- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041076323
作品紹介・あらすじ
各紙誌で絶賛! 新たな「宮沢賢治論」の誕生!!
(『産経新聞』2020年5月10日 評者・江上剛氏、『河北新報』2020年5月10日 評者・土方正志氏、『毎日新聞』2020年5月30日 評者・池澤夏樹氏)ほか
「『廃線紀行』に代表される鉄道紀行と『狂うひと』に代表される作家研究が融合しあい、比類のない作品が生まれたことを心から喜びたい」原武史氏(2020年4月23日『カドブン』)
かつて、この国には“国境線観光”があった。
樺太/サハリン、旧名サガレン。
何度も国境線が引き直された境界の島だ。
大日本帝国時代には、陸の“国境線“を観に、北原白秋や林芙美子らも訪れた。
また、宮沢賢治は妹トシが死んだ翌年、その魂を求めてサガレンを訪れ、名詩を残している。
他にもチェーホフや斎藤茂吉など、この地を旅した者は多い。いったい何が彼らを惹きつけたのか?
多くの日本人に忘れられた島。その記憶は、鉄路が刻んでいた。
賢治の行程を辿りつつ、近現代史の縮図をゆく。
文学、歴史、鉄道、そして作家の業。全てを盛り込んだ新たな紀行作品!
【目次】
第一部 寝台急行、北へ
一 歴史の地層の上を走る
二 林芙美子の樺太
三 ツンドラ饅頭とロシアパン
四 国境を越えた恋人たち
五 北緯50度線のむこう
六 廃線探索と鉱山王
七 ニブフの口琴に揺られて
第二部 「賢治の樺太」をゆく
一 「ヒロヒト岬」から廃工場へ
二 賢治が乗った泊栄線
三 「青森挽歌」の謎
四 移動する文学
五 大日本帝国、最果ての駅へ
六 オホーツクの浜辺で
七 チェーホフのサハリン、賢治の樺太
八 白鳥湖の謎
九 光の中を走る汽車
十 すきとおったサガレンの夏
おわりに
主要参考文献一覧
感想・レビュー・書評
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梯久美子の、サハリンへの2回の旅の旅行記。
1回目は、サハリン内の鉄道に乗ること自体が主な目的の旅。2回目は、岩手からサハリンまでの宮沢賢治の鉄道と船の旅を後づけた旅。
私は、本書を旅行記とは実は知らなかった。
私にとって梯久美子と言えば、硫黄島での栗林中将を描いた「散るぞ悲しき」である。サハリンの一部は、第二次大戦前は日本の領土だった場所であり、そういった場所と戦争にまつわるノンフィクションだろうか?という程度の認識で読み始めた。
ところが、内容は思わぬ旅行記。また、梯久美子さんが、鉄道マニア、特に廃線マニアであることを本書で知った。鉄道マニアの梯さんが好奇心丸出しで旅する1回目の旅行記は楽しく読めたが、宮沢賢治についてほとんど興味のない者としては、2回目の旅行記は、読み通すのが、正直辛かった。 -
ノンフィクション作家の梯さんが鉄道ファンであったとは知らなかったが、鉄道ファンが何より優先されるべきは「なかなか乗れない路線に乗る」「乗れるだけ乗る、乗りつくす」と書かれてあり、この鉄道旅は最高だったのだなと思った。
第一部、第二部の構成で読み易かった。
もっと歴史的要素が盛り込まれているのかと思っていたので、そのあたりは予想外ではあったが鉄道メインなので然もありなん…か。
樺太/サハリン 昔からさまざまな名で呼ばれてきた地。
アイヌ語、日本語、蒙古語など…。
この本書のタイトルは、宮沢賢治がこの地をそう呼んだかららしい。
第二部では、宮沢賢治の鉄道の足跡を辿り彼の残した詩や文を旅の風景を感じながら楽しめる。
自分にとってはまだまだ遠いと思ってしまうサハリンなのだが…
鉄道ファンでもなく乗り鉄でもないのだか…
いつかは境界まで行ってみたいと思った。
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読み始めたきっかけは、最近宮沢賢治とチェーホフの作品を読み、両者の関係性を知りたくなったから。
前半は斜め読みした箇所もあるが、結構興味深く読めた。後半はサハリンでの宮沢賢治の足跡に費やされており、宮沢賢治の作品は殆ど読んでいない私にとっては賢治の人となりを知るのに役立った。そして『チェーホフのサハリン、賢治の樺太』という項によると、結果として両者は同じルートを旅しているが、33年後に訪れた賢治はチェーホフを辿ったのか、偶然なのか立証は出来なかったらしい。仮に偶然だとしたなら賢治の感性(魂)はチェーホフにとても近いものを持っていたと想像出来る。
作者の梯久美子氏の作品を読むのは初めてだが、関係資料をよく読み込み、核心に近づこうとするアプローチが見事である。それも、当時の出来事を記録として書き留める人物がいてこそ、現代の私達は知ることが出来る。
蛇足ながら、現在の私達がSNS上にアップしている膨大な記録は、後世どういう形で役立つのだろうか? -
ノンフィクション作家の手によるサハリンの紀行文。大日本帝国時代には陸の国境線がある島として、著名人も訪れたとのこと。林芙美子や宮沢賢治といった過去の旅人たちの記録は、著者によって丁寧に紐解かれ、旅の記録に奥行きを与えているように感じました。
ブクログでレビューを拝見して、面白そうと思って拝読しました。
個人的には、前に冬の礼文島に一人旅をした際、稚内からハートランドフェリーという会社の船に乗ったんですが、色々調べていたらこの会社がサハリンのコルサコフまで国際航路を持ってるんだなーとわかり、いつか乗ってみたい…と思っていました。
今思うと、本当に、旅で「いつか」とか言うのは悪手でした…。
稚内~コルサコフの航路は本著に書いてあるとおり唐突に廃止され、今となってはロシア(南樺太をどう扱うかはありつつ)への渡航自体も現実的ではない。
その間に、本著にもあるようにサハリンの鉄道は日本時代の線路幅から、ロシア本土と同じ広軌に改軌されてしまい、新型車両やら高速化やらで面影も消えつつあるようで…。
本著が記録したのは、そんな改軌前のサハリン長距離列車の息吹で、ロシアの給湯器サモワールや「暖房地獄」のコンパートメントの様相まで、おそらくもう経験できないだろう質実剛健な車内を仮想体験する意味でも貴重な1冊なのかなと思います。
あとついでに、旅人目線だと、食事がしんどそうだな…と。本著に出てきた著者の食事はロシアパン、ハムエッグ、フィッシュバーガーに車内用カップヌードル。ユジノサハリンスク滞在時はちゃんとした夕食を取られたんじゃないかと思ったんですが、ネタになるレベルじゃなかったのかな…。
ここからは本著の内容ではないんですが、この島の鉄道、なんでわざわざ改軌したんだろ…と思ったのですが、ロシアでは本土とサハリンの間に橋を架ける話が持ち上がっているようで。世界は変わり続けてますね…。 -
サハリン、あるいは樺太。
日本人にとっては、離島と呼ぶには大きすぎ、北海道というにはインディペンデントすぎる。
アイヌ文化に関心があればもちろん目を向けたくなるが、先住民としてはギリヤーク(ニブフ)の文化圏。
ギリヤーク、と言えば村上春樹を思い出す人ももちろんいるだろう。
そう、「かわいそうなギリヤーク人」。
日本の地図で見ると、ロシアにも我が国にも色分けされていない国境未確定の地であること。
そして、日本にとって極めて重要な(重要になりかけた)産油地であること。
戦前の貴重な戦略拠点だったことはもちろん、ついこの間までも日本の大手商社と環境団体が開発を巡って戦っていたような。
そして、そんな地政学的事情をさておいても、宮沢賢治が「銀河鉄道の夜」を着想した地としても重要なのであった。
著者の梯さんは相変わらずのユーモアと精度で、サハリン夜行列車の旅、、、というもうそれだけで旅情お腹いっぱいレベルの紀行文とともに、妹を失い北を彷徨する賢治の軌跡を丁寧に辿っていく。
実際に鉄道に乗ったからこその斬新かつ説得力のある解釈で、従来の賢治文学に関する通説のいくつかを覆しつつ、妹の死と絶望、鉄道旅による賢治の魂の回復過程を感動的に描き出す。
夜行列車。のったことのある人には分かってもらえるだろう、あれはただの旅ではない。
闇夜を駆け抜けると異界にたどり着く、一種の冥界廻りにちかい感覚を乗客に引き起こす。
あの空気感を丸ごと再現しつつ、宮沢賢治のテーマをも掘り当ててしまう著者の力量につくづく感服。 -
第一部は、著者と、同行した編集者 ”柘植青年” とのやりとりが、なんだか『阿房列車』の百閒先生と”ヒマラヤ山系君”とのようでもあり。柘植青年、なかなかいい味を出しておるな。旅に際し、著者がやたら用意がいいのも可笑しく。
第二部は宮沢賢治をたどる旅で、読んで、宮沢賢治のどうにもさびしく暗い心持ちが、なんだか納得出来るような気がしてきた。
梯さんは初めて読みましたが、すっかりファンになってしまいました。とても丁寧に、これでもかという...
梯さんは初めて読みましたが、すっかりファンになってしまいました。とても丁寧に、これでもかというほど論考を調べたり、考察したりする姿勢に、よしついていくぞと思いました。それだけでなくて文章も読みやすくて置いてけぼりにされなかったです。
樺太のことも宮沢賢治のことも初めて知ることばかりでしたが、もうちょい知りたいなと梯さんが参考にされた本のいくつかは図書館で予約しました。
流刑地のことでは、とくにチェーホフの『サハリン島』を参考にされてたと思います。
「樺太のポーランド人」については報告書『ポーランドのアイヌ研究者 ピウスツキの仕事』から参考にされたみたいです。
『ゴールデンカムイ』ですね。今まで気にしていなかったのですが、樺太のことを知りたいと思うと、だんだん気になってきました。読んでみたいと思います。
私は、まだ読んでいないのですが『熱源』を思い浮かべました。で、今、気になってあらすじだけ調べてみると、あっ、ロシア人にされそうになったポーランド人としてピウスツキの名前が。
ピウスツキって、今コメントに書いたばかりのアイヌ研究者ピウスツキのことかも!
なんだか本から本へと繋がっていくような感じが、ちょっと嬉しいです。
遅ればせながらのコメントですみません。「樺太のポーランド人」と見て『熱源』で取り上げられてましたよ〜!とコメントしようと思...
遅ればせながらのコメントですみません。「樺太のポーランド人」と見て『熱源』で取り上げられてましたよ〜!とコメントしようと思ったら、もうお気づきになってましたね(^^;) 色々出遅れております…
『熱源』はフィクションなのでどこまで史実に忠実かはわからないのですが、アイヌ研究者のピウスツキが主人公になっていて、入り口としてはおすすめだと思います!
ピウスツキの弟さんはポーランドの初代元首らしくて、すごい人の家族が樺太にいたんだな〜と歴史の壮大さに胸を打たれました。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%8B%E3%82%B9%E3%83%AF%E3%83%95%E3%83%BB%E3%83%94%E3%82%A6%E3%82%B9%E3%83%84%E3%82%AD
ピウスツキのこと、教えていただきありがとうございます。史実のピウスツキの最期には謎が残りますね。
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ピウスツキのこと、教えていただきありがとうございます。史実のピウスツキの最期には謎が残りますね。
shokojalanさんにおすすめしていただいていた「熱源」を読もうと思っていて、文庫本を購入してたのですが、なかなか読むタイミングがなく……
ところが、この本を読んで時代は違えど同じ舞台の「熱源」が頭を離れなくなり、今だ!と。
読み終えました。
ピウスツキが導いてくれました。
「熱源」の後半、日本の有名人が怒涛のごとく登場し、えー、こう繋がっていくんだと驚きました。
あとヤヨマネクフとシシラトカが進んだ道とか。
歴史の壮大さ、そして熱の源について、アイヌって言葉の意味……、いろんな想いに私はもっと失われていく「文化」とか「歴史」とか、ちゃんと勉強したいなと思いました。
近頃、勉強したいことが見えてきました。気の多い私なので、ひとつじゃないんですけどね(*^-^*)