- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041070017
作品紹介・あらすじ
「日本冒険小説協会公認酒場」と銘打ったバー〈マーロウ〉のアルバイト坂本は、本好きが集まるこの店でカウンターに立つ日々を送っていた。北海道の田舎から出てきた坂本にとって、古本屋街を歩き、マーロウで文芸談義できる毎日は充実感をもたらした。一方で、酒に酔った店主・斉藤顕の横暴な言動と酔客の自分勝手な振る舞いには我慢ならない想いも抱えていた。そんなある日、ゴールデン街で放火未遂事件が起こる。親しくしている店の常連「ナベさん」は放火取り締まりのため見回りを始めるが、その矢先、何者かに殺されてしまう。坂本は犯人捜しに立ち上がるが――。若手作家の胎動著しき頃、ゴールデン街がもっともゴールデン街らしかった時代にひりひりする時間を過ごした著者の、最初で最後の自伝的青春小説。
感想・レビュー・書評
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なんだろう?馳星周のただの自伝小説なのに、めっちゃ面白い。馳星周が坂本(本名は坂東)から馳星周になるまでの物語。物語の大半がバー『マーロウ』で働いていた2年半の出来事。
坂本は、北海道の田舎から横浜の大学に入学した。そして、憧れの斉藤顕が経営するバー『マーロウ』でアルバイトをすることになった。小説と酒、それから顕への恨みつらみの毎日だ。顕は素面の時は凄くいい人なのだが、酒を飲むと酒乱になる。ほとんどがその描写なのだが、それでも飽きることなく読ませる。
ある日ある事件が起こる。ゴールデン街で一番好きな大人、ナベさんが亡くなったのだ。
坂本は単身調査に乗り出す。そんな時、犯人と思しき人物の姿が見え隠れしてきて・・・。
これはミステリ要素も多少あるが、犯人の目星はすぐに着く。それでもなんでこんなに面白いのだろう?この物語はほとんど飲んでばかりだ。そして顕さんに絡まれ、いないところで愚痴をこぼす。そんな描写ばかりなのだが、なぜか面白い。大人になった今は、坂本の暮らしが羨ましくもある。自分も大学時代に経験した呑んだくれの生活だ。恋愛に対しても不器用でピュアで怠慢で愛しい。また、坂本が好きな作品は是非とも読みたくなる。
酒を飲みながら読んで欲しい本だし、絶対に飲みたくなる本だ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ゴールデン街のバー”マーロウ”でバイトする大学生・坂本。店主の斉藤顕は酒に酔うと手が付けられない(横暴になり説教が始まったりバイトの学生たちは酔った彼に接したくない)。バイトと恋と酒と、ゴールデン街の地上げ&放火事件、そして親しくしている人の謎の死。新宿ゴールデン街舞台の青春小説(自伝的なものもあるかしら)。
マーロウに反応し引き込まれて一気に読んでしまった。上京した若者がゴールデン街で苦労して成長していく姿、良かったです。ゴールデン街を知らないけれど、そして、世代は違うけれど、すんなり物語の世界に入っていけました。好きな小説の話、酒、魅力的な環境です。嫌いだけれど好きだけれど、いいね。 -
北海道浦河から上京し、新宿ゴールデン街の日本冒険小説協会公認酒場<深夜+1>に、学生アルバイトとして雇われた頃の生々しい実体験とフィクションを交錯させた馳星周さんの自伝的青春小説です。<深夜+1>のマスタ-内藤陳(1936-2011)さんは、<マ-ロウ>の店主・斎藤顕として登場、本好きたちの集まるこの酒場には、北方謙三、大沢在昌、船戸与一、立川談志など、豪華な顔ぶれが登場しています。 著者・馳星周の青春は、このゴ-ルデン街で如何にして鍛えられ、育てられたのか、汗と涙の熱血冒険小説とも云えます。
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ノワールな馳星周しか読んでなかったけど、これは一晩で読み切ってしまったぐらいに、すごく面白かった。
読みながら、これは自伝なのかな?顕さんって、内藤陳さんだよね?マーロウって、深夜+1だよね?とか思いながら読んでた。
内藤陳さんの深夜+1には学生の頃に一度行ったことがあるし、この世界観には憧れもあった。
楽しく読めて、泣けてしまうところもある、すごくいい小説でした。 -
なんだか懐かし感じのストーリーで自分の学生時代と比べたりしてよかった。
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新鮮。携帯電話のない時代の話は突然電話がかかってきて話題転換することができないので、著者の技量が試される。そこを自然に描写し、人と人の直接のぶつかり合いをストレートに表現しているのが素晴らしい。
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本と酒と理不尽な先輩、そして思うにならぬ恋、青年の自我を育む4大必須栄養素かも。青年という言葉がまだ意味を持っていた時代のゴールデン街ビルドゥングスロマンです。甘く切なく濃厚に発酵した思い出にツンときました。ゴールデン街のクーラーの効かないベトッとした空気感も蘇りました。デッック・フランシスや深夜特急や刑事ジョン・ブックや本の雑誌やザ・クラッシュという道具立てもその当時の気分を連れてきました。でも、いつだって思い出は思い出している時点に都合が良いもの、と言いたくなるくらい甘味料の味がしました。まさに「思い出は美し過ぎて」ですね。当時、自分を「深夜プラス1」に連れて行ってくれた冒険小説大好き説教大好き内藤陳大好き団塊の世代上司を思い出しました。「働き方改革」の時代、こういうお話、たぶんファンタジーなんだろうな。
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古き良き時代の自伝的青春小説。いつまでも読んでいたいと思わせる読書好きには堪らなく気持ちのいい本でした
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ゴールデン街のおはなし。
ゴールデン街で飲んだことはあんまりないし、時代(世代)も違うけど、作中の彼らと友達のような気がしてくる。
若者ってこうだよね、という。
合わない人はとことん合わないだろうけども。
好きな本を読んで、好きな音楽を聴いて、それらについて語り合う人がいる。
酒を飲んで。恋をして。
最高だ。 -
80年代、北海道から横浜市立大に入学した坂本が、ゴールデン街のバー「マーロウ」でバイトをしながら体験したことを描く自伝的小説。
多分ほとんどが実話のように読める。馳星周自身がゴールデン街の「深夜プラス1」で働いていたし、作中で「本の雑誌」でライターデビューするとあるけれど、それも自身のこと。本名の坂東齢人を坂本に変えたのと、オーナーでコメディアンで書評家の内藤陳さんが、顕さんに変わっているけれど。
顕さん(=陳さん)が凄まじく酒癖の悪いことに驚く。何度となく描写されるのに飽きないのは表現が巧いからか。
一応殺人事件があってその謎を解くという体裁はとっているけれど、ミステリーというよりとも青春小説という感じ。なかなか面白かった。
昔、「深夜プラス1」に行ったことがある。時期的に既に馳星周氏は辞めてしまった後らしい。何回か行ったけれど、陳さんも一度も見かけなかった。バーテンの男性と何か最近読んだ本の話をしたような記憶と、ボトルを入れた時の名前を呉一郎にしたことは覚えてる。(この店はボトルの名義はハードボイルド小説の登場人物にしなければいけない。「ドグラマグラ」がハードボイルドかという問われれば違うだろうけど、大抵の有名な小説の登場人物は全員既に使われているので仕方ない。)
話を本に戻すと、坂本青年の恋の話がなかなかだった。妙にリアリティがあるので、実話じゃないかと思うのだけれど、どうなのだろう。