蠕動で渉れ、汚泥の川を (角川文庫)

  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041076460

作品紹介・あらすじ

『17歳の失敗は、人生の失敗じゃないのだ』と
貫多は私に教えてくれた――湊かなえ氏


こんな青春も、存在する――17歳。中卒。日雇い。人品、性格に難あり。しかし北町貫多は今日も生きる――。無気力、無目的に流浪の日々を送っていた貫多は、下町の洋食屋に住み込みで働き始めた。案外の居心地の良さに、このまま料理人の道を目指す思いも芽生えるが、やがて持ち前の無軌道な性格から、自らその希望を潰す行為に奔り出す――。善だの悪だのを超越した、負の青春肖像。渾身の長篇私小説! 解説・湊かなえ

感想・レビュー・書評

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  • この手の新たな職に就く話はいつも最初はうまくいくけど些細なことでいつもの「慊い」がはじまり、結局は後足で砂をかけるように罵詈雑言を並べて途方に暮れるという一言にすれば自業自得の話だけど、これは歯切れのいい言葉と勝手に岡惚れして傷ついて旅に出るというほぼワンパターンの『男はつらいよ』好きの自分には共通点が感じられるし、だからこそこれだけのめり込んでしまっているのだろう

  • まず冒頭申し上げたいのは、西村賢太作品を相部屋の病室で読んではいけないということです。
    思わず吹き出して、同室の患者に眉を顰められること必定。
    笑いを堪えようとして咽たり咳込んだりし、事態が悪化することもしばしばです。
    今回、大腸ポリープの摘出手術を受けるため1週間入院していますが、西村作品を持ち込んだことを軽く後悔しております。
    それはさておき、本作は言わずと知れた「北町貫多」シリーズ。
    貫多17歳、洋食屋でアルバイトをする青春の日々を描いています。
    「青春」と書きましたが、貫多の青春は、一般にイメージされているものとは真逆のものです。
    貫多は、小学5年のころに父が性犯罪で捕まり、母と姉と共に都内の別の土地へと逃げました。
    その後、中卒で社会に出ると、港湾人足など重労働で糊口をしのぐ生活を送るのです。
    しかし、まだまだ17歳。
    自身初となる洋食屋でのアルバイトも順調です。
    貫多はこう思います。
    「確かに自分は〈青春の落伍者〉になりつつあるが、しかしながら、まだ〈人生の落伍者〉には至っていないのだ」
    見上げた心意気ではないでしょうか。
    不遇をかこつのではなく、むしろそれをバネにして自ら人生を切り開く――。
    なんてことは、貫多に限っては一切ありません。
    バイトで得た給金は酒と買淫に費消し、家賃は踏み倒し、金に困れば実家に戻って母から金をむしり取る。
    自ら人生を切り開くどころか、職場その他で出会った年配の人たちを「人生の落伍者」と決めつけ、優越感を得て恬淡とする始末です。
    それだけではありません、自分を棚に上げて、気に食わない人をとにかく悪し様に罵るのです。
    何と下劣な品性の持ち主でしょう。
    しかし、この下劣さこそが貫多の魅力として、私を含む多くの読者の心を捉えているのだから不思議です。
    しかも、貫多の言い立てる悪態の痛快さといったら、もう中毒になります。
    これだけ多くのファンがいるということは、恐らく私を含め、貫多のように自分にもっと正直に生きたい人が多いのだと思います。
    蛇足ですが、西村賢太には珍しいエンタメ作品「悪夢――或いは『閉鎖されたレストランの話』」の着想は、この洋食屋で得たものなのだと本作を読んで知りました。
    ちょっと感動した。

  • 『苦役列車』『小銭を数える』に続いて。北町貫太セブンティーン、洋食屋での奮闘の日々。今回は長編ということもあり序盤はいささかかったるくもあった。読者としてはやはり貫太が暴虐の限りを尽くすのがオモロイわけで。洋食屋の仕事に慣れるにつれ、彼の本性が顕になり小狡いちょろまかしや淫行を重ねていくのはなんとも生々しい嫌らしさがある。バイトの小娘のスカートの匂いをこっそり嗅いで悪態を吐きまくる場面は大いに笑わせてもらった。

  • 北町くん
    歪んでるよ

  • びっくりするぐらい非モテダメ男の青春奮闘記

    「彼は見た目は野良犬ながらも 、その根は余りにも貴族気質にでき過ぎてしまっていた 。そしてまた 、見た目は若きお菰風ながらも 、その根は余りにも坊っちゃん気質にでき過ぎてしまっていた 。」という文から伺えるように、主人公はとにかくプライドが高くて、被害者意識の塊。バイト先の人間とか割とふらっとに見ているはずなのに、自分は馬鹿にされてる、疎まれてると思い込み暴虐な限りを尽くす。もう少し自己肯定感が高くて、他者に歩みよれば普通の関係性を築けるのにと思いながら読み進めていた。

    でも、こういう北町貫多的な卑屈性は自分の中にも心辺りあるなと思い、深淵を覗いてると思ったら、自分の深淵の部分を見つめ直していた。

    「確かに自分は 〈青春の落伍者 〉にはなりつつあるが 、しかしながら 、まだ 〈人生の落伍者 〉には至っていないのだ 。」という文がまた心に染みる。

    • getdowntoさん
      本当に心に染みる作品ですよね。自己肯定感の低さがこの作品の魅力を増しているのでしょうか。
      本当に心に染みる作品ですよね。自己肯定感の低さがこの作品の魅力を増しているのでしょうか。
      2022/01/22
  • 自分がいい奴でも悪い奴でも
    自分からは逃げられない。

    日記が続かない理由は、破くから。
    嫌な思い出は全部破って捨てる。
    記憶に重石を置いて、忘れるまで置いておく。
    腐った記憶がドロドロになってやっと燃やせる。

  • 作者の私小説を読むのは数冊目
    私小説だから、事実を元にしたフィクションだそうであるが
    どこまでほんまかいなと、いつも感じてしまう
    と、言うことは作者の術中にハマっているのだろうと思う

    物語は毎度ひどい内容で、言い回しも下劣な感じ
    なのに、リズム感があって読んでいるのは楽しくて、毎度一気読みしている

    You Tube の作者の動画があるので興味があれば見てほしいなと思う ← 誰に向けとるん???自分

    内容はいっぱい他者が書かれているので、書かないけど
    人生を簡単に諦める若者に読ませたい、どんな事があっても自分は自分で生きていくことが、来ていることが大事なんだと言われている、そこを感じてほしい。

    乱読ジジイでした

  • 『苦役列車』以来、西村作品二作目。『苦役〜』より前の17歳の貫多が主人公。この頃からもう既に貫多でしたw どうしようもないこの感じがとても良いです。アキコさん?だったか、噂の彼女が出てくる作品が読みたいですね(^^ まあ、この調子だとあまり変わらなそうですが…彼は。

  • 17歳の自分勝手な青年の話。気分を害す思考が多く、読んでいて不快に思う。クズな主人公を読みたい方はぜひ!

  • 貫多住み込み編にして長編。
    家賃未払いと性欲と口が達者な尊大な心持ちは他の話と変わらず。始めは超自我で抑制しているのが無理が祟って欲動が噴き出すのも同様である。
    17歳という青春のボーナスタイムを空費した事、人が嫌がる様な自身の内面を透徹した描写は心に残った。
    差別でもないが父親が性犯罪をしなかった場合の違う世界線の貫多はどの様な性格になったか気になるところではある。

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著者プロフィール

西村賢太(1967・7・12~2022・2・5)
小説家。東京都江戸川区生まれ。中卒。『暗渠の宿』で野間新人文芸賞、『苦役列車』で芥川賞を受賞。著書に『どうで死ぬ身の一踊り』『二度はゆけぬ町の地図』『小銭をかぞえる』『随筆集一私小説書きの弁』『人もいない春』『寒灯・腐泥の果実』『西村賢太対話集』『随筆集一私小説書きの日乗』『棺に跨がる』『形影相弔・歪んだ忌日』『けがれなき酒のへど 西村賢太自選短篇集』『薄明鬼語 西村賢太対談集』『随筆集一私小説書きの独語』『やまいだれの歌』『下手に居丈高』『無銭横町』『夢魔去りぬ』『風来鬼語 西村賢太対談集3』『蠕動で渉れ、汚泥の川を』『芝公園六角堂跡』『夜更けの川に落葉は流れて』『藤澤清造追影』『小説集 羅針盤は壊れても』など。新潮文庫版『根津権現裏』『藤澤清造短篇集』角川文庫版『田中英光傑作選 オリンポスの果実/さようなら他』を編集、校訂し解題を執筆。



「2022年 『根津権現前より 藤澤清造随筆集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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