- KADOKAWA (2019年4月18日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (488ページ) / ISBN・EAN: 9784041074138
作品紹介・あらすじ
愚かで愛おしい人類の歴史を見守る不死の「伯爵」と少女リラ。彼らの旅路に巻き込まれた兵士は、やがて世界を変える夢を見る--『破滅の王』の著者が壮大なスケールでおくる歴史ファンタジー!
感想・レビュー・書評
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第一次世界大戦中の欧州を舞台に、魔物が自由自在に動き回る物語。世の中の動きは史実に基づいていて、人間の愚かさを学びながらも、ファンタジーならではの軽やかさがある。
特に諜報活動は魔物の特性を活かして簡単にことが進む。ファンタジーなんだから別にいいはずなのに、どうしても戦時中という背景とのちぐはぐさを感じてしまった。
イェルクも戦場と自分の周りの小さな世界しか知らない若者だったのに、すぐに世の中の仕組みを理解して行動できちゃうし。
魔物が世界を俯瞰して人間が現実を生きているという二つの視点は、面白く感じたけどあっさりと駆け足な印象で、もっと深く読ませて欲しかった。
それか、現実の大戦ではなく架空の世界で読んでみたかったな。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
オーシャンクロニクル・シリーズなどが有名な上田早夕里先生の新作。
本書は上田先生得意のSFではなく、ジャンルで言えば歴史ファンタジー・アドベンチャーということになるのかな。
第一次大戦の西部戦線で瀕死の重傷を負った若きドイツ兵イェルクの前に、身なりの良い初老の紳士が突然現れ、イェルクは見知らぬ土地に連れて行かれます。そこでイェルクはその紳士からリラという女の子の護衛をして欲しいと頼まれます。
それを了承したイェルクは、魂の姿になり、虚体と呼ばれる仮の肉体を用いて数々の試練に立ち向かっていきます。
ああ、もう!惜しい!
この本1冊で、この物語を終わらせてしまうのはもったいない!
少なくとも3部作にはできる。人気が出ればあの『ハリーポッター』シリーズを凌駕できるような大作になる可能性があったかもしれないのに・・・。
《以下はネタバレ&壮大な妄想有り・!未読者も既読者も注意!》
舞台は第一次大戦中のドイツとフランス。
登場人物は、両親を亡くした10代前半の人間の女の子リラ、リラを保護する人間の姿をした不死の魔物であるシルヴェストリ伯爵、そして、本書の主人公であり戦場で瀕死の状態のところをシルヴェストリ伯爵に助けられたドイツ軍の若き兵士・イェルク・ヒューバー。
この3人が主人公的キャラクターとなりますね。
さらに人狼でセルビア軍の兵士であるミロシュ、シルヴェストリ伯爵の同居人で旅籠と病院を営む謎の女性・サンドラ、そして彼らに立ちはだかる無の魔物であるニルなどが物語を形作っていきます。
どうです?もう、この登場人物と舞台を聞いただけで、壮大な物語が始まる予感がするじゃありませんか?
伯爵に助けられたドイツ人のイェルクは伯爵からポーランド人の女の子リラの護衛をするように依頼されます。しかし、当時のポーランドはロシア、ドイツ、オーストリアに併合され、国が無くなった状態でした。ですからリラは祖国を奪ったドイツ人達を嫌っていたのです。
このあたりのヨーロッパの歴史描写は、上田先生に深緑野分先生が乗り移ったか!?というレベルで詳細に描かれています。
イェルクは伯爵から与えられた虚体と呼ばれる仮の肉体を使って、同じように虚体を使って精神世界を浮遊するリラの護衛をリラに嫌がられながらも続けます。そこへ無の魔物ニルが襲ってくるのです。
ニルとの戦いなどを経て、徐々にリラはイェルクに心を開いていきます。
物語の4分3までは本当に面白かった。
まさに☆の数で言えば5つ、この物語は実写でもアニメでも映像化したら非常に映えるし、絶対に売れるだろうなと感じましたよ。
若くてイケメンのイェルクに、スーパー美少女のリラ、そして超渋くてダンディーなシルヴェストリ伯爵に、年齢不詳の美女・サンドラ医師、敵役には憎々しい無の魔物ニル。
さらに可愛いヤツから凶暴ヤツまで多種多様な魔物達が所狭しと活躍するとなれば、これはもう老若男女、全員のハートを鷲掴みですよ(笑)。
しかし、なぜか上田先生は第一次大戦が終わったところで、この壮大な物語をいきなり収束させてしまいます。
もう!なんで!意味が分からない!
本書のなかでそれぞれの登場人物の出自や背景を細かく描写していて、特にシルヴェストリ伯爵がドラキュラ伯爵のモデルとなったワラキア公国のウラド串刺公の血を引き継いで魔物になった経緯とか最高に面白かったし、魔物になる決心をしたイェルクのこれからの成長とか凄く期待していたのに。
もし僕がカドカワの担当編集者だったら、本書は絶対に3部作にしますね。
第1巻はリラ(十代前半編)を主人公にして第一次大戦終了までにし、当然本書と同じようにドイツ国内の労働者運動も描きます。
次作はリラ(十代後半編)、リラとイェルクの成長を若干の恋愛を絡ませて描き、ドイツ国内の労働者運動からナチスが台頭する第二次大戦前夜まで描写します。
最終巻はリラ(二〇代編)、リラが一人前になり、ナチスの崩壊と第二次大戦終了のきっかけを作るところまでを描くという感じにします。
そうするとリラの年齢と歴史の流れが合ってないだろと突っ込みがきそうですが、シュヴェストリ伯爵の能力で実際の時間の流れとリラの成長のスピードはズレているのでOKです(適当)。
この3部作のテーマは、「リラとイェルクの成長」、「善の魔物と悪の魔物との戦い」です。さらに「民衆労働運動とファシスト政権の成立と没落の過程」を描き物語に重厚感を持たせます。
そこにはもちろんリラとイェルクの恋愛要素も取り入れます。
リラを守る為に不死の魔物となったイェルクを想いながら、自らも魔物なるか、なるまいかに思い悩むリラの揺れ動く気持ちを情緒豊かに描き出します。
そして、主人公たちと悪の魔物との対決、最終的には無の魔物ニルとの最終決戦。人間のままでいるか、魔物になることを選ぶのか、リラが下した最終決断は・・・。
こんな感じの話を本書と同じように詳細な歴史描写を絡ませながら上田先生の筆力で描いていけば、歴史ファンタジー・アドベンチャーシリーズとして、オーシャンクロニクル・シリーズに匹敵する人気シリーズにできたはず・・・。
魅力的なキャラクター、虚体という実態のない肉体、魔方陣を使っての瞬間移動、実体と魂を分けた人間の分離性、詳細な時代設定、みんな良かったのになあ。
ああ、もったいない(ジタバタ、ジタバタ)。
やっぱり、上田先生は壮大なSFファンタジーじゃなきゃ満足できないのかなぁ~。
と言う訳で、くやしくて仕方ないので次に生まれ変わるときはカドカワの文芸書編集者を目指しますね。「小説家を目指す」とは言わないところが「身の程をわきまえていてGOOD」と自分を褒めてあげたいです☆ -
第一次世界大戦のさなか、悲惨な戦場の只中にいたイェルクは「伯爵」と呼ばれる不死者に出会い、救われる代わりにリラという少女の護衛を依頼される。
救いのない戦争と抗えずにもがく人間たち、そしてそれらを俯瞰する「魔物」の姿を描いた、歴史ファンタジー小説、です。戦争フィクションにファンタジー要素が介在することで、戦争をより第三者目線で捉えられ、その愚かしさと虚しさをよりじっくりと感じられるように思いました。
「魔物」という、下手したら浮き上がってしまいかねない存在を全面的に「あるもの」として描いていることで、広く視界を取った話になっているように感じます。兵士の一目線ではたどりきれない戦の流れや、過去の情景も描かれることで、より繰り返されている戦というものに秘められた人間の業、というのを知れたような気にもなれたのです。
そのやりきれなさや辛さを抱えた中、毅然とまっすぐに風を起こして生きていくリラの姿がすがすがしく、頼もしくも思えました。 -
3.5。雰囲気はよく出てるのに、話を小さくまとめてしまっている印象で残念。もっと膨らませてもいいのに。書ける筆力あるのに。この作者、似た印象をもつ本が幾つかある。勿体無いなぁ(まあ、膨らませて書くなら違う話の世界観で優先してほしいのがあるけど)
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21:第一次大戦時のドイツ。イェルクはフランス軍との戦闘中に重症を負い、伯爵と名乗る不死の魔物に救われて実体と虚体の二つの存在に分かたれる。ヒトとヒトでないものが入り交じる欧州で、ヒトでないものの視線を交えて語られるからこそ重みを持つ暴力と希求の歴史。
装画が素敵で、読み終えてから改めて見直したら涙出た。いつの時代、どこの国でも変わらない普遍的な愚かさが描かれていて、落胆すると同時に「エッフェル塔」の希望は失われてほしくないなと。容赦のない重厚さと、清涼な軽やかさで紡がれる歴史ファンタジー。めちゃ面白かった……!
「破滅の王」に比べ、ファンタジー要素が強めのぶん読みやすかったのですが、もしかしてえぐさはこちらの方が勝っているのでは……。 -
第一次世界大戦の時代を舞台にしたファンタジー。魔物が暗躍する世界を描いているが、魔物が主役ではないと思った。戦争が人を破壊して人間ではなくなっていく、一方で魔物は魔物の欲求を満たすべく暗躍するが、その方がよほど人間らしいという逆転現象が起こる。ドイツの兵士だったイェルクは不老不死の魔物になる。人間を救うためだ。魔物のニルは戦争の“無”を表現していると感じた。リラはポーランドの少女。吸血鬼をモチーフにした伯爵と住んでいる。両親はいない。イェルクはリラの護衛として伯爵に雇われている。改めて作品名を見て、戦争でもっとも被害を被るのはリラのような子供なのだなと再認識させられる。
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たまたま第一次世界大戦について大枠を理解できてる状態だったので面白く読めたが、全く知識が無い状態だと、理解できない細部も多いと思う。
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第二次世界大戦を舞台にしたファンタジー小説ですが
なるほど、こういうのもアリなのか… -
上田さんは
日本SFの宝だなぁと、何時も思う。
作品が読めてありがたい -
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第一次世界大戦中の欧州、死にかけたドイツ兵はある紳士に助けられた。
館に連れていかれた彼は、そこに住む少女の護衛を任される。
少女はポーランド人で、ドイツを、そして戦争を憎んでいた。
いわゆるヴァンパイアもの。 -
まことにもってお勉強が足りておらず、サラエヴォ事件から第一次世界大戦の勃発にいたる経緯なるものがてんで分かっていない。よって、帝国書院の高等地図でヨーロッパ国境の変遷図をにらめっこしながら読み進める。てなわけで、やたら時間がかかるし、史実に沿いながらも主人公のほか主要な登場人物が魔物とくれば、突飛な展開に浸りきれず仕舞いだ。ちらりとナイチンゲールに違いない人物の描写があり、偉人の伝記を読んだ中で最も尊敬するお方であるので、小説でのご活躍を期待して胸が躍ったが、残念ながら極めてわずかばかりの人物案内であった。もっと歴史を学んでおかないと楽しめないなと、いまさら反省しきり。
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戦争と魔物のお話。
第一次世界大戦のヨーロッパの歴史物でした。
知らなくてはいけないことでしょうが、娯楽として読んでいるのでファンタジーだけの方が好き。
最近不死とか、人より長い寿命が辛いみたいな作品に触れているけど、イェルクはやることあるから大丈夫なのかな。 -
ファンタジー抜きの話が読みたかった。少し残念。
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ドイツを中心とした第一次世界大戦のクロニクルに、”魔物”設定をうまい具合に調合したダークファンタジー(ワラキア公国出身の伯爵、といったら例の魔物ですね)。
オーシャンズクロニクルシリーズと比べると、ちょっとジュブナイル色が強め。近代史の知識が薄い人(=自分)も、違う国の出自をもった人間、魔物に思い入れを持って読むことができる。史実に忠実な部分でも、ナイチンゲールやロダンと芸術に翻弄されたカミーユ・クローデルがさらっと出てきてそこもまた美味しい。 -
帯に歴史ファンタジーとあるが、WWⅠの歴史小説として読んだ。
戦争ものは全体を扱おうとすれば被害は数字となり悲惨さの実感は乏しくなり、個人に焦点をあてればリアリティが出る一方で局所的になったり主人公の属する陣営に偏った視点となる。
しかし、この小説ではファンタジー要素を付加することで、WWⅠのいくつもの国の兵士や残された婦人などの個人を丁寧に描きながら、戦争の大局的な視点での動きの記述もこなしている(といっても戦争全体ではないし、もとよりそれを目指しているとも思わない)。
また、ファンタジー要素は史実の流れを変えるものでも史実と混濁させるものでもなく、しかし小説の中では史実にピタリと嵌るように織り込まれている。
WWⅠの時代の流れ、戦場や街の空気、様々な立場の大衆の生活や心情を感じることのできるとてもよい一冊だった。 -
第一次世界大戦が軸の歴史ファンタジー。すんなり読めたのは不老不死の伯爵慣れしてるからかな。うふう。
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第一次世界大戦下の欧州。
ドイツの片田舎でとりたてて学もなく床屋をしていた青年イェルクは愛国心から兵士となって前線で戦っている。
悲惨な戦況の中、負傷した彼のものに、「伯爵」と名乗る謎の男が現れる。
「伯爵」は遥かワラキアの時代から生き続けている魔物であり、イェルクは彼の命令により、大人びた少女リラの護衛を務めることになる。
多数の魔物が登場するフィクションでありながら、巻末の文献数を見ればわかる通り、史実を元に描かれており、虚構と、現実にあった戦争が重なり合って厚みのある物語となっている。
セルビア人がオーストリア皇太子を暗殺して始まったのが第一次世界大戦、ということは学校で習っていても、なぜセルビア人がオーストリア皇太子を殺したのか、であるとか、欧州に根深くあった民族紛争というものはどういったものであったのか、ということは理解できていなかったな、と読んでいて思った。
そもそも戦時下で戦死ではなく餓死した人間が多数いた、ということも初めて知り、ドイツがナチスへ傾倒していくその端緒がどこにあったのかが身に染みるように伝わってきた。
狭く地続きである欧州で民族の違いで争うことの空しさが本作で描かれているが、それは、現代の、自国第一主義を掲げて他国民や他民族を蔑み排斥することで自国のプライドを保とうとする社会にも通じるものだと感じる。
著者プロフィール
上田早夕里の作品
