地形の思想史

  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041080221

作品紹介・あらすじ

なぜ、皇太子一家はある「岬」を訪ね続けたのか?
なぜ、「峠」で天皇制と革命思想は対峙したのか?
なぜ、富士の「麓」でオウムは終末を望んだのか?

なぜ、皇室の負の歴史は「島」に閉ざされたのか? 
なぜ、記紀神話は「湾」でいまも信仰を得るのか?
なぜ、陸軍と米軍は「台」を拠点にし続けたのか? 
なぜ、「半島」で戦前と戦後は地続きとなるのか?

7つの「地形」から日本を読み解く。
「空間」こそ、日本の思想を生んでいた――。

日本の一部にしか当てはまらないはずの知識を、私たちは国民全体の「常識」にしてしまっていないだろうか? 
人間の思想は、都市部の人工的な空間だけで生み出されるわけではない。地形が思想を生み出したり、地形によって思想が規定されたりすることもあるのだ。
七つのテーマと共に、独特な地形と、伝説を含めてそこに滞在ないし生活する人々の間にきわめて強い関係がみられる場所を実際に歩く。
すると、死角に沈んだ日本の「思想史」が見えてくる。
風土をめぐり、不可視にされた「歴史」を浮き彫りにする原思想史学の新境地!

感想・レビュー・書評

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  • 岬、峠、島、麓、湾、台、半島に実際に足を運び、その地に根付く伝説や住まう人々に触れることで、地形と思想との関係を見出そうという試み。
    皇太子一家が訪れ続けた「岬」、オウム真理教が終焉を迎えた富士の「麓」など、本の帯には比較的キャッチーな惹句が並んでいるが、著者の筆がもっとも冴え、深い洞察を堪能できるのは「湾」だ。
    ヤマトタケル一行が相模から現在の東京湾を横断して上総に渡ろうとした際、怒った海神が起こした波によって一行の乗る船は進めなくなった。このとき、妃のひとりであったオトタチバナが自ら水に飛び込み、犠牲になることで海神の怒りを鎮め、一行は無事上総に渡ることができた。
    話の細部は異なるものの、『日本書紀』にも『古事記』にも出てくるこの伝説を、一行の旅路の後を追うように著者は進む。そして、相模側ではヤマトタケルとオトタチバナの二人の伝説という形を取っているのに対し、上総側で生きる伝説はオトタチバナが主役であってヤマトタケルの影は薄いという事実に行きつく。
    この伝説の違いはどこから来たのか。各地の神社や石碑などを訪れてその地の空気を感じ、声に耳を澄ませ、それぞれの伝説の背景を探る深く静かな旅に読者は連れ出される。「読書は旅だ」という言葉を思い起こし、旅をすることは考えることであるという思いが去来した上質な読書体験。

  • 某国営放送の「ブラタモリ」では決して扱えない内容。
    地形から日本近現代史をたどるのが本書の目的。

    主軸に皇室があり、その周りを、連合赤軍やオウム真理教、らい病患者、戦争帰還者、原爆被爆者たちの亡霊が舞っている。

    地形はそんな彼ら彼女らを鷹揚に受け入れ、風化にさらされながらも、あるいは人為的に変形させられながらも、人の命に比べればずっと長くそこにある。
    「そこ」でどんな悲劇が展開されたにしろ、そこはそこ、なんだということに、むしろ救いを感じる。

    ともあれ、本書をある種異様に見せているのは、著者が皇室にすごく詳しいという点。詳しいがゆえに批評的に皇室を見ているのだけれど、どことなく愛惜の気配も漂っていて、著者は本書の取材の途中、亡くなった母の骨を横須賀の海へ撒きにいくというエピソードがあるのだけれど、ふと、その愛惜の行き着く先がここであるような気がした。

  • 原武史さんワールドを満喫するため、「『線』の思考」とあわせて一気に読んだ。

    自然が生んだ「地形」と、人が物語や実話に基づいてつくりだす「思想」が交差する場所を原さんらしい書きぶりでさっと読ませてくれる。物事の陽と陰とがきれいに描かれており、より印象深く記憶に残る。

    特に良かったのは第二景の「峠」と革命。五日市憲法から赤軍派に至る展開にはうなった。相武台、大隅半島も考えるきっかけになった。ぜひ訪れてみたい。

  • タイトルから受ける印象とは異なる趣き。
    旅しつつ、その土地に付着する、ある時代に現れた日本人の皇室、政治、宗教、戦争の記憶に触れる。
    日本の主に陰の文化の地層、思想の枝葉。

  • <目次>
    第1章  「岬」とファミリー
    第2章  「峠」と革命
    第3章  「島」と隔離
    第4章  「麓」と宗教
    第5章  「湾」と軍隊
    第6章  「台」と兵隊
    第7章  「半島」と政治

    <内容>
    近代政治思想史が本職の著者。天皇の歴史も詳しい。ここではその天皇の話から、過激派、神話、軍隊と幅広い。『本と旅人』連載の記事(一部「小説野生時代」)。旅絡みの話なのは連載誌のせいなのね。現在、『歴史のダイヤグラム』を朝日新聞土曜版BEに連載中。

  • 最初の昭和の皇太子一家の別荘の話は、あまり面白くなかった。突き詰めきれていない感じがする。

    それに対して、五日市から大菩薩峠への旅は実に良かった。
    五日市憲法のことは名前だけ知っていて、「へぇ」ぐらいに思っていたけど、そこから山村工作隊に行ってナベツネが出てきて、そして大菩薩峠の福ちゃん荘にいたって皇族か。一つ一つの話は話し程度にはしっていたが、一本の線につなげたことはなかった。一度二度行ったことのあるところなので、東京近郊のちょっとした旅行記ぐらいに読みはじめて、その展開と構成に目を見張った。
    いいものを読ませていただきました。

  • 実際に足を運んで感じたことが文章になっていのが良い。

  • 旅をしながら思索する。行動と知識の融合が楽しい一冊。鉄分は薄い。

    司馬遼太郎「街道をゆく」の流れの作品だろう。旅をしながら思索する作品。とはいえ見事なまでの原節。皇室、政治思想と宗教。テーマありきで訪問地を選んでいるところもあるが、全7章深イイ内容。

    岬、峠、島、麓、湾、台、半島と地形を主軸にした着眼点が成功したように思う。中でも「台」をテーマとして習志野台と相武台、実は天皇命名の軍隊ゆかりの地の話、おそらく由来を知らない住民がほとんどであろう。

    その土地その場所によって、PRしたい歴史があれば消し去りたい歴史もあるだろう。実は身近な場所にも秘められた過去が潜んでいることを本書は教えてくれる。人それぞれ知識があれば、また違った紀行が楽しめる。

    知識と旅の融合、相乗効果の魅力を本書で堪能させていただきました。

  • 「岬」「麓」「台」「半島」などの地形と、そこで起こった出来事を結びつけ、その地域独自の思想や文化を読み解くもの。天皇家が通い続けた「岬」、環境が良いだけではなく警備上の利点も多かっただろう。ただ、時代の推移とともに利用されなくなっていく。鹿児島の二つの半島は、鉄道の有無で経済的な発展という観点では明暗を分けている。また、男女格差なども明確で、女性市議が誕生したのは何と2019年になってから(垂水市)。この「思想」は全国共通のものではなくその地域独自のものであるということろが面白い。例え鎌倉の地形は何を生み出したのか、本の手法で考えてみたい。

  • 読書は知識の旅とは正にこの事か。
    その土地、地形から育まれた思想について、著者が実際に足を運んで考察した一冊。
    奥多摩と学生運動、富士山麓と宗教団体、天皇と相武台、神奈川県と千葉県それぞれに残るヤマトタケル伝説の違いなど、風土と歴史から掘り起こす思想史はとても深い。

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著者プロフィール

1962年生まれ。早稻田大学政治経済学部卒業,東京大学大学院博士課程中退。放送大学教授,明治学院大学名誉教授。専攻は日本政治思想史。98年『「民都」大阪対「帝都」東京──思想としての関西私鉄』(講談社選書メチエ)でサントリー学芸賞、2001年『大正天皇』(朝日選書)で毎日出版文化賞、08年『滝山コミューン一九七四』(講談社)で講談社ノンフィクション賞、『昭和天皇』(岩波新書)で司馬遼太郎賞を受賞。他の著書に『皇后考』(講談社学術文庫)、『平成の終焉』(岩波新書)などがある。

「2023年 『地形の思想史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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