慟哭の海峡 (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (452ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041061626

作品紹介・あらすじ

2013年10月、2人の老人が死んだ。

1人は大正8年生まれの94歳、もう1人はふたつ下の92歳だった。2人は互いに会ったこともなければ、お互いを意識したこともない。まったく別々の人生を歩み、まったく知らないままに同じ時期に亡くなった。

太平洋戦争(大東亜戦争)時、“輸送船の墓場"と称され、10万を超える日本兵が犠牲になったとされる「バシー海峡」。2人に共通するのは、この台湾とフィリピンの間にあるバシー海峡に「強い思いを持っていたこと」だけである。1人は、バシー海峡で弟を喪ったアンパンマンの作者・やなせたかし。もう1人は、炎熱のバシー海峡を12日間も漂流して、奇跡の生還を遂げた中嶋秀次である。

やなせは心の奥底に哀しみと寂しさを抱えながら、晩年に「アンパンマン」という、子供たちに勇気と希望を与え続けるヒーローを生み出した。一方、中嶋は死んだ戦友の鎮魂のために戦後の人生を捧げ、長い歳月の末に、バシー海峡が見渡せる丘に「潮音寺」という寺院を建立する。

膨大な数の若者が戦争の最前線に立ち、そして死んでいった。2人が生きた若き日々は、「生きること」自体を拒まれ、多くの同世代の人間が無念の思いを呑み込んで死んでいった時代だった。

異国の土となり、蒼い海原の底に沈んでいった大正生まれの男たちは、実に200万人にものぼる。隣り合わせの「生」と「死」の狭間で揺れ、最後まで自己犠牲を貫いた若者たち。「アンパンマン」に込められた想いと、彼らが「生きた時代」とはどのようなものだったのか。

“世紀のヒーロー"アンパンマンとは、いったい「誰」なのですか――? 今、明かされる、「慟哭の海峡」をめぐる真実の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 「アンパンマン」の歌は大人になってその意味を考えると、とても胸に迫るものがあります。
    それは作者やなせたかしさんの戦争体験に由来するものと知り、歌詞に込められた本当の意味に近づけたような気がします。

    夏、終戦記念日が近づくと何か戦争関連の本を読もうと決めていて、今年はこちらを手に取りました。

    戦争を経験した2人の人生を追う形で進んでいく本書は、歴史に埋もれていった当時の若者たちの存在をリアルに感じさせてくれます。
    そして、それはその後ろにある無数の犠牲のほんのひとかけらであることも

    失われた若者たちは、戦争がなければきっと日本の発展に大きく寄与してくれる優秀な人たちがほとんどだったろうと思います。
    歴史にたらればはあり得ませんが、若者を戦地にしかも最前線に送ることを、もっと慎重に判断できる人間が指揮官の中にいたら、と考えてしまいます。

    やなせ氏の話に戻ると、きっとアンパンマンを描く間は、やなせ氏は弟の千尋とずっと一緒だったのだろうと思います。
    アンパンマンが子どもたちに人気なのは、きっと誰1人として置いていかないアンパンマンの優しさに気づいているからではないでしょうか。
    今も子どもたち大好きですよね。アンパンマン。

    戦後70年以上経ち、どんどん当時を語ることができる人は減っています。
    本書のようなノンフィクションが、もっと世間の人々の目に留まってほしいなと思います。

  • パシー海峡の戦闘で奇跡的に生還し後の人生を戦友たちの鎮魂に捧げた中嶋秀次氏と同じ戦闘で弟を亡くしたやなせたかし氏のノンフィクション。いまの平和な時代はこうした数多の方たちの犠牲の上にあることに感謝しかないです。そして、自分より優秀な下のきょうだいを亡くしたやなせ氏の無念が痛いほど分かります。アンパンマンの自己犠牲の精神は弟さんだったのですね。

  • 戦時中、旧日本軍の輸送船が米軍の潜水艦に数多く沈められ、十万人以上の日本人が犠牲となったバシー海峡の存在を本書を読んで初めて知ることができた。
    この魔の海峡で、中嶋秀次氏は十二日間も漂流した。漂流の描写は壮絶であった。
    また、日本人にはお馴染みのヒーロー「アンパンマン」の生みの親である、やなせたかし氏には、戦時中バシー海峡で亡くなった千尋という弟がいたことも初めて知った。
    千尋は幼いころは丸顔で、優しく、京帝大卒で海軍将校になり、前途有為にもかかわらず国のために犠牲になった。千尋は「アンパンマン」のモデルなのだろうと自分も思った。

    本書は、埋もれていた歴史事実を教えてくれた。
    当時の国家体制から自己犠牲を強いられ、無念の死を遂げた多くの若者のことを考えるきっかけとなった。
    だからこそ、作者の「アンパンマンを通じて、自己犠牲という日本独特の価値観であり、生き方が、世界に広まっていくことを願わずにはいられない。」という件には、納得できないものを感じた。

  • 人としての出来の良し悪しというのは、命の重さに関係はないけれど……、それでもやはり大変優秀な若者が亡くなったという悲惨な事実。忘れ去られて行っているという厳しい現実。
    大正5年生まれのおじいちゃんと同世代だから身近に感じることもあり涙が止まらない。
    戦争は否定してもいいけれど、命を懸けて日本を護ってくれた英霊には、ただただ感謝しかない。
    あとがきにあるように、歴史は事実と体験。現実としてそのまま受け入れる鍛錬が必要。決して遊び道具にしてはいけないと怒りと共に思う。

  • 2019/6/30細かな描写は素晴らしかった。

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著者プロフィール

作家、ジャーナリスト。1958年、高知県生まれ。中央大学法学部卒業後、新潮社入社。『週刊新潮』編集部記者、デスク、次長、副部長を経て2008年独立。『この命、義に捧ぐ─台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡』(集英社、後に角川文庫)で第19回山本七平賞受賞。主な著書に『死の淵を見た男─吉田昌郎と福島第一原発』(角川文庫)、『日本、遥かなり─エルトゥールルの「奇跡」と邦人救出の「迷走」』(PHP研究所)、『なぜ君は絶望と闘えたのか─本村洋の3300日』(新潮文庫)、『甲子園への遺言』(講談社文庫)、『汝、ふたつの故国に殉ず』(KADOKAWA)、『疫病2020』『新聞という病』(ともに産経新聞出版)、『新・階級闘争論』(ワック)など。

「2022年 『“安倍後”を襲う日本という病 マスコミと警察の劣化、極まれり!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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