おバカさん (角川文庫)

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  • 本 ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041076651

作品紹介・あらすじ

銀行員・隆盛を頼って、昔のペンフレンドが日本にやって来るという。現われたのはナポレオンの末裔と自称する、馬面の青年だった。臆病で無類のお人好しのガストンは、行く先々で珍事件を巻き起こすが……。

感想・レビュー・書評

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  • <バカじゃない…バカじゃない。あの人はおバカさんなんだわ。
    素直に他人を愛し、素直にどんな人をも信じ、だまされても、裏切られてもその信頼や愛情の灯をまもり続けて行く人は、今の世の中ではバカに見えるかもしれぬ。
    だが彼はバカではない…おバカさんなのだ。自分に人生のともした小さな灯をいつまでもたやすまいとするおバカさんなのだ。P289〜抜粋>

    隆盛のペンフレンドは、ナポレオンの子孫だというガストン・ボナパルト。
    突然日本に来るという知らせが来た。
    隆盛と母の志津、妹の巴絵は慌てて準備する。初めて見るフランス人、しかもあのナポレオンの子孫!
    しかし現れたのは背が高くて馬面で、汚れた服で貧乏旅行をするぼーっとした感じの青年だった。
    ガストン…、ガスさんは、戦後の混乱にある日本で、騙されても脅されてもただただ人を信じ傍にいようとする。そのため最初は彼をバカにしていた人たちの心にも変化が現れるのだった。

    ===
    友人に、とても好きな本だとお薦めされた1冊。

    題名や表紙の絵の雰囲気やらナポレオンの子孫のぼーっとした青年ということで、ユーモア小説かと思っていたら、徐々に切実で壮絶な展開に。
    舞台が戦後の日本なので、喧騒のドヤ街、身を売ってその日暮らしをするしかない人々、野犬狩りで連れ去られた犬、原住民殺しの濡れ衣を着せられて処刑された一兵卒、そして復讐だけが生き甲斐となった不治の病の殺し屋。
    <真心…あんた、この言葉を聞いても今の日本人は感動もせん、そんなもんは世間を渡るのに通用せん無用なものと思うとる。貧しい国の悲劇ですたい。ミスター・ガス、貧しいのはものじゃない。心の貧しい国が今の日本じゃ。P142>

    そんな人々をただただ信じて寄り添うガスさんは、遠藤周作にとってのイエス・キリストなのでしょうか。
    <どんな人間も疑うまい。信じよう。だまされても信じようーこれが日本で彼がやり遂げようと思う仕事の一つだった。P135>
    ”仕事の一つ”と書かれていますが、ガスさんが日本に来た理由は明かされないので、余計に具体的な理由があって来たのではなく、キリストのように人の苦しみに寄り添うために来たのだ、という印象です。船底から現れて天に消えていったというのもなんだか象徴的。

    ちょっとホッとするのは、日本でガスさんを迎えるのはマイペースな兄としっかりもので口うるさい妹のやり取り。彼らの家は戦後とはいえそれなりの生活や知的水準を保っているので、喧嘩ばかりとはいえやはり品が良い。兄「(お小遣いを)貸さざれば、貸すまで待とう ほととぎす〜」妹「いいえ!お兄さまには貸せません!」みたいな品の良い言葉遊びが飛び交う喧嘩がなんだか読んでいて安堵する(笑)

  • 哀れで頼る者もいないボロボロの野良犬も
    人を殺すことを厭わないヤクザも
    昔人を裏切って目の前で人を殺そうとしている老人も
    どんな人も信じて許すガストン
    宗教って人が平和に生きるためのもので、
    本質は信じることと許すことなんじゃないかなと思う

  • 教授からのおすすめ本。
    どこまでも優しく誠実な外国人ガストンさんが日本にやってきてとある目的のために暮らす話
    思ったよりシリアスな展開で進むなかで要所要所に昭和感を感じました。
    個人的には比喩が大好きな作品!!!
    書かれた年代で雰囲気が変わるのも読書の醍醐味ですね~

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著者プロフィール

1923年東京に生まれる。母・郁は音楽家。12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶應義塾大学仏文科卒。50~53年戦後最初のフランスへの留学生となる。55年「白い人」で芥川賞を、58年『海と毒薬』で毎日出版文化賞を、66年『沈黙』で谷崎潤一郎賞受賞。『沈黙』は、海外翻訳も多数。79年『キリストの誕生』で読売文学賞を、80年『侍』で野間文芸賞を受賞。著書多数。


「2016年 『『沈黙』をめぐる短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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