終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか? (#06) (角川スニーカー文庫)
- KADOKAWA (2018年6月1日発売)


- 本 ・本 (324ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041068670
作品紹介・あらすじ
フェオドールは鏡の向こう、笑みを浮かべる黒髪の青年に語りかける。
君の力を貸してくれないか――浮遊大陸群を墜とすために。絶望を鎖ぎ、希望を結ぶ遺跡兵装モウルネンを手に戦場に刻むのは、最後の嘘。
「堕鬼種(インプ)は悪だ。信じちゃいけない」
マルゴ、ティアット、そしてラキシュ――彼女たちの傍にいる資格なんてないけれど。これが、みんなが幸せになれる唯一の方法なんだ。
コリナディルーチェの、長い夜が明ける。
感想・レビュー・書評
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「絶対粉砕おとーさんパンチ」って実在したんかい!この巻では心にグサリと突き刺さるような驚愕が色々と有ったけど、これはこれで別ベクトルのぶっ飛んだ驚きだったよ!
コリナディルーチェ編完結。そして一人の嘘つき堕鬼種の顛末も描かれる。彼についてはしばらく前から丈夫でもない身体を酷使するような行動ばかり取っていたから長生きすることはないだろうと思っていたけど、こんなに早く終焉が訪れるなんて……
この巻で描かれるフェオドールの有り様はかつてのクトリやヴィレムを思わせるもの。
頭の中に別人の心を持ち命を磨り潰しながらも大切な人のために行動する姿はクトリを思わせるし、大切な者達に対してちっとも正直になることは無いがその実自分の人生を大切な人のために使うと決意した姿はヴィレムを思わせる
フェオドールがそういった道に至ったのは嘘つきで人に対して正直になれない生来の気質も関係しているのだろうけど、この巻の冒頭でヴィレム・クメシュの物語を聞いた影響も強いのではないかと思える。
故郷も友人も守りたかった者も全て失いながら、長い苦難の果てに愛する人を見つけそれに殉じたヴィレム。この話はフェオドールの歩みたかった道の果てにいる存在であるだろうと想像できると同時にヴィレムが愛しながらも救いきれなかった妖精がまだ残っている事も理解させられる
ただ、フェオドールはヴィレムのような勇者じゃないし、特別な存在でもない。なら歩む道は別となり、フェオドールはフェオドールなりの方法で守りたいものを守らなければならない
個人的にはこの作品において、フェオドールをどういうタイプの者であると認識すれば良いのかこれまで判断できないまま読んでいた。
ヴィレムのような元勇者で妖精たちの父親というポジションにはなりきれていないし、復讐に燃えているわけではない。誰かを救う為に一生懸命というタイプとも違うし、自分が全てを背負ってやると意気込んでいるわけでもない。何というか中途半端なタイプに見えていた。
それがカゲラの発言を見てようやくフェオドールがどのような者か判った気がした。
そうか、彼は舞台が必要とした者ではなかったのに、意志と嘘によって這い上がってきた凡人という立ち位置だったのか。舞台が必要としていなかろうとも自分の望みを果たすためにここまで来てしまったのか
なら、他者が彼を振り落とすことは難しい。ティアットが何をしようときっとフェオドールは這い上がってきてしまったのだろうね
そういった意志の先でフェオドールが選んだ道が嘘と自己犠牲に満ちた遣り方だったわけだけど……
ヴィレムとほぼ同じことをやった訳だけど、あの時のヴィレムは獣に支配されかけていて、更には妖精不要論も盛り上がってきていた。いわばヴィレムはあれ以外に取れる道のない状況だった
対して、フェオドールは自分の意志であの状況を作り上げた。誰が望んだわけでも、誰かに強要されたわけでもないのにあの状況に至り、ティアットに脚本通りの動きをさせた。あれは他人が納得するのはどうやったって無理だ。だからフェオドールの行動は自己犠牲と自己満足のようなものに見える
でも、それでもフェオドールの行動によってコリナディルーチェで起きていた問題は解決し、閉じかけていた妖精たちの現状が未来へ繋がる可能性が出てきた。何よりもフェオドールが最も守りたいと思っていたラキシュとエルバが幸せだと思えるようになったのは功績と言えるのではないだろうか
フェオドールのしたことって誰も納得はできないと思うけど、ティアットだけはもっと怒ったって良いよなぁ……
互いに互いを助けようとして無茶をしあって、邪魔をして、それでもどうにか少し前から一緒に行動するようになった。この巻では告白めいたセリフまで言ってしまったティアット
フェオドールもティアットも目指していた理想が高すぎてすぐ近くにいる相手の感情を掴みきれていなかった。でも、ティアットの対応は少しずつ柔らかくなって……
ここでフェオドールがほんの少しでも意志を弱めて舞台に上がることを諦めていたら、二人にはもっと別の道も有ったんだろうなぁなんて想像してしまう
だからこそ、ティアットはもっと怒っていいし、フェオドールのしたことをいくらでも否定して良いように思える
そのくらいの権利はあるよね。ラキシュにもフェオドールにも残されて、一人救われてしまった彼女としては。
コリナディルーチェ騒動は解決したけど、物語はまだ途中であり特に38番浮遊島は危機的状況のまま。だというのにこの段階でリタイアしてしまったフェオドールはいつかのクトリを思い出せさせる
ただ、個人的にはフェオドールが復活する展開は有るんじゃないかと思って居たりする。
ヴィレムが500年前に死を迎えた時は悔悟の言葉で終わり、2度目の死を迎える際には感謝の言葉を放った。そして、フェオドールも約束を守れなくてごめんと言いながら死を迎えた。
なら、フェオドールが蘇り感謝の言葉を言えるようになる物語はまだ有るのではないだろうか、と思えてしまう
……そうしたら、再び死ぬことになるのか。それはそれで不味いな
著者プロフィール
枯野瑛の作品





