夢遊病者の死 (角川ホラー文庫)

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  • 角川書店 (2000年6月9日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (369ページ) / ISBN・EAN: 9784041053232

感想・レビュー・書評

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  • 【夢遊病者の死 感想】
    江戸川乱歩らしい陰鬱さと、美しいまでの悲劇性が胸を打つ短編だった。

    夢遊病という制御不能な病に苦しむ主人公・彦太郎。彼は「自分の知らない自分が、人を殺してしまったかもしれない」という底知れない恐怖と罪悪感に苛まれる。誰も彼を助けられず、彼自身もまた真相を知ることなく、恐怖にかられて逃げ惑い、熱中症で命を落としてしまう。

    現代と違って、当時は精神疾患への理解がほとんどなく、「努力すればなんとかなる」といった希望すらない時代背景が、いっそう物語のやるせなさを深めている。
    そして今日においても、精神疾患を抱える人が働き口を失い、支援も不十分で、生きづらさを抱えているという現実に重なって見える。

    最も切ないのは、彦太郎は真実を知ることなく亡くなってしまうこと。もしかしたら自分が、と自責の念に駆られ、そのまま亡くなるなんて・・。

    短いながらも、深い哀しみと社会的な痛みをはらんだ一作だった。読後感は、ただただ、やるせなく、苦しい。

    【毒草】
    静かに滲む毒のような女の情念にゾッとしつつ、どこか哀しみも感じた。
    自分にとってはただの知識でも、誰かにとっては毒にも救いにもなりうる。言葉が与える影響は予測できない。語るという行為そのものが、毒草のように扱い方次第で誰かを傷つけることがある。
    そのことに改めて気づかされる読書体験だった。

  • 彦太郎は夢遊病であった。記憶もないのに物取りをして働き口をクビになり、文無しで帰った実家では父親と顔を合わせるたびに喧嘩をしていた。ある朝目が覚めてみると、父親が死んでいた。彦太郎は自分が父親を殺したのだと思い込み、飲まず食わずの必死で逃げた。その晩、彦太郎の家からは、棺が二つ運ばれていった。


    あまりにも愚か。自分の思想が自分を殺している。

    思考に気をつけなさい 言葉がいつか行動になり いつか運命になる マザーテレサの言葉を思い出す物語だった。
    このとき父親を殺したのは偶然の事故だったが、たとえこの事故が起こらなかったとしても、いつかの晩に彦太郎は父親を殺しただろう。
    殺人は彦太郎の運命だった。相手が父親だったか、自分だったか。

    これまで夢遊病のさなか働いたいくつもの窃盗を、彦太郎は決して覚えていないが、お金にめっぽう執着していた彦太郎は、無意識のうちに罪を犯したのではないだろうか。
    彦太郎が父親を憎みその死を願うさまは、思わずそのように想像してしまうほど執念深い。

    自分が殺人を犯したという白昼夢によって正気を奪われ、その夢によって自分自身を殺された。
    彦太郎は夢に殺されたのである。しかも、見てもいない夢を見たと錯覚して、自殺する。めちゃくちゃ面白い。
    江戸川乱歩って天才なんじゃないか。

  • 100年近く昔の小説だと、推理物としては現在の常識とだいぶずれている。DNA鑑定すれば分かるだろ!と突っ込んでしまいたくなったり。なのでそれらの論理を一度脇に置いて、雰囲気を楽しむ感じになる。
    圧巻は「虫」。後半の死体腐敗の描写は言わずもがなだが、人づきあいの苦手な主人公が対象に粘着していく描写のリアルさがとにかく気持ち悪い。こういう精神構造や心理の動きは、いつの時代も世の中にありそうなだけに。

  • どうしても乱歩が読みたくて借りてきた1冊。これしか図書館にはなかったのだ…。はっきり言って出来不出来の差が激しい短編集かも。傑作選を読んでしまっているとそう感じてしまう。

  • 小説家江戸川乱歩(1894-1965)の作品集。乱歩の作品を読むと、読書の暗い淫楽に耽ることができる。 初期の探偵小説らしく、異常心理や暗号を好んで取り上げている。「しかし、なんの因果か私には、少しでも疑わしい事実にぶっつかると、まるで探偵が犯罪のあとを調べまわるように、あくまでその真相をつきとめないではいられない性質がありました」こんな一言で excuse してしまえば、あとは自分の推理に没入させてしまえる作家の素朴さ・アイロニーの無さは、探偵小説黎明期ならではだろう。

    「石榴」
    ジャンケンのように無限遡行の決定不能だ。真実か虚構か、加害者か被害者か。ポー『盗まれた手紙』の中のジャンケンの話を挿入したのは見事だ。そして、読後もそのイメージを広げていくタイトル「石榴」も秀逸の一語に尽きる。本作品集に於ける白眉。

    「赤い部屋」
    倦怠は朝の光のうちにある。闇を駆逐し充満せる光の出口無き牢獄、これこそが本当の深甚なる【闇】だ。朝の光は、夜の闇の夢幻を即物へと暴露していく。朝の暴力。そして倦怠は、闇とともに、その闇を消され続けることで、どこまでも浸潤ていく。光の充満こそが、【闇】だ。「・・・、突如真昼のような電灯の光が、私たちの眼を眩惑させた。そして、その白く明るい光線は、忽ちにして、部屋のただなかにただよっていた、あの夢幻的な空気を一掃してしまった。そこには、暴露された手品の種が、醜いむくろを曝していた。・・・。「赤い部屋」の中には、どこの隅を探してみても、もはや、夢も幻も、影さえとどめていなかったのであった」。こうして彼は、他の者たちを、自分と同じ退屈の淵に突き落としたのだ。

    「夢遊病者の死」
    「・・・・・・何が悲しいのだ。なんということもなく、すべてが悲しいのだ」鬱屈した青年が反側輾転しながら漏らす口癖は「死んじまえ、死んじまえ、死んじまえ・・・・・・」こんな青年が現代どれだけいるか、想像して戦慄する。

    「指」
    たった数ページにまで切り詰められた見事なナンセンス・ホラー。

    「虫(蟲)」
    「・・・、十数年の歳月は、可憐なお下げの小学生を、恐ろしいほど豊麗な全き女性に変えてしまったと同時に、その昔の無邪気な天使は、」柾木の神様でさえあった聖なる乙女は、いつしか妖艶たぐいもあらぬ魔女と変じていたのである」「芙蓉のような種類の女は、二つ面の踊りと同じように、二つも三つもの、全く違った性格をたくわえていて、時に応じ、人に応じて、それを見事に使い分けるものだということを、彼はすっかり忘れていた」虫のように変態していく女への、愛憎と畏怖。女もまた、無限遡行の底無しだ。それを感得できるのは、社会からも女からも疎外された孤独な男だけだ。男だけには、その行き着くところが何処にも無いまま無間地獄へ陥っていく。女は、素知らぬ顔で浮遊している。そこから、男のあらゆる狂おしい異常性欲が創造されていく。タイトルの「虫(蟲)」は、作品のクライマックスで明らかになる。しかし同時にそれは、変態させられ続ける――現象を変態として認識するのは、飽くまで男の視線である――性を負わされた「女」の隠喩ではないか。そしてそれは取りも直さず、「女」を変態させていく「男」の隠喩であるのかもしれない。「虫(蟲)」というタイトルは、実に両義的なものではないか。神様から妖女へそして永久の美がこぼれ落ちていく物体へと変態させられ続けた女を、じっと窃視しその眼差しのみによって変態させ続けた男の物語。

  • 会話や言葉が楽しい、と思う。それと独白だけで話がひとつできていたり。江戸川乱歩さんはものすごく読みやすくて読んだ後あー面白かった、満足だ、となる。色あせないのがすごいなあ。

  • 角川ホラー文庫での乱歩の短編集は数あるが、怪奇幻想を扱ったものを中心に収録した「鏡地獄」、一人二役テーマとそのバリエーションを集めた「双生児」、そして曰く言い難い「奇妙な味」を扱った本書が新編集だったらしい。表題作や「算盤が恋を語る話」「二癈人」は有名だろう。

    また、前出の「算盤が~」や「接吻」「モノグラム」など恋愛絡みの話も多いのだが、その多くで女性を強い(恐ろしい)存在として描かれているのは、乱歩の嗜好、そして女性不信が表れたものと言えるかもしれない。

    そんな中、ラストに収録された「虫」は、異常心理から猟奇犯罪を起こし、破滅へ向かう男の姿を描いた上質のサイコホラー。乱歩の猟奇趣味がいかんなく発揮された1編。

  • 乱歩の小説に出てくる男たちは一々臆病で、人一倍恋愛によって傷つくことを恐れ、だからこそ他者の理解できない倒錯的世界に世界にのめり込んでいく。しかし、それは当人にとっては他の誰よりも幸せで甘美な世界なのではないか。ちょっと共感できる俺はどうなんだろう。

  • さすがどの短編もレベルが高い。特に『虫』は乱歩作品で1、2を争うぐらい好きです。

  • 短篇集。「毒草」「柘榴」「指」が好きかな。
    乱歩地獄で映像化した「虫」は映像のほうが怪奇さよりお耽美が
    突き抜けてて好きだ。

  • ▼表題作と『虫』が印象に残った。死体を愛してやまない男の哀しさ。(2006.12.19)

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著者プロフィール

1894(明治27)—1965(昭和40)。三重県名張町出身。本名は平井太郎。
大正から昭和にかけて活躍。主に推理小説を得意とし、日本の探偵小説界に多大な影響を与えた。
あの有名な怪人二十面相や明智小五郎も乱歩が生みだしたキャラクターである。
主な小説に『陰獣』『押絵と旅する男』、評論に『幻影城』などがある。

「2023年 『江戸川乱歩 大活字本シリーズ 全巻セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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