- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041066393
作品紹介・あらすじ
狼の皮をかぶせられた少年
「光」と「影」に別れた未来都市
【太陽編】(上)
百済国王の一族であるハリマは、唐との戦いに敗れ、顔の皮膚を剥がされ狼の顔を被せられて野に放たれる。
医者であるオババに助けられ、命からがらたどりついた倭国で狗族(くぞく)と出会う。
彼らは産土神として長く人間を守護してきたが、渡来した仏教による迫害が始まっていた。
時々見る悪夢が気にかかっているハリマ。
夢で自分は地下組織の殺し屋の少年で……。
白村江(はくすきのえ)の戦いから幕を開ける、手塚が最後に著した『火の鳥』である「太陽編」上巻。解題充実の新装版。
解説 関川夏央
新装版豪華企画:描き下ろしトリビュート・コミック 岡野玲子
感想・レビュー・書評
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「火の鳥」は手塚治虫のライフワークともいえる一大シリーズである。
手塚の構想としては「火の鳥」全体として、過去と未来を行き来し、最後は現在で幕を閉じる形を取ろうとしていたようだが、自身の死によって、現代編は描かれぬままに終わった。刊行されているのは「ギリシャ・ローマ編」「黎明編」「未来編」「ヤマト・異形編」「鳳凰編」「復活・羽衣編」「望郷編」「乱世編」「宇宙・生命編」「太陽編」である。
シリーズの軸となるのは、火の鳥=鳳凰だ。西欧のフェニックスにも似て、永遠の命を持つとされ、死が近づくと火の中に飛び込んで蘇ると言われる。また、その生き血を飲めばそのものも永遠の命を持つという不思議な力を宿す鳥である。
人間たちはその血を欲し、永遠の命を得ようとする。歴史上の事件や文明が発達した未来を舞台に、人々の欲望と希望が渦巻くさまを、「火の鳥」と絡めて描いていく。
「太陽編」はシリーズ中でも最も長く、晩年近くに描かれた作品にあたる。
単行本は何種類か出ており、この角川文庫版では全13冊。うち太陽編は10~12巻の上・中・下巻で構成される。
本作では、過去と未来が交互に描かれる。
一方は、古代。天智・天武天皇の頃である。主人公はハリマと呼ばれる百済国王の一族。白村江の戦いで敗れて囚われの身となり、顔の皮を剥がれて狼の頭を被せられる。九死に一生を得たものの、顔は狼の異形の身となった。将軍・阿倍比羅夫を助け、日本へと渡る。
一方は、近未来。分断が進んだ社会である。「光」に属する人々は贅沢な暮らしを楽しみ、「影」の者たちは貧しく抑圧された生活を送る。「影」の殺し屋少年、スグルは「光」の本拠地に乗り込み、政権の転覆を図る。
ハリマとスグルは互いに夢で互いと入れ替わる。夢の中で、ハリマはスグルとなり、スグルはハリマとして生きる。
どちらの世界でも顕著なのは宗教闘争である。
過去では仏教の台頭に伴って、土着の神たちが虐げられ、苛まれる。ハリマは、アイヌを思わせるオオカミに似た眷属・狗族と親しく交わり、仏教の使徒らと闘う。
スグルが暮らす未来では「光」の教祖が社会を牛耳っていた。彼らはかつて、宇宙で火の鳥を捕獲していた。「火の鳥」をあがめるものは「光」の一員となり、そうでないものは「影」として地下社会に押し込められた。
どちらの社会でも実は、その宗教はいずれも権力の座からは失墜する。その代わりのように新たな宗教が打ち立てられる。
作中に登場する火の鳥は言う。
宗教とか人間の信仰ってみんな人間がつくったもの
そしてどれも正しいの
ですから正しいものどうしのあらそいはとめようがない
わるいのは宗教が権力とむすばれた時だけです
権力に使われた宗教は残忍なものですわ
シリーズ全体として顕著なのは、「正史」なるものに手塚が向けるシニカルで鋭い批判の眼差しである。「正しい」とされるもの、それは果たして本当に「正し」かったのか。
壮大な物語の果てに、ハリマとスグルの旅は、1つになって結ばれる。
彼らが駆け抜けた先に見えるものは何か。
圧巻のラストまで目が離せない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
#3917-162-88-338
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「太陽編」は、連載の舞台となった『野生時代』の発行元である角川書店社長の角川春樹氏が、壬申の乱を舞台にした「火の鳥」を書いて欲しいとの慫慂により実現したとのこと。
主人公となるのは、白村江の戦いに敗れた百済の国王一族のハリマ。彼は顔の皮膚を剥がれて狼の皮をかぶらされた。何とか命を取り留めたハリマは医者のオババに助けられたが、敵軍の来襲を前にし、オババの言うがまま海を渡り倭の国に向かうことになった。倭国に辿り着いた彼らは、狗族に出会い、命を助けられる。彼らは産土神としてこの地と人間を守護してきたのだが、そんな彼らの前に渡来した外つ国の仏教が現れ、この土地を明け渡せと侵攻が始まる。
このような展開に、天智天皇と弟大海人皇子との争いが絡んでくる。
またハリマの苦難する夢の中で、地下組織の殺し屋のような少年の姿が度々現れる、一体彼は何者で、何をしているのか、というのが横スジのようなもので、どのようにこの古代の時代と未来とが絡んでくるのか、興味が尽きない。 -
なんておもしろいんだ…
ハリマのセリフ「なにが正しくてなにがおかしいかよく見きわめます。その上でなにと対決すべきか考えたいんです…」に付箋した。
目が死んでないのよこの人。 -
幼少時に目にして怖-ッってなった場面、ハリマのあの、顔の生皮剥がされて狼の頭の皮を被せられる場面、これだったのか…。
こいつぁトラウマものですよ…。
昔から土着信仰として根付いていた神様が仏教に根絶やしにされるっていうの、怖いな……。
同じ宗教でも、仏様たちまで何かの種族のようなキャラクターとして扱って、それも粗暴で乱暴で恐ろしい種族として描いてるの、て、手塚治虫…凄過ぎるて…。 -
歴史の実在と虚構が混じり合い大きな話に展開しそうな予感。
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主人公がすごい好きです。