- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041072110
作品紹介・あらすじ
1948年、終戦後の日本。中学2年になったイコの周囲には、やけどを負った同級生や傷痍軍人の物乞いなど、今だ戦争の傷跡が多く残されていた。母を早くに亡くしいつも心のどこかに不安を抱えるイコだったが、英語の授業で習った【~ing=現在進行形】にがぜん夢中になる。「現在進行形、今を進むという事!」急展開で変わっていく価値観に戸惑いながら、イコは必死に時代をつかもうとする。そして「いつかどこかへ行きたい。私ひとりで」そう強く願うようになる。でもまだ、日本からの海外渡航が許されない時代。手段も理由も見つからないまま大学を卒業したイコに、ある日大きなチャンスが巡ってくる……。「魔女の宅急便」の著者・世界的児童文学作家、角野栄子の『トンネルの森 1945』に続く自伝的物語。戦後の日本を舞台に、懸命に自分の路を探す少女の成長をエスプリとユーモア溢れるタッチで描く著者の原点ともいうべき作品。87歳、角野栄子は今も現在進行形だ!
感想・レビュー・書評
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10歳で終戦を迎えたイコ。
中学、高校、大学、社会人と成長していく年月の過程で色々なことを考え、迷い、悩みながら前に進んでいこうとするイコ。いつもやりたい事がいまひとつ掴めない、モヤモヤと胸の辺りでつかえて焦点が合わない、自信が持てない。
でも、悩みながらもそれぞれの年代でしっかりと自分で考えて行動している…こういう娘時代を過ごしてきたからこそ、多くの児童文学を生み出し、80代後半の今も凛として素敵な女性でいらっしゃるんですねー角野栄子さん。あぁ改めてステキ!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
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『魔女の宅急便』の著者による〈自伝的フィクション〉少女の視点で描く戦後の日本と広い世界〜【中江有里が読む】 【書評】『イコトラベリング 19...『魔女の宅急便』の著者による〈自伝的フィクション〉少女の視点で描く戦後の日本と広い世界〜【中江有里が読む】 【書評】『イコトラベリング 1948-』著◎角野栄子|教養|婦人公論.jp
https://fujinkoron.jp/articles/-/73882023/01/23
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紫式部文学賞
星3.5
角野栄子の自伝的小説だが、ブラジルに渡った動機などはwikiの経歴とはだいぶ異なり、自発的に自分の生きる道を探した結果というように書かれている。
戦後の東京の復興する様子が細かく書かれており、例えば繁華街の表通りでは少女が憧れる華やかな物品が並んでいるが、そのすぐそばでは、雑多な闇市に人々が群がっている。
そして、好奇心旺盛だが、何事にも一生懸命になれず、難しいことをすぐに放り投げてしまう中途半端なイコの心情が私自身を見るようで親近感がわく。
また、良家の子女が集まる私立の女子中、高の少女たちのふるまいや言葉遣いが時代を感じさせて興味深い。
今日マチ子さんの表紙が好み。 -
角野栄子さんの自伝的小説、時代は戦後。十代のイコの、瑞々しく溌剌とした現在進行形の青春の日々。
勢いはあるけど、何をどうしたら形になるのかわからない。そんな思春期あるあるの焦燥感が、リアルに伝わってくる。他人を羨んだり、親に反抗したり、行き当たりばったりすぎてみっともない真似もたくさんするけれど、それでも自分に正直に生きようとするイコの姿に、大いに共感する。突っ込み入れたくなるところたくさんあるけど(笑)なかなか有言実行といかない言い訳だらけの毎日って、誰もが身に覚えがあるのでは。そこからのブレイクスルーが、爽快である。
戦後の傷が生々しい日本の描写も興味深く読んだ。どん底の状態から、グイグイ成長していく日本、こちらも「現在進行形」。イコの歩みと共に語られる、流行の歌や映画、本…様々な作家の名前も登場し、当時の文化を垣間見ることができてワクワクする!
本書単体でも十分楽しいけど、「トンネルの森1945」「ラストラン」を読んでいると更に楽しめる。イコの生き方を追うのが楽しくなっているので、続編が出たらいいなぁ~。 -
何かやりたい 海外へ行きたいと自分探しを続けるイコさん。もがいている感じが伝わってきた。
角野さんの周りには海外に縁のある人が多かったことがわかる。また「海外に行きたい」と口に出していたからこそ、ブラジル行きを引き寄せられたんだろう。やりたいことは口に出すことは大事だ。
動くのよ
おもしろがるのよ
たくさんおもしろがるのよ
歩くのよ
進むのよ
出会うのよ
見るのよ
ワクワクするのよ
まず行動
新しいものにぶつかっていく
前に進むのよ -
角野栄子さんが、ご自身の10〜20代を基にした作品。
戦時下を描いた前作とはだいぶ異なる雰囲気なのだけど、戦後、急に民主主義や自由やらの中に放り出され、楽しんじゃえばいいか、という雰囲気に馴染みつつも恐れの染みついているイコを丁寧に書くことは、これもまた戦争を伝えるものだと思う。
角野栄子さんは作品が好きなだけでなく、ご自身が私の憧れなのだけど、ずっとキラキラしていて、やりたいことを見つけてやり通して来たんだろうな、私には眩しすぎるかも…と実はちょっと恐る恐る読んだ。
けれど、何かやりたい、でも何に興味を持っても中途半端、という思いがけないイコの姿に共感の嵐。
小さな心の揺れまで繊細に捉えていて、イコと同世代の子たちにぜひ読んでもらいたい作品だった。 -
戦後の傷跡が残る日本で、懸命に自分の路を探すイコの成長を描く物語。イコさんが『魔女の宅急便』のキキを彷彿とさせる明るい女の子で、「現在進行形」で前向きに生きていく姿に好感が持てた。
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「ラストラン」「トンネルの森1945」と続く、
イコちゃんの物語。
イコは、エイコ、つまり、角野さんご自身の投影だ。
今回のイコちゃんは、終戦後の1948年、疎開先から戻り、
私立の女学校へ通う13歳からスタート.
22歳の見合い話が出る、お年頃まで描かれる。
ずっと、角野さんはどうしてブラジルへ渡ったんだろう?との
疑問が解けた。
といっても、御著作を、きちんと読めば、
どこかにお書きになっていたのだろうけれどw
イコは、英語で現在進行形を習うと、
すっかり気に入り「これでいこう」と心に決める。
でも、実際は「これから、これから」と物事を先延ばしにし、
日々モヤモヤするばかり。
さすが、御年87歳の魔女さまは
10代の自分をしっかり覚えておいでだ。
そして、それを物語の中で、イキイキした少女におとしこまれている。
すごいなぁ~
全編に通底するのは、
戦争は絶対にイヤだということ
(声高に叫ばないところがいい)
みんなが熱くなって一つのことに向かうのは危険だという感覚
(昭和の戦争に、みなが突っ走ったことを忘れてはならないよ)
魔女様は、そういったことを、
優しい言葉できちんと伝えてくれる。
そして、こちらも、答えたいと思わせてくれる。
幼い人たちを対象に、
長く書き続けていらした大ベテランの魔女様は
鮮やか。
こんなにみずみずしい小説を描ききれる
87歳の角野さんは、やっぱり魔女様。
まだまだ下っ端の弟子にしか慣れない、娘世代のわたしも、
しっかり跡を追ってまいりましょう。
物語の力と、好奇心を大切に。
そんなことを思わせてくれる
幸せな読後感でした。