陰獣 (角川文庫)

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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本
  • / ISBN・EAN: 9784041053096

作品紹介・あらすじ

暗闇の中で、息を殺して、石のようにだまり返ってジッとうかがっている陰獣の目。私は、お前の影になり切っている。たえまなく、お前を凝視しているのだ。幸せをつかんだ女のもとに、捨てた男の執念の脅迫状。その直後、隅田川に浮かんでいた夫の腐乱死体。熟れた女の白い肌にきざまれたミミズ脹れの鞭あとの謎は…。驚くべき巧妙なトリックと強烈なサスペンス。複雑な犯罪の謎を解きくずす江戸川乱歩の最高傑作!

感想・レビュー・書評

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  • 数年前、海外のマジシャンを日本に招待して、街中でパフォーマンスをしてもらうというTV番組を観た。
    その中のひとつに、宝飾店のBVLGARIで二百万円相当の指輪を瞬時にゆで卵の中に移動させるというものがあった。
    販売員の女性の手によってショーケースから取り出される指輪。
    マジシャンはそれを受け取ると、ポケットから取り出したゆで卵に埋め込むような仕草を見せる。指輪は徐々に吸い込まれていき消えてしまう。
    そして卵を割って凝固した白身をほぐしていくと、ちゃんと中には指輪が埋まっている。

    たまたま親戚とTVを観ていたが、皆一様に驚いていた。
    そして叔父が僕に話を振ってきた。
    「おまえ、あの種わかるか?」

    僕はひらめいていた。
    単純に、指輪入りのゆで卵を最初から作っていたのだろうと。
    卵に穴をあけて指輪を入れ、ゆでる。殻をむいてしまえば穴はわからないだろう。
    指輪は一点ものではないので同型をあらかじめ用意できる。
    準備を万全に整えた状態で店舗に入る。
    あとはコインマジックの要領で、ショーケースの指輪を消したふりをすればいい。

    「そんな馬鹿なはなしがあるか。二百万もする指輪をそんな風に使う訳がないだろう」
    叔父は言った。
    親戚一同は「不思議だ」と言いながら、まだトリックを考えている。

    結局、種明かしはなかったが、僕はいまだに正解はこれに近いものだと思っている。
    マジシャンという人種は一瞬の奇跡のために時間も労力もお金もきっと惜しまない。
    そしてそれ以外の普通の人間は、どんなに物理的に可能であっても常識の範疇を越えると、その可能性をはなから除外してしまう。


    角川文庫旧版の収録作品は『陰獣』と『孤島の鬼』という最強(最凶?)のカップリング。
    稀代の魔術師、江戸川乱歩はどんな奇跡をみせてくれるのか。

    『陰獣』
    内容については、春陽文庫版のレビューにネタバレ気味に書いたので割愛するが、江戸川乱歩を愛する人ほど魅せられるのだろう。

    『孤島の鬼』
    男を一夜にして白髪にするほどの凄まじい事件。
    恋人が殺される。そして探偵も殺される。
    それは始まりの四ページ目にすでに書かれている。


    マジシャンの心得というものが三つあるらしい。
    「種明かしをしない」
    「同じマジックを続けて二度やらない」
    そして最後が
    「これから何をやるのか決して言わない」

    魔術師が「カードを消す」と言っても、消したあとに再度出現させ、さらにカードの図柄を予言までしていた、なんてことはよくある。
    奥の奥までは決して言わないのだ。

  • 静子夫人の多面性にまずゾクゾクときて謎が深まり天井裏まで・・・。ということで「孤島の鬼」よりもポイント高いし、あのあいまいさも含めての終結の仕方、良かったです。
    全集で何にも先入観なしに初めて読んだ時の衝撃が一番良かったけど。再読には向かない一冊?

    • kwosaさん
      jyunko6822さん

      こちらこそご無沙汰しております。
      コメントありがとうございます。

      最近は読書量も減り、ブクログからも...
      jyunko6822さん

      こちらこそご無沙汰しております。
      コメントありがとうございます。

      最近は読書量も減り、ブクログからも少し遠ざかっていましたが、また読書欲が湧いてきました。

      読書会うらやましいです(なんとも濃いラインナップですね)。
      僕は以前、旧角川文庫版の『陰獣』(カップリングが『孤島の鬼』!)を読みました。
      ミステリに慣れてくれば「あり得る」結末なのかもしれませんが、江戸川乱歩という作家の存在自体がミスリードになっているのが面白く、まんまとやられました。

      『満願』いいですよね。
      物語と文章を読む楽しみ、そしてミステリの醍醐味が乖離していないのがとても好みで、故・連城三紀彦氏の風格さえ漂うと感じました。
      余談ですが来月のあたまに、連城三紀彦『夜よ鼠たちのために』が宝島社文庫で復刊されます。
      長らく入手困難だった本で、個人的にはミステリ短篇集の傑作の部類だと思っているので、ご興味があればチェックされてはいかがでしょうか。

      つい長々と失礼しました。
      秋の気配が近づいてきました。
      また読書生活に入ろうかと思います。
      これからもよろしくお願いします。
      2014/08/27
    • kwosaさん
      jyunko6822さん

      「静子夫人」のコスプレって和装ですか?
      素敵ですね。
      もしや「ミミズ腫れ」も!?
      jyunko6822さん

      「静子夫人」のコスプレって和装ですか?
      素敵ですね。
      もしや「ミミズ腫れ」も!?
      2014/09/01
  • 凄まじく重みのある2篇。陰獣は乱歩よろしく人間の卑しさや歪んだ感情を生々しく描ききっており、推理ものとしての読み応えのみならず、その表現の濃さが立ち込めている。中編としては間違いなく傑作。
    そして孤島の鬼。次々と物語は複雑さを増し、見事な伏線回収に思わずあっと声が漏れる。ここでも乱歩らしい人間の描き方が際立つ。広く深い、重厚感のある物語。ミステリ、冒険活劇、恋愛あらゆる要素が詰まったこれまた傑作である。

  • 推理小説の大家の名作2編収録。

    【陰獣】
    タイトルも凄いが作者自身をトリックに使っているところが前代未聞。

    【孤島の鬼】
    何回よんでも胸に残る圧倒的な不気味さ!
    映像化が難しいと思われるのでぜひご一読ください。

  • 古本屋で購入。バーコードすらつおていない本だった。孤島の鬼が読みたくて買ったなんて恥ずかしくて口が裂けてもいえない。

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著者プロフィール

1894(明治27)—1965(昭和40)。三重県名張町出身。本名は平井太郎。
大正から昭和にかけて活躍。主に推理小説を得意とし、日本の探偵小説界に多大な影響を与えた。
あの有名な怪人二十面相や明智小五郎も乱歩が生みだしたキャラクターである。
主な小説に『陰獣』『押絵と旅する男』、評論に『幻影城』などがある。

「2023年 『江戸川乱歩 大活字本シリーズ 全巻セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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