- Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041064566
作品紹介・あらすじ
明治維新そのものが持つ思想と制度の欠陥に根本原因があるのではないか――1932年、イェール大学で歴史学を研究する朝河貫一は、日露戦争後から軍国主義に傾倒していく日本を憂えていた。そのとき、亡父から託された柳行李を思い出す。中に入っていたのは、二本松藩士として戊辰戦争を戦った父が残した手記だった。貫一はそれをもとに、破滅への道を転げ落ちていく日本の病根を見出そうとする。明治維新の闇に迫った歴史小説。
感想・レビュー・書評
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太平洋戦争前夜のアメリカ・イエール大学で教鞭をとる朝河貫一が、戊辰戦争を戦った二本松藩藩士の父の書き残した手記をもとに、明治維新の意味を問い直すため「維新の肖像」という小説を書くという二重構造となっている。
アメリカで反日の人々から迫害を受けながら、貫一は軍国主義に傾倒する日本を憂える。そして父の手記から、破滅への道へと邁進する日本の病根は明治維新にあると考えるに至る。
明治維新を否定的にとらえ、戊辰戦争で行った薩長の卑怯なやり方が関東軍で踏襲され、満州事変を起こしたと、貫一は考える。
書中の登場人物に、孝明天皇の崩御は長州による毒殺だとも、語らせる。
さらに、薩長同盟の立役者は坂本龍馬との説が一般的だが、これも龍馬がグラバー商会に頼まれ、イギリスの指示を伝えただけだとか。
日本が明治維新で失ったものは、と問われた書中の人物は「やさしさ、人を思いやるやさしさではないでしょうか」と、答える。
戊辰戦争は、日本の古き良き伝統と精神を守ろうとした戦いでもあったのだろうか。
「歴史の地下には、これまで生きてきた人々の声なき声が埋まっている。それを汲みあげることこそ、歴史を語るということなのだ」。
この小説を著す著者の意図でもあるだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
朝河貫一の作中作。明治維新から繋がる第二次世界大戦の日本の暗部を炙り出す。伊藤博文亡き後の日露戦争以後の日本の迷走から日中戦争へと軍部の暴走と国民の無関心に対して切り込んでいる点が素晴らしい。現代まで生き残る長州閥の暴走を改めて思い起こさせた。
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誰もが無意識のうちに明治維新を近代化への第一歩と捉えてきた中、その意義を改めて問い直した作品。
主人公は、二本松出身の歴史学者にして実在の人物。父は戊辰戦争に参戦し、敗北した経験を持つ。
主人公は明治以降の教育を受けたため、戊辰戦争に敗北した父をはじめ故郷の人たちを見下し反発する。そして、アメリカに渡り大学教授となる。
しかし、時代は日露戦争後の混乱期。
日本は満州事変に上海事変、首相暗殺、と軍部の暴走がエスカレートする。
そんな時代にあって、主人公は父の書付をもとに明治維新を再検討する。
そして、軍部の暴走の根源は明治維新にあると発見する。
「勝てさえすればどんな不正を働いても構わない」という明治維新・薩長の価値観が今日の混乱をもたらした。
薩摩の御用盗に、明治天皇の暗殺、大義のない会津攻め。
薩長はやりたい放題をやって、政権を奪取した。
日本が太平洋戦争に至った原因も敗北した原因も、全て明治維新及び薩長にあると言っても過言ではない。
そして、その体制から未だ脱却できていない政権の時代を私達は生きている。 -
明治維新の功罪。興味深く読みました。アメリカのほうの話は、ミステリ要素もあって面白かった。
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幕末パートだけで良かったのではないか。S&Bのメンバーに歴代CIA長官が、という話が出てくるが、CIAないしその前身の設立は第二次大戦中ではないか。
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#読了 明治維新を否定的に描いた小説になるのかな。個人的に、明治維新は概ね成功だったのでは?と知識がないなりに思っていて、新鮮な視点だった。
昭和の第二次世界大戦前の貫一と、その貫一が執筆する小説の中の父正澄の二本柱の展開になっている。そのどちらもが苦境に立たされていてハラハラするやら気の毒やらでどうにか希望のある終わりをと願わずにはいられなかった。 -
明治維新により、失ったものも大きいという事が良く理解できた。いつの時代も勝った者の世の中。しかし、多くの人を犠牲にした戦争へと進んだ罪は重いと思う。
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小説に歴史観などと言うつもりはないけど、維新否定史観は読んでみたかったのでしっくり来るが、それだけにそういう観点に立つと物足りない感じはする。
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時代は昭和初期と明治維新の時を行き来する珍しいタイプの歴史小説。
アメリカのイエール大学で日本史を教える60歳の准教授が戦争に突き進む日本に警鐘を鳴らしていたが、効はならず歯がゆい想いをしていた。
そんなときになぜ、日本はこのように心なく無茶を押し付けるような国になったのだろうと思案した時に明治維新そのものに原型があったのではないかと思うようになる。
それをテーマにした書籍を書こうとするが、内容は学術書でなくて、小説とした。そしてテーマは青年期に対立した父の若き日々について。
彼の父は二本松藩の若き侍であり、江戸幕府側として戊辰戦争に参加していた。
その若き父が見たのは、薩長が旗を振る新政府軍の横暴で、勝てば官軍を地でいくような人道を無視したやり方であった。
絶望的な戦いに身を置くことになったが、最後、人としての義を貫かんとした藩の侍達の最後と、昭和初期の政治的暴走を相互に描いている。
今まで、勝った側の視点しかしらなかったが、世の中には勝った側がひた隠したい、不都合な事柄というのはあるのかもしれないと思った。
更にもしかすると、それが現在の問題の原型になっているかも。。
なにかを考えるときに、片方だけの視点に終始する危険性を感じた。