじい たいよう)
1971年、鹿児島県奄美大島生まれの作家。国際基督教大学中退。ソフトウェア開発会社に勤務しながら小説を執筆し、2012年電子書籍『Gene Mapper』をセルフパブリッシングして話題になる。翌年、増補改訂版『Gene Mapper - full build-』を早川書房より刊行、単行本デビュー。2014年には『オービタル・クラウド』(早川書房)を発表、「ベストSF2014[国内篇]」1位、第46回星雲賞(日本部門)、そして第35回日本SF大賞をそれぞれ受賞。2018年『ハロー・ワールド』を刊行し、同作が2019年に第40回吉川英治文学新人賞を受賞。
2015年には日本SF作家クラブ第18代会長に就任している。

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