颶風の王 (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041072202

作品紹介・あらすじ

明治期、東北。許されぬ仲の妊婦ミネと吉治。吉治は殺されミネは逃げる途中、牡馬アオと雪洞に閉じ込められる。正気を失ったミネは、アオを食べ命をつなぎ、春、臨月のミネは奇跡的に救出された。
 生まれた捨造は出生の秘密を知らぬまま、座敷牢で常軌を逸しているミネを見舞い暮らす。アオの孫にあたる馬と北海道に渡ることを決心した捨造は、一瞬正気になった母から一切の経緯が書かれた手紙を渡され、今生の別れをする。
 昭和、戦後。根室で半農半漁で暮らす捨造家族。捨造は孫の和子に、アオの血を引く馬ワカの飼育をまかす。ある台風の日、無人島に昆布漁に駆り出されたワカとほかの馬たちは島に取り残される。捨造と和子はなすすべもない。
 平成。和子の孫ひかりは、和子に島の馬の話を聞かされていた。ひかりは病床の和子のために島にいる馬を解放することを思い立ち、大学の馬研究会の力を借りて、野生馬として生き残った最後の一頭と対峙するが……。

感想・レビュー・書評

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  • 直木賞作家。手元に未読の文庫が積読本の山の一番上にあったので読んでみた。

    どうやらデビュー作らしいが、これが骨太の力強い作品で驚いた。およそ六代にわたる一族の歩みを中編の長さにギュッギュッと凝縮して描いている。

    相当壮絶なお話なのだが、人と馬との関わりを必要以上に感傷的にならないで描いているのが気持ちが良く、北海道の自然もまたよく描かれている。

    エピソード的には最後のひかりの章が、少し弱い気もするし、中編でなく堂々たる大河小説に仕上がったもをの読んでみたい気もするが一気読みで至福の時を過ごせた。

    また一人気になる作家ができた。

  • 半年程前に著者の「肉弾」を読んで以来、著者の作品は2作目の読了となりましたが、またステキな一冊と出会うことが出来ました。

    明治から平成までの約120年に渡る時の流れと共に6世代もの間の人と馬の関わりを描いた物語。

    3章で構成されていましたが、それぞれの章で描かれる人と馬は歴史を紡いでいきます。

    時は明治、場所は東北。

    離乳が済んだ頃に小作農家へ養子に出された捨造は18歳の青年へと成長し、時をみて生家である庄屋へ赴き母を訪ねる。

    捨造の母は家の奥の部屋から外へ出ることも無く、気がふれたかのような生活を送りながら捨造との僅かな時間を楽しみに過ごしていましたが、ふと目にした新聞記事にて捨造は見たこともない北海道の開拓の旅に出る事を決意し、母にその事を告げる。

    捨造への餞別として母が託した紙に書かれていたのは、庄屋の娘ミネと小作農の吉治の許されざる恋から始まるストーリーは吉治とその子を宿したミネ、吉治の愛馬アオが駆け落ちし愛を遂げようとする姿であり、母親の過去と自らの出生の秘密。

    激怒したミネと父親の命により追い詰められた吉治とミネ。

    ミネと腹の中の我が子を救おうとした吉治は「逃げれっ!生き延びれっ!絶対にっ!」と叫びながらまさにその身を挺す。

    アオにしがみつき、逃げ出したミネは山で雪崩に遭いアオ共々雪の中へ閉じ込められる。

    誰も助けに来ない閉鎖された僅かな雪の隙間で骨折したアオと共に命の火が消えようとする中、アオに自らの血を与え、自らはアオの血肉を喰らい、生き延びたミネとその後生まれた捨造。

    《この子のからだはアオのからだからできている》
    《私の子で、吉治の子で、そしてアオからできた子》

    こんな展開で始まった第1章で既に本作にのめり込むことに。

    続く第2章では、北海道の根室地方に移り住んだ捨造が馬を飼いながら暮らし、孫の和子が捨造から馬の育て方を習いながら愛馬ワカを育て生活する姿が描かれています。

    そこで起こる哀しき悲劇。

    地震により崩壊した花島に大切な馬達が取り残され、どうすることも出来ず、徐々に生活が苦しくなってきた家族は和子の母の出生地でもある十勝平野に移り住むことに。

    そして終章となる第3章では脳梗塞で倒れた和子と孫のひかりの時代へと進む。

    奇跡的に意識を回復した和子が発した「馬ぁ、あれ、まだおるべか」。

    大学生となっていたひかりは幼少期に和子から無人島に取り残された13頭の馬の話を聞いていたことを思い出し、祖母のタンスからミネが書いた手紙を見つけ、何とかその馬の子孫を救えないかと花島へ向かう。

    最後の一頭となって生き延びていた馬との再会。

    時を超えた感動作でした。


    説明
    内容紹介
    生命は結ばれ、つながってゆく--人と馬、6世代にわたる交感の物語。

    明治期、東北。許されぬ仲の妊婦ミネと吉治。吉治は殺されミネは逃げる途中、牡馬アオと雪洞に閉じ込められる。正気を失ったミネは、アオを食べ命をつなぎ、春、臨月のミネは奇跡的に救出された。
    生まれた捨造は出生の秘密を知らぬまま、座敷牢で常軌を逸しているミネを見舞い暮らす。アオの孫にあたる馬と北海道に渡ることを決心した捨造は、一瞬正気になった母から一切の経緯が書かれた手紙を渡され、今生の別れをする。
    昭和、戦後。根室で半農半漁で暮らす捨造家族。捨造は孫の和子に、アオの血を引く馬ワカの飼育をまかす。ある台風の日、無人島に昆布漁に駆り出されたワカとほかの馬たちは島に取り残される。捨造と和子はなすすべもない。
    平成。和子の孫ひかりは、和子に島の馬の話を聞かされていた。ひかりは病床の和子のために島にいる馬を解放することを思い立ち、大学の馬研究会の力を借りて、野生馬として生き残った最後の一頭と対峙するが……。
    内容(「BOOK」データベースより)
    明治の世。新天地・北海道を目指す捨造は道中母からの手紙を開く―駆け落ち相手を殺されて単身馬で逃亡し、雪崩に遭いながらも馬を喰らって生き延び、胎内の捨造を守りきった壮絶な人生―やがて根室に住み着いた捨造とその子孫たちは、馬と共に生きる道を選んだ。そして平成、大学生のひかりは祖母から受け継いだ先祖の手紙を読み、ある決意をする。6世代にわたる馬とヒトの交感を描いた、生命の年代記。
    著者について
    ●河崎 秋子:羊飼い。1979年北海道別海町生まれ。北海学園大学経済学部卒。大学卒業後、ニュージーランドにて緬羊飼育技術を1年間学んだ後、自宅で酪農従業員をしつつ緬羊を飼育・出荷。2012年「東陬遺事」で北海道新聞文学賞(創作・評論部門)受賞。2014年に三浦綾子文学賞を受賞した『颶風の王』を15年KADOKAWAより単行本として刊行。同書で2015年度JRA賞馬事文学賞を受賞した。近著に『肉弾』がある。
    著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
    河〓/秋子
    羊飼い。1979年北海道別海町生まれ。北海学園大学経済学部卒。大学卒業後、ニュージーランドにて緬羊飼育技術を1年間学んだ後、自宅で酪農従業員をしつつ緬羊を飼育・出荷。2012年「東陬遺事」が北海道新聞文学賞(創作・評論部門)を受賞し注目を浴びる。14年「颶風の王」で三浦綾子文学賞を受賞。翌年7月同作が単行本刊行され、デビューとなった(15年度JRA賞馬事文化賞受賞)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

  • 明治の初めの頃でしょうか。東北の庄屋の娘が雪崩の被害に遭いながら、偶然生じた雪洞の中に乗ってきた馬と共にまぎれる。助けの望めないまま、長い間馬とその雪洞に過ごす娘は、空腹のためにその馬を食べ、生き延びるのだけれど……。

    娘が生んだ捨造は一頭の馬と共に開拓民を募集していた北海道に渡り、以後、根室にて主に馬の生産で食べていく。その捨造から5代にわたる家族の話です。

    力強いストーリーテリングでした。僕が通ってこなかった道に咲いている言葉の花たちを多く所持しているような著者、という印象がまずありました。時代小説として始まることもあり、その語彙の種類や言葉の用い方が、僕のカバーしていない領域にあるものみたいな感じなのでした。しかし、自分と近い言語感覚では無いから面白くはないということはなくて、序盤から惹きつけられるのです。すごかったです。そして、語彙や文体や内容から、著者はこれまで手を抜かずに生きてこられたのではないかなぁというような強い感じを受けました。

    作者のデビュー作なのですが、その時点での持てる力を最大限に発揮してつくった、自身として渾身かつ最高のものといったような、力のある作品という感じで第一章を読み終えました。第二章も素晴らしく、第三章に入ると舞台は現代にうつるので現代小説といった向きが強くなり、文章の持つ匂いが少々薄まったように感じられましたが、読み進めるうちにそんな第三章の現代小説の文体になれてきたためか、その奥からそれまでの章に宿っていた匂いが再び立ち現れてくるのでした。

    物語を作ることへの「挑む」というその精神のあり方がうかがえて、「素晴らしいな!」と作家を一人の人として見た分へのリスペクトの気持ちが生まれます。これってたぶん、作家の生きる態度なんでしょう。負けてられないぞって思っちゃいます。

    フィクションを作るのって、油断すると無味乾燥というか張りぼてと言うか、空疎なものができあがりがちなのだと思います。血が通っていて、現実と地続きで、それでいて眼前にまざまざと浮かび、温度や匂いまでをも感じるような夢を見させてくれるのがこの作品でした。心して最後まで読みましたし、そうした分のお返しを存分にしてくれる作品でした。楽しみました。

    最後に、引用を。
    __________

    及ばぬ。
    人の意志が、願いが、及ばぬ。
    ひかりの脳裏に強い文言が蘇る。オヨバヌ。祖母が繰り返していた言葉だ。地も海も空も、人の計画に沿って動いてはくれない。祈りなど通じず、時に手酷く裏切ったりもする。それは人がここで生き、山海から食物を得るうえで、致し方ないことなのだと。(p198)
    __________

    →自然の姿をそのままのものとしてとらえている箇所です。僕も同じ意味のことを秘密のファイルにメモっていたりしますが、自然とは人間のためにあるのではなく、時に人間にとって非道なふるまいをするものです。温かで優しいと人間が感じる面を見せたかと思うと、情け容赦なく人間をゴミのように蹴散らしたりもする。もともと人間が自然環境に合わせて適応したのであって、自然が人間に合わせて出来上がっているわけではないのだし、人間の適応についても、自然の「人間にとって都合のいいおだやかな範囲」が比較的幅広いため、それに合う形でそうなっていたりするんだと思います。そもそも、温かいとか優しいとか穏やかだとか、擬人化して自然を近しく感じるのは人間の勝手。そしてそれは空想の範囲の話であって、自然そのものとしっかり相手するときには、そういった空想のフィルターを外して考えないと、命取りにもなり得るものではないでしょうか。本書のこの文章は、そういったことが端的に表現されていて、深く肯いたところなのでした。

    ネタバレになりますが、この「オヨバヌ」が、馬を食べた娘から始めて6世代にわたるこの物語の幕を引く鍵になるのでした。

    こういった、挑んで書いて成し遂げた作品に触れると、やる気になったり生きる気持ちが強くなったりと好い影響を受けるものですね。おもしろかった。

  • 河崎秋子『颶風の王』角川文庫。

    久し振りに良い小説、正統派の小説というものを堪能した。中編ながら長編大河小説のような読み応えのある作品だった。また、忘れかけていた先祖への尊敬の念を思い出させてくれると共に、今の自分が在ることの理由を考えるきっかけを与えてくれた。

    明治期の東北で許されぬ関係となったミネと吉治は牡馬アオと共に村から出奔する。吉治は追手に撲殺され、山越えの道中でアオと共に雪洞に閉じ込められた妊婦のミネは正気を失い、生きるためにアオを食べる。奇跡的に救出されたミネは捨造と名付ける男の子を出産する。そこから始まるミネの末裔一族と馬の関わり……後に捨造は1頭の馬を伴い北海道に渡る。時代は昭和、平成と時代は移りゆくが、一族の中に馬の系譜は脈々と受け継がれていく。

    雄大な北海道を舞台にした一族と馬の関わりを描いた壮大な物語。奇しくも読み始めた翌朝未明に北海道で震度7の地震があった。著者は北海道の別海町で羊飼いをしながら小説を書いているという。どうか無事であることを祈りたい。

  • たまたま直木賞授賞式をリアルタイムで観たので著者に興味は湧いたが、いかんせん守備範囲ではないカテゴリーの小説なのでとりあえず入門として購入

    インタビューの受け答えから感じたイメージ通り、期待通りの作品だった
    謎やトリックから離れた小説もたまには悪くないな

    6世代に渡って繋がれた馬への思いの着地点

    最も理解しやすいはずの現代パートが尻すぼみに感じたのは、それ以前の物語に引き込まれたせいか
    捨三と和子のパートは良かったねえ


    解説はただのあらすじだった
    書評家とは

  • 馬と人の、何代にも渡る物語。
    明治時代、東北地方でのミネの壮絶な体験とそれを知る捨造。
    昭和戦後、根室地方での捨造と孫の和子の、馬との生活。
    平成、大学生のひかりが祖母和子のために動く、そして出会った馬との交感。

    短編のように、次の時代に移る話に戸惑うものの、最後まで読んで、長い長い物語を読んだような満足感があった。

  • 違う本を目当てに本屋に行ったのだが、表紙に馬の絵があって、帯に”JRA賞馬事文化賞”とあれば、こちらを買わない手はない。
    明治の時代、東北の寒村から北海道に渡った男の、その母から続く6代に亘るお話。
    全編に馬が絡むが、表紙の絵には魅かれるよね。

    今年は『北海道』と命名されてから150年目にあたるということで、先日、式典も行われていたが、北海道開拓の歴史を紐解けば、『昭和時代でさえ、開拓民は縄文時代さながらの暮らしを強いられたことが分かります』との記述があり、明治の開拓民の厳しさは恐らく今の我々の想像を遥かに超えるものであっただろう。
    そうした時代の中、雪山で遭難し乗っていた馬を喰って生き延びた母から生を受けた捨造が、その馬の血を引く馬とともに北海道に渡るところから始まる第一章。
    根室の地まで流れ、そこで大地を拓き生きる捨造。そこにはいつも畑を耕し昆布を運ぶ馬の姿があったが、世話する捨造と馬たちの姿を見て、孫の和子もまた馬とともに生きる第二章。
    時代は飛び、そのまた孫のひかりが年老いた和子の記憶をきっかけに、捨造・和子の代に孤島に残した馬を訪ね、家族と馬の系譜を収束する第三章。

    6代に亘るお話を240頁に収める大胆な省略の中で、焦点が当たるエピソードの描写が際立つ。
    鬱蒼とした森の佇まいやそこに生きる動物たちの息遣い、吹きつける海からの風、全てを覆い尽くす濃い霧といった彼の地に特有の自然が目に浮かび、その中で、どんな境遇でも生き抜く馬たちが健気。
    物語に引き込まれるとともに、在来馬や近代化の過程における馬匹改良に触れられた箇所はとても興味深く読んだ。

  • 手に取ったのは、JRA馬事文化賞受賞作だからではなく、この本に呼ばれたから。

    明治、昭和、平成に渡って描かれる、馬と人の物語。
    とくにミネと和子の話には圧倒されて、これであれば240ページではなく、もっと長編にできたのでは?
    と思ったけど、そうすると「人の話」になってしまう。

    あくまでもこれは、馬と人の関わりの話、そして人間が及ぶことのできない、自然を描いた話。
    だからこの分量でいいのだと、ひかりの話を読みながら思った。

  •  直木賞受賞前から気になっていた作品で、たまたま北海道出張中に本屋で特集が組まれており、勢いで購入。
     北海道の地で馬と共に生きた家族6代の物語。各章のメインシーンの読者を引き込む力が凄い。一気に読まされる臨場感と心情の機微の表現。序章の遭難時の馬食に至る過程、第二章のフクロウの睨みを感じる場面は、こちらもドキッとさせられた。
     話として好きなのは最終章の現代で祖母のために馬の行方を探るひかりの物語。この章は立派な青春小説で、自分のルーツを知ることで積極的になり、精神的にも充実していく姿が心地よい。最後の馬との邂逅は非常に美しい映像が想像できた。
     北海道と馬への造詣の深さと卓越した表現力が生み出した素晴らしい物語だった。

  • この中篇のどこに圧縮されていたのかと驚くほどに力強く、壮大。
    人の力が及ばぬ厳しい自然を前にしては何事も及ばず、ただ静かに畏怖の念を抱き、生きる。
    ひかりが見た光景は私の心にも焼きついている。

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著者プロフィール

1979年北海道別海町生まれ。2012年「東陬遺事」で第46回北海道新聞文学賞、14年『颶風の王』で三浦綾子文学賞、15年同作でJRA賞馬事文化賞、19年『肉弾』で第21回大藪春彦賞を受賞。『土に贖う』で新田次郎賞を受賞。

「2020年 『鳩護』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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