東京の子

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 39
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041052679

作品紹介・あらすじ

東京オリンピックの熱狂は終わった。 これからみんな、搾取されて生きていくのかもしれない。 モラルも理想もすっからかんになったこの国だけど、 僕たちは自分の足で、毎日を駆け抜けていくんだ。

感想・レビュー・書評

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  • 2023年の東京が舞台、近未来小説である。背景には、移民問題、特区における労基法問題等々、現代の様々な問題が出てきているが、その1番のテーマは奨学金問題かもしれない。ヒロインは言う。『借金をたてにして働かせるのは人身売買よ』。これらの設定に興味を持って紐解いた。

    オリンピック有明会場跡地の巨大なポリテクセンターで、偽戸籍の子仮部は、行方不明になったベトナム女性を探し始める。

    最後まで読んで、作中でいろいろ匂わせている「ホントらしさ」は、信頼出来ないものになった。決定的なのは、政府が三橋社長に示したある「約束」とその後の三橋の対応である。あの約束が実現するような社会ならば、デモがあんなに大きくなるような事はなかっただろう。三橋の言うことは、小説の中だけのファンタジーである。作者は承知でウソを書いたのか、それともそう言うファンタジーを信じているのか。どうも後者のような気がする。作者自身が東京の「子供」のように感じる。どこかの経営者に丸め込まれたような理屈が、最後まで大手を振るっているのだ。始末に負えない。

    その他、オリンピックからたった2-3年で此処までの異世界が出来上がるとか矛盾もたくさんある。また、「首都青年ユニオン」という胡散臭い団体が出てくるが、現存していて地道に頑張ってきて「派遣切り」「ブラック企業」という言葉を社会的認知まで持ってきた立役者である「首都圏青年ユニオン」を揶揄する命名は許せない。

  • 舞台は2023年のオリンピック後の東京。パルクール・パフォーマーを引退した舟津怜は、「仮部諫牟(かりべいさむ)」の戸籍を買い、新たな人生を歩んでいた。仕事は失踪した外国人労働者を捜索するというもの。「東京デュアル」内にあるベトナム料理店のスタッフのファム・チ=リンが失踪し、仮部は彼女の捜索を依頼される。ところが見つけたファムに、仮部は「デュアル」
    に通う恋人を救って欲しいと頼まれた。
    「東京デュアル」とは、国家戦略特区となった東京オリンピック跡地に人材開発を目的として設立された大学校高みたいなもの。ファムは、デュアルは表向きは理想の大学というが、実は学生を人身売買しているのだという

    描かれた世界は4年後でとても身近に感じられた。
    ファムが人身売買と怖れる東京デュアルの奨学金制度。雇用確保や労働条件維持など学生にとってもメリットが有るように見える。しかし、卒業後に奨学金をもらった企業で働くという条件は、将来を縛られてしまうのではないだろうかと危惧するのだ。
    読んでいて、45年前に似た様な制度があったのを思い出した。昔、勤務していた高等看護学院に”ひも付き”と呼ばれている奨学金制度があったのだ。看護婦(当時は看護師とは呼ばれていなかった)の人手不足を解消するために、都市部の大病院が奨学金を学生に無料で貸し出し、その替わりに、就職はその病院で働かなければならないというものだった。地方の貧しい家庭にとって、有難い制度だっただろう。しかし、賢い学生の何人かは『ひも付き』と自身を揶揄していた。私がその制度にアンビバレントな思いを抱いたのは、管理する教務側の立場だっただからか。
    即、色よい返事をするデュアルの学長・三橋の物わかり良さは不気味。両親にネグレクトされた仮部を取り巻く大人たちの、大熊大悟やダン・ホイの人物造形も面白い。利害関係のみで繋がっているようにも見えない。
    仮部が、もう一度自分の名前・船津怜を名乗って生きていこうとするラストが明るい。まるでパルクールの跳躍を観たようだった。

  • 個人的にはワン・モア・ヌークよりも好みかも。Youtuber、学校法人、非正規雇用、労働運動といったテーマが詰まっている

  • 2023年 移民法が変わって 大量に外国人労働者が増え 彼らの斡旋やトラブル処理に関わる 仮部。
    パルクールの達人である仮部が 無断欠勤のベトナム人女性を探すよう依頼される。
    場所は 特区を利用し労働法の枠をぶち破った巨大学産共同体 東京デュアル。
    東京湾岸エリアの五輪跡地に作られた 学校と職場が一体になったエリアだ。

    この作品をどういうキッカケで知ったのか?忘れちゃったけれど、雇用と法律が 大きなモチーフになっている。

    終身雇用を前提とした日本型にもう限界が来ている。
    転勤は?長期休暇は?有給消化は?整理解雇は?
    今までのままじゃやっていけないが、セイフティネットが整わないままに企業の勝手が通れば、社会は荒れる。
    ちょうど、それを象徴するような #カネカ 事件が起きたばかり。
    作品中では、シンガポール方式なのか? 東京デュアルの雇用の利点や問題点が 随所に使われている。
    何が正しくて何が間違っている、というのではないだろう。バランスの良い落としどころはどこか?と考えさせられてしまう。

    キャラクターの内面はさほど深くは描かれていない。
    かな〜り ぐぃっと来るのは ヨーコくらいか .....
    学長の三橋もようわからんし。

    その代わり (?) に、都内を俊敏に移動する 仮部の姿や モニターやら ドローンやら スマホやら 時と場所と用途に応じて 人を繋ぐツールの描写が 軽快なテンポと 映像的なひろがりを作っている。
    クライマックスのシーンでは その 仮部の移動が さまざまな『届ける』お話のオマージュにも感じられて、一気に盛り上がる。
    身体性は あなどれない。

  • 2020年の東京オリンピック終了から3年後を描いた近未来社会派エンターテイメントということで読んでみたが、結論として全く面白くなかった。

    各キャラクターの行動理論も理解不能だし、まったく感情移入できない。特にヒロインの美人ベトナム人の博士・・・この娘がヒロインなのか?ということすらかなりの疑問なのだが、この娘が日本人の学生に恋して彼の将来を助けたいとかいう行動も意味不明。

    そして圧倒的・壊滅的にストーリーテリングなってない。通常の小説が『起承転結』だとしたら、この本は『起承承承』で終わってしまう。

    この作家、文章は上手いのにどうしてこんなストーリーしか考えられないんだという絶望感すら抱いてしまう。
    たぶん、「過去を捨てた主人公が数々の経験を経て、真の自分に再度向き合う勇気を持った」ということがこの小説の主題なんだろうけど、おい、もっと良い書き方あるだろ・・・。

    強いて良かった点を挙げるとすれば、東京オリンピックから3年後という超近未来のリアルな描写と主人公のパルクールの描写の上手さ・・・くらいか。

  • 全編、緊張感に満ち満ちていて、ちょっとした空き時間にチョコチョコ読む事を許さない。
    今、現実世界では東京オリンピックは終わってないけど、その3年後を描いた作品。
    とにかく、ジリジリした緊張感からの、クライマックスの疾走が素晴らしい!

  • ストーリィテリングのパルクールのような鮮やかさに、つい睡眠時間を削ってしまいました。これを読むとパルクールをやりたくなりますね。まあ、到底無理なんですが。

  • 東京オリンピックが終わって数年後の近未来の東京が舞台。メインになるのは、最近問題になっていた奨学金の返済問題。現代は若者にとって生きにくい時代になってしまった。というのがメインテーマだが、それとは別に、主人公が趣味とするパルクールがかっこいい。最後の怒涛の展開が嬉しい。

  • 東京オリンピックの後の社会を描く。労働力確保のための外国人材の管理を担う、児童養護施設あがりの青年を取り巻く物語。労働問題やネグレクトなどの子どもを取り巻く社会問題を扱いながら、重くなく爽快な娯楽作であった。

    個人的には、阪神淡路大震災後の神戸を思い出した。多様な外国人が日本の労働を支えているという現実を目の当たりにしてから四半世紀。近未来プロレタリア文学というジャンルは確立するだろうか。

  • 東京オリンピックの熱狂が終わり、外国人労働者があふれかえり、働き方も大きく変わった2023年の日本を描いた近未来社会派小説です。

    戸籍を買い、別人の名義でアンダーグラウンドな暮らし方をしている主人公がの舟津。彼が派遣先の料理屋から失踪したベトナム人女性を捜す依頼をうけることから、物語は始まります。舞台となるのは東京2020の跡地に生まれた産学連携の大学校、東京デュアル。職住近接で、スタッフと学生、連携企業の社員を含めると10万人規模の「街」を形成している新しい「社会」をみて、またそこで暮らす学生たちと触れ合うことを通して、他者とのかかわりを最低限に保ってきた舟津もまた変わり始めます。

    前半部分の、何となくつかみどころのない社会の様子といい、どことなく取り繕われたような「東京デュアル」の雰囲気といい、リアルであるがゆえに、少し読みにくく感じる部分はありますが、物語が後半へと進むに従って、ストーリー展開のスピード感が増してゆきます。
    平たく言ってしまえば、サークルクラッシャーにふりまわされる学生組合のごたごた、といえなくもないですが、その背景にある労働環境の設定であったり、学生一人ひとりの思考とその背景にある生い立ちなどの描かれ方が精密で、しっかりと読ませてくれる作品でした。
    特に、主人公の舟津がパルクールの技を披露するシーンは読んでいてもわくわくしましたし、可能ならばぜひ映像化されたこの「近未来の世界」を見てみたいとも感じました。

    これから、社会に出てゆく中高生にとっては、現実に現れうる可能性のある社会の「型」のひとつとして、「理想的」に見える東京デュアルの取り組みのどこに「欠陥」があるのかを考えてみることで、社会に対する関心を高めることができるでしょうし、自分だったらどのような社会で暮らしたいか、ということを考えるきっかけにもなるかもしれません。
    2019年の2月という、東京オリンピックにむけて(一部では)盛り上がってきているタイミングに、この本が出版されたという「意味」について考えながら読んでみるのも、また面白いかもしれません。

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著者プロフィール

藤井大洋:1971年鹿児島県奄美大島生まれ。小説家、SF作家。国際基督教大学中退。第18代日本SF作家クラブ会長。同クラブの社団法人化を牽引、SF振興に役立つ事業の実現に燃える。処女作『Gene Mapper』をセルフパブリッシングし、注目を集める。その後、早川書房より代表作『Gene Mapper -full build-』『オービタル・クラウド』(日本SF大賞受賞)等を出版。

「2019年 『AIが書いた小説は面白い?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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