- Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041078679
作品紹介・あらすじ
調布は深大寺の近く――武蔵野の自然が残るその地には、子どもにしか視えない宿屋がある。幽霊や妖怪など<人でないモノ>が泊まる宿屋、「うつせみ屋」。人間は、〈特別な用〉がなければ、入ることができない。怖がりな小学六年生の鈴は、ある夜、浮世絵師だった亡き祖父の霊に「浮世絵から出ていった絵を――〈あの子〉を探してほしい」と頼まれ、祖父のヒントを頼りに、うつせみ屋にたどり着く。鈴がそこで出会ったのは、どこか寂しげな面持ちの青年店主・晴彦と、気まぐれに自分を助けてくれる白い狐だった。晴彦から、祖父が浮世絵師を志すきっかけとなった浮世絵コレクションを見せられた鈴は、うつせみ屋に通うことを決意し、時に晴彦からヒントを与えられながら、絵の正体へと近づいていく。人でないモノの宿は、怖い。しかし、妖の宴に巻きこまれ、妖と言葉を交わすうちに、鈴は怖がりながらも、うつせみ屋に惹かれるようになる。やっとできた学校の友達の京子にせがまれてうつせみ屋を訪れた鈴だったが、そこで京子が行方不明となり…。果たして京子を救出できるのか。あの白い狐は何者だったのか。ハラハラドキドキでラストまで一気読みの本作。
感想・レビュー・書評
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家の事情で小学校6年生の2学期に転校するために祖母の家に引っ越してきたヒロイン鈴は亡くなった祖父が使っていた部屋を勉強部屋にあてがわれた。
ある日、浮世絵画家だった祖父が鈴の夢に出てきて、祖父が描いた絵から抜け出したものを絵に返して欲しいと頼まれる。
明くる日、鈴がたまたま見つけた和紙には生前の祖父から聞いていた妖怪のお宿、うつせみ屋と思わしき絵が描かれていた。
気になった鈴は祖父の絵から抜け出したものを探すために、どうにかしてうつせみ屋を見つけ出すことに成功。
鈴はうつせみ屋で祖父の絵から抜け出したものを無事に見つけられるだろうかというお話です。
本作を読んでまず思ったことは、実はうつせみ屋みたいなものが実は私の周りには多いなと思ったことです。
例えば高価買取の質屋さんや雀荘など、実はうつせみ屋みたいに必要もないと入らない私が踏み入れたことがない異世界と言えるものが日常に溢れています。
そこに入る必要のないこともあれば、勇気をあるいは興味をもたないと入らない異世界っていっぱいあるよなぁと思いました。
そして、ちょっと勇気をもって、あるいは興味をもってほんのちょっとのきっかけで踏み入れれば、冒険になる。
そう、私がパチンコ屋の前で好きなアニメをテーマにしたスロット台があると知って、どんなんだろう?と思ったのがきっかけで初めてパチンコ屋に入ってスロットを打ったらハマったようにね?(例えが悪い)
あげた例えは悪いかもですが、冒険した結果が必ずしも良いことだらけではないし、悪い結果になるかもしれない。
でも、その結果を恐れていては何もできない。
そして、やる前に想像する結果はオバケや妖怪が怖いと言っているのと一緒ということ。
大人になればなるほど、これをやると怒られるかもしれない、失敗したくないなんてやる前から見えない結果を想像して尻込みしてしまうものなんで、やる前から逃げ腰というのは気持ちはよくわかるなと思います。
しかし、実は大体のことが失敗に終わることがほとんど。
イチローだってあんなにヒット打つのに、打率は4割付近がせいぜい良いところ。大体、半分以上が失敗に終わります。
一流と言われる人たちでさえそうなんですから、失敗は恐れるな!とは言わないですが、恐れすぎるな!ということかなと思いました。
あと、願いすぎるのは呪いです。
そして、その呪いの正体とは、よくわからない漠然としたものが圧倒的に多いのかなと思います。
例えば、お金持ちになりたいっていうのは、具体的いくら?どんな風にして?となるはず。
でも、本当の願いはなりたい自分がどうなのかということなのかなと思います。
憂き世は辛いことが多いかもしれませんが、それに流されて自分自身はどうあるべきなのか。
「変」(周りの人とは違う)というのは良い意味で褒め言葉になりますから、良い意味で変な人になればよいのかな?と感じた今日このごろです。
必要なのはちょっとした思いっきりかもしれませんね。
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間違って買ってしまった…面白くなかったら直ぐに売る…
読み始めたら、一気に読みきってしまいました
面白くなかったら、直ぐに転売と思っていましたが、面白かったですし、良くできた作品だと思います
なんか、優等生の作品という感じですかね…
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目に見えなくても確かにあるもの。
それによって繋がれるもののためにも、忘れないようにしたいね。
道草無しのシンプルイズベストなファンタジー(^^)
8月を良い気分で締めくくれる佳作でした。
本作がデビュー作とのことで、続編含め今後も楽しみです。 -
子供の頃にしか見えない世界はあるのかもしれない。
八百万の神様がいる日本で描かれた絵が動いても有り。
想いが込められて作られた、大切にされてきたものに魂が宿るのも有り。
人の心のあり方が反映されているのだと考えるのならば、嘘でも偽りでもない。
隣に在るかもしれない世界の入り口=浮世絵なのが面白かった。 -
大人も楽しめる爽やかな児童書。無駄な会話がないからか、一つ一つの台詞に重みがあって、いつまでも胸に残る。妖しい雰囲気や和文化の瑞々しさ、香りが伝わってくる文章だった。
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浮世絵から消えた絵を追って少女が辿り着いたのは、人でないモノが泊まる宿「うつせみ屋」。
妖と言葉を交わすうちに心魅かれていく少女を自分に置き換えながら頁をめくり、読後は胸に温かな余韻が広がります。
全体を透明感のある表現が包み込み、懐かしい気持ちになれる1冊。 -
浮世絵師のおじいちゃんの浮世絵から抜け出たものを探すことになった鈴。
突然の引越し、この世ならぬ建物、名前を知られてはならない、など、お約束の導入で分かりやすい。
「うつせみ屋」は子供は誰でもその場所までは行けるけれど、大人に説明しようとすると上手く場所の説明が出来ない(用事のない子供は中には入れない)、事件が終わったあとも行こうと思えば行ける、子供にとってはいつでもある場所。
用事があるときだけ現れるパターンは多いけれど、行こうと思えばいつでも誰でも外側までは行けるというのはあまりないかも。
白い狐が助けてくれるとは思いつつも浮世絵の中に入ったときはハラハラした。
建物の中や、浮世絵の中は怖いけど、ドキドキ(ハラハラ)する要素が多くて、あまり細かいことは語られないので、想像の余地がある。
続編とかも出たらいいな。
友達の京子が、本を読んでて大人しそうな割に積極的で首を突っ込むタイプだったのが意外。 -
子どもにしか視えない「うつせみ屋」に浮世絵師の祖父との約束で訪れた主人公の鈴。
妖怪、白い狐、浮世絵から消えた絵の謎の妖しが楽しく、新たな友情と一歩踏み出す勇気にも元気を貰える。
ちょうど夏から秋に向かう今の時期に読むのにぴったりな物語。 -
私たちはいつ「妖し(あやし)」への親しみを忘れてしまったのだろう?
「大人になったら」と言うのは簡単であるけれど、それはいったいいつからのことだろう?
遠藤由美子さんの『うつせみ屋奇譚』を知ったのは、Twitterでのことだった。たしか柳田國男のことをつぶやいたり探したりしていたら、偶然巡り合ったのではなかったろうか。正直なところ、あまりよく覚えていない。
ただ、その本の表紙に映る狐の可愛いことに惹かれたのをよく覚えている。こちらに誘いかけるような目を向ける狐に魅了されてついアマゾンの購入ボタンをクリックしたのは、もしかすると鈴(主人公)と同じような体験だったのかもしれない。
子どもにしか見えないものがある、という設定はよくある。ジブリがその代表だろう。アイルランドの妖精神話にもいくらかの同例がみられる。そして数多くの愛すべき「妖怪奇譚」が日本には満ち溢れている。そんな日本に魅了されたのが、ラフカディオ・ハーンであった。
僕たちは「物語」の読み解き方(小説の読み方)をまだ知らない頃には、そうした妖しい美しさに直接ふれて体感することができたのだろう。今となってはもう、妖しはフィクションの中に遠ざかってしまった。
そう考えると人生とは寂しいものであるが、『うつせみ屋奇譚』のような小説があれば、そんな生き方にも潤いが与えられる。怖さの克服は、鈴の日常にも非日常にも潜みながら、彼女を脅かしまた強くしてくれた。もちろん、白い狐もそれに一役…二役三役と買うことになる。
私がプロデュースする図書館「ぶん文Bun」には、「日本人の心」という妖しを扱う棚がある。梅原猛や網野善彦といった難しげな本や、『鬼学』などのとっつきにくい本が並んではいるが…この『うつせみ屋奇譚』もそこに加わってくれれば、今後はより多くの大人たちに「妖し」のゆらめく美しさを思い出させることができるかもしれない。
さっそく、図書館のほうで二冊目を購入しようと思う。 -
2019/4/17(水曜日)