鳥籠の小娘

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  • Amazon.co.jp ・本 (48ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041066072

作品紹介・あらすじ

村はずれで「幸福が宿る鳥籠」を作る娘はひとりぼっち。
嵐の晩、彼女のもとへやってきた魔物が「さびしい小娘よ」とささやきますが――。

千早茜の幻想を宇野亞喜良の描き下ろし15点が彩る孤独と自由の物語。

江國香織氏絶賛!
”鮮やかなディテールの一つ一つが物語を力強く支えている。読み終ったとき、そのすべてがここに閉じ込められているのだと思うと、一冊の本を所有することの喜びがふつふつと湧いた”(「本の旅人」2019年2月号)

感想・レビュー・書評

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  •  欲に塗れた人間の行く末を大人向けの童話という形で、皮肉混じりに淡々と描いた作品は割とよくあると思うが、本書の場合は、「娘」と「魔物」とのやり取りから思い知る、『幸福ってなんだろう』ということを、意外な切り口から実感させられた内容となっているのが特徴的な、現代的お伽話だと思う。

     また、その意外性は、娘が朝焼け色の瞳、魔物が夕焼け色のまなこと、分かり易い対照性がありながらも、実はそう簡単に判断できるものではないことからも明らかなように、それは千早茜さんの物語の展開であったり、宇野亞輝良さんの、寧ろ、魔物の方が可愛げがあるように思われる絵からも感じられた。


     ある日、自ら作った籠を町に売りに行くことを生業としていた老婆が、一人の娘を村に連れて帰って来て、そのまま住まわせて籠を作らせることにするが、娘が作るのはいずれも鳥籠ばかりで、それは売り物には向かないそうだが、娘本人は全く気にすることなく、それらを外に吊し、そんな鳥籠たちを村人たちは気に入り、老婆は無料であげていた。

     やがて老婆は、自らの死を予見したのか森の中へ去っていったが、ひとりぼっちになった娘は変わらずに、ひたすら鳥籠を作り続ける中、現れた魔物はそんな娘を見て疑問を抱き、それは娘を孤独にさせている村人の幸せの為に、そんなことするなと云わんばかりの怒りにも近いものであったが、娘は孤独だとは感じていなかったし、実は魔物自身によるコンプレックスが招いた怨み言だということを悟ると、二人の立場は忽ち逆転したように思われて、それは魔物がどんな手を使っても、娘の心の中に抱く見えないものは決して揺らぐことは無く、それとは真逆に、魔物の方が娘の考え方に次第に惹かれていく、そんな展開には、どちらが魔物なのか分からなくなる以前に、そもそも魔物では無かったのではないかと感じられた、今の時代でいうところの、それも一つの個性に過ぎないと思えた点に、実は落とし穴があるような気がしたのである。

     一つ印象的な娘の言葉として、『わたしはこの鳥籠のようにからっぽでいたいの』があり、そこには、あれもこれもと欲で膨らんだ頭では何も感じ取れなくなり、やがては身の破滅を招く意図の他に、自分なりの幸福を詰め込む為の場所をイメージとして定めておく意図があることを教えてくれながら、鳥籠は一種の檻ではあるが、それでも隙間が多く風通しの良い、そんな場所にはシンプルに何を自分の幸福とするのだろうかという、そんな思いだけを巡らせるイメージとして最適なのではないかと、千早さんは感じたのだと思い、まさにそれを具現化したような、表紙の宇野さんの絵は、幸せなんて目に見える数少ないものだけで十分だという、メッセージを込めたようにも思われた。

     それを魔物は、自らを醜いままで閉じ込めておく檻だと勘違いしただけなのだと思い、彼は他人の不幸を願い、それを実現させることが自らの幸福だと思ったが、いくらそれをしたところで幸福は実感できず、何故ならば、幸福というのは自分の中で確立するものであって、他人の中にそれを求めても決して恒久的ではなく、単に一時的な自己満足で完結してしまう、そこに人生に於ける落とし穴があるようにも思われた、それはもしかしたら、いつまでも勘違いし続ける人は一生そうなるのかもしれない、そんな幸福に対する考え方の意外な切り口だったのではないかと。

     そして、それに気付いた魔物の様子は、終盤での変化にもよく表れており、それは単なる見た目の変化ではない、自らの心の闇を払い落とした、精神的な変化の表れとも思われたことには、魔物という存在は決して見た目のそれだけで判断するものではなく、誰の心の中にも、ふとしたきっかけから生まれ出る、そんな可能性を秘めていることから、誰もがそうなるかもしれない怖さも秘めているのだと感じたことに、真の魔物とは何なのかということも考えさせられたのであった。


     本書は、かなさんとのコメントによって、出会うことができました。
    ありがとうございます。

    • かなさん
      たださん、こんにちは!
      宇野亞輝良さんの装画と千早茜さんの筆力のコラボ…
      装丁もすごく素敵なんですよね♪
      ストーリーは、切ないものです...
      たださん、こんにちは!
      宇野亞輝良さんの装画と千早茜さんの筆力のコラボ…
      装丁もすごく素敵なんですよね♪
      ストーリーは、切ないものですが
      たださんに読んで頂けて
      素敵なレビューをありがとうございました(о´∀`о)
      2024/06/02
    • たださん
      かなさん、こんにちは!
      コメントありがとうございます(^^)

      装丁は名久井直子さんで、やはり印象に残りますよね。
      そして宇野さんの絵は、千...
      かなさん、こんにちは!
      コメントありがとうございます(^^)

      装丁は名久井直子さんで、やはり印象に残りますよね。
      そして宇野さんの絵は、千早さんの今を生きる人達に刺さる物語にも、ぴったり合うようで、自分の中に幸せの答えがあるということには、とても響くものがありました。

      調べてみたら、千早さんのデビュー作「魚神」も宇野さんが表紙を描かれていて、こちらも読んでみたいですね(*'▽'*)
      2024/06/02
  •  村はずれの小屋で目の見えない老婆とともに、鳥籠を作り続ける白い髪の少女…少女は手先が器用で美しい鳥籠を作れたが、老婆は「ひとたび金で安楽を覚えれば戻れなくなる」と売ることを許さなかった。少女の作った鳥籠は村人たちがわずかな食料と引き換えに持っていき、それぞれの家の軒下に「幸福の鳥籠」として飾られていた…。老婆が去って一人ぼっちになっても、少女は鳥籠を作り続ける…それを見た魔物が商人を操ったことで、村人たちが持っていた鳥籠を売るようになって…来る日も来る日も鳥籠を村人たちに作るよう強制された少女は…。少女と魔物、村人たちはどうなるか…。

     千早茜さんの美しい文章と宇野亞喜良さんの妖艶な挿画がマッチしていて、素敵な作品です。千早茜さんの「魚神」の表紙も宇野亞喜良さんが手掛けてるんですねぇ…。総ページ数は45ページと、すぐに読み切れてしまう作品なんだけれど描かれた内容はかなり深いです。人の心が脆弱で残虐であることも描きつつ、逆に強靭な意志と優しい気持ちも感じさせます。少女が鳥籠を作らずに過ごせる幸せな未来がありますように…。

  • 大人の絵本
    悲しすぎる。人の欲というものがあからさまに見える。ままならない世界で鳥籠から逃げられないそんなすべての大人にメッセージを伝えようとしてくれているような‥
    宇野さんの絵がすごく素敵すぎる!好きだし、ピッタリとハマる!千早さんの繊細さも大好きです。


  • 幻想的なお話。宇野亞喜良さんの挿絵がとても美しい!ラストのページは遊び心満載。

  • 老婆と不思議な少女、少女が作り出す鳥籠、鳥籠のまことしやかな力、鳥籠を求める村人、鳥籠を盲信して暴走する村人…小川未明の「赤い蝋燭と人形」を彷彿とさせる。

    私的なことですが、4年前からブグログで読書記録を取っていくと大体年間200冊ほど読むことがわかってきたので、今年度も記録をとっていきました。2023年度もこの本で200冊達成!冊数だけを目指してるわけではないですが、せっかくならばと思い、3月31日までに目標達成できるように、3月下旬は駆け足で読書しました。来年度もできたら200冊読めたらいいなと思っています。そして、インプットした分以上にアウトプットしていきたいと思います!

    • 村上マシュマロさん
      こんばんは、ゆきんこさん。
      夜分遅くに申し訳ありません。
      2023年度200冊、連続記録達成、おめでとうございます(拍手)素敵な事だと思いま...
      こんばんは、ゆきんこさん。
      夜分遅くに申し訳ありません。
      2023年度200冊、連続記録達成、おめでとうございます(拍手)素敵な事だと思います。
      時折しかタイムラインを確認出来ない私ですが、今後ともよろしくお願い致します。
      2024/04/01
    • ゆきんこさん
      村上マシュマロさん、ありがとうございます!
      なんとなく自分の読書ペースがつかめてきて、楽しく続けることができています。何より、こうして村上マ...
      村上マシュマロさん、ありがとうございます!
      なんとなく自分の読書ペースがつかめてきて、楽しく続けることができています。何より、こうして村上マシュマロさんと交流できるのがとてもうれしいです。
      今日から新年度。これからしばらく忙しくなりそうですが、マイペースで、本から学んだことをちょっとずつ実践しながら、楽しくやっていきたいと思います。
      2024/04/01
    • 村上マシュマロさん
      ゆきんこさん、どうもありがとうございます^_^
      ゆきんこさん、どうもありがとうございます^_^
      2024/04/01
  • 村はずれで一人「幸福が宿る鳥籠」をもくもくと作り続ける娘の物語。
    人にとっての真の「幸福」とは何か。
    名声を得ることなのか、重い病が治ることなのか、はたまた大金持ちになることなのか。
    「幸福」の尺度はその人の気持ち次第。
    他の誰かと比べるものではない。

    魔物が「さびしい小娘」と決めつけた娘はやがて、鳥だけが自由に越えられる山を自らの意志で越える。
    そこにあるのは何物にも縛られない自由のみ。

    宇野亞喜良さんの独特のタッチが物語をより幻想的に仕上げていて、読んでいてゾクゾクした。

  • (終了)千早茜×宇野亞喜良による大人の絵本『鳥籠の小娘』トークイベント開催【2/18・東京】 | ほんのひきだし
    http://hon-hikidashi.jp/bookstore/75149/

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    自由な心は誰にも奪えない。 ままならない世界の拠り所となる大人の絵本。
    村はずれで「幸福が宿る鳥籠」を作る娘はひとりぼっち。 嵐の晩、彼女のもとへやってきた魔物が「さびしい小娘よ」とささやきますが――。千早茜の幻想を宇野亞喜良の描き下ろし15点が彩る孤独と自由の物語。
    https://www.kadokawa.co.jp/product/321710000607/

  • 自然の豊かさは,自分が空っぽだから入ってくる、という娘。
    最後まで空っぽでいられたおかげで、娘の元には皮を剥いだ魔物が寄り添えたと思いたい。

  • その小さな村で娘は鳥籠を作り続けた。村人たちはわずかな食料と引き換えに鳥籠を持って行った。老婆の教えを守り、娘はお金をもらわない。
    魔物が娘の家に現れた。何も欲しがらない娘のことを魔物は理解できなかった。
    村人たちは魔物にそそのかされ、鳥籠を売って裕福になろうとする。娘の作る鳥籠は幸福を呼び込んだ。村人はもっと儲けようとして、娘の小屋を柵で囲い、娘を鎖に繋いで働かせた。
    ある晩、娘は魔物に助けられる。小屋に火を点けた娘は村に背を向け、山を越えていく。魔物も娘を追っていく。幸福の鳥籠は力を失い、やがて村から人の声は消えた。

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    村人視点で考えてみると、この娘はサークルクラッシャーの才能があるように思えた。
    「ひとたび金で安楽を覚えれば戻れなくなる」というのが、老婆の言いつけだったけど、逆に娘自身が鳥籠を高値で売りつけていれば村人たちが欲望の渦に飲み込まれることもなかったんじゃないかな。
    まあ、娘(サークルクラッシャー)は村(サークル)のことなんてどうでもよかったんだろうけど。

    宇野亞喜良さんの絵が非常に素晴らしかった。怪しげで官能的、目が離せないような雰囲気。妖艶だ。

  • 美しい鳥籠を作る娘と、寂しさから人をそそのかした悪魔と、欲に目がくらんだ人々がついにはいなくなってしまった村。
    静かで少し哀しい物語だった。

    宇野亜喜良さんの絵がとても合っていた。
    可愛くて、でもダークで退廃的な雰囲気もある、不思議の国のアリスの挿絵に合いそうな世界観。

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著者プロフィール

1979年北海道生まれ。2008年『魚神』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。09年に同作で泉鏡花文学賞を、13年『あとかた』で島清恋愛文学賞、21年『透明な夜の香り』で渡辺淳一賞を受賞。他の著書に『からまる』『眠りの庭』『男ともだち』『クローゼット』『正しい女たち』『犬も食わない』(尾崎世界観と共著)『鳥籠の小娘』(絵・宇野亞喜良)、エッセイに『わるい食べもの』などがある。

「2021年 『ひきなみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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