- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041064320
作品紹介・あらすじ
突如天空に現れた<未知なるもの>。 世界で増殖する不定形生物プーニー。 抵抗値の低い者はプーニーを見るだけで倒れ、長く活動することはできない。 混迷を極める世界を救う可能性のある作戦は、ただ一つ――。
感想・レビュー・書評
-
新海誠の映画を見ているような、満足感。異生物が「天気の子」の空の上の生物で脳内再生されてしまった。ストーリーは全然違うのだけど。
異世界転生、ロールプレイングゲームのような雰囲気もあるファンタジー世界とSFの融合という感じ。異次元の存在「未知なるもの」と、それに呼応して出現した白く有害な不定形生物「プーニー」が地球を脅かすという設定。「プーニ―」というのは、何かの隠喩だったのだろうか。体質によって、耐プーニー性の強い人がいるらしく、彼ら、彼女らが地球を救うために活躍する。放射能?ウイルス?実社会でも、こうした未知なるものに対して、耐性を示す人というのは存在する。
世界を取り戻すために何を犠牲にしなければいけないのか。登場人物それぞれの守りたいものに対する葛藤や物語に引き込まれる。恒川光太郎の小説は恐らく初めて読んだが、また読んでみたいなと思う作品だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
恒川先生らしいSFファンタジーの内容。
ある男性が異世界に迷い込む。そこは現世と違い、ストレスなく、居心地もよく、理想が現実になる世界。その男性は戸惑いながらも、その世界を満喫していく。
いっぽう、現世(地球)では突如「地球外生命のようなもの」が現れ、大勢の人が死んでいく。解決の鍵を握るのが異世界のその男性。
ファンタジー(異世界)と現世(地球)を上手く結びつけて、この男性や地球で生きている人の苦悩を分かりやすく表している作品。
恒川先生の想像力に驚かされる小説です。 -
気がつけば最近手に取っていた本は、世界が滅びるとかそういう方向に進むものが連続していた。
第一章では日常で生きていたはずの鈴上健一が、いつの間にか見知らぬ土地(世界)に迷い込み、生き始める。
その世界は現代世界というより桃源郷のような社会で、家や乗り物こそ現代風なものの、魔物とか魔女とか最果ての丘駅とか精霊の森駅とか、とにかくネーミングがファンタジーであり、ふわふわとした読み心地でなんだか落ち着かなかった。
しかも鈴上の前に唐突に現れた人物・中月の話す内容が(あとの章を読めば本当なのだけれど)、まだ鈴上の生きる第一章しか読んでいなかったときには、とても不気味な話にしか見えなかった。
第二章ではそれが突然、読者のいる現実に近い世界観になる。
しかしそこは、謎の物体・プーニーが現れた、恐ろしい世界。
プーニーという名前はなんだかギャグのようだけれど、それに耐性のない者は死んでしまったり、プーニーをあやまって食べたものは約七日でプーニーの塊になってしまうという、狂気の世界に変わっていく。
第一章の終盤に登場した中月の話していた世界の裏づけが第二章以降されていくのだが、第一章と第二章の世界観のギャップがすごすぎた。
他のレビューを見ているとなるほど、自分のいる立場で正しいとされる行動が変わってしまうことがテーマなのか…とおもったが、読めば読むほど私の目には鈴上が悪者に見えていってしまった。
鈴上が第一章で生きていた世界を壊され、鈴上もまた被害者と言えるだろうに、読めば読むほどなぜかそんな鈴上の言動が傲慢に見えていった。
「滅びの園」も、鈴上にとっての園と、第二章の世界での園が全然違い、どちらかの園しか残ることはできないのだが、どちらが残ったほうがいいと決めきれなさがあった。
ただ、鈴上のことは、話を読めば読むほど好きになれなくなっていたので、個人的には第二章の主人公・相川のいる世界のほうをとりたかった。
これは桃源郷でしあわせそうに生きていた鈴上への、嫉妬なのだろうか?
もし自分がこの世界にいたならば、おそらく自分は相川のいる世界(プーニーに脅かされる世界)にいたはずだったからだろうか?おそらく、そうなのだろう…
だからこそ、プーニーのいる世界は本当に怖かったし、なんとかしてほしかった。
世界を救うための突入者を公募する話では、戦時中の特攻隊を思い出し、すごく気持ちが沈んだ。
そんな中で出てきた「誰もが誰かのために生きている」(225ページ)という一文の気持ち悪さといったら、なかった。
一方通行とほぼわかっている突入に、こんなにも多くの人が志願する状況が、とても異様で、すごく怖かった。
鈴上にとっては自分の世界を守るための正義だった言動も、他者にとっては憎むべきものであった。
鈴上の生きる世界も見ていたはずなのに、わたしはどうしても、鈴上のことを、憐れむことができなかった。
むしろ第二章の主人公・相川の人生のほうが、気にかかった。
ここまでの話運びを考えると、このラストは唐突な感じがしてしまい、「これで終わり??」となってしまった。 -
夢中で読んだ。日常からとんでもないSFに吹っ飛んでるのに「ああ、あるかもね」って読み進める不思議。
理剣くんの告白は胸熱。 -
毎回物語の世界にグッと引き込む力のあるお気に入りの作家さんだが、いつからか世界観がぶっ飛びすぎて、
ちょっとついて行けなくなったのも事実。
今回も前半は置いてけぼりをくらい、
これは最後まで読み切れるのか?と心配になったけれど、なんとか後半馴染んできて読了。
善とは?悪とは?
それを判断するのが難しい作品だった。 -
こういう小説は最近の時世と照らし合わせてしまうね。いつまでも続くと思ってた日常がある日急に変わってしまうような。さすがにこのプーニーの襲来に比べれば、まだマシなのかもだけど。
鈴上氏の立場が1番不遇なのかな。自分で望んだわけではないのに、ある日舞い降りた世界がプーニーの中の世界で、そして地球に戻ってきたらいろんな人から恨まれる存在になってしまうのは。あとは野夏くんも。 -
面白かった。恒川さんの長編小説は、もう本当に自分に合う。
世界の終わりとハードボイルドワンダーランドのような、2つの世界にわたる話だけど、村上春樹の小説のよりも圧倒的にわかりやすい物語がある。
理想の世界で穏やかに暮らす人、地獄のような世界で滅びゆく世界に暮らす人、どちらにもどちらなりの正義があり、どちらにも愛すべき家族や隣人はいる。その葛藤が時には淡々と表現されることもあるが、その分、胸が苦しくなるほど響いた瞬間もあった。
外宇宙から来た生物の思いは語られない。人類の一サンプルとして、そして自身のエネルギー源として、「生物としてのコミニケーション」よりもはるかに高次元の目的での営みだったのかもしれない。語られないが、最後に誠一が幕につつまれる瞬間の一言は感動した。
「いったいどこに自分の娘を殺す父親がいる?(中略)百回繰り返しても百回あなたたちの敵に回るよ。」
現実的に僕がそんな選択が迫られることはなくても、でも、僕もきっと、そんな選択をするんだろうと思った。 -
ある日突然空にあらわれた「未知なるもの」によって世界は粛々と破滅へと導かれていくばかりとなったが、世界にはまだ希望が一つだけ残っていた。それは「未知なるもの」に取り込まれた一人の男性の存在だった…
「プーニー」なるどこかゆるキャラのような名前の侵略者の存在、これを排除する「プニ対」の人々、そして「未知なるもの」に取り込まれた異界へ侵入せんとする「突入者」…。
ややこしい説明をほぼ省き、淡々とけれどこれらの独特の単語の語感の印象を強く残しながら描かれる物語は、きわめて絶望に彩られ、圧倒的なディストピアな世界。
されど、あくまで飄々と己を保って生きる人間たち、絵本のようなうつくしく平和な異界、ファンタジーのような魔獣、それらが恐ろしさを緩和して、まるで読む側も不定形の「未知なるもの」に浮かされているかのような、不可思議な世界にたゆたう感覚に囚われていく。
文章で描かれているのは膨大な数の死であり、暴力であり、絶望であるのに、その重さがどこか「抜けている」。その絶妙なバランスの味わいが、なんともいえず作者らしいと思うのです。怒りを怒りと、悲しみを悲しみと、不幸を不幸と声高に描かずに、それらをひっくるめた「世界と個人」を描けてしまっている。と、思う。
主人公(異界に囚われた男性)は考えてみれば最初から最後まで現実的には不幸といえる存在でしかなかったけれど、彼にとってはたしかに「幸福」が「現実」にあった。その酷さは、…受け入れられるものじゃあないよなあと、最後、思ったのでした。