龍華記

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 97
レビュー : 16
  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041072158

作品紹介・あらすじ

高貴な出自でありながら、悪僧(僧兵)として南都興福寺に身を置く範長は、都からやってくるという国検非違使別当らに危惧をいたいていた。検非違使を阻止せんと、範長は般若坂に向かうが──。著者渾身の歴史長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 平家による南都焼き討ち、というのは歴史で軽く流した程度の知識しかなかった。
    そしてその焼き討ちから始まる平家滅亡までのあれこれも簡単に流れとして知っていただけだった。
    けれど、その一日一日に、そして焼き払われた町のあちこちに、生きて、焼かれて、そして死んでいった者たちの生活があったのだ。その重みを感じる。
    なぜ南都は焼かれたのか。なぜ平家は滅亡への一途をたどることになったのか。
    ゆくゆくは興福寺の別当となるべき身分ながら父親の失脚により悪僧に身をやつし、それでも興福寺を守ることに生をかけていた範長の確執、諦念、執着、そして慟哭が手に取るように見える。何か一つ、歯車の動きが違っていたら、別の人生が、そして別の歴史が刻まれていたかもしれない、と思わずにはいられない。それが無意味な想像たとしても。

  • 「興福寺」と言えば、現在でもよく知られている奈良の有名な寺だ。近鉄奈良駅に程近く、奈良を訪れる多くの人達が立ち寄る場所だ。
    本作は、<源平合戦>という情勢へ踏み込んで行くような時代を背景とし、興福寺の僧が主人公となっている物語だ。
    奈良に関して、作中の時代には寧ろ「南都」と呼ばれていた。この南都には興福寺の他にも東大寺や、その他幾つもの有力な寺院が在った。(現在に至るまで続いている寺も多い訳だが…)
    この時代の有力寺院には、大きく分けて2種類の僧が在った。一方は「学侶」と呼ばれ、有力な貴族の子弟等が出家して寺に入っていて、学問をして各種の祭礼儀式を担い、寺を代表するような立場になって行く場合も在るという存在だ。他方に「悪僧」と呼ばれる人達が在る。所謂“僧兵”であり、武器を手に立ち上がる場合も在るが、寺で発生する様々な仕事に携わっている人達ということになる。
    本作の主人公である範長(はんちょう)は興福寺の「悪僧」である。が、当初は「学侶」だった。<悪左府>として知られた摂関家の藤原頼長が範長の父である。興福寺は「藤原家の氏寺」という性質も帯びており、寺を代表する立場になるべく、摂関家を始めとする有力な家の子弟が送り込まれる慣行が続いていて、範長もそうなって行く筈だった。が、父の頼長が<保元の乱>で敗れて討死してしまった後、従弟の信円が入り込んで彼に替ってしまい、立場が無くなった。そこで範長は「学侶」たることを捨て、「悪僧」として興福寺に在って活動している。
    隆盛を誇った平氏は、南都の有力寺院が実質的に治めている大和国の支配を強化しようと図る。そして検非違使を南都に常駐させようとし、その一行を差し向けた。
    平氏の専横を快く思わず、同時に長く続く大和国の体制を維持すべく、有力寺院の悪僧達は抵抗の意思表示をしようとする。やって来る検非違使の一行を見張ろうと動き始めた悪僧達の中に範長の姿が在った。
    検非違使の一行と範長を含む悪僧達が小競り合いになってしまったが、激昂した悪僧側が検非違使の一行に斬り掛かり、死傷者が発生する。こうした事態を受けて、平氏は大軍を南都へ侵攻させた…
    小競り合いが起こってしまう経過から始まり、平重衡が総大将として指揮を執る大軍が侵攻して、南都が焼け落ちてしまうという顛末が前半の内容である。所謂「南都焼討」だ…
    「南都焼討」の最中の異常な状況下、そしてその後の復興を図ろうとする時期、源平合戦の結果として平氏が敗亡してしまう経過という移ろいの中、範長の心は動き、やがて独自の境地へ至って行く。
    範長は「南都焼討」へ至ってしまった経過の中での自身の振る舞いや在り方、そしてそんな異常な事態の後を受けた時期の生き方に関して強く自問し、その解を見出して行くことになる。
    中世の動乱という作中世界の物語なのだが…「“立場”が絡まる同調圧力が渦巻く」というような中、「個人としての善意や希望が踏み躙られる」というような雰囲気は、何処となく「寓話的に現在を映す?」という感も抱いた…
    物語は、奈良の自身が何度も歩いたような地区も含む辺りで展開しているので、「あの辺りか?」と判る叙述も在って、何となく読んでいて力が入った。そういうことはそういうこととして、本作の「寓話的に現在を映す?」という感、変わって行く範長の姿に感じ入るものが在った。
    所謂「(平重衡の)南都焼討」ということをクローズアップした小説作品の類例は知らないので、それを題材にしているというのが興味深い。他方、作中で描かれる出来事―焼討の様の描写が…なかなかに凄い…―のような災いを潜り抜けて、再建を何度もしながら文化財が伝えられて来たという歴史にも思いを巡らせてしまう。
    これはなかなかに面白いので、広く御薦めしたい感だ。

  • 平清盛の五男平重衡が、東大寺・興福寺など仏教寺院を焼討にした1181年の「南都焼討」を描く。
    悪左府藤原頼長の四男、範長は興福寺の悪僧、
    藤原忠通の九男、信円は興福寺第44代別当。
    まだまだ修業中の仏師、運慶。
    瞳子さんの作品は、読みやすくなじみやすいので好きかな。
    山東図書館から貸し出し本。

  • 奈良の仏像ファン、歴史ファン必見! 
    (私は両方w)

    平家滅亡直前の南都焼き討ちから物語は始まる。(南都焼き討ちについてほとんど知らなかったので新鮮!)
    主人公は興福寺の悪僧。

    興福寺が、東大寺が、元興寺が、新薬師寺が、般若寺が!
    知ってる寺名、地名多数!!
    そして最後に山田寺から興福寺東金堂へ移った薬師三尊像についても!
    強奪されたと伝えられるがこの小説では。。。
    (つい数週間前に興福寺東金堂で見たあの薬師三尊像か!?この本も興福寺の売店で見かけて知った)


    「恨みごころは恨みを捨てることによってのみ消ゆる」
    憎悪の輪廻を離れた、行ける仏の如き男たち。
    全くその通り。分かっててもできるもんじゃないけどねー


    途中、多少退屈だが最後は清々しい終わり方。


    著者は奈良、京都を中心に書く歴史小説家のようだ。他の本も読んでみよう。
    奈良県民の歴史好き、仏像好きとしては。

  • 平家の南都焼き討ちから復興までを描いた歴史小説

    平家の物語では単なる一エピソードのなんと焼き討ちですが、そこだけをクローズアップすることで、この時代の複雑さの説明も最小限で済んでいると思います。
    また、保元の乱後の動向が良くわからない藤原頼長の息子の範長を主人公として持ってきて、興福寺視点で物語ることで新鮮に感じました。
    既成の解釈とは異なる解釈をもって史実に物語性を持たせるところもうまいです。
    特にラストの山田寺の仏像が興福寺に移設された解釈は、興福寺再興した中興の祖の信円を範長と対比して矮小化して大丈夫なのかと思っていたことが、怒りに怒りで返すと怨嗟の応酬となるので怒りを忘れることで怒りを治める、というテーマをより際立たせていていると思いました。

  •  平重衡の南都焼き討ちと興福寺の話。焼き討ちの描写がすさまじくて、読んでいてつらい。どの人物の立場で読むかによって、印象は異なるが、辛いことに違いはない。
     ただ、恨みと解脱の話など、最後まで読んでこそ感じるところもあると思う。
    2019/1/23

  • 平重衡は、千手前との悲恋話で知ったのがきっかけ。
    平家好きの私の好きな人物の一人ですが、
    よく考えればめちゃくちゃひどいことをした人。
    歴史的には興福寺焼き討ちの一言で終わってしまう裏に、
    どれほど多くの人の血と涙があったのか。
    興福寺サイドから描いたというのが新鮮だった。
    悪僧といえば、「当時の寺にはそんなのもいた」的な
    添え物扱いで歴史上には登場するものなのに。

    でも、やっぱり戦争はだめだ。

    興福寺には何度も行ったし、
    国宝館にも何度も行きましたが、
    多くの人々の業を見つめ続けてきたであろう
    あの仏像たちをまた眺めに行きたくなりました。

  • 登場人物が魅力的。
    特に範長。拗ねて、怒り、後悔に懊悩し、まるで悟りを得たかのようなラストシーンまで、その心の動きにぐいぐい引き込まれた。
    燃え盛る興福寺のお堂から必死に仏像を運び出す運慶の姿に胸が熱くなる。八部衆も十大弟子もあの業火の中失われなくてよかった。物語と一緒にあの美しい仏像の姿が眼裏に浮かんできて読んでいて幸せだった。

  • 平家による南都襲撃。そのきっかけを作ってしまった範長。興福寺を必死に再興しようとする信円。

    彼らの苦悩も分かるし、さらさらと読めたが、あまり心に残るものがない。

  • 死をより凄惨に描けば、仏への念が生き、全体が引き締まったと思う。すこし平坦な仕上がりだった。

    本作と同じく興福寺の焼き討ちを書いた作品として、梓澤要著の『荒仏師 運慶』がある。こちらは運慶の仏師道を掘り下げた作品でとても読みごたえがある。

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著者プロフィール

澤田瞳子(さわだ・とうこ)
1977年京都府生まれ。同志社大学文学部文化史学専攻卒業、同大学院文学研究科博士課程前期修了。専門は奈良仏教史。母は作家の澤田ふじ子。時代小説のアンソロジー編纂などを行い、2008年、第2回小説宝石新人賞最終候補。2010年『孤鷹の天』で小説家デビュー。2011年同作で第17回中山義秀文学賞を最年少受賞。2012年『満つる月の如し 仏師・定朝』で第2回本屋が選ぶ時代小説大賞、第32回新田次郎文学賞受賞。2015年『若冲』で第153回直木賞候補。2016年同作で第9回親鸞賞受賞。2017年『火定』(PHP研究所)で第158回直木賞候補。2019年『落花』(中央公論新社)で第32回山本周五郎賞候補および第161回直木賞候補に。

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