過ぎ去りし王国の城 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
3.42
  • (19)
  • (108)
  • (144)
  • (20)
  • (2)
本棚登録 : 1302
レビュー : 118
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041064344

作品紹介・あらすじ

早々に進学先も決まった中学三年の二月、ひょんなことから中世ヨーロッパの古城のデッサンを拾った尾垣真。やがて絵の中にアバター(分身)を描きこむことで、自分もその世界に入りこめることを突き止める。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ひとりぼっちは可哀想。目立たない壁のような人間はつまんねえ奴。夢に見切りをつけたってのはただ逃げただけじゃないの……
    集団から少しでも浮き上がった人間に対して、他人は好き勝手に想像してはレッテルを貼りたがる。憐れみと同情は決して優しさなんかではなく、汚い言葉で彼らを傷つけることによって自分たちはあいつとは違うんだよって安心と快楽を覚える。
    だけど、「頭の中で暮らせたらいいのに」と呟くのも、「生き方を間違った」と結論を導き出すのも、そして「パッとしない人生だけれど、自分ではわりかし上等の人生だ」と言っていいのも、許されていいのは、その人生を傷きながら、もがき苦しみながら、あるいは淡々と諦めたように歩んでいる本人たちだけなのだ。決して他人が勝手に彼らの人生を決めつけちゃいけない。彼らの人生は彼らのものなのだから。

    人はひとりでは生きられない。それは人との出会いや別れ、いろんな経験をすることによって未来が変わっていくことでもあるのだと思う。
    もし、あの時こうしていたら今の自分はもっと違った人生を歩んでいたかもしれない。沢山の後悔や淋しさを抱えて人は歩いていく。
    その中には、もし、あの時あの子に出会って一言声をかけていたら、途絶えてしまったあの子の未来はこの先も続いていたかもしれない。あの子の未来を救えることが出来たら、自分も何か変わることが出来るかもしれない。そう、望むこともあるかもしれない。

    今ある世界を変えることを、今幸せでない人が望んだ時、今幸せな人にとって、それはとてつもなく恐ろしいことになる。
    ヨーロッパの古城が描かれた、絵の世界に閉じ込められているひとりの女の子を助けると、もしかしたら現実の世界が変わってしまうかもしれない……このことに対して絵の中の世界での探索者として出会った現実世界で傷を持つ三人、真と城田、パクさんが向き合ったとき。ここが彼らの、そして読者たちの別れ道となるはずだ。解説で池澤春菜さんが書かれているとおり、自分だったらどうするだろう、をずっと考えることになる。わたしもまだ答えは出ない。

    他人の人生に自分の人生を委ねても、望むように世界は変わらない。けれど、例えば誰かの優しさや勇気によって自分は生かされているんじゃないかと気づいたとき、例えばひとりでも自分のことを分かっていてくれる人がいるんだということに気づいたとき。自分と自分を取り巻く世界はきっと変わっていくはず。この物語には「自分を生きること」がいっぱい詰まっている。

  • 私が小学4年生か5年生の時くらいに『ブレイブストーリー』が上映されていて、宮部みゆきさんの作品に触れるのはそれ以来だとおもう。主人公の年齢がほぼ同じくらいだったからすごく心に残る作品だった。「運命を変えるために幻界へ行く」私は友達の願いを犠牲にしてまで自分の願いを叶えたいだろうか?と考えさせられた記憶があります。


    『過ぎ去りし王国の城』もこれに少し似ていました。
    少しネタバレになってしまうかもしれないのですが、物語の終盤で、主人公は今いる世界を変えるべきか変えないべきかの選択を迫られます。

    私だったらどうするだろう。中学生のあの頃の私だったら。思わず主人公の真に感情移入して読んでしまいました。真は学校では目立たない生徒で「壁」とあだ名をつけられていますが、それがまた私の小・中学生時代を見ているかのようで…。自分の今の学校での立場が急に変わったらいいなぁとか当時の私は夢見ていたので、まさに真は感情移入して読むのにピッタリの主人公でした。


    真とデッサンの城の謎を解明しようとする珠美は連れ子で、家庭の中でも、また学校でも陰口を言われて居場所がないような女の子です。この珠美という女の子の家庭環境が昔の友達に似ていたので、世界を変えたいと珠美が意見を言ったときには大賛成でした。
    このまま世界が変わってハッピーエンドかなと思いきや、珠美の決断は想像を超えたものでした。大人だぁ。

    やっぱり真が等身大の中学生といった感じで、ついつい嫌味なことを口に出してしまったり、自分勝手なことを言ってしまって葛藤したりして好きです。

    『ブレイブストーリー』も『過ぎ去りし王国の城』も私は宮部みゆきさんの作品に触れると、一人のとても大切な友達のことを思い浮かべてしまいます。子どもが主人公だからかな、昔のことをいろいろ思い出しました。
    他の作品も読んでみたいです。

  • 現実と、絵の中の古城が切れ目なく連続しています。ファンタジーものでしょうね。

    主人公たちがドリカム編成(この物語の場合、大人と少年少女の両方が
    いてるのが特徴)なのは安定して面白いです。
    冒険して、姫を助けて、平和になる、って感じで漫画にしやすい構成だとおもいます。
    軽くよめます。
    20180731

  • 小説の中のファンタジーやアドベンチャーは、もちろん現実にはあり得ないのだけれど、もしそこにいたら自分はどうする?どっちへ進む⁇と、試されて、そして主人公たちと一緒に成長できそうな気がしてしまう。

    自分なら絵の中に入る?子どもを助けに行く?その事で今の世界が変わっても救う事を選ぶ⁇
    この物語でも読者は主人公たちと同じように、いろんな場面で岐路に立ち、自分ならどうするか考えるだろう。そして、それが醍醐味だ。

    『バックトゥザフィーチャー』みたいに、過去から戻ってきたら理想的な世界になってたみたいな、宮部みゆきさんはそんなに甘くはない。現実の問題は、現実で戦わなければ道は開けない。
    最後に、現実は甘くないけど頑張ろうよって、背中をボンと叩いてくれた。

  • 表紙の「王国の城」は、実は絵ではない。ということに気がついたのは、物語を半分近く読んだ時だった。

    目次の前に「装画 れなれな(イラスト資料提供 PPS通信社)」とある。これだけならば、「凄い絵だ。確かに、こんな絵ならば物語にあるような不思議なことが起きてもアリかも」と思ったかもしれない。資料提供は、物語通りに何処かの世界遺産のお城の写真を提供して貰ったのだろう。そんなことにまで気を使わざるを得ないほどに重要な絵なのである。ところが、その後に「撮影 帆刈一哉」と続く。「えっ︎写真だったのか?」まるで写真絵画のように見えた椅子や机は、ホンモノの教室だったのだ。だとすると、これは流行りの黒板アートというヤツか。物語に出てくる件の絵は黒板アートではない。でも、物語のテーマにちゃんとあっている。教室の風景も物語のテーマの中で重要な意味を持つだろう。また、心を込めて描いた絵に感動するということも、この絵の「意味」にこだわることも、物語のテーマに深く関係する。

    だから、この物語を紹介するに当たっては、この表紙の絵(写真)のことを、ただいろいろと呟けばそれで足りる。あまりにも淋しくて、つまらない絵と思ったならば、貴方はこの物語の登場人物にはなれない。尾垣くんも城田さんも、パクさんも、写真からでも十分絵にアクセス出来る感受性を持っていた。宮部みゆきの小説自体が、作品世界にすっかり自分を溶け込ませる体験を提供する。だから別の言葉で言えば、宮部みゆきの小説世界に入ることが出来た人は、この絵に出会ったとき、彼らのような体験も可能かもしれない。小説の愉しみ方は、正にそういうことなのだろう。とも思う。

    話は、キチンとファンタジーの王道を経て着地する。パクさんの名前は、2ヶ月前に亡くなった高畑勲のあだ名から採ったのだろう(あだ名の付け方がまるきり同じだ)。私の頭の中では、常に(壮年の頃の)高畑勲アバターがずっと活躍していた。

    2018年6月読了

  • 単行本が発売された時、表紙の絵が話題になっていたのを思い出した。

    『英雄の書』や『悲嘆の門』を読んだ時、ものすごくファンタジー(文中の言葉を使うとスーパーナチュラル)なのに、ラストシーンで現実の持つ重みを突き付けられて、苦しくなる。

    『過ぎ去りし王国の城』も、単に、お城に閉じ込められたお姫様を救う美談にはならない。
    漫画家アシスタントのパクさんと、イジメに遭っている美術部員の珠美は、自分自身の「現実」を分岐させることを願って、9歳の伊音を救いに行く。
    けれど、本来、パクさん達が置かれている現実は、伊音とは何の関係もない。
    そして、「現実」にさほど居心地悪さを感じていない主人公の真は、そこで線引きをされる。

    クライマックスシーンにおいても、城に向かうのは珠美であって、真と語り手は現実世界に戻ってくるため、伊音との結末シーンを見ることは出来ない。
    敢えて、伊音を生きた存在にしたくなかったのかもしれないけれど、珠美と真の微妙な距離感が終わりまで続くのが、ちょっと寂しかったな。

    モチーフとしては辻村深月の『かがみの孤城』に似ている。
    精神的、肉体的な暴力に晒されている少年少女たちが逃げ込むことの出来る、異世界。
    本来であれば、そこでしか果たせない使命や役割の中で、繋がりを見つけ、成長を遂げて「帰って」来ることがセオリーなのだろう。

    それを思うと、結局は自分事を自分で抱えて歩き始めるパクさんも珠美も、地味だ(笑)
    真に至っては、ヒーローを望みながら、そうはなれずに卒業していく。やっぱり地味だー。

    ただ。三人が城から戻ってきた時に受ける、身体的代償、つまり死に近づく描写だけはいやにはっきり書かれているのだった。
    それほどの痛みと覚悟を持ってトリップをした三人が、何もなかった、訳がないという確信もある。
    (まあ、痛みを負えばいいというわけではないんだけど……。)

  • 予想した物とは違った展開をした。
    しかし、宮部節は健在で、彼女の小説内での評価は低いが、面白かった。
    ひとつ疑問なのが、幼い伊音が絵に逃げ込んだ時の肉体はどこにいったのだろう?真たちの身体は現実には存在していたのに…

  • うーん、ちょっと読んでてイラっとした。内容もしっくりこなかったかな。

  • 宮部さん、あまり得意でないけど、これはスラスラ読めたなぁ。

  • 絵の中に入るという古典的なファンタジーの設定でありながら、異世界での冒険よりも、そこへの行き方やかかわり方がメインとなっていると感じた。またパソコンやゲームの用語を使って異世界を表現するのは今風だなと思った。

    主人公視点の物語にしては表現が今どきの中学生がとても使わないような言葉がちょいちょいあったことがちょっと気になった。

全118件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

宮部 みゆき(みやべ みゆき)
1960年、東京都生まれ。1987年に「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞し、デビュー。1992年『龍は眠る』で日本推理作家協会賞、1999年には『理由』で直木賞、2002年『模倣犯』で司馬遼太郎賞、2007年『名もなき毒』で吉川英治文学賞など、数々の文学賞を受賞。大沢オフィス所属。日本推理作家協会会員。日本SF作家クラブ会員。直木賞、日本SF大賞、小説すばる新人賞、河合隼雄物語賞など多くの文学賞で選考委員を務める。『模倣犯』や『ブレイブ・ストーリー』など、多くの作品がドラマ化や映画化などメディア・ミックスされており、日本を代表するエンターテインメント作家として人気を博している。2019年7月10日『さよならの儀式』を刊行。

宮部みゆきの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
宮部みゆき
辻村 深月
有効な右矢印 無効な右矢印

過ぎ去りし王国の城 (角川文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする
×