野々山女學院蟲組の秘密 (1) (角川Cエース)

  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (180ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041070451

作品紹介・あらすじ

嫉妬、恐怖、欲望、愛憎――。それら人間の暴走した感情“蟲”を食べる謎の転校生、綾取やつめ。平凡な女学生だった逸鉢カズサは、やつめとの衝撃の出会いにより、“蟲”を巡る争いに巻き込まれていく!

感想・レビュー・書評

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  • 花園に群がる蟲を喰らうは蜘蛛の業、要らぬ牙を捨て去るそのために。

    儚い光を放ちながら夜のくらやみを飛び回る「蛍」、ある地では心や魂と同音で語られた「蝶」。
    そしてお釈迦様が罪人の魂をすくい上げるために垂らした「蜘蛛」の糸。ちっぽけな虫は魂に喩えられ、どこか私たちの心と似ている気がします。

    そんなわけで蝶よ花よと愛でられる女生徒たちの花園「女学校」を舞台に、巣を張る一匹のジョロウグモ。
    あやかしの香を漂わせつつ、その実等身大の人の感情を狩る、というそんな物語です。

    ちょっと野暮ったくて苦労人な女の子「逸鉢カズサ」の下に現れた浮世離れして超然とした女の子「綾取やつめ」。
    巻き込まれ型主人公(ヒロイン)と異界にいざなう主人公(ヒロイン)のダブルヒロインものってだけである程度成功は約束されていそうなものですし、実際私は大いにこの漫画を読んで楽しんでします。

    人の感情が暴走すると「蟲」という形で実体化して害をなし、生まれ変わりの機会を賭けて生まれ得なかった子の魂はかりそめの体と蜘蛛の半身を得て、それを喰らい、人の心を救い続ける。

    一調子で説明できる通り、黒く湧き出る墨か泥か影かという「蟲」のビジュアルも相まってコンセプトのわかりやすさがとみに魅力的なのです。
    いわゆる害虫や悪意だけではなく、多様な蟲と感情がセットになっているのも漫画として、発想として強いですね。大筋なくとも一話完結路線だけで話を作っていけそうな組み合わせの妙を感じます。

    時代は特定されていないけれど、適度な文明を持ち郷愁を誘う昭和の雰囲気も相まって古良く心地よく、けれど新しい方にも新しい読み心地を提供していて実に素敵です。

    見ることができる、つまりそれをは知ること。
    けれど、知ることはすなわち害をなされることも知り、巻き込まれるということ。
    とはいえ、仮にも恩人ということにあるほか人の機微に疎い蜘蛛の子「やつめ」のことを人の子「カズサ」が学園生活の中でサポートしていく流れが実に自然でした。

    蜘蛛と言えば元来益虫ですし、各話の結末も大体がいい方向に運んでいるんですが、効率と食欲重視で読者の共感を拒む未熟なやつめを人間ドラマの点でカズサが上手くカバーしています。

    そもそも表紙を見ればわかることと思いますが、やつめの目は非人間的に描かれています。
    蜘蛛の持つ複数の目を人の持つ二つの目に収める表現ということなのでしょうか、とても魅力的ですよね。

    そんなわけでふたりの異なった視点から人間模様を眺めていくだけである程度の展開は保証されそうなものですが、ここで挿入されるのがバトル要素ですね。

    帯やラストで示唆され、また二巻で早速行われるのですが、同属同士の蹴落とし合い「共喰い」。
    ただし、人間の数に対する「蜘蛛の子」の比率を考えると共喰いは多少効率的というだけで別に必須ではなく、この種の「バトルロイヤル」ものに発展する動機としては二巻発刊時点で弱いなとも思いました。

    性質上「ゼロサム・ゲーム」にはなりえませんし。
    ただ、不穏な味付けとしては十全。その辺は二巻以降で触れるとして点取り虫にはなりえませんね。
    導入として満点の一巻でした。ささくれたち、擦れ合う少女たちの感情を、一言で説明できたとして二の言葉として「蟲」が喩えでやってくる、組み合わせが実に奥行きがあり、そして美しい。

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