- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041060476
感想・レビュー・書評
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【短評】
名手・小野不由美によるホラー短編集。
どの作品も非常に後味が良く、どこか「ほっこり」とさせられる。読了後「嗚呼、素敵なお話だ」と嘆息することしばしば。解説で宮部みゆきが触れていた「折り合いを付ける」というのが言い得て妙であり、怪異に取り込まれるでも打ち勝つでもなく、細やかな”営繕”という手段を以て、怪異を受容する手法が快かった。一方で、要所要所には「怖さ」がピリリと効いており、ホラーとして弱いと言うこともない。
派手さは無いが堅実な作品。根しとしとと雨の降る梅雨の時期にぴったりの一冊である。
①奥庭より ★★★★☆
箪笥をカリカリと削る何者かの手。静かに立ち現れる怪異の描写が印象に残る。強烈な恐怖ではないが、ジワリと背筋に来る感じが非常に好み。
怪異との共存という本作の妙味が見事に表現された結びの一文が秀逸だった。
②屋根裏に ★★★☆☆
「ばいばい」が大変に怖かった。無垢な子供だからこその恐怖というものがある。三津田信三の「キヨちゃん」を思い出した。怪異の正体が**というのは恐怖的にはマイナス(既にキャラクタが確立してしまったいるゆえに)なのだが、最後の「ヒュッ」は趣深いものがある
③雨の鈴 ★★★☆☆
美しさすら感じる怪異の描写!!お悔やみを申し上げる”魔”である。
明確な法則性のある怪異は結構好みなのだが、ややパズル寄りの解決に向かってしまったのは少々残念。叙情的な意味合いにおいて、非常に印象に残る魔であっただけに、そちら方面の広がりを期待してしまった
④異形のひと ★★★☆☆
正直笑った。引き戸を開けるとおじさんが詰まっているというのは、実際に行き会うと最高に怖いと思うが、第三者的な視点で見るとちょっと面白く感じてしまう。他の編に比べると、解決編(?)がやや唐突だった印象もある
⑤潮満ちの井戸 ★★★☆☆
魚が跳ねていると思ったが、まさか*とは。しかも千切られているとは。
良くも悪くもそこの印象に収斂してしまった。本作の地味さがやや悪い方向に向かった印象。スルリと終わってしまった
⑥檻の外 ★★★★★
抜群。間違いなく本作のベスト。タイトルからして本当に素晴らしい。
光の使い方が上手い。壊れたシャッターというギミックを上手に使って、暗闇と忍び寄る怪異の恐怖感を見事に演出していた。
本作屈指の哀しいお話。無垢な子供が絡むお話には感じるものがある。本シリーズは怪異の由来が明確な方が味がある気がする。どうしてそこにいるのか、に物語がある方が格段に良い。本作は明確に所以がある。哀しいお話が、ある。
「かってに、あいたよ」が齎す感慨に本作の魅力の全てが詰まっていると行っても過言ではないだろう詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
怪異を『祓う』わけではなく、
怪異を『倒す』わけでもやく、
修繕することで 問題を解決する のが面白いなと思った。
派手な演出を求めて読むと、物足りなく感じるかもしれない。
でもその分、日常に地続きな怪談を読むことができ、これはこれで楽しかった。 -
2023.06.19 ★3.8
古い家特有のほの暗い雰囲気、明かりを点けても部屋の隅まで光が届かない感じが、すごく伝わってくる。
子どもの頃の、おばあちゃんちに泊まった夜、あそこから手が出てきたらどうしよう、とか、あの廊下曲がった先に誰か居たらどうしよう、みたいなゾクゾク感が味わえた。
続編があるようなのでそちらも読もうと思う。
↓↓↓内容↓↓↓
雨の日に鈴の音が鳴れば、それは怪異の始まり。極上のエンターテインメント
叔母から受け継いだ町屋に一人暮らす祥子。まったく使わない奥座敷の襖が、何度閉めても開いている。
(「奥庭より」)
古色蒼然とした武家屋敷。同居する母親は言った。「屋根裏に誰かいるのよ」(「屋根裏に」)
ある雨の日、鈴の音とともに袋小路に佇んでいたのは、黒い和服の女。 あれも、いない人?(「雨の鈴」)
田舎町の古い家に引っ越した真菜香は、見知らぬ老人が家の中のそこここにいるのを見掛けるようになった。
(「異形のひと」)
ほか、「潮満ちの井戸」「檻の外」。人気絶頂の著者が、最も思い入れあるテーマに存分に腕をふるった、極上のエンターテインメント小説。 -
家にまつわる怪異のお話。
想像すると住んでるところでゾッとする事が続くのか1番嫌かも…
そんな怪異を営繕かるかやの尾端さんがうまく収めて、家主が受け入れて共存していくようなお話。
最後の話はとても切なくて…ラストで親子が目撃したシーンに救われました。
続きも読みたいと思います。 -
古い家で起きる霊的現象を
祓うでもなく、遠ざけるでもなく
共存と言うか支障が出ないよう
少し手助けをしてくれる営繕屋。
営繕屋自身の事は余り語られる事はなく
その由縁が気になるところ。
シリーズものなので、のちに分かってくるのかな。 -
小野不由美さんのホラー短編集
怪異を祓うのではなく、家の「傷」として住人と折り合いをつけさせるという解決の仕方が新鮮で面白い。
ただ、家という本来くつろげる場所に怪異が出るというのはじわじわとくる怖さがあった。田舎ならではの窮屈さや古い家の薄気味悪さが妙にリアルで、小野不由美さんはこういう細やかな描写が上手いなと感じた。 -
続巻が出ていたので1巻を読んでみました。
少し不思議というより、大分怖いお話。営繕屋なので、家や道や土地にまつわるものって、地味に怖い。
でも、対処というか、アヤカシでも霊でもモノでも、何を求めてどうしたいのかという事を考えると、少し恐怖が安らぐ感じが救いだな、と思いました。でも家の中にいる怪奇は怖い。向こうも怖がってるとは思わないもんな… -
怖くて切なくて愛おしい、古家屋と怪異と営繕の物語。建物や場所に取り憑いた残穢が人に障りをなすあたりは「残穢」や「鬼談百景」のテイストを引き継ぎながら、それを家屋営繕で解決するという手法が新しい。営繕屋の尾端による怪異の謎解きは控えめすぎて病みつきになりました。