どうで死ぬ身の一踊り (角川文庫)

  • KADOKAWA
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本棚登録 : 227
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041076477

作品紹介・あらすじ

賛否両極の問題作!
デビュー15年、第一創作集、3度目の復刊!


不遇に果てた大正期の私小説家・藤澤清造。その負の存在に心の支えを見出し“歿後弟子”を目指す男の捨て身の日々。“師”に明け暮れ墓守りを行い、資料探しに奔走して全集作りに注力する情熱は、自らの人生を完全に賭した、不屈で強靱な意志と同義のものであった。同人誌発表の処女作「墓前生活」、商業誌第一作の「一夜」を併録。現在に至るも極端な好悪、明確な賞賛と顰蹙を呼び続ける問題の第一創作集、3度目の復刊。

題字・著者名字 藤澤清造 (集字)

感想・レビュー・書評

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  • 藤澤清造愛に溢れている私小説。読んでいてあまりいい気分はしないDVの場面はあるけれども、なぜか読み進めてしまいたくなるほど不思議な小説だ。それを解説がわかりやすく書いてくれていた。
    『藤澤清造に少しでも近づけることを求めながら、自らは小説家になることを目指していなかった西村賢太の私小説にその種(作家になることを目指し私小説というジャンルを選び、自分を美化して描くこと)の美化はない。なるほど彼の小説に登場する「私」は常に愚者である。すれはすがすがしくも本当の愚者である。だから西村賢太の小説は不思議にあと味が悪くない。』

    それにしても、「根は◯◯なので~」が好きだ。
    この小説内では彼の根はわがまま/未練にできている/ペシミスト/虫のつくほど青臭い文学青年/テレクラ嫌い/姑息/狡猾/甘ったれ/苦労性 らしい。
    「便座あげとけって言ってんだろがっ!」と怒鳴る場面の理不尽さは笑ってしまった。

  • 風格ある文体もあいまって、古くマイナーな作家をひとり熱心に研究しているだなんてずいぶんと高尚なと思いきや、急にはさまれる頽廃美などとはほど遠いだらしなさに意表をつかれるとともににやりとしてしまい、当初そういう惨めさとの懸隔を演出するかに思われた文学的な情熱もどんどん(清造の墓が汚ないアパートに持ち運ばれたかのごとく)その最低な暮らしぶりになんじでいって、もうなにもかもがどうしようもない、なのに女が出ていったのちにおのれの醜態を緻密に振りかえるそのいじらしさのようなものになんだか泣きそうになる、ほんとに最低なのだが。

  • 第一作品集。
    収録作品はいずれも、主人公が大正期の私小説作家・藤澤清造を「師」として崇め、その顕彰と鎮魂に全精力を傾ける姿が、ストーリーの核になっている。
    本書のタイトルも、藤澤が遺した句から取られたものだ。

    ……と、その点だけを取り出すとなんだか美談のようで、「亡き師のために力を尽くすとは、いまどき奇特な」と感心してしまいそうだ。

    だが、そうではない。西村は(と、主人公と同一視すべきではないかもしれないが)、藤澤清造の顕彰に異様なまでの情熱を傾ける以外は、とんでもないダメ男なのである。生活力もなく、酒乱ぎみで、酒の上での暴力沙汰で警察のやっかいになったこともあり、性欲ばかり旺盛で、同居している恋人には暴力を振るったりする……というありさまなのだ。

    彼の作品はみな、「清造キ印」ぶりを縦糸に、すさんだ私生活を横糸にして編まれている。陰惨といえば陰惨このうえない小説なのだが、それが暗さを突き抜けて「ルサンチマンの笑い」として炸裂するところに魅力がある。いわば、「こわいもの見たさ」で読んでしまう小説なのだ。

    「日経BP」のウェブ連載「文学賞メッタ斬り!」で、大森望が西村を次のように評していた。

    《この人は、純文学界の業田良家になれるかもしれない。業田の「自虐の詩」が好きな人なら、「どうで死ぬ身のひと踊り」にも絶対ハマるよ》

    うーん、言い得て妙。ただし、『自虐の詩』には豊かにあったペーソスには乏しいし、間違っても泣けるような小説ではないけど。

  • 私のブログ
    http://blog.livedoor.jp/funky_intelligence/archives/1993469.html
    から転載しています。

    西村賢太作品の時系列はこちらをご覧ください。
    http://blog.livedoor.jp/funky_intelligence/archives/1998219.html

    「小銭をかぞえる」と同様、西村賢太自身の私小説。相変わらず藤澤清造なる大正期の私小説家に傾倒し、法要に参列したり、記念講演に登壇したり。まさに狂人のよう。

    かの藤澤清造という人を知らず興味もない私は、その狂人めいた活動の中において随所に登場する同棲女性との喧嘩が楽しみである。西村賢太は仕事どころかアルバイトや日雇すらやっておらず、その女性がスーパーのパートで稼ぐ日銭をもって生計費や自身の活動費に充てている。まさにヒモである。女性の親からは自費出版名目で500万円借りたのにアパートへの引越し費用に使ってしまうし、更にもう100万を借りるよう画策する。そして数々の暴言や暴力。これほど最低な男を私は見たことがない。

    それでも、西村賢太が嫌いになるどころか、更にもっと彼の私小説を読んでみたいと思わせる魅力に溢れている。実に不思議な感覚である。友達にはしたくないけど(笑)

  • 「どうで死ぬ身の一踊り。これで最後の一踊り。それでもダメとなれば、その時はそう深刻ぶるがものはない。脳をマヒさせた上でこの人を追い、芝公園に行けばいいだけのことではないか、と考えたら急に心が楽になった。」

    • getdowntoさん
      まさにその通りですね。心が楽になれる作品だと思います。西村賢太さん大好きですのでよろしくお願いいたします。
      まさにその通りですね。心が楽になれる作品だと思います。西村賢太さん大好きですのでよろしくお願いいたします。
      2022/01/22
  • 暗くて、惨めで最低だけどおかしくて笑ってしまった。omsbから

  • 「何んのそのどうで死ぬ身の一踊り」、大正期の私小説作家・藤澤淸造に惹かれた「私」は、その菩提寺を訪ね、古くなった墓標を譲り受けて部屋の一隅に置いて墓と共に暮らすようになる(墓前生活)。さらに藤澤の追悼法要を営み全集を発行したいとのめり込むが、そのために同棲中の女から金を借りるだけでなく、かっとして暴力をふるい、女が出て行くと涙ながらに戻ってほしいと懇願する(どうで死ぬ身の一踊り)。女が戻ってきたのもつかの間、女のために買ってきた蟹を愚弄されたことに怒り、ついに殴って骨折させてしまう(一夜)。ただの情けないDV野郎で、気色が悪い、側にいてほしくない、近づきたくもない。

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著者プロフィール

西村賢太(1967・7・12~2022・2・5)
小説家。東京都江戸川区生まれ。中卒。『暗渠の宿』で野間新人文芸賞、『苦役列車』で芥川賞を受賞。著書に『どうで死ぬ身の一踊り』『二度はゆけぬ町の地図』『小銭をかぞえる』『随筆集一私小説書きの弁』『人もいない春』『寒灯・腐泥の果実』『西村賢太対話集』『随筆集一私小説書きの日乗』『棺に跨がる』『形影相弔・歪んだ忌日』『けがれなき酒のへど 西村賢太自選短篇集』『薄明鬼語 西村賢太対談集』『随筆集一私小説書きの独語』『やまいだれの歌』『下手に居丈高』『無銭横町』『夢魔去りぬ』『風来鬼語 西村賢太対談集3』『蠕動で渉れ、汚泥の川を』『芝公園六角堂跡』『夜更けの川に落葉は流れて』『藤澤清造追影』『小説集 羅針盤は壊れても』など。新潮文庫版『根津権現裏』『藤澤清造短篇集』角川文庫版『田中英光傑作選 オリンポスの果実/さようなら他』を編集、校訂し解題を執筆。



「2022年 『根津権現前より 藤澤清造随筆集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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