戒名探偵 卒塔婆くん

  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041074244

作品紹介・あらすじ

のほほんと生きる金満寺の次男・春馬は
金に汚く横暴な住職代行の兄に寺の無理難題をふっかけられがち。
今日も今日とて、古い墓石の身元を探している。
手がかりは石に刻まれたたった数文字の戒名だけ!?
しかし、春馬には同じ高校に通う『戒名探偵』――外場(そとば)薫という切り札があった。
なぜか仏教に異様に詳しい彼は、この日も墓石の写真を見ただけで
すらすらと身元を言い当てるのだ。

有力檀家のルーツ探しに、仏教界びっくりドッキリイメージアップ大作戦!
謎が謎を呼ぶ、巨大コンテンツメーカー創始者の生前戒名を巡る骨肉の遺産争い……

知れば知るほど面白い仏教の世界の謎を、外場=卒塔婆くんが解き明かす!

感想・レビュー・書評

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  • 戒名からいろいろなことを推理して、サークル仲間の春馬の実家の寺や同級生の女生徒の実家の寺(またもや!)、教師に降りかかってくる事件を解決してしまう謎の高校生外場、人呼んで戒名探偵。春馬が実家の寺のお供え物の高級茶や菓子を、優雅に外書を読みながら飲み食いするなんとも個性的な探偵で、非常に魅力的だ。持ち込まれる問題に表情も変えず興味を引かれた風にも見せず、それでも結局は鮮やかに解決して見せる。物語は春馬の視点で動いていく。春馬はぶつくさと言いながらも、結構いいやつなんだよなあ。結局は楽天的なのもいい。最後のラバウルの話は太平洋戦争のことが関わっていて、結構ほろりとさせる。外場の秘密にもちょっと触れていて、次回作に期待を持たせる。

  • それなりに由緒ある寺の次男の春馬が、住職代行の元暴走族の成人童貞な兄や同級生かつ幼馴染で容赦ない性格の寺の娘に押し付けられた戒名や墓に纏る無理難題を何故かその分野に詳しい謎の多い同級生の外場君に泣き付いて解決してもらう短編集+中編1本。仏教や戒名に関する蘊蓄で謎を解くのが新鮮。登場人物皆キャラが立っていて掛け合いが楽しい。語り手の春馬莫迦にされ過ぎだけど明るくめげないので読み口は軽い。が、中編のある大物に生前戒名を気に入ってもらって財産を相続しよう!計画から始まる「いまだ冬を見ず」が思わぬ重い歴史に繋がりしんみりした。しかしこれがどうも浮いている気がしてならない。短編のノリで統一しても良かったんじゃ、とふと思った。

  • 連作短篇集。
    魅力的なキャラ設定に、仏教用語を散りばめながらもユーモアたっぷりな展開。
    そして最終話は心揺さぶられます。面白かった。

  • 戒名からその故人の宗派はもちろん、職業、身分、経済状況、大体の年齢などなどいろんな事をたちどころに解き明かせる『戒名探偵』こと、外場くん。
    戒名というものがこれほどその方の人生を語っているものだとは知らなかったし、仏教の多数ある宗派による違いなども興味深く読んだ。

    謎めいた外場くんの正体が実に気になるところだが、そこははっきりしないまま終わってしまった。続編があるということなのか、どうなのか。

    全体的には楽しく読めたが、前半の短編でテンポよく進む感じの方が好きだった。
    後半の中編は一見、主人公春馬のいう「犬神家」チックなのだが戒名というテーマからは離れて人生ドラマに重きを置かれてしまったのが残念だった。
    あと、理不尽なほど春馬を攻め立てる僧侶の兄や家政夫さんや幼馴染の同級生にもめげず、お気楽に外場に頼りっぱなしのポジティブ慕何(バカ)な春馬にときにイラつきつつも、最後はちょっとしっかりしたところも見せてくれたのがホッとした。

  • 戒名から背景を探る、祖先を探す、子孫を探す、生前に戒名をつけるなどなど意外性があって面白い。
    知識豊富な卒塔婆ではなく外馬君の活躍は目覚しい。
    のんびり金満君と絡み合って更に面白い。
    続編が楽しみ。

  • 最初の2扁はまとまっていて面白い上に勉強になった。この感じで続けてほしかったところだが、残り2扁はスケールの割りに本筋の面白さからズレてしまったのが残念。ふざけ過ぎた文章は好みではないが戒名にまつわる推理は面白い。

  • 戒名や卒塔婆、墓石やそれを建てる場所、そこからあんなに具体的なことがわかるなんてびっくりしました。戒名だけでもかなりのことがわかってしまうのですね。お寺の経営、とても厳しいということは知っていましたが、萌えやら、イケメンやら、なんだかなと感じます。知ってもらう、来てもらう、でないと何も始まらないのもわかりますが。一番最後の話は、それまでの感じとはかわって重い話でした。戦争で生き残った者の運命や責任や後悔、今でこそ生きて帰ってきてくれてよかったですけど、当時は生き残ることは恥。生存者の方は死ぬまで罪悪感を持ち続けるのでしょう。ペリリューのことはたまたまラジオを聞いていて少し知っていたのですが、遥か遠くでいまだ帰れない方々を思うと何とも言えない気持ちになります。戦争を経済と考えている人がいる以上、戦争がなくなることはないんだろうと思います。罪だな。

  • そんなジャンルないけど、あえて言うなら仏教エンタメ。コメディタッチのキャラ設定が面白く、軽快に読めるけど仏教やお寺・お墓の勉強にもなる。
    短編3つ、中編1つという構成だが、こういったノリは絶対短編の方が活かされると感じた。シリーズ化されても短編集であってほしい。なんでもかんでもドラマ化しちゃう昨今、この作品もドラマにならないかなぁ。23時台くらいのノリで。

  • 戒名から、埋葬されている人がどのような人生を送った人なのかを推理する、という主人公の特技は印象的ですし、キャラクターとして際立ったものがあるように感じました。
    主人公の外場(そとば)や、語り手でもある金満寺の次男坊春馬など、登場人物の個性も強く、キャラクター小説として楽しく読める作品だと思います。
    4つのエピソードから構成された作品ですが、後半になるにつれ、作品自体のボリュームも増しますし、メッセージ性も強くなっていました。特に最終話は「重め」の展開となっており、エンタメ小説でもありながら、「忘れてはいけない過去」について思いを寄せるきっかけとなります。今上上皇陛下がおとずれたペリリュー島の戦争被害や、戦没者への慰霊など、「ラノベ」で終わってしまわない要素があることには好感が持てました。

    一方で、特徴的な外場という主人公がなぜ「戒名探偵」となったのか、や最終話やエピローグで語られる彼の人となりについての描写が少し浅い(少ない)ような気もしました。ミステリアスな雰囲気が残る、といえばいいのかもしれませんが、個人的にはもう少し納得のいく形でエンディングを迎えてほしかったと感じています。

  • なんだか、『怪物くん』的なコミカルなイメージのタイトルだ。
    もちろんそうした場面も多いが、仏教のうんちくもあるし、なんといっても最終話が深い。
    この真面目さとコミカルさを混ぜた謎解きは、バランスも良くて面白い。
    卒塔婆くんの続き、出ないかなあ。

    さて、そもそも寺、宗門なんて若い人(そうでなくても)には馴染みはほとんどないはずだ。
    せいぜい、うちの墓がどっかにある(それが何宗だか知らない)、世界史で習ったこと(ブッダが開祖で、腹下して死んだ)くらいじゃないか、と私は踏んでいる。
    そんな「知らない」ところをついた物語は、『月刊住職』での連載......ではなかった。
    本職の意見も聞いてみたい。

    本編に移ろう。
    ワトソン役の金満春馬は、東京は麻布の由緒正しき寺の次男坊。
    兄は元ヤンで、今は正覚に達し悟りを開いた、(さて果たして何に達したんだか)住職代行で、春馬はこの兄に頭が上がらない。
    そしてホームズ役が春馬の同級生、外場だ。
    謎めた切れ者だ。
    この外場と様々な謎に挑むのだが、今までのミステリーの勘が働かない。
    なんてったって知らないことばかりなのだ。
    だいたいすぐ感付いちゃうんだよね、なんて人にもオススメだ。

    最終話「いまだ冬を見ず」は他の二倍ほどの分量がある物語だ。
    初めは茶化したような、軽い感じがするのだが、だんだんと時代が遡るうちに、しん、と静まり返ってくる。
    暑い国の悲しい出来事、暑い日の悲しい出来事。
    大岡昇平の『野火』の世界だ。
    時が経てば忘れてしまう過去を、そこに囚われてしまった人を動かすには、生きている人々は何をなすべきか。
    折しも時代は変わった。
    先の天皇皇后両陛下(上皇、上皇后)の軌跡を見た。
    新たな時代が、また、悲しみのない世であることを。

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著者プロフィール

1976年兵庫県生まれ。2000年『マグダミリア三つの星』で第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞しデビュー。主な著作に「トッカン」シリーズ、「上流階級 富久丸百貨店外商部」シリーズ、『メサイア 警備局特別公安五係』、『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』、『マル合の下僕』、「カーリー」シリーズ、『剣と紅 戦国の女領主・井伊直虎』、『主君 井伊の赤鬼・直政伝』(文藝春秋)など。2013年『カミングアウト』で第1回エキナカ書店大賞を受賞。漫画原作も多数。

「2023年 『忘らるる物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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