麒麟児

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041072141

作品紹介・あらすじ

慶応四年三月。鳥羽・伏見の戦いに勝利した官軍は、徳川追討令を受け、江戸に迫りつつあった。軍事取扱の勝海舟は徳川家を守るべく、決死の策を練る。官軍を率いる西郷隆盛との和議交渉にすべてを賭けて――。

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    西郷と勝による「江戸城の無血開城」。
    実際、両者や時代にどのような背景があって、江戸城の無血開城に至ったのかまでは知らなかったため、読んでいて面白かったし勉強になった。
    勝が「焦土戦術」を目論んでいたことすら知らなかった。

    交渉に及ぶまでの勝の手数の一つ一つには舌を巻いたし、何しろ色んな事情がありつつもそれを呑むことができた西郷の人柄。
    官軍賊軍といえども心の中ではお互いを認めていた点は、お互いが他に類を見ないレベルの「麒麟児」であったからに他ならない。

    幕末から明治にかけて、混沌としたこの風雲の時代は、本当に魅力的な人物ばかりで面白い!!
    本当にロマンにあふれてるねぇ。
    こういった歴史があったからこそ現在の日本があるってことを、今を生きる日本人は決して忘れてはいけないと思う。


    【あらすじ】
    慶応四年三月。
    鳥羽・伏見の戦いに勝利した官軍は、徳川慶喜追討令を受け、江戸に迫りつつあった。
    軍事取扱の勝海舟は、五万の大軍を率いる西郷隆盛との和議交渉に挑むための決死の策を練っていた。
    江戸の町を業火で包み、焼き尽くす「焦土戦術」を切り札として。

    和議交渉を実現するため、勝は西郷への手紙を山岡鉄太郎と益満休之助に託す。
    二人は敵中を突破し西郷に面会し、非戦の条件を持ち帰った。
    だが徳川方の結論は、降伏条件を「何一つ受け入れない」というものだった。
    三月十四日、運命の日、死を覚悟して西郷と対峙する勝。
    命がけの「秘策」は発動するのか――。

    幕末最大の転換点、「江戸無血開城」。命を賭して成し遂げた二人の“麒麟児”の覚悟と決断を描く、著者渾身の歴史長編。



    【引用】
    p12
    ・焦土戦術
    フランス人やイギリス人ですら、勝がその戦術の話をすると、はっと息を呑んで青ざめるほどだった。
    特にフランス人は、過去にナポレオンという王が同様の戦術で無残な撤退を余儀なくされたという歴史があるとのことで、いっそう戦慄した。

    日本にも同様の戦術についての記録があった。文禄・慶長の役だ。
    豊臣秀吉が朝鮮半島に送り込んだ兵の多くが、焦土戦術によって飢えに追い込まれたという。

    侵攻される場所そのものを業火の海に沈める。後には何も残らない。
    肉を切らせて骨を断つどころではなかった。
    あらゆるものを捨て去るのだ。
    歴史を、人々の生活を、築いてきた全てを。
    それら何もかもを犠牲にする地獄の策だった。
    これが今まさに江戸に攻め入らんとする官軍を迎えるにあたっての最後の策だった。
    本気で抵抗する意志がなければ、交渉もくそもない。


    p30
    山岡鉄太郎
    かつて尊王攘夷派の志士・清河八郎とともに浪士組を結成し、上京した。
    清河八郎が暗殺されて謹慎の身になって以来、幼少より鍛錬し続けてきた剣禅にさらに邁進し、その修練のほどは誰もが目を見張るほどで、幕臣の中でも名が知られていた。

    「倒幕派と呼ばれる者たちは、そもそもなぜ、幕府を倒さんと願うに至ったのでしょうか?」
    鳥羽伏見の戦いで官軍に敗北し、遁走せざるを得なかった慶喜の身辺を護りながら、そんな疑問を抱いていた。


    p32
    「倒幕を願う連中の心にあることの一つは、昔の戦さ。それも、江戸開幕を成し遂げた、大権現様の軍配ひらめく大戦だ。」

    「倒幕派の多くが、関ヶ原で一敗地にまみれた家の出だってことよ。
    ただ戦に敗れただけじゃない。
    幕府はその後も連中の力を殺ぐため、金のかかる参勤をさせたり、大変普請を押し付けたりと、ありったけの嫌がらせをしてきたのさ。
    薩摩なんてのは、なかでも一層ひどい目にあった藩の一つだ。」


    p52
    勝の人生はこうしたことの繰り返しである。
    幕府が窮地に陥ると重用され、用が済むと放り出される。
    どれだけ的確な進言をしても、的確であるがゆえに拒絶される。


    p70
    勝も西郷も、思想を問わず人脈に重きを置くとともに、間者を使うこと、人を遣わすことに長けているのである。
    国を二分する戦が起ころうとしているこの時、ぎりぎりの危機下にあって、敵対する軍の総責任者同士が、間接的に意思疎通をはかる。
    そうした芸当をしてのけられることこそ、勝と西郷のいう二人の麒麟児の、異彩たる所以だった。


    p107
    ・勝と福沢は不仲?
    福沢諭吉は咸臨丸に同乗して以来、勝の悪口をあちこちで振りまいているし、何より自分の塾の設立しか念頭にない。
    刀などとっくに捨てた人間である。
    それもまた正しい態度であろう。
    だがそれは、今のこの難局を誰かが打破したら、の話だ。

  • 激動の幕末。その時代の空気感や味のある役者が好きで色んな作家が書いた小説を読む。本作は、勝海舟と西郷隆盛による江戸無血開城を巡るドラマ。二人だけではなく、山岡鉄舟も素晴らしい。気骨のある登場人物。それだけで、物語は爽快感を纏い迫力が出る。

    条件交渉の機微。頼りない上司。何のために、何を重要視して事に臨むか。それはまるで現代のサラリーマンにも通ずる風景であり、思わず共感させられる。

    少しだけ物足りないのは、取り上げられるシーンが時間軸も含めて、動きが少ない事。もっと勝海舟の躍動感を感じたかったが、実際にもこんな風だったのかも知れない。それでも十分満足だ。

  • 無血開城。賛否両論ある中で、命を何度もねらわれながら、不可能と思われる難題に、情報収集力と分析力、大事な所を見抜く力、そして鋭い判断力でやり抜き、そして生き抜いた。
    自分が課題や困難にぶつかった際にも勇気を与えられる書、良作です。

  • あの『光圀伝』以来の力作といっていいだろう。
    描かれたのは、明治維新でのひとつのエポックメーキングともいうべき、江戸城無血開城。
    勝海舟と西郷隆盛の対話交渉により成し遂げたという史実。
    結果を知っている後世の我々には、歴史の一齣でしかない。
    しかし、当時はその結果如何によっては、江戸が戦場と化しかもしれない緊迫した状況。
    互いに敵同士でありながら、味方以上に相手の心情・思惑を理解する、勝海舟と西郷隆盛。そして、勝に全幅の信頼を置き、彼を守るべく付き従う山岡鉄太郎。
    まさに、麒麟児ともいうべき彼らの功績によって、日本が列強の餌食とならなかったことを改めて思う。
    読者も、その歴史の転換点に居合わせるかのような臨場感に溢れた歴史長編。
    久々に、読書の醍醐味を堪能できた。

  • 勝海舟と西郷隆盛の、江戸城無血開城とその後の奮闘を描いた作品。
    恥ずかしながら、大政奉還、王政復古の大号令、討幕・佐幕、尊皇攘夷、各藩の動向などの基本が大雑把にしかわかってなかったため、それがわかっていたらもっとすんなり読めた気がする。
    それにしても、この時代の人はかっこいいな。「俺がやらねば」の精神はどうやって育まれたのかな。

  • めちゃくちゃ面白いSFを書く人が幕末を書くとこうなるんかーという感じ。
    モブの侍達が切れやすすぎてこわい。すぐに殺気みたいのを放ち始める。
    山岡鉄舟の不思議ちゃんぶりがかわいい。
    勝海舟よりは西郷の得体の知れなさが際立った。勝の目を通した西郷を書きたかったのではないかと思わせる。
    交渉ごとは自分も日常的に行なっているだけに、言質を取っていく過程の緊迫感を感じることができた。
    結構面白いよなーくらいのテンションで何気なく読んでいたけど、いやいや、ドンパチもミステリ的な謎も復讐劇的なメロドラマもないお話がここまでおもしろくなるってすごいことだよね。

  • 勝海舟と西郷隆盛の話し合いのもと、江戸は無血開城となる。
    その話し合いの二日間には迫力がある。
    そしてその後、勝が徳川家に振り回されながらも徳川のために粉骨砕身する。
    西郷隆盛の留魂碑を勝が建て、勝夫妻の墓の隣にあると言う事実は興味深い。

  • 西郷と勝との和議交渉、江戸無血開城を描く。
    日本史が苦手で、このあたりは中・高校時代も教科書の数行で終わらせてしまったぐらいなのですが、こちらは大変興味深く読めました。幕府軍と官軍、立場は違えども大きな志で通ずるものがあり、二人の人間の大きさ、信頼関係が窺えました。無血開城の会談の様子は緊張、緊張! 勝の人間的魅力もよく描かれ楽しく読め、理解が深まりました。先読みする勝、まさしく麒麟児。
    徳川慶喜の出し方も効果的だったなあ。

  • 西郷隆盛と勝麟太郎をえがいた時代小説。
    立場上は敵でありながら、ふたりは心を通わせ、信念をもって向き合っていく。
    益満休之助と山岡鉄太郎もまたおなじ。
    敵だ味方だ、ではなく、何を目指し、どういう世の中にしていきたいか、で呼応していく。
    私利私欲に走りがちな新政府と、一連の混乱の中、日本国の未来を見ていた彼らが、清々しい。
    勝の(というより、幕府から押しつけられた)要求の無茶苦茶なこと。
    それでも優先順位をみきわめ、押したり引いたりしながら、実現してしまう。
    勝の交渉手腕がユーモラスで、おもしろかった。

  • 勝海舟のべらんめいちょうが、助け舟だな。
    いいリズムをつくるから。
    山岡鉄舟がすこし出来過ぎかも。

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著者プロフィール

1977年岐阜県生まれ。1996年『黒い季節』で角川スニーカー大賞金賞を受賞しデビュー。2003年『マルドゥック・スクランブル』で第24回日本SF大賞、2010年『天地明察』で第31回吉川英治文学新人賞、第7回本屋大賞、第4回舟橋聖一文学賞、第7回北東文学賞、2012年『光圀伝』で第3回山田風太郎賞を受賞。主な著書に『十二人の死にたい子どもたち』『戦の国』『剣樹抄』『麒麟児』『アクティベイター』などがある。

「2022年 『骨灰』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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