孤島の鬼 江戸川乱歩ベストセレクション(7) (角川ホラー文庫)
- 角川書店(角川グループパブリッシング) (2009年7月25日発売)


- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041053348
作品紹介・あらすじ
初代は3歳で親に捨てられた。お守り代わりの古い系図帳だけが初代の身元の手がかりだ。そんな初代にひかれ蓑浦は婚約を決意するが、蓑浦の先輩で同性愛者の諸戸が初代に突然求婚した。諸戸はかつて蓑浦に恋していた男。蓑浦は、諸戸が嫉妬心からわざと初代に求婚したのではないかと疑う。そんなある日自宅で初代が殺された。これは恐ろしく壮大な物語の幕開けに過ぎなかった-。
感想・レビュー・書評
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30にもなっていないにかかわらず頭髪のすべてが白髪となっている簑浦。それは彼が数年前にある奇怪な事件に巻き込まれたからであった。恋人の死、友人の死、そして事件はさらに恐ろしい方向へと転がりだしていく。
前半は正統派のミステリー。密室の殺人、衆人環視の中での殺人という謎が話の軸です。しかし中盤それが解かれたと思いきや物語は思わぬ方向にスライドしていきます。前半のミステリから後半は冒険活劇、それも乱歩の怪奇趣味が全開で描かれるので乱歩の様々なエッセンスがこれ一冊で楽しめます。
そしてこの作品を単なるエンタメ以上の作品に引き上げたのが諸戸道雄の存在。同性愛者で一度簑浦に告白したことのある彼が事件に絡むことで、怪奇ミステリのこの物語に愛憎もからんでくる切ない恋愛小説の面も見えてくるのです。乱歩作品に恋愛要素のイメージはあまりなかったのですが、こういう作品もあるのか、と乱歩の引き出しの多さに改めて驚きました。
そしてそうした恋愛要素が普通の男女ではなく(作中では簑浦の最初の被害者の初代との恋愛描写もあるのですが)、同性愛者の恋愛という観点から書くのも、なんとも乱歩らしいなあ、と思います。
乱歩作品では他にも『芋虫』や『人間椅子』など倒錯した愛情を持った人物が色々出てくる印象でしたが、諸戸がもしかすると一番乱歩作品で正常に近い人を愛する、という感情を持っていたのかもしれないですね。
今思い返すと、ものすごく内容の濃い小説ですが、ミステリ、冒険、怪奇、そして恋愛とあらゆる要素を独自の乱歩色で塗り上げたこの作品は今後も唯一無二の作品として色あせることはないように思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
主人公と、主人公に同性愛の感情を抱く美青年が、壮絶な事件に巻き込まれる物語です。
腐女子は読まないと損です(*´∀`*)
鬼は、孤島のヤツじゃなくて、主人公だと思う(笑) -
人生観を変えられた作品のひとつ。
差別的な言葉多様されてます。
そういうのが許せない人にはおススメできないかも。
片輪者、同性愛、奇形。
バンバンでてきます。
面白いなぁと思ったのが、
片輪者やシャム双生児(べトちゃんドクちゃんみたいな)を見ても
人として扱える・むしろ愛することが出来る主人公(初代への懸想もあっただろうが)
それなのに、どうしても、極限状態においても、道雄の同性愛だけは最終的に受け入れることが出来なかった、ってところ。
主人公にとっての鬼は彼だったんだなぁ。と。
主人公は、道雄という、誰もが羨む聡明な美青年に愛される、ということに僅かならず自尊心を持ちながら、
時には彼に甘えてみたりして、
でも、そこに道雄の「本気」が見えると、恐ろしくなり、逃げる。ひでぇwww
乱歩は短編が素晴らしいけれど、
この長編小説は、他作品に引けをとらないぐらい、世界観が異様。
おもしろいです。
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江戸川乱歩らしい気持ちの悪い怪事件でした。
恋人や友人の殺人事件を追ううちに、とんでもない鬼ヶ島に辿り着いてしまう話なのですが、
その島で行われていた悪趣味で不気味な活動や全ての元凶の正体の謎解きが常軌を逸していてとても面白かったです。
端的に月並みな言葉で言えば「キチガイ」物語ですが、
「パノラマ島奇譚」のような不思議で不気味な孤島が舞台で、閉鎖的な圧迫感や死の危険を漂わせながらも暗号解読や宝探しなどもあり、冒険小説のようにワクワクしながら読み進められる不思議な作品でした。 -
唯一まともな人間である初代ちゃんは早々にご退場なさってしまった。
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2度目のカナダの冬に読んだ。2009年夏の衝動買いシリーズからの一冊である。
これの直前に「帰らざる夏」を読んで、色々精神的にうわーって興奮状態だったから、「孤島の鬼」の威力も相乗効果で半端無かった。
以下、当時の日記から抜粋。日本語がおかしいのは今も昔も変わらない。(反省!)
『まずは昨日との作風の違い。勿論、時代も傾向も何もかも違うのだが、はやり「大衆文学」「娯楽」という要素の大き過ぎるほどの威力を痛感した。
なにせこれはミステリ兼冒険ストーリーなのだから。
久々に、横溝正史作品を読んだ感じがした。不気味な登場人物や極悪非道な魂胆など、私を怖がらせながらも惹き付けて病まないあの俗っぽさ。
そしてもちろん不純な動機もある。
諸戸の心が痛い。私にとっての最大の悲劇は彼であった。
最後の一行に、どうして心をむしり取られないでいられようか。
ストーリーが何より、諸戸の歪みと純粋さとそしてすべてが、どうしようもなく「人間」を物語っていると感じた。倒錯した愛がなんだ、同性愛がなんだ、彼は一番、鬼の中で人間ではなかったのか。
主人公の蓑浦も、正常な人間であった。しかし彼は、精神や感情といった面ではあまりにも受動に徹していて、作中の「モラル」「正常」の権化一辺倒であったにすぎない。
蓑浦はあまりにも、中心人物でありながら、理想の「語り部」でしかなかった。
人の内なる欲望、原始的な欲求、そして理知に富んだ「人間」でしか制御できない愛と純粋、それ故の歪み、諸戸こそがすべてを包容し、何度挫けても立ち上がった、輝かしい人だ。私は彼の中に、希望を見た気がする。何の希望なのかわからない。だが、違っている、正常でない、おかしい、と言われそうなほどの彼の愛を、私はそれでも評価したい。否、評価せずにいられようか、これほどの「人間」らしさを。
だがしかし、世の中とは残酷だ。結末は、全く持って話に溺れてそれこそ八幡の薮知の状態で、当初私は驚いた。だがこれは避けられぬ運命だったのだ。ナラティブがどうのこうのより、それよりもっと大きな、著者のいた時代という海流の仕業である。
悲しい、悲しい、世間が憎い。
話の間はずっとそうだったが、最後の最後で諸戸に本当にすべて持ってかれた。
これほどに、いじらしい人がいただろうか。
こんな人を、切り捨てざるを得ない状態に追い込んだ世間が憎い。それでも最後まで諸戸は戦ったのだ。心の内で、一人で、誰ともなく戦ったのだ。彼はその心を、その愛を貫き通したのだ。そんな彼を、部外者(読者)である私が、愛さずにいられようか。
これは私が彼に対して異性であると同時に、今の現代社会の中で読み終えたからだろう。
だが、俗物的なこの小説に、ここまで感銘を受けるとは思わなかった。
またしてもえらく感情的になりすぎているが、本当に、諸戸の為に泣きたい。
思ったよりグロくは無かったけど(横溝作品で見知ってるので)、嫌な人は嫌がるかな。それでも、私みたいな妙に斜め上の解釈をする人には、オススメ。』 -
江戸川乱歩さんの頭の中ってどうなってんだろう…。
と前から思ってた事が更に濃くなったそんな作品です。
色々と驚かされましたが、
陰険でジメジメしてる一言で言うと「気持ち悪い」話でした。
その「気持ち悪い」感じが
ただ気持ち悪いのではなく癖になる、耽美でいて気持ち悪い。
全く不快感の無い、気持ち悪い作品。
同性愛の要素も有り、
最後の最後まで主人公を愛し続けた諸戸さんが切なかったです。 -
昔読んだことがあったが、内容をかなり忘れていたので再読。探偵と密室殺人と同性愛と奇形と冒険、江戸川乱歩全部入りの小説。
色んな日本の物語の原点が見える。
著者プロフィール
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